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司  法  試  験

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第一 捜査① 捜査段階における手続関与者及び関与の態様

2005年01月29日 | 刑事訴訟法
一 序
1 問題の所在
  捜査段階においても、公判段階と同様に、大きく分けて捜査機関、被疑者及び弁護人、裁判官の三者が手続に関与する。しかし、捜査は犯罪との戦いという面を強く有し、迅速、果敢に行われなければならない性格を有すること、その結果、個人の生活に直接的な影響を及ぼすものであること等、捜査段階の特殊性を反映して、同じ三者の関与とはいっても、関与者及び関与態様の両面にわたり、公判段階とはかなり違った複雑なものとなっている。

2 捜査機関
(1) 司法警察職員=第一次的捜査機関(189条2項)
 ①一般司法警察職員(189条)→警察官
 ②特別司法警察職員(190条)→麻薬取締官・麻薬取締員、海上保安官・海上保安官補、労働基準監督官、自衛官、皇居護衛官等
 ③特別司法警察職員の権限と責任
  特別司法讐察職員も、刑訴法上の資格としては、警察官たる一般司法警察職員と何ら変わるところがない。ただ、法律により、その職務の範囲が事項、場所において制限されており、一般司法警察職員の権限のうち特定の特別司法警察職員には与えられていないものもある。
 ④司法警察員と司法巡査(39条3項)
  訴訟法上の地位の違い。権限に差がある(例、199条2項、215条1項)。特別司法警察職員についても司法警察員であるものと司法巡査であるものとがあり、法津により定められている。
 ⑤司法警察と行政警察
  刑事訴訟法が、司法警察員に「司法」という言葉を付したのは、警察活動に、犯罪の捜査に関する警察活動(司法警察)と、その他犯罪の予防も含めた社会の秩序維持のための諸活動(行政警察)とがあることを意識した上でのことである。
(2) 検察官=第二次的捜査機関である(191条1項)と共に、公訴を提起する権限を独占し(起訴独占主義=247条)、公訴を提起するか否かを決する権限(起訴便宜主義=248条)をも有する。この意味では、捜査を終結する権限は、原則として検察官にあるといえる(246条)。
   なお、いったん不起訴処分をした後捜査を再開することもあるし、公訴提起後においても捜査が全く行われないわけではない。したがって、起訴・不起訴処分は厳格な意味では捜査を終結させるものではないが、起訴・不起訴により一応捜査は終結する。

