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第一 捜査⑨ 接見交通権

2005年01月29日 | 刑事訴訟法
1 問題の所在
  接見交通権とは、身体の拘束を受けた被疑者と、弁護人又は弁護人となろうとする者とが立会人なくして接見、書類若しくは物の授受をする権利である。接見交通権は、憲法34条に基づく弁護人依頼権の不可欠の内容であり、それを受けて刑訴法は、39条1項で接見交通権を認めた。しかし、39条3項で、捜査官に「その日時、場所及び時間」を指定する権限を与え、一方、指定に関して、「捜査のため必要があるとき」という積極的制限と、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない」という消極的制限とを課した。いうまでもなく、39条3項は、捜査の必要性と弁護人依頼権とを調整しようとの意図の下に設けられたものであるが、そのどちらにウエートを置くかによって、この規定の解釈・運用が異なってくる。接見交通権に関する諸問題は、究極的には39条3項の解釈・運用のいかんに帰着するが、その背後には、刑事訴訟の目的をどのように考えるか、弁護人依頼権と、捜査の必要性との比較衡量をどのように考えるか、捜査の構造をいかに捉えるかといった問題が隠されている。

2「捜査のため必要があるとき」の解釈
(1) 罪証隠滅の防止等をも含めて広く捜査全般の必要性をいい、その必要性の判断は捜査機関に委ねられている(現在では少数説)。
(2) 現に被疑者を取調べ中であるか又は検証、実況見分等に立ち会わせている場合に限る(多数説、下級審においても大勢を占める)。
  理由:①接見交通権は、憲法上の弁護権(憲法34)の内容であるのに対し、捜査(取調べ)権は刑訴法上の権利(197、198条)であるから、「捜査の必要」という理由は、極めて限られた場合にだけ接見交通権を合憲的に制限する理由になりうる。
  ②A説を採ると、捜査段階における被疑者の準備活動が著しく制限されるばかりでなく、被疑者の黙秘権まで侵害される危険が大きい。
  ③訴訟構造上単なる一方当事者にすぎない捜査官に対して、捜査の必要性のために接見交通権の制限の要否を判断させるのは、弾劾的捜査構造に反する。
  ④弁護人以外の者との接見の制限の規定である207条、81条では、制限は裁判官のみがなしえ、しかもその理由は逃亡及び罪証隠滅のおそれがある場合に限られており、(1)説では、この規定と著しく均衡を欠く。
  ⑤弁護人の接見交通について罪証隠滅を考えるのは、司法制度そのものの否定を意味する。

3 被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ときの解釈(上記2説を前提にして)
(1) 「捜査のため必要があるとき」の解釈について(2)説に立っても、更に「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ときには直ちに取調べを中止して接見を許さなければならない。
(2) 被疑者の防禦権
 ①黙秘権等の人権が侵害されないための防禦
 ②起訴されないための防禦
 ③起訴に対する防禦
  以上が考えられるが、このいずれの防禦の準備のためにも、弁護人との接見は不可欠であり、しかも、いついかなる防禦の準備活動が必要かについては、弁護人及び被疑者の判断を尊重すべきである。
(3) 類型的に「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」といえる場合
  ①弁護人又は弁護人となろうとする者から最初の接見申出があったとき。 ②2回目以降でも、被疑者が取調べ等を中止して直ちに接見を希望する旨申し出たとき。

4 一般的指定(面会切符制)及び、いわゆる新型書面
(1) 一般的指定
   検察官が、捜査の必要を理由に弁護人の被疑者との接見を一般的に制限する趣旨の「一般的指定書」を作成し、その謄本を、被疑者及び被疑者の在する監獄の長に送付しておき、弁護人は、具体的指定書がなければ、接見しえないとするやり方。
(2) いわゆる新型書面
   一般的指定書という形式を採らず、検察官から監獄の長に対し、「捜査の必要上、被疑者と弁護人との接見等に関し、その日時・場所を別に指定するので・接見等の申出があった場合は、直ちに、必ず連絡されたい。」等の趣旨を、書面又は電話連絡等によりあらかじめ伝えておくやり方。
(3) いずれも具体的指定書がなければ接見ができす、接見禁止が原則で、接見が例外という結果となるので、違法と解されている。
   2の(2)説に立てば明らかに違憲・違法ということになる(鳥取地決S4237も同旨)。

5 具体的指定
(1) 「○月○日△時から△時までの間×分間接見を許す。」という形式でなされる。
(2) 2の(2)説に立てば、現に取調べ中等の事由もないのになされた具体的指定には、指定日時以外には接見させないという効力はなく、ただその指定日時には必ず接見を許し、捜査官側では被疑者の身柄を利用しないことを約したという意味を持つにすぎない、と解されることになる。

6 接見指定に対する救済
(1) 準抗告(430条)
(2) 接見交通権を侵害して得られた自白についての証拠排除(アメリカ、エスコビード事件)
(3) 違法な接見交通権の侵害に対する国家賠償法に基づく損害賠償の請求(大阪高判S49.7.22)