変わりゆく時代の、
変わらざるもののために。
朝日放送新社屋完成を記念してつくられた、5人の監督による短編オムニバス映画。完全招待だったのですが、忙しくて申し込むのを忘れていたら、ラッキーにもお誘いを受けた。
5人の監督の個性がはっきり、くっきりフジカラーな、面白い作品に仕上がっていました。
テーマは、「子ども」。
第一話【展望台】坂本順治監督
5つのお話をフルコースに喩えるとしたら、まさに前菜。こってり通天閣を舞台にした大阪弁の映画なのに、さらりと観られる一品です。
自殺を決意した男と、母親に置き去りにされた少年が通天閣の展望台で一夜を過ごし、また新しい朝を迎えるまでの物語。
佐藤浩市様が大阪のおっちゃんを!! 何をやらしてもやる人です。
靴下脱いでまた履いてみたり。会話しながらのおっちゃん臭い小技も光っていました。
大人と子どもは同列(いや、むしろ子どもの方が大人)に描かれていて、だからこそ逆に、大人にとっての子どもという存在の意味、子どもに対する大人の責任みたいなものが伝わってきました。
第二話【TO THE FUTURE】井筒和幸監督
前菜の次は、ブラックユーモア炸裂、スパイスばんばん、刺激たっぷりの魚料理? (肉っぽいけど)です。
とある小学校の一日のスケッチ。完全にキレてるモンスター・ティーチャーや、電話の向こうで理不尽な空気を吐き散らすモンスター・ペアレント。その中で生きる子どもたちがリアルに描かれています。
子どもたちは昔に比べて大人びたところもあるけれど、基本的には私が小学生だった頃と変わらない。井筒監督が小学生だった頃ともきっと変わってないんだろうな。お互いの成長を確認し合ったり、女の子の変化が気になったり、残酷な実験に興じたり、ああ、男子ってこんなんやったなと。
子どもたちは変わらないのに、彼らを取り巻く環境は一変しています。ここがこの映画の肝。
先生役は、キレる男を演らせたら右に出る者がいない光石研さん。
私なんか、この役者さんは普段からこういう人に違いないと思ってますもん。街であったら、物の陰からそっと観察したい思いです。
第三話【イエスタデイワンスモア】大森一樹監督
お口直しのシャーベットです。昔話仕立ての時代劇。母と子、そして男と女の物語。これは男の人でないとつくれないなぁ。
トム・ハンクスの『ビッグ』がベースになっていて。
ひとりで飯屋を切り盛りする母を手伝いたい一心で、少年があることで大人の男に変身しちゃいます。
あることというのが、浦島太郎の子孫を名乗るじいさま(岸辺一徳)が持っていた玉手箱の煙を浴びたこと。
大人になったものの、母親にとって今の自分は見知らぬ男。そこで友達が知恵を働かせ、子どもは誘拐されたことにして、身代金をつくるため飯屋を手伝うという展開。
そのうち、寂しさからおっかあの中の”女”が目覚めちゃったりもして。なるほど、だから高岡早紀さんなんだ。
果たして、少年は最後に今の自分を選ぶのか、母の子としての自分を選ぶのか。
大人になっちゃう子ども役は佐藤隆太さん。困ったときの表情が、本当に子どもでした。
第四話【タガタメ】李 相日監督
これぞメインディッシュ! 正真正銘の松阪牛だ!!
短編なのに長編級の感動が味わえる作品。
肺ガンで余命三ヶ月を宣告されたやもめオヤジが、重度の知的障害を持つ、もうエエおっちゃんの息子と無理心中を図るお話。
感情移入できないわけがありません。食事やトイレも一人ではままならない息子なんです。残して死ねないっつうの。
でも息子は、怖ければパニックに陥り、楽しければ無邪気に笑い、動物のように反応するだけ。
せつない。せつなすぎる。
オヤジはいざってときに往生際悪く「生」に執着しますが、息子はオヤジのたった一つの生きる意味であり、その不様な姿から「人が生きる」ということの本質が見えてきます。
親子を演じる藤竜也さんと川屋せっちんさん、渾身の演技です。
もんのすごくいいです。
そしてこのシンプルな素材の、奇妙なスパイスとなっているのが、クドカン演じる”死神”。死期の近いオヤジのそばをウロチョロして、オヤジが置かれている状況を解説します。
個人的にはこの役、オダジョーじゃダメやったん? という気もしますが。その方が映画のトーンに合ってる気がするのよねー。
死神の解釈がとても素敵で、慈愛に満ちた感動的なラストにつながっていくので、なおさら。
『フラガール』もよかったけど、李監督、注目! 大注目!!
第五話【ダイコン~ダイニングテーブルのコンテンポラリー】崔 洋一監督
メインうまかったぁ。あー、お腹も心も満タン……え? まだデザートがあんの? いやー、食べられるかなぁ……ん? おいしい? じゃあ別腹ってことで。
キョンキョン扮する娘は、ダンナに(多分)浮気され、頼みの一人息子はロンドンに留学中。今は実家に戻り、団塊世代の両親と暮らしている。すでに定年退職している父親は、家でブラブラしながらピースボートに乗ることを夢見ている。そんな夫を醒めた目で見つめる母親は、新聞とワイドショーが世間との唯一のつながり。
会話をしているようで決して深くは踏み込まない。一人のようで、それぞれ、当てのない存在に依存して生きている。そんな三人の関係性が、かつては寺内貫太郎のビンタが飛び、家族が生々しくぶつかり合った食卓を舞台に、淡々と描かれます。
母親役が、”ばぁちゃん”こと”貫太郎の母”役の樹木希林さんというところも、個人的にはツボでした。
ちなみに父親役は細野春臣さん。
それぞれがそれぞれの世代の象徴的存在でもありますね。はい。
ということで、大満足のフルコース。ゴチになりましたっ!
地上波、映画館、DVD、きっと別の形で観られると思うので、お腹すかせて、もうしばらくお待ちください。