

私は特に歌舞伎に思い入れを持っているわけではない。生で歌舞伎を観たことは4~5回しかない。だけど、それまで知らなかった世界の扉を開いてくれたのが、團十郎だった。
大学の国文に入学し、友もできた。私は古い時代に興味があったのだが、近世文学を専攻する男がいた。冬のある日、そいつの家に泊めてもらったことがあった。京都から、そいつの家のある彦根に行くと、雪が積もっていた

團十郎は、十数年前に、一度だけ、生の舞台を観た。相変わらずの存在感で、派手なのに無骨で愉快な團十郎がそこにいた。先日亡くなった勘三郎(当時は勘九郎だった)も、片岡仁左衛門(同じく孝夫)も、生で見て、それぞれに魅力のある役者さんだった。だが、その独特の存在感と、こちらに迫る大きさは、團十郎をおいてほかにない。
その團十郎が亡くなった。闘病のことは知っていたが、亡くなるほどだったとは…
私にとって、意味深い存在が、また一人この世を去ってしまった。残念でならない。
冥福を祈る。
それにしても、勘三郎に続いて團十郎を失い、歌舞伎は次の世代にかかる荷がどんどん重くなるなぁ。全く個性は違うけど、どちらも意欲に満ちた人物だった。こんな二人はもう出ないだろうなぁ。息子たちには、「すごい」と言われる個性を、ぜひ築いてほしいと思う。