月夜の記憶

・・・

バジリスク~甲賀忍法帖~第5巻

2011-02-20 | 感想
バジリスク最終巻の感想です。


天膳に化けた左衛門が朧の泊まっている旅籠を訪れるところから場面が始まります。伊賀の目印は鷹なんですね。
左衛門は朱絹に「陽炎は小四郎を殺した女じゃ」と告げます。
このシーンで思い浮かぶ事があります。それは、蛍火に夜叉丸の仇を伝えた時の事、そして小四郎を謀殺した時の事・・・。
そうか・・・きっと左衛門は相手の感情に訴えかけるのを得意とする忍者なんでしょう。しかもその言葉には真実があります。外見だけでなく言葉でも相手の心まで動かしてしまう、左衛門の真骨頂はここなのかも知れません。

左衛門の言葉どおり、陽炎と朱絹は対峙する事になります。朱絹は「小四郎の敵!!」と決死の覚悟で戦いを挑みます、しかし2対1の戦い、天膳が偽者だとは思いもよらぬ朱絹はここで命を散らせてしまうのです・・・。


左衛門は天膳の姿になっている事を利用しさらに策を仕掛けようとします、陽炎を手籠めにした・・・左衛門の話術が炸裂します。しかし本物の天膳が現れた事によって見破られ、本物の天膳の前で左衛門もやられてしまいます。天膳の不死の秘密も見えてきました。


これで・・・残ったのは二人ずつ・・・。弦之介と陽炎。朧と天膳。
形は違うけど、1つの両思いと2つの片思いが4人の心にある・・・。
なぜここまで殺し合わなければいけなかったのか・・・。1つの両思いが成就するだけで良かったのに。でもまだ可能性は残っている、朧と弦之介はまだ生きているから。


左衛門の策に乗っている陽炎は何も知らずに旅籠を訪れます。そこに待つのは左衛門ではなく本物の天膳だと言うのに。
天膳が本当に陽炎を手籠めにしようとした時、陽炎も気付きます。
自分の術を知らない・・これは左衛門殿ではない・・・本物の天膳じゃ・・・。

身体を武器にして陽炎は天膳の息の根を止める事に成功します。陽炎はかつて弦之介の前で言葉にしたように、甲賀のために身体を張ったのです・・・。


しかし天膳は不死の忍者。陽炎は天膳に捕らえられ、弦之介を釣る人質として利用されてしまいます。
弦之介のために死をも覚悟した陽炎にとって、自分が弦之介をおびき寄せる道具に使われる事は、どんなに辛かった事でしょう。
陽炎を痛めつける天膳、本当に天膳は心が歪んでいるようです。不死の命を持ってしまうとこんな風になってしまうのでしょうか・・・。
そして陽炎の前で、朧を襲う天膳、朧が危ない・・・!その瞬間現れたのは・・・弦之介!!

天膳の声で存在を確かめる弦之介。目の見えない弦之介と剣を交える天膳。目が見えない弦之介は追い詰められてしまう・・・。

「争忍の勝敗、ここに決したり」
天膳が弦之介に斬りかかった時、天膳の足元の板が踏み割れて天膳はバランスを崩します。
普通の修行をしてきた忍者であれば、足元の板が割れたくらいでは体制を崩す事はなかったのではないかな。天膳が不老不死と言う自分の体に驕り、技を磨く事をおろそかにしていたからこそ、天膳は足をすくわれる事になったのだと僕は思いました。
技を磨く事もおろそかにしていた天膳、きっと心を磨く事もして来なかったのでしょう・・・。

「おおおおお」
切り結んだ二人の影、首を切られて崩れ落ちる天膳。弦之介の目が見えなくても、これまで積んできた体と心の修練の差がここに出たのだと思います。
勝ったのは弦之介でした。


