月夜の記憶

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バジリスク~甲賀忍法帖~第3巻

2011-02-18 | 感想
バジリスク、第3巻です。


自らの目を塞いだ朧、やはり弦之介とは戦えないと言う思いがそうさせたようです。
そればかりか、弦之介の味方となり、伊賀者達を裏切る心になるかも知れない、それが恐ろしいと・・・。
朧が弦之介を想う気持ちの強さが現れるシーンだけど、ここではまだ朧の心が弱く、ただ目の前の問題から逃げている事を現しているようにも思います。


そして弦之介からの巻物が伊賀へ届けられます。
その内容はどう読み取れば良いのでしょう。
「人別帖に書かれた甲賀者達は、駿府へ向かう。甲賀卍谷にはすでにいない。」
この文には甲賀の里に残された人達を守ろうと言う弦之介の思いが感じられます。

「戦いを好まざるも、追撃を避けるものにあらず。自分を恐れないのであれば、東海道へ来い」
・・・戦いをしたくない、と言う弦之介の本心。でもすでに命を散らせた者達の事を思えば、戦いを挑んでくる者に対しては容赦しない。
もしかして、甲賀者、伊賀者と並び駿府へ行き、この戦いが無益である事を大御所家康に直訴しようとしているのかな。そうではなく・・・愛する朧を、自分の手で守れる場所に置いておきたいから、付いて来て欲しいと思っているのか・・・。

とにもかくにも、戦いの舞台は駿府への旅路、東海道へと移ります。


弦之介たちの旅の途中、ふと弦之介の名前を思い浮かべる陽炎の吐息。そばを通る虫がぽとりと地面に落ちます。陽炎は愛する者と触れる時、その息が毒と変わると言う重い運命を背負って生まれてきた女性だったのです。そして弦之介の事を想っているのです。
それを知る左衛門は「いざとなればおなごは怖い」と口にします。

バジリスクに出てくる女性と言えば、朧、蛍火、朱絹、陽炎、お胡亥。左衛門の妹であるお胡亥は強い女性でした。残った4人の女性達を待ち受けるのは一体どんな運命なのでしょう。


その夜、陽炎は弦之介に想いを伝え、共に死のうとします。愛するがゆえに・・・。弦之介の朧への愛を知っているがゆえに・・・死を選ぶしかなかったのでしょうか。しかし弦之介の術によりそれは叶いませんでした。
陽炎は弦之介に覚悟を伝えます。自らの身体を犠牲にしても伊賀の男を滅ぼしてみせます、だから弦之介様、あなたは朧を討って下さい・・・と。

陽炎の思いと覚悟は弦之介に伝わったでしょう。でも弦之介が朧を愛する気持ちも同じはず、陽炎が弦之介と共に死のうと決意したのと同様、弦之介も朧のために命を捨てられる、それを陽炎も気付いているからこそ、この覚悟を言葉にして弦之介へ伝えたのではないかな・・・。陽炎の望みは・・・朧の死でもあるのでしょう・・・。



それぞれの想いが交錯する中、戦いは止まりません。
弦之介は蛍火の蛇により七夜盲の秘薬をかぶり、朧と同じように目が塞がれてしまいます。
念鬼はこの機に弦之介と豹馬を討とうとしますが、豹馬の瞳術により返り討ちに会い、そして念鬼と共に甲賀の宿へ来ていた蛍火は単身逃げ帰ろうとします。

その頃、朧は一人弦之介の事を想います。弦之介が自分の事を敵として数えている、でも自分は弦之介を罠にかけたつもりではないと知ってもらいたい、そして弦之介に斬られよう・・・と。
「この世で結ばれぬ縁なら・・・わたしはあの世で・・・弦之介さまをお待ちしよう・・・」
朧の悲痛な覚悟が綴られています。


また同じ頃、視力を失った小四郎は自らの無力さを嘆いていました。そんな小四郎を優しく抱き締めるのは朱絹。


陽炎、朧、朱絹、3人の女性の思いが描かれて・・・そして場面は左衛門に追われる蛍火へ・・・。
念鬼に化けた左衛門は夜叉丸の仇が如月左衛門である事を蛍火に告げます。それは事実でもありましたが、左衛門はなぜ蛍火にそれを告げたのでしょう。蛍火を感情的にするためであったのか・・・夜叉丸を想う蛍火の気持ちを知っていたからこそ、言わずにいられなかったのか・・・。

その蛍火は左衛門に両腕を切り落とされ敗れます。死に行く瞬間・・・届かぬ両手を、夜叉丸の元へ伸ばそうとして・・・。
左衛門の手は死に行くお胡亥の手をぎゅっと握り締める事が出来ました。その場面と対比してしまうこの場面、蛍火の手は夜叉丸に・・・確かに届いていました。蛍火は夜叉丸の手を取り、命を落としていきます。

「蛍火よ・・・忍者の争いは修羅の地獄じゃと思え」
如月左衛門が言い残した言葉、左衛門自身がその地獄から逃れられない事を良く知っているのでしょうね。
修羅の地獄から解き放たれた蛍火は、夜叉丸の元へ辿り着けたかな・・・。


これで残った人数は5人と5人になりました。先制攻撃で優位にたった伊賀でしたが、甲賀の逆襲で人数の上では並ぶ事となりました。
数字では語れない悲しみが積み重なっていく修羅の地獄で・・・。



伊賀組は甲賀の先周りをしようと海路を取ります。
その船上では、天膳が朧を妻にしようと手にかけようとします、それを背後で聞き葛藤する小四郎、主である天膳と頭領である朧・・・。

「小四郎!」
助けを求める朧が小四郎の名を呼んだその時、小四郎は天膳ではなく朧を選びます。
「姫様!」

そこには船に乗り込んでいた刑部に絞め殺された天膳。
「お前がたすけてくれたの?」と小四郎に語りかける朧。しかし血塗られた戦いはそのような休息を用意してはくれませんでした。
海へ落ちてしまう陣五郎、息を吹き返す天膳、朱絹の術で敗れる刑部。


天膳の不死の謎を残し、残るは4人ずつ。
朱絹は小四郎を思い、小四郎は朧を思い、そして天膳はまだ朧との祝言を諦めていない。

女性達のそれぞれの思いが描かれた第3巻はここまで。


命懸けの旅は第4巻へ続きます。

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