地理講義   

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28.中国の農業 三農問題

2011年02月09日 | 地理講義
中国の農業生産
中国の人口は13億6千万人、世界の20%を占める。
農業は、毛沢東政権時代の人民公社制度が消滅、生産責任制になって生産が向上した。
中国の第一次産業人口は3億人、中国全人口の22%である。
農民一人当たり農地は0.6ha、日本の農民一人当たり2.7haである。
中国の農産物のうち、上位3位以内に入るのは次のとおりである(2008年)。

米・・・・・・1億9335万トン(1位。世界生産の28%)
小麦・・・・・1億1246万トン(1位。16%)
とうもろこし・1億6604万トン(2位。20%。1位はアメリカ23%)
じゃがいも・・・5,706万トン(1位。18%)
さつまいも・・・8,521万トン(1位。77%)
オレンジ・・・・1,908万トン(2位。19%。1位はアメリカ20%)
ぶどう・・・・・・779万トン(2位。11%。1位はイタリア12%)
バナナ・・・・・・804万トン(3位。9%。1位はインド26%、2位はフィリピン10%)
茶・・・・・・・・1257万トン(1位。27%)
砂糖・・・・・・・1157万トン(3位。8%。1位ブラジル37%、2位インド20%)
綿花・・・・・・・708万トン(1位。32%)
羊・・・・・・・1億3644万頭(1位。17%)
豚・・・・・・・4億4642万頭(1位。47%)
漁獲量・・・・・1億4791万トン(1位。17%)

中国の人口は世界の20%であるから、計算上は世界シェアが20%を越えると、自給100%になる。中国の主要な食料はほぼ国内の自給が可能である。しかし、中国では、現在が生産のピークであり、近い将来には減産に向かう恐れがある。

1980年代の改革革開放政策で、80年代以降、中国沿岸部は急速な経済成長を遂げた。一方でインフレ、沿岸都市と内陸農村との所得格差等の矛盾が露呈した。農家1戸当たり経営耕地面積は0.6ha(2008年)と小規模であり、また、優良農地は沿岸部に多く、その地域が急激な経済開発の進展に伴い、農地面積が減少傾向にある。中国農業の将来にとっての懸念材料である。

総生産(GDP)に占める農林水産業の割合は約11%である。全労働人口に占める農業人口の割合は約63%である。
米・小麦・とうもろこしは世界有数の生産国だが、生産のほとんどを国内で消費しており、輸出余力は高くない。
大豆は近年の畜産飼料としての需要増加を背景に、輸入が大幅に増加した。7割以上を輸入に依存している。
食糧生産は改革開放後も増産政策を続けてきたが、1996年以降は豊作と不作を繰り返すなど食糧の過剰と不足に揺れ動いた。本格的な農業政策の強化を始めた2004年以降は比較的安定して増産しており、2009年まで6年連続で、農業は増産を続けている。

林業は90年代に入り低い森林率(98年:13.92%)の向上のため、99年に「全国生態環境建設計画」を策定し、2010年に19%、2030年に24%、2050年に26%以上を確保する目標を掲げ、森林整備・育成を進めている。

水産業は、80年以降、内水面、海面ともに生産量が大幅に増加し、89年には世界一の水産物生産国となった。その後も順調に生産を伸ばしており、2008年の生産量は4,896万トンでこのうち47%が内水面漁業である。



中国農業の三農問題
中国には農業に関する深刻な3つの大問題(三農問題)がある。三農問題とは、
(1) 農業の生産性の低いこと、
(2) 農村共同体の維持が困難になったこと、
(3) 農村の貧困が深刻なこと
である。
三農問題は表面化した事実としては3様だが、根本原因は農村の貧困という点で共通である。都市部労働者の3分の1の可処分所得に過ぎず、しかも、都市と農村の経済格差は拡大する一方である。