二 検察官と司法警察職員の関係
1 旧刑訴法の立場
  検察官が捜査の主宰者であり、警察はその補佐、補助機関

2 現行法の立場
  両者はそれぞれ独立の捜査機関であり、協力関係にある。
  検察官の公判専従論と捜査護持諭→検察官が捜査にどの程度力を注ぐべきかの議論であるが、弾劾的捜査観は、捜査機関の権限縮小を目指していることから、検察官はその活動の重点を公判に移すべきであるとの、公判専従論が有力に主張されている。
(1) 司法警察職員→第一次的捜査機関(189条2項)
(2) 検察官→第二次的補充的捜査機関(191条1項)
   189条2項と対比すると、本条では「必要と認めるときは」の限定がつき、かつ「できる」との控えめな文言が使われているから。
(3) 検察官と警察側(都道府県公安委員会及び司法警察職員)の相互協力義務(192条)
(4) 検察官の司法警察職員に対する指示・指揮
 ①一般的指示(一般的準則制定による、193条1項)
  捜査は、公訴の提起及び維持のために行われるのであるから、公訴官たる検察官は公訴の遂行を全うするために必要な一般的指示を与えることができる。
  問題は検察官が準司法官として捜査自体を適正ならしめるために一般的指示をなすべきかである。
 A 肯定説
  捜査における検察官の役割は、警察捜査への批判を中心とすべきであり、司法警察職員の捜査行為が違法にわたる場合には検察官がこれを抑制すべき義務を負う。
  理由:検察官は、警察官のような純粋な行政官と異なり、デュープロセスの遵守を監視する司法官的な地位を併有するから。
 B 否定説
  193条1項の「捜査を適正にするため」とは、公訴の遂行を全うするという観点から見た捜査の適正をいうのであって、捜査を捜査として監視、監督するわけではない。捜査をそれ自体として適正ならしめる責任は警察にある。
  理由:肯定説は弾劾的捜査観に必ずしもマッチするものではなく妥当ではない。すなわち訴訟の当事者主義化に伴う公訴官としての地位にある検察官に準司法官的な地位の併有を認めることは、その負担過重を招き、公判中心主義を形骸化する危険がある。
 ②一般的指揮(193条2項)
 ③具体的指揮(193条3項)
 ※一般的指揮権とは、検察官が主体的に捜査を行い、又は少なくとも捜査を行おうとしている場合に、自己の捜査に対する協力を求めるために、司法警察職員に対して一般的な指揮を行う権限である。この指揮の一般性は、対象たる司法警察職員の一般性にあり、個々の司法警察職員に対してはできない。これに対し、具体的指揮権とは、検察官が自ら捜査をしている場合に、特定の個々の司法警察職員を指揮して、捜査の補助をさせる権限である。捜査を行おうとしている場合を含まず、対象が個々の司法警察職員である点、補助を求めるのであって主体的な判断に基づく協力を求めるのではない点において、一般的指揮と異なる。
 ④指示・指揮の拘束力(194条)

3 検討
  現行法は、検察官と司法警察職員との関係につき、旧法の立場を大幅に変え、指揮権に裏打ちされた相互協力という微妙かつ複雑なものとした。このような現行法の立場は、現行法が、職権主義の訴訟構造から当事者主義の訴訟構造へと移行したことに伴い、検察官の公訴官としての役割が重要となってきたとの認識の下に、検察官は捜査からなるべく手を引いて、公訴官としての職務(起訴、不起訴の決定と公判の維持)に専念すべきであるとの考え方(いわゆる公判専従論)と、検察官の捜査は依然として重要であり、今後も大いに捜査に力を注ぐべきであるとの考え方(いわゆる捜査護持論)との妥協の下に生まれた結果といえる。
  この見解の相違は、刑事訴訟における捜査と公判との関係をどのように捉えるべきか、そして、刑事司法における検察、警察の役割をどのように理解すべきかという根本的な考え方の違いに根ざしている。
  更に、捜査機関の実際の捜査活動には、二つの側面があるといえる。
  第一は、捜査機関が、犯罪があると思料する場合に、犯人の特定及び嫌疑の有無を確かめる目的で、自らの心証形成の為に証拠を発見・収集するという側面、
  第二は、捜査機関が、犯罪の嫌疑のある事案について、公訴提起の要否を判断すると共に、公訴の提起・追行に備え、自らの心証を公判で証明する為に、証拠を収集・保全する側面である。
  そして、大まかに言えば、第一の側面については、主として司法警察職員が大きな役割を持ち、第二の側面については検察官が大きな役割を持つといえる。

三 被疑者及び弁護人
1 問題の所在
  捜査の構造をいかに捉えるかについて、弾劾的捜査観と、糺問的捜査観の争いがあるが、糺問的捜査観に立ったとしても、現行法が、当事者主義の訴訟構造を持つことを承認する以上、公判においては一方当事者となる被疑者側の「公判に向けての準備活動」という観念を認めざるえないであろう。ただ、どちらの捜査観に立つかによって、被疑者側の準備活動としてどの程度のものが認められるかという点について、解釈論、立法論の両面から、かなりの違いが出てくることは否定できない。被疑者側の準備活動という問題を考える場合に、両捜査観の立場に留意した上、解釈論にとどまるのか、それとも立法論であるのか、十分注意する必要がある。

