ハートに火をつけて

タバコを咥え、ライターで火をつける。
一本扱い終わる頃、ようやくアルフィンが支度を終えくミネルバ＞から現れた。
「ごめん、待たせて」
助手席側から、慣れないバーチカルドアに戸惑うように乗り込んでくる。
すごいわね、と感心したように車内をぐるっと見回してからシートに着いた。
「いいさ」
「あ、またタバコ」
俺の口の端にかろうじて引っかかっているやつを軽く睨みつけた。
俺はそれを抜き取って窓の外でとんとん、と灰を落とす。
「いいだろ、オフなんだから、少しくらい」
窓の外に向かって紫煙を吐いた。
「じゃああたしにもちょうだい」
「だめ」
「なんで?」
アルフィンは口をとがらす。
「君の髪に匂いが移っちまうから。アルフィンはだめだ」
と言うと、あ、と納得した。
俺は備え付けの灰皿にタバコを押しつぶし、
「さ、行くぞ。ベルトして」
と声をかける。
「どこへ行く?」
「どこにでも」
姫様の意のままに、とエンジンを吹かし、ギアをチェンジする。
アルフィンは最高、と笑い、シートベルトをかけた。
ほんとうに、最高。
給油のため寄港した中継衛星でぼっかりと半日時間ができて、あまり天気がいいんで、ドライブでもするかと唐突に思い立った。
レンタルしたのは赤のカウンタック、ランボルギーニで一服しながら彼女の出待ちなんて、こんな贅沢な時間はない。
しかも今日のアルフィンは、膝上のミニで、スカートからは生脚が覗いている。
シートベルトを回すと、胸の形もくっきりと露わになって。
最高だね。
「？　なあに?」
アルフィンが俺の視線に気がついて顔を向けた。
「なんでもない」
俺は目を逸らしてフロントを見た。
着火は完了。ランボルギーニは早く走りたくて仕方がないといいたげにうなり声を上げている。まるで俺の心臓の鼓動とシンクロしたよう。
「飛ばすぞ」
俺は言ってアクセルをぐっと踏み込んだ。

fin

煙草の灰を外に落とすのはだめですよ。ジョウさん。（原文、変更無しで載せました）
⇒pixiv安達　薫