自衛隊誘致を白紙撤回/
伊良部町議会・誘致賛成派も「民意尊重」
「誘致」白紙撤回、「合併」推進―。
伊良部町議会(友利浩一議長)が
下地島空港への自衛隊駐屯要請決議と
5市町村合併否決の判断を下したことを受け24日、
ついに町民が怒りの声を上げた。
同日午後6時から行われた同町議会の住民に対する
説明会(主催・自衛隊誘致に反対する住民委員会)には
3500人(主催者発表)が同町中央公民館に駆け付け、
議会に「ノー」を突き付けた。
町議会は「民意」を尊重するとの意向を示し、
きょう25日に行われる臨時議会では自衛隊誘致の白紙撤回、
合併推進の判断が下される見込みとなった。
この日は、同町議会の3月定例会最終本会議で、
通常通り議案を承認し、そのまま閉会するかに思われたが
川満成議員が「5市町村合併推進協議会離脱」を緊急動議。
これを発端に町民が一気に動き出した。
緊急動議後、その取り扱いについて
町当局と合併協議会事務局が県に問い合わせている間に、
町職員、町民らが議会棟前に集結。
自衛隊誘致派の町議に対して厳しく詰め寄り、
現場は一気に緊張した。
合併推進派町議と職員、町民とのやり取りは
このあと約1時間をほど続いたが、
夕方に住民説明会を開くことで事態は収拾した。
住民説明会の会場となった中央公民館は町民で埋めつくされ、
「自衛隊誘致賛成・合併反対」派の議員に
不満の声と罵声が浴びせられた。
一方、「合併推進・誘致反対」派の議員には
大きな拍手が送られるなど会場は
「合併推進」「自衛隊反対」の空気一色となった。
会場の住民パワーは
自衛隊誘致・合併反対派9人の意向を変えるには十分で、
ほとんどの議員が「民意」に従うとの姿勢を示した。
また、2001年に同町議会が全会一致で可決した
「下地島空港への自衛隊機訓練誘致決議」についても
白紙撤回するよう住民側が求め、
きょう25日に開かれる臨時議会では
この決議についても白紙撤回される見込みだ。
先月末に同町商工会が自衛隊誘致を町議会に提案し
その後、9人の町議が同案を緊急動議で可決して、
さらに合併を否決するなど住民の声を反映させないまま
一気に展開してきた一連の動きに、ついに住民が立ち上がり
自分たちの代表たちの姿勢に「ノー」の判断を下す結果となった。
【解説】自衛隊誘致「撤回」/民意が議会動かす
一部の町議により下地島空港への自衛隊誘致決議、
合併否決に揺れた伊良部町議会に「住民無視」
「議会の暴挙だ」とついに住民が怒りの声を上げた。
3500人の町民を前に自衛隊誘致・合併反対派の町議は
「『民意』を尊重する」との見解を示した。
町議会を分裂させ、先行きが見えなかった状況に対して
町民は「自衛隊誘致反対」「合併推進」へと軌道修正した。
■スタート
この問題の起点となったのは伊良部町商工会が
先月末に同町議会に対して下地島空港への
自衛隊誘致要請をしたこと。
この時点でこの要請文については「偽造だ」との声が上がった。
要請書に記されていた一部の役員の承諾のないまま
名前が記され要請書が作成されたようだ。
21日の町民大会の場でも、無許可で名前を使われた役員が
この問題を取り上げて承諾のないまま要請が
行われたことを大衆の前で公言した。
■自衛隊誘致と合併
これまでの動きについては同町商工会、
一部町議に対して「自衛隊誘致」と「合併離脱」と、
それに伴い国から財政的支援があると持ちかけた
南西諸島安全保障研究所の小幡光俊理事長の存在がある。
合併推進派の町議が小幡氏の説明に
納得できないとの姿勢を示したが、
9人の町議は小幡氏の意向に沿って自衛隊誘致、
合併否決へと動き出した。
今月22日に謝花浩光副議長、豊見山恵栄町議は上京し、
要請書を手渡したのは大野功統防衛庁長官だった。
なぜ、この急な動きの中で防衛庁のトップにまで
要請書を手渡すことができたのか?
■小幡氏提供の文書
先月末に小幡氏が行った会見で示した文書の内容は
今回の緊急動議で示された自衛隊誘致の決議文と文面、
内容がほぼ一致する。
その文書にはこれまでに関係した人物などの
名前が記載されており、
稲嶺恵一県政で知事公室長をも務めた親川盛一県議や
県選出の現職国会議員の名前のほか、
宮古関係の建設業者などの名前が記載されている。
親川県議の関与については自衛誘致派の議員も
「小幡氏と一緒に親川県議も同席して合併否決、
自衛隊誘致を協議した」と述べている。
結局、小幡氏の意向に沿い、この文書をもとに
緊急動議の決議文を作成、各方面と接触した
一部町議が自衛隊誘致、合併否決へと動き出した。
■要請
要請相手が大野防衛庁長官であることが報道されて
自衛隊反対派議員も驚きを隠せなかった。
「なぜ、大野長官まで要請書が手渡せたのか」
「誰の筋書きなのか」など、疑問が噴出した。
自衛隊反対派の町議は
「小幡氏と防衛庁の守屋武昌事務次官がつながっている。
国の筋書きに町が翻弄されている」と指摘している。
また、総務省は合併を求めていながら
防衛庁内部では伊良部町を合併から離脱させ、
振興策で伊良部町を納得させる工作があったのか?
仮にこのまま誘致に伴う振興策として
支援金が同町に提供された場合は
「裏では防衛庁が関与していた」ことを
裏付けるものになっていた。
■「民意」
町民説明会では、18人の町議を前にして1人の女性から
「今まで見えなかった議会が初めて見えた」との声が上がった。
住民に説明のないまま自衛隊誘致を緊急動議し、
さらには合併協議会離脱を緊急動議するなど、
「自衛隊誘致」のためなら手段を選ばない一部町議の動きは
「議会の暴挙」と指摘されても仕方がない。
しかし、3500人の町民が自分たちの住む島の未来について
「声」を出したことが今回最も大切なことで
住民は議員に委ねるだけの姿勢を見直し、
議員は住民の「力」と自分たちの存在について
再確認する機会になったともいえる。
(垣花尚記者)