背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

君の内側

2021年06月13日 06時53分21秒 | CJ二次創作
給油先のターミナルで少し時間が空いたため、ジョウのメンバーは買い出しに向かうことにした。
めいめい、必要なものを調達と思っていたが、アルフィンはジョウと一緒に出かけることに。
まあよくあることなので、リッキーとタロスも自然とペアを組む。こういうとき、この二組になんとなく別れて行動するのがミネルバの慣例。
ショッピング街をぶらついて数時間たった頃、リッキーとタロスがアーケードの下ジョウとばったり出くわした。
「わ、兄貴」
「1人ですかい?」
ジョウの隣にアルフィンの姿はない。
ジョウは、
「さっき、1時間だけ別行動しようってことになった。もうじき待ち合わせの時間だ」
クロノメータで時間を見て答える。
「女性専用の店とかで買いたいものがあったみたいで」
「ああ、なるほど」
タロスが得心する。
下着とか、生活用品とかで、女物はアルフィンしか買えないからな。手助けできずにすまねえ。
心の中で詫びる。
そこで、リッキーが「兄貴、アルフィンを1人にしてだいじょうぶかい? この街、あんまし治安良くないって聞いたぜ」と心配顔。
確かに。でも、
「大丈夫だろう。アルフィンだって路地裏とかのやばい店には足を踏み入れないだろうし」
「そうじゃなくて、そっちの心配じゃなくて、ナンパ!」
鈍いジョウに少し苛立った口調でリッキーがたたみかける。
「アルフィンが1人で街をぶらついてたら、男たちの格好のターゲットじゃないか。いいの?」
「……」
よくない。
口には出さなかったがジョウは血相を変えて待ち合わせ場所に駆けだした。
やれやれ。と二人は顔を見合わせる。
「煽るねお前さん」
タロスがにやりと嗤う。
「過保護なんですよ、こう見えて俺ら」
「過保護なのはうちのリーダーだろ」
「違いない」
珍しく意見が合った。



