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第四 財産に対する罪①

2005年01月25日 | 刑法
一 財産犯の分類

1 財物罪と利得罪
 (1) 財物罪→行為の客体が財物である罪 例:窃盗罪、横領罪、毀棄罪
 (2) 利得罪→行為の客体が財産上の利益である罪 例:背任罪
  ※強盗罪、詐欺罪、恐喝罪については、1項が財物罪、2項が利得罪

2 奪取罪と非奪取罪
 (1) 奪取罪→他人の財物に対する占有を侵害する罪
   ・相手方の意思に反する占有侵害 例:窃盗罪、強盗罪
   ・相手方の瑕疵ある意思に基づく占有侵害 例:詐欺罪、恐喝罪
(2) 非奪取罪→占有侵害を必要としない罪 例:横領罪、盗品等の処分に関する罪

3 領得罪と非領得罪
 (1) 領得罪→故意の他に不法領得の意思を必要する罪 例:窃盗罪、強盗罪、横領罪
 (2) 非領得罪→不法領得の意思を必要としない罪 例:毀棄罪

二 窃盗罪(235条)

1 保護法益
 (1) 学説
  ①本権説→所有権その他本権が保護法益
  ②占有説→占有(事実上の支配)が保護法益
  ③平穏占有説→平穏な占有ないし一応理由のある占有が保護法益
  ※所持説と本権説の対立は、具体的には242条の「自己の所有物といえども他人の占有に属する物」の解釈の対立として表れてくる。本権説は、これを権原に基づく占有とし、占有説は、単なる占有で足りるとする。
 (2) 検討(平穏占有説)
   確かに、刑法は、最終的には所有権その他の本権を保護するものである。しかし、窃盗罪の保護法益を本権と考える本権説によると、時として不当な場合が生じる。すなわち、窃盗犯人から盗品を盗み取った場合、窃盗犯人に所有権その他の本権はないのだから、本権説では窃盗罪が成立しないことになる。しかし、偶然占有者が窃盗犯人であった場合には不可罰であるが、所有権者であった場合には窃盗罪が成立するという結論は不合理である。
   現代社会においては、権利関係が複雑化しており、本権を離れた事実上の支配状態が往々に生じてくるが、このような事実上の支配についても保護しなければ、円滑な経済活動は困難になる。したがって、窃盗罪の保護法益は事実上の支配に基本をおいていると考えるべきである。
   しかし、全く理由のない占有まで、あらゆる占有を保護するとすると、処罰範囲が広がりすぎてしまい、妥当ではない。たとえば、窃取して間もない窃盗犯人から財物を取り戻す場合など、不穏な占有は保護する必要はない。よって、窃盗罪の保護法益は、平穏な占有というべきである。
  ※ここで注意したいのは、平穏占有説が「平穏でない」とする占有は、実は、自救行為が許される場合ではないかという点である。そうすると、構成要件で処理するか、違法性で処理するかというちがいはあるが、平穏占有説と占有説は極めて接近しているといえる。
 (3) 判例(最判平元・7・7)
   買戻約款付自動車売買契約により(自動車金融として)金員を貸付ていた貸主が、借主の買戻権喪失により自動車の所有権を取得した後、借主の事実上の支配内にある自動車を承諾なしに引き上げた行為は、刑法242条にいう「他人の占有」に属する物を窃取したものとして窃盗罪を構成するとした。
  →占有説を採用していると思われる。

2 不法領得の意思
  窃盗の主観的要件として、窃盗の故意(窃取する物が、他人の占有する物であることを知っていること)で足りるか、窃盗の故意に加えて、不法領得の意思も必要であるか、またその内容は何かが争われている。
 (1) 学説
  ①不法領得の意思不要説
   窃盗罪の保護法益は、占有であるから、他人が占有しているという窃盗の故意があれば十分である。
  (批判)窃盗の故意だけでは、窃盗罪と使用窃盗(不可罰)あるいは毀棄罪との区別ができない。
  ②不法領得の意思必要説
   窃盗と使用窃盗、毀棄罪とは客観的行為では区別ができない。すると、使用窃盗との区別をするために、「その物に関して権利者を排除する意思」が、また、毀棄罪との区別をするために、「その物を経済的用法に従って利用する意思」が、それぞれ不法領得の意思として必要である。
 (2) 判例(②説)
   最判昭和26・7・13
   窃盗罪には、不正領得の意思が必要である。不正領得の意思とは「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、これを利用、処分する意思」をいう。

3 不可罰的事後行為(注:窃盗罪のみにとどまらない)
 (1) 意味
   窃盗罪が既遂になった後、窃取した物自体を利用または処分する行為は、独立した犯罪を構成しない。
 (2) 根拠
   窃盗罪は、最終的は、所有権その他本権を侵害するものであるから、窃取物の利用または処分という財産的な行為は、当然、窃盗罪に含まれている(これは本権説的な説明であるが、占有説でも、窃盗罪は、窃取した物の利用または処分が予定された犯罪とみていることは同様である)。
 (3) 具体例
   窃取した物を他人に贈与→横領罪は構成しない。
   窃取した物を破壊→毀棄罪にはあたらない。
 (4) 不可罰的事後行為にあたらず、別罪を構成する行為
   窃取した物の利用または処分であっても、新たに法益を侵害する場合には、別罪を構成する。
   例:窃取した物を自己の物と装って売却する行為
    →買主を欺いて金銭を取得しているので、詐欺罪を構成する。

4 占有
 (1) 定義→現実にその物の上に支配が及んでいる状態
  →占有の有無は「支配の事実」と「支配の意思」の相関で判断される。
  例:身につけている物
    留守宅に置いてある物
    公道上に置き忘れたばかりの物
    店主が店舗に陳列した商品
    他人に預けた封緘物の中身
 (2) 死者の占有
  例:殺害後被害者の財物を奪おうと決意した場合、窃盗罪は成立するか。
  ①限定的肯定説(判例、通説)
   死亡直後にはその占有は存続する。
  ②否定説
   死亡した以上財産権の主体ではありえない。
 (3) 受託された封緘物の占有
  →全体の占有は受託者にあり、内容物の占有は委託者にある(判例)
 (4) 上下主従間の占有
  →当該物の支配の形態、支配に至った経緯、上位者と下位者の関係などから具体的に考察し、共同占有、上位者の占有、下位者の占有を判断する。スーパーの店員等従属的雇用関係にある下位者は、占有者たる上位者の手足に過ぎず、占有はないというべきである。

5 着手時期
  占有侵害の実質的危険性のある行為の開始時点(実質的客観説)
  →この時点がいつかは、窃取行為の場所、状況、財物の性質によって異なってくる。
  例:家屋の場合→屋内の物品を物色するために特定の物に近づいた時
    倉庫の場合→倉庫に侵入した時
    すりの場合→他人のポケットの外側に手を触れたとき(ただし、あたり行為は除く)

6 既遂時期
  財物に対する他人の占有を奪って行為者が占有を取得した時点
  →いつでも持ち出せる状態、と考えるとわかりやすい。
  例:倉庫内の物を梱包した時
    家屋内の小物を家屋内に隠した時

7 親族相盗例(244条)
  →処罰阻却事由
  犯人と、所有者及び占有者双方との間に親族関係が必要(判例)