■志を持って
いまはほとんどの呉服屋さんが問屋さんから仕入れて品揃えをしていますが、中には自店のオリジナルを誂えで作っているお店もあります。誂えて作るには、当然染織の技法から生地、頼むに足りる職人や作家の個性や腕を見極める目、デザイン力、イメージ力、更に折衝力が要求され、生半可な知識や人任せではデキません。そして何より“いい物を創りたい”という志がないと。
高知市のH呉服店の店主は、数少ない志のある呉服店で、ここ数年「科布」「葛布」「芭蕉布」に取り組んでいて、ようやく5月に発表できる見通しがついたそうで、いまから発表会がとっても楽しみです。このH氏、画家志望で、20代の頃著名な画家のアシストを頼まれてフランスにも数年滞在して活躍した本格派。紆余曲折があり、いまは高知市で呉服店を営んでいますが、オリジナル作りが大好き。特に世に埋もれそうな、もう5年もしたら廃れてしまうというような素晴らしい手わざに、現代のセンスを吹き込んだ商品を作らせ、失敗作も買い取り、世に紹介し、売ることで作り手を応援してきている。「科布」もそのひとつ。
縁というのは面白いもので、画家を志していた頃の仲間の1人が、山県の老舗呉服屋の息子。その呉服屋の息子・石田誠さんは、修行中に科布と出会い、織の美しさ、生成りの優しい色合いに魅せられ、しかもその科布が自分の故郷で作られていることを知り、2度ビックリ。石田さんはその後、ついに自分で試行錯誤しながら科布を織り始め、「しな織創芸・石田http://www.shinafu.com/」を創業し、古い蔵を改装してギャラリーも作った。若き頃画家としての夢を語った2人が出会い、科布を現代にどのように活かしてゆこうか、その可能性を求めて作品作りに取り組んだのはもう当たり前。その2人の作品がようやくできた。不思議な縁ですね。 人との出会いってつくづく面白いものだと思いました。