ほめちぎり映画館

"ほめたい映画"限定! シナリオ練習生の勝手気ままに見たまま、感じたままの映画評。

フィッシュストーリー

2009-04-14 14:35:54 | 映画(DVD)

ウソからでた正義

今さらですが、映画館・DVDを含め、昨年観た日本映画のNo.1は文句なしに『アヒルと鴨のコインロッカー』でした(ちなみに2位は『歩いても歩いても』)。その原作と監督のコンビ再び! と聞けば、期待しないわけにはいかない。

2012年、彗星の地球衝突まであと5時間。人々は、衝撃で発生するとされる大津波を避け、富士山やらどこやらに避難していた。そんな中、人気のなくなった街でいつも通りに営業しているレコードショップがひとつ。店長の岡崎は、街に1人残った常連客に、『フィッシュストーリー』という古いパンクロックを聴かせる。それは、セックスピストルズがデビューする1年前の1975年、「逆鱗」という“早すぎた和製パンクバンド”が解散前に録音した最後の曲だという。この曲が、1982年の大学生、2009年の「正義の味方」へとつながり、やがて地球を救うことになる・・・・・・とまぁ、なんとも壮大で胡散臭い (^_^;)。

それぞれの時代の物語はショートストーリーのように独立していて、味わいもいろいろ。1975年の「逆鱗」の物語は青臭い青春ドラマ。1982年の大学生の物語は巻き込まれ型コメディ。2009年の「正義の味方」の物語は、漫画だ! つまりあれだ。どれもこれも、なーんか軽いのだ。

でも、それぞれの時間軸を俯瞰することで、血とかいうレベルを超えたDNAの連鎖というか、結局みんなつながっていて、それが地球を回してんじゃん! 的な、根源的で深遠なテーマが浮かび上がってきたりもして。

1975年といえば日本はフォークミュージックの最盛期。当然、『フィッシュストーリー』は飛ぶ鳥どころか棚のホコリすら落とせません。じゃあ、1982年に時を超えてブレイクするのかといえばそうではなく、話題になるのは、レコーディング時のある事情でできた“無音部分”。無音の謎をめぐり都市伝説が生まれ、これが、名前も覚えてもらえないような存在感の薄い大学生の運命を変えてしまう。ぶっちゃけ、「逆鱗」的には喜んでいいのか悲しんでいいのかビミョーな展開なんだけど、この無音部分にこそ彼らの生き様があり、青春の叫びがあり、やがてその謎が明かされるとき、青臭いセリフに不覚にも心を掴まれ、ジーンときちゃうのだ。時代が巡り巡って曲がヒットして、それに誰かが感動して・・・・・・とかいうような話だったら、このジーンはなかったね。あぶそるーとりー絶対に!

「フィッシュストーリー」は英語で「ホラ話」の意味。1975年の物語では曲の元ネタも明かされますが、これがその名の通りの大ボラ話になっていて。でも、一人のごく真面目な青年が、家族を守るために“必死のパッチ”でがんばった結果のホラ話なんですよね。まさに、誠からでたウソ、ウソからでた正義。

そういや、「逆鱗」だって、大学生だって、「正義の味方」だって、デタラメな本やら、都市伝説やら、父親やらに導かれ、最後は必死に自分の正義を貫いていたな。

対照的に、要所要所で登場する宗教家たちのインチキ臭いことといったら!

この宇宙に、たったひとつの絶対的な存在なんてない。「正義の味方」も神様も、いるとしたらあなたの中に、私の中に。そして、一つひとつのつながりの中に。ボーナストラックのようなラストシーンを観ながら、スーパースターでもスーパーマンでもない自分が、なんだか愛おしくなりました。

『アヒル~』の椎名といい、若手で巻き込まれ役やらせたら右に出る者はいないんじゃないかとさえ思えてきた大学生役・濱田岳くん。アクションまでもが美しい「正義の味方」森山未来くん。本物のバンドのような伊藤敦史リーダー率いる「逆鱗」の面々。あなたでよかった多部美華子ちゃんほか、役者さんたちもみな愛おしい感じ。斉藤和義さんの音楽もハマっています。

そして何より、伊坂作品と中村義洋監督の相性はやっぱり鉄板! もう伊坂作品はぜんぶ中村監督でいいや。次作『ゴールデンスランバー』では『アヒル~』同様脚本も書かれるらしいんで、またまた期待なのだ\(^O^)/

期待のあまり、猫もシッポを振るニョダ。(見えますかぁー?)