中国の農業政策は「三農問題」と総称される。2004年以降、国家の最重要経済政策として重点的に財政投入や制度改正が行われている。
一層の生産性向上と農民の利益確保のため、土地請負経営権(使用権)の権利強化、農地の集積による生産性拡大・農業税廃止・各種農業補助金の導入・農村のインフラ整備などの政策が導入されている。WTOには2001年加盟した。加盟時の約束に従い、2010年にかけて段階的に関税削減を実施した。

農業生産者に対して行われている政策は、食糧生産補助・優良品種補助・資材購入補助・農業機械購入補助・食糧最低買入価格の設定などである。2004年以降に導入された比較的新しい制度で、現在も継続中である。
中国の食料安全保障対策として、2008年に国家食糧安全保障中長期戦略要綱が制定された。食糧需給の安定化を目指し、2020年までの目標として、
(ア)食糧自給率95%以上を堅持、
(イ)耕地の保有量1.2億haを最低限確保、
(ウ)食糧生産能力を5.4億トン以上に安定、
などが掲げられている。



中国農村が貧困から抜け出せない最大の理由は、人民公社の自給自足的計画生産とは異なり、生産責任制になって自由に栽培できるようになったからである。生産過剰による値下がりが続いて、農家の収入が増えないのである。
農家1戸当たり平均耕地面積は0.5~1haの狭さであり、耕地面積を拡大しない限りは農業収入を増やすことが難しい。
中国は高い経済成長を続けているが、世界的不況は農村の郷鎮企業を直撃、農村内の潜在失業者の問題が深刻である。農村では農作業の機械化を進める収入がなく、新しい農業に挑戦する若年層は出稼ぎ中である。
農村は高齢化と農産物価格の低迷による貧困が大きな問題である。


大都市近郊の農家から製造業などに働きに行っても、低賃金のままである。かつて中国農村の余剰労働力に依存していた郷鎮企業は、国内外のコストダウン競争にさらされている。機械化・合理化・大規模化を進めて国内外の競争力を勝ち抜いた企業は、かつてのように農村内失業者を雇う余裕はない。



農家から、海外への出稼ぎや大都市の職場に働きに行き、万元戸(億万長者)になる農家もある。農村内で大きな利益をあげるためには、革命前のような大地主になって、大規模機械化農業に転換する方法がある。それより簡単なのは、日本・韓国などへの海外出稼ぎである。日本にも韓国にも、中国人労働者の雇用には厳しい制限があるが、低賃金でまじめに働くのであれば、雇ってくれる経営者はいくらでもいる。また、先に不法就労していた知り合いを頼り、日本・韓国に出稼ぎに行く若者も多い。中国内で得られる賃金の5~10倍の収入が得られる。最近は、日本のいつくかの大学・専門学校が定員割改善のため、中国人労働者を留学生扱いにしている。



中国では、農村の若い女性の自殺が多い。
農村の若い女性の自殺理由として
● 貧しさは現金収入を得ずに、無駄飯を食う女性の存在が原因である。
● 跡継ぎの子どもを出産した嫁は、貧しい農家にはムダな存在である。
● 農村の女性は社会地位が低く、単純労働者か子ども製造者と考えられている。
● 中国農村部において、女性の自殺志願を、周囲の者が放置する風潮がある。
● 中国の農家には、劇薬の農薬・殺虫剤などが大量に保管されている。
● 農村では医療機関が少なく、治る病気も治らないとの誤解が生じやすい。
● 戸籍制度上、家出や離婚が許されない農村が多い。



今後の中国農業
中国政府は、農業を国家の生命線として非常に重視している。それは農業の衰退による海外への大量の食糧依存・農村の荒廃・都市部への人口流入などによる、農村を原因とする失業者の増加などの問題の深刻化を防ぐためである。

中国農業の特色は、生産の主力が小麦・とうもろこし・米・大豆・いもなどの穀物であり、これらが農産物全体の栽培面積の70%、生産量では50%を占めていることが挙げられる。近年、栽培技術の向上が著しく、穀物は供給過剰状態にある。
その一方で、1990年代から、商品作物として付加価値の高い野菜・果樹の作付けが増えている。これら農作物の自由販売が可能になり、農家の栽培意欲が向上したためである。自由市場の急速な発達や、年収が1万元を超える「万元戸」が出現したことに見られるように、一部の農村では経済的に発展した。

