背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

可愛いが最強

2021年06月08日 19時51分02秒 | CJ二次創作
「なあタロスう」
「んん?」
「俺らさあ、思うんだよね」
「なんだ改まって」
「兄貴とアルフィンってさ、俺らアルフィンのほうがジョウにぞっこんなんじゃないかって踏んでたわけ。
ほら、密航して押しかけたわけだしさ」
「そりゃお前さんだって一緒だろ」
「俺らのことはいいんだってば今は。
 でもさあ、何か最近、兄貴のほうがアルフィンに惚れてるんじゃないかって思うんだよね」
「へえ……そりゃ、なんでだよ?」
「実はさ、こないだ」



「素敵ねえ、うっとりしちゃう」
今日、もう何度目か分からない台詞を口に載せるアルフィン。
自分の左手の薬指に嵌めた、婚約指輪をうっとりと眺める。
ダイヤがミネルバの照明を受けてまばゆく光る。
アルフィンがジョウといっしょに選び抜いたデザインの指輪は、彼女のほっそりとした白い指にぴったりだった。
「ねえジョウ、似合う?」
首を巡らし、背後のジョウに訊く。
「似合う。とてもよく似合ってる」
これも今日何度目か分からない台詞をジョウが口にする。
少し倦怠を漂わせた、でも、しようがないなあと笑みを蓄えた低い声音で。
アルフィンを見つめる眼差しがとても優しい。
脇で二人のやりとりを小一時間も聞いていたリッキーが堪らず口をはさんだ。
「アルフィン、兄貴に指輪買ってもらったのが嬉しいのはわかるけどさ。もう1時間も指輪眺めておんなじ台詞口にしているだけだぜ。
そろそろさあ、飯にしないかい? お腹減っちゃったぜ」
「やあよ。指輪に傷がついちゃうかもしれないじゃない。今夜はあたし、家事しません」
言って、つーんとそっぽを向くアルフィン。
「えー、そんなあ」
世にも情けない声を上げる。そんなリッキーなど目に入らないかのようにアルフィンは、
「次はこっちのガーネットにしようっと」
語尾にハートマークを散りばめて、うきうきと指輪を変えて左の薬指に填めた。
リッキーはジト目でジョウを掬った。
「……兄貴ってばほんとアルフィンには甘いよ。婚約指輪ってふつー二つもあげるもん? いや、婚約自体はめちゃくちゃおめでたいってわかってるどさあ」
ジョウは鷹揚に笑った。
「まあ、一生に一度のことだからな」
「甘! 激甘だあ。なんでそんなにアルフィンに甘いんだよ。そんなん虫歯になっちまうぜ」
少し、ほんの少しだけ、ジョウが結婚を決めたと聞いたリッキーには一抹の寂しさがある。
親しい兄が手の届かないところに行ってしまうような、弟分のいじけた気持ち。もちろん自覚してはいないだろうけれど。
だからついそんな拗ねた言葉が飛び出した。
でもジョウは動じなかった。こちらのやり取りなんか耳に入らない様子で「きれい、はー、もう一生外すの止めようかな」と指輪を明かりにかざすアルフィンを見やりながら言う。
「何言ってんだ、当たり前だろ。無茶苦茶可愛いからだよ。俺の贈った指輪一つ、いや、二つであんなに喜んで。
可愛い以外の何物でもない。惚れた女を甘やかすのの、何が悪いんだ」
リッキーはドングリ眼をさらに真ん丸に見開いた。口も半開き。
開き直りともとれるジョウの告白。
あの、照れ屋で奥手の兄貴が。ーー今なんかさらっとすごいことを言ったぞ。と自分の耳を疑う。
つい、しどろもどろになって
「ご、極甘だあ~」
悲鳴にも似た声を上げると、
「甘くて結構。逆に聞くけど、お前にはいないのか。どろっどろに甘やかしたい女の子の一人や二人」
真顔でジョウが返した。
「う、そ、それは……」
「いるんならやってみろ。甘やかすと、反応、さらに可愛いぞ」
左目をすがめるように華麗にウインクを決めて見せた。



「……はーあのジョウがねえ。そんなことをなあ」
「言い回しがじじくさいぜ、タロス。でも、ほんとそんなこと言ったんだよ。兄貴ってば」
「じじいは余計だ。いや俺なんか、ジョウが赤ん坊のころから見てるからなア。そんな年になったんだなって感慨も深えわけよ」
「なるほどね」
「お前、当てられたんだな、ジョウに。かんぺき。てか、毒気を抜かれたか」
「まあね。俺らの言った意味、わかる? 兄貴の方がアルフィンにぞっこん説」
「賛成。っていうか、お前さんに一票」
「やっぱり! 可愛い以外の何物でもないんだって」
「はは、違えねえ。昔っからジョウはアルフィンのこと、そんな感じだもんな」
「恋は盲目なのか、めでたいってことなのか」
「目出度いに決まってるだろ。コロナでアルフィンと長えあいだ離れ離れになったおかげで、ジョウの腹が決まっちまったんだなあ」
「そうだね」
「ぞっこんの女と一緒になるのが一番よ。結局女の方も幸せになるから、それでいいんだ」
「タロス、なんか実感こもってる……」
「俺のこたあいいさ。さて、じゃあ俺はおやっさんにちょっくら連絡入れてみっかな」
「ジョウの? でも婚約報告は、自分の口でしたいんじゃない?兄貴」
「わあってるよ。ただその前に、ちょいと内密に耳に入れとくだけだぜ」
「悪いんだタロス。でも、喜ばしいことだもんね」
「あたぼうよ。アラミス全土挙げての華燭の典にしてやる。なんたってジョウが結婚だぜ。コロナも吹っ飛ぶってやつだぜこりゃあ」
「あはは。兄貴、超絶嫌がりそう」
「ちがいねえ」


幸福な笑い声がミネルバのブリッジに響く。
あなたのもとにも、晴れやかな一日と笑顔が届くことを祈って。


END

⇒pixiv安達 薫

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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連日の投稿ありがとうございます (ゆうきママ)
2021-06-11 20:44:58
こんばんは。
pixivと合わせて、連日の投稿楽しんでいます。ジョウの結婚は、早いんだろうなと想像してますが、二十歳で結婚か...まずは、先にピザンの国王夫妻に挨拶でしょ。どこで指揮を上げるんでしょうねぇ。
続きを読みたいな。
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ようこそHPへ (あだち)
2021-06-12 02:41:52
ゆうきママさま
いらっしゃいませ!先日はpixivでもありがとうございました。ただいま数年に一度のCJ創作の波が来ておりまして……。図書戦ではなく。素直に波に乗ってみようと思ってます。笑 過去の作品を引っ張り出したり、新作投下したりして個人的に楽しんでおります。
この続きはですね……、「AR40」というお話に実は続きます。知る人ぞ、知る、ですね。なんと1回離婚するって設定です。今は公開してないんですよ。ジョウのほうがアルフィンのことを想ってるっていうのが私の基本的創作のスタンスです。笑 
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