そしてリッキーの指摘通り、アルフィンはナンパされまくっていた。
道を歩いていれば、ヒュー!と冷やかしの口笛を鳴らされ、声をかけられた。卑猥な単語で誘われたことも片手の指では足りない。
すれ違う人々も、男女を問わずずうっと視線を寄越してくるのはましな方で、中にはぶしつけにじろじろ眺めたり、頭の上から足先までなめるように見られたり、様々だった。一度、通り過ぎていった男がわざわざ戻ってきて「ちょっと、時間ある?」と肩を力尽くで振り向かせられたこともあった。
うんざりだった。
「ねえ彼女。どこから来たの? そのスーツ珍しいね」
若い男二人が、アルフィンに近づいてきた。見るからにチャラい。浮ついた格好で、ここらで網を張るナンパ師とわかる。
無視を決め込んで歩調を崩さないアルフィンを二人はしつこく追う。だって極上の物件。ここいらで見たこともない美少女ときた。
逃してなるかと舌なめずり。
クラッシュジャケットを知らないなんて、もぐり。田舎者。
心の中で毒づきながらアルフィンは先を急ぐ。
「赤のデザインジャケットがよく似合ってる」
「君すっごく綺麗だね。もしかしてモデルかなにか?」
「芸能界、興味ない? 興味あるなら少し俺たちと話しませんか」
むしむしむしむし……。
念仏を唱える心境でその二文字を脳裏でただひたすら繰り返すアルフィン。
と、向こうからジョウが走ってくるのが見えた。アルフィンの顔がぱあっと晴れる。
「ジョウ!」
「アルフィン」
息せき切って彼女のもとへ駆けつける。
アルフィンはブランドショップのバッグやら買い物の戦利品で両手がふさがっていたが、それらを放り投げてジョウの懐に飛び込んだ。
「ごめん。大丈夫か? 何された?」
「ナンパ、やだ。しつこいの嫌い……」
彼にしがみつきながら、アルフィンは駄々っ子のようにかぶりを振る。
ジョウは凄みのある目つきで、いきなり現れた彼を戸惑い顔で見つめる男二人を睨みつけた。
「う……」
「い、いや。たいした用事じゃないから。俺たちはこの辺で」
しどろもどろになって、二人は退却する。ジョウは視線だけで男たちを追い払った。
完全に男どもが視界から消えたのを見届けて、ジョウはアルフィンにそっと声をかけた。
「もう大丈夫。行ったよ」
「……ありがとう。助かっちゃった」
ようやく笑みが戻る。ジョウはほっとした。
「すまなかった。一人にして。やっぱり離れるんじゃなかったな」
ジョウがかがみ込んで落としたバッグ類を拾う。それにしても短時間でよくこんなに買い込んだな。と思いながら。
アルフィンはお礼を言ってそれらを受け取る。半分以上はジョウが持った。
「……もう帰ろ。戻りたい。ミネルバに」
「ああ」
宇宙港への道を歩き出す。
しばらく経っても元気が戻らない様子のアルフィンを見て、遠慮がちにその横顔にジョウは声をかけた。
「大丈夫か。疲れた?」
「ううん」
「もしかして、さっきの連中に何かひどいこと言われたりされたりしたか?」
「……そんなんじゃないの」
苦い笑みを浮かべてアルフィンが言う。言おうか言うまいか、しばし逡巡してから言葉を口に載せる。
「違うの。こういうことはよくあるんだけど。そのたびに思うの。
ああ、あたしってやっぱり見かけだけの女なのかなあって」
力のない声。ジョウは驚いて思わず歩を止めそうになった。
「金髪碧眼で、モデル顔で、白人で。男性のセックスシンボルってだけの女なんだな、って痛感しちゃうのよ。こういう日は。
あたしの外見、外側しかみんな見ないんだなあって」
自信なくしちゃう。ぽつんと呟く。
「……そんなこと言うなよ」
完全に立ち止まって、ジョウが言った。
「ジョウ?」
「そんな風に言うな。アルフィン」
厳しい口調。厳しい表情。
それ以上に痛みをこらえるみたいに、寄せられた眉間にしわが刻まれているのをアルフィンは見た。
数歩、ジョウより先に行ったアルフィンが足を止め、彼を見やる。
「俺はそんな風に君を見ていない。君を知ってるやつだったら、そうじゃない、ちゃんと君って人間の中身を知って親しくしてるってわかるだろ。
アルフィンはとても有能だよ。俺は君のナヴィゲートには全幅の信頼を置いているし、クラッシャーの中でもピカイチの航宙術を持ってると思う。
頭の回転も速いし、語学も堪能だ。何カ国語か話せるんだろ? 披露する機会がないだけで」
だからあんなチンピラに心乱されたりするな。
そんな風に自分を過小評価しないでくれ。と懇願する。
「ジョウ」
「外見はもちろん綺麗だけど、それよりも中身が素敵な人だ。純粋で、努力家で。だから、リッキーもタロスもみんな君を好きなんだよ」
「……」
「あんな連中に貶められる女じゃない。うちのアルフィンは」
ジョウはそこではっと我に返り、また歩を進めた。
熱くなって言葉が溢れた。ーー我慢できなくて。気恥ずかしくて、立ち止まっていたアルフィンを追い越して、怒ったように大股で先を進んでいく。
アルフィンはその広い背中をまじまじと見つめていたが、ややあって小走りに彼のもとへ駆けだした。
隣に追いついて歩調を合わせてジョウを見上げる。
「ありがと、ジョウ。元気出た」
笑顔がこぼれる。白い歯が覗いてジョウは安心する。
が、照れくささが時差を持ってこみ上げてきた手前、しかつめらしく表情を変えずに言った。
「当たり前だ。あんな奴らなんか気にするな。もう嫌な思いもさせない。買い物のときも単独行動させないから、これからは」
「……ん。ありがと」
ブランドバックを片手に寄せて、空いたほうの手でアルフィンはジョウの手を把った。
ジョウもバッグをもう片方に寄せて、アルフィンの手を握る。しっかりと。
足音を重ねて街をゆく。
「中身が素敵だって言ってくれて嬉しい。純粋で、努力家ってあなたが思ってくれてたなんて知らなかった」
「……」
「ねえ、『リッキーもタロスもみんな君のことが好き』って。その中にジョウは入っているの?」
ジョウはアルフィンの手を握るほうの腕のラインをぴくっとさせた。
緊張が走る。
彼は再度立ち止まり、アルフィンをしっかり見つめた。真剣なまなざしだった。
そして、
「当たり前だろ」
と言った。
アルフィンはその日いちばんの笑顔を浮かべた。
幸福で涙が出そうだった。
「おーい、ジョウ! アルフィン」
呼ばれて声のしたほうを見ると、リッキーとタロスが宇宙港の入り口に立ってこちらに向かって手を振っている。
遠くからでも笑顔だとわかる。
手を振り返したかったけれど、どちらも両手がふさがっていてかなわなかった。離すつもりはない。振り返せない。
二人は顔を見合わせてそっと微笑んだ。


Fin,

ジョウがいないとき、ナンパがすごそうだなというのが創作の発端。

⇒pixiv安達 薫

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