しかし、地域によって気候・地形・土壌などの自然環境に違いがあり、また経済的に発展した大都市の多い沿岸部と内陸部との間でも、営農形態や栽培作物などが異なる。
東部の沿岸部では大都市が近く交通も便利なことから、その近郊の農業は順調に発展しているが、中西部地域ではその多くが貧しく、旧態依然とした農業を行っており、内陸地域の発展を妨げている。
中国政府は、沿岸部と内陸部の経済格差を是正するため、内陸地域を重点的に開発する「西部大開発」を実施し、都市部、農村部を含めた内陸地域全体の発展を促進している。

中国農業の課題 
(1) 穀物の生産過剰と在庫の問題
穀物は、政府が買い上げ価格(保護価格)を定める独特の政策がとられている。
1998年から実施されている「3項政策」では、農家の契約料(政府が無条件に買い上げ)以外にも、農家の希望により政府が保護価格かそれ以上で買い上げるなど、様々な保護政策を行っている。
このため、政府食糧機構の欠損金が2000億元に上り、保護政策が中国の財政を圧迫している。この保護政策のため中国産穀物は品質が国際基準以下であり、価格面でも国際価格を下回るなど、国際競争力の欠如が、在庫の拡大に拍車をかけている。
打開策として、WTO加盟後は、保護政策を縮小するとともに、国際競争力向上のために、高品質な穀物の生産および適地適作、南方の冬小麦の減反などが大規模に進められている。

(2) 農業の構造改善の問題
中国政府は改革開放以来、農業・農村の発展を図るために、農業の構造調整を行ってきた。1984年には穀物の生産過剰対策として、油料作物・麻類・肉類などの生産を奨励した。
1992年には比較的収益性の高い野菜や果物の生産拡大や「3高」政策(高生産、高品質、高収益)などが行われた。
3期目となる1998年には、WTO加盟に伴い、安価な輸入穀物に対抗しなくてはならない。高品質農産物の供給体制の整備や大規模近代化農業経営によるコストダウンなどを進めることが急務である。

(3)国際競争の問題
日本やアメリカ、EU諸国などは、農薬・化学肥料などに関して厳しい安全基準を定めている。しかし、中国では基準が曖昧であり、国内向けの農産物をすぐには輸出ができない。生産過程や安全性が確立されると、野菜・果物の輸出増加が可能である。

(4)農村の問題
農村人口が非常に多いため、機械化や極端な減反などにより農村での労働機会を奪うことは、都市への人口流入を引き起こすことになるため、機械化による農業の大規模化は難しいとされていた。
穀物・野菜・果樹栽は、沿岸大都市域で需要が飽和状態となった国内農作物価格の低下を招いたため、作付面積を減らし、集約型農業へ転換することが求められている。
農業経営の大規模機械化を進めるためには、離農を促進しなくてはならない。
従来の農村籍出身者の都市移住の規制を緩和し、地方の小規模都市への移住が条件つきで可能となった。
土地の貸借を簡単にすることで、一層の土地の集積、機械化による生産性の向上を促進できる。
東部沿岸地域や一部の農作物が、今後もその国際競争力を高め発展していくと思われる一方で、内陸部の農村では厳しい価格競争により離農者が増え、農村が疲弊することが予想される。
中国政府は深刻な内陸地域の砂漠化の進行を食い止めるために、あえて農地に植樹をし、森林を増やす「退耕環林」という環境保護事業を実施しているため、元々高地や砂漠が多く、耕地面積の少ない内陸部の農業の競争力が一層低下してしまう恐れがあるなど、内陸地域の農業を取り巻く環境は一層厳しいものとなっている。 
以上のことから、今後、農村から都市部への人口の流入、内陸部での食糧不足などの問題が発生することが懸念される。中国農業が真に発展するためには、内陸部の農業に対するより積極的な支援、保護による均衡ある中国農業の発展が急がれるところである。






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