2 被疑者の準備活動
(1) 消極的準備活動→黙秘権の保障(198条2項、憲法38条1項)
(2) 積極的準備活動
 ①証拠保全請求権(179、180条)
 ②証拠開示請求権(現行法は被疑者段階での証拠開示については全く規定していない)
 ③強制処分(特に捜索・押収)への立会権はない。(222、113は被疑者に準用されていない)
 ④被疑者段階における保釈請求権はない。(現行法は被疑者には保釈請求権を認めていない・207条1項ただし書)。


3 弁護人依頼権
(1) 被疑者の準備活動(防禦活動)を実質的に保障するもの
  理由:①被疑者は一般的に法律的知識に乏しい。
     ②犯罪の嫌疑をかけられていることにより、精神的に劣弱な状態におかれている。
     ③身体の拘束を受けることが多い。
(2) 被疑者段階における国選弁護権の制度
 (イ) 現行法の立場→憲法34条、法30条は、被疑者に弁護権を保障し、また法36条は、被告人に国選弁護権を保障したが、被疑者段階における国選弁護権については明文の規定を欠く。現状では、被疑者には国選弁護権を認めないという解釈がされている。
  理由:①憲法37条3項は、「被告人」と限定している。
     ②憲法34条には「国で附する」との明文がない。
 (ロ) 被疑者段階における国選弁護制度の必要性
  ①捜査段階は、被疑者の人権が最も侵害されやすい危険な段階であり、弁護人の補助が必要である。
  ②捜査段階は、被疑者の運命を決定づける証拠が収集される段階であり、防禦の準備活動のため弁護人の補助が強く要請される。
  ③捜査段階が捜査側にとって証拠収集のための最も重要な段階であるのと同様に、被疑者にとっても、捜査段階は、その防禦の準備活動のために最も重要な段階である。
 (ハ) 憲法34条の解釈論→憲法34条は、被疑者の国選弁護人依頼権をも保障したものと解しうるか。
   肯定説は次のように主張する(通説は否定説)。
   ①被疑者の弁護権の必要性にかんがみるとき、それは、憲法31条にいうデュープロセスの不可欠の内容だというべきである。
   ②デュープロセスの不可欠の内容だとすると、その存否を「裕福な被疑者」と「貧困な被疑者」とで差別することは、憲法14条の精神に反する。
   ③憲法34条は「何人も」となっており、これ自身には「被疑者」を排する意味はない。
   ④憲法37条3項も「被告人」となってはいるが、英文憲法の37条3項では、「defendant」(これは「被告人」を指す)ではなく「accused」(これは「被疑者」をも含む)となっており、被告人に限定する趣旨とは解しがたい。
(3) 弁護人の活動
 (イ) 接見交通権(39条)
 (ロ) 法律的助言(弁護人の真実義務に注意)
 (ハ) 証拠保全請求(179、180条)
 (ニ) 勾留理由開示請求(82、86条)
 (ホ) 勾留の裁判に対する準抗告等の各種準抗告(429、430条)

四 裁判官の関与
1 令状主義(197条、憲法33、35条)による関与
(1) 捜査機関が逮捕や捜索・押収など強制処分をするについて、第三者である裁判官の令状を必要とする制度(公平な第三者たる裁判官のチェックにより、強制処分の濫用を防止し、人権を保障しようとの意図による=司法的抑制)
(2) 現行法の定める令状
 (イ) 逮捕状(199条2項)
 (ロ) 勾留状(62、64、207条)
 (ハ) 鑑定留置状(167、224条)
 (ニ) 差押・捜索・検証・身体検査令状(218、219条)
(3) 令状主義の例外
 (イ) 現行犯逮捕(212、213条)
 (ロ) 緊急逮捕(210条→これについては、令状による逮捕と考える見解と、令状主義の例外と捉える見解とがある。
 (ハ) 令状によらない差押・捜索・検証(220条)

2 証拠保全の為の関与
 (イ) 被疑者・弁護人側から→証拠保全手続(179条)
 (ロ) 捜査機関側から→証拠保全の為の証人尋問(226、227条)

3 救済手続としての関与
  準抗告制度(429、430条)