そして・・・朧と弦之介の二人の会話。

「・・・剣を取れ、朧」
弦之介は、甲賀者を殺してきた自分だからこそ、朧とも戦わねばならぬ、朧に斬られる覚悟も出来ている。

お互い相手を思うため、目が見えない事を伝え合う、自分が斬られる事で終わらせようと思っているから・・・。
「弦之介さま、私を斬って下さいまし」

弦之介の脳裏に去来するのは朧と愛し合った記憶。弦之介にも朧を斬る事なんて出来るわけがないんです。もう、ここで終わって欲しい。二人でどこかへ行ってしまえば良い・・・。そう願わずにはいられません。


「なぜ・・・朧を討たれませぬか・・・」
瀕死の陽炎が声を絞り出します。そう、弦之介は旅の途中、陽炎の前で朧を討つと誓った。陽炎は甲賀のために体を投げ出して戦ったのです。朧への想いと、陽炎との約束の間で板ばさみになる弦之介は辛かったでしょう。

その時弦之介が選んだのは陽炎でした。陽炎とどこかへ消えようとします、朧への想いは、弦之介個人の思い。弦之介にとってその想いよりも、甲賀を守らなければならないと言う責任感が上回ったのかも知れません・・・。そして朧が一人無事でいてくれる事を弦之介は願ったのかも知れません。
ですが、陽炎は自分達に安住の地などない・・・と、共に地獄へ落ちる道を選ぼうとします・・・。陽炎の毒により意識を失い倒れ込む弦之介・・・。

その時でした。
「弦之介さま!?」
弦之介の異変に気付いた朧の目が、七夜盲の秘薬によって閉ざされていた瞳が開いたのです。
朧の瞳で陽炎の毒が消え、弦之介はぎりぎりのところで助かったのです。これはもしかしたら奇跡が起きるんじゃないかな、弦之介と朧、二人でどこかへ、今度こそどこかへ行ってしまえば良い・・・。そうなって欲しい。


弦之介と体を寄せ合い、弦之介の身柄を隠す朧。その前には阿福が兵達と共に現れます。なんてタイミングで・・・。
そして天膳もまた復活しようとしていました。その時朧はかつてお幻に聞いた天膳の話を思い出します。やはり天膳は不死ゆえの慢心に奢っていたようです。
「お婆さま・・・お婆さま・・・」今は亡きお幻を思いながら、天膳を睨みつける朧。天膳に何度もひどい目に合わされた恨みもあったでしょう、天膳の身の内に巣食う魔を破り天膳を殺します。

しかし、天膳の身の内に巣食う魔がまだ生きていた。弦之介の隠れ場所を阿福たちに伝える天膳の魔、朧の瞳が一層強く睨みつけます。弦之介を守りたい、その思いだけだったでしょう。


だと言うのに・・・阿福に見つかってしまった弦之介と朧は、最後の一騎打ちをする事になってしまうのです。


幼き頃の弦之介、朧を知る服部響八郎から刀を受け取った朧は・・・弦之介と対峙し・・・そして・・・

「大好きです 弦之介さま」
と言い残し、自らの胸を刺し死を選びます・・・。ああああああ。

七夜盲で塞がれていた弦之介の瞳が開かれます、その瞬間見たものは・・・崩れ落ちていく朧の姿。久々に見る朧の姿が・・・こんな姿だなんて・・・。


弦之介を斬ろうとする阿福の兵達を、瞳術で一蹴した弦之介。
弦之介の前に横たわる朧を抱き抱えると、人別帖に
「最後にこれを書きたるは伊賀の忍者朧なり」と書き入れます。その時書いた血文字は・・・朧の血だったのではないかな・・・。


そして朧を抱き上げると川へ入り、自らも命を絶ちます・・・。朧が命を絶った刃と同じ刃で・・・。

ラストシーンで川を流れる愛し合う二人。

このシーン、結ばれる事のなかった伊賀のお幻と甲賀弾正の最期と同じなんですよね・・・。
朧と弦之介の二人も、最後に結ばれたのです・・・。

そして淡々と刻まれる歴史と共に物語は幕を閉じるのでした・・・。

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