毎日が遺言

母2題

<その1>
 昼前にかかりつけ医に母を連れて行ったときのこと。玄関で待っていると、母が杖を持たずに出てきました。いつも杖を持っている右手が痛いので、左手で杖をつくようにしていたんですが、どうも不便なので「もう杖なしで行くわ」とのこと。我が家の玄関から私の車の車庫まで、いくつかの“難関”があるのですが(傾斜がきつくなる箇所とか、足元が荒れている箇所とか)、スムーズにクリアしました。杖がない分、幾分慎重になり、ちゃんと気を貼って動けたのが良かったのかもしれません。そのまま病院に行き、家に戻って部屋に入るまで、私の介助は全くなしで歩きとおしました。本人は気分が良かったのか、「明後日ぐらいはもう一人で歩けるな♪」と言ってましたが、ちょっと見通しが甘い気もする(笑)。しかしまぁ、たまたま杖を持てなかったことが幸いして、一歩前に進んだ気がします(歩行だけに(笑))。

<その2>
 午後は、母を家で一人置いておいて、妻と二人で畑に出ていました。ときどきトイレに戻ったり休憩するときに家を覗いていたんですが、作業もそろそろ終わりという段になって忘れ物があったのがわかり、妻がそれを採りに農作業小屋に戻りました(家の道向かいが農作業小屋、家から畑は50~60mの距離です)。妻がふと門を見ると、母が門のところで妻を呼びます。少し怒り口調で大きな声だったようです。
 妻が「何?」と訊くと、母は「みんなどこへ行ったんや!」 「私と父さん(私のこと)は畑やで」 「みんなは? どっか行ってしもたんか!」 「??? せやから畑にいてるっていうてるやんか。息子は仕事やんか」 「そんなことはわかってる! 他のみんなは?」 「…他って、誰?」 「ほかのみんなや!」 「…他に家族はいてへんで」
 道を挟んでのやり取りだったようですが、車が行き来したので、会話はそれでおしまいになりました。
 畑に戻った妻が私にそのことを報告してくれて、首をひねりながら「昼寝から起きて、大家族やったころのことを思い出して、勘違いしてるんかな?」「家で一人でいると思うと、不安になって、『捨て置かれた!』と思うんかな?」
 いもしない家族のことを母が尋ねるのは、これが2度目です。頭の中がどんどん古い記憶に占められていくようすからは、祖母や曾祖母がそうだったことを思い出します。母もあのようになるのかと思うと、正直、怖いです。
 畑に一緒に来て、作業をしなくても、何か会話しながら過ごせたらいいのに、と思います。
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