「あ……っ」
艶かしい声が、闇を縫って柴崎の許へ届く。
柴崎はうっすらと目を開けた。
見慣れないリビングが、濃紺の闇から立ち上ってくる。視界が利いてきて、ああ、今夜は堂上家に泊めてもらったんだっけと思い出す。
ソファとローテーブルの間に布団を引いて、手塚と一緒に横になっていた。壁に掛かった時計は見えない。闇が濃すぎて。
多分、まだ丑三つ時。草木も息を殺して眠る時刻。
しばらく横向きのままで身じろぎもしないでいた。すると、
「……ああ」
押し殺したような、暗がりを更に煮しめたようなほの暗い声が漏れ聞こえる。
柴崎は完全に目が冴えた。もとより眠りは浅いほうだし、今宵は他所の家で寝ませてもらっているということで、覚醒は早い。
ドア一枚隔てた、寝室。
おそらく今そこで堂上たちは。
柴崎は目を閉じる。
……夫婦相和し。仲良きことは美しきことかな。
よかったね、笠原。
教官に喜んでもらってるみたいじゃない?
かすかな喘ぎは、堂上家のリビングをつややかに濡らしていく。
(この続きは、2010年9月発刊予定 オフセット冊子「LESSON」で。
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ええ、本はストーカーのごとく待てますから!
そして手塚には伝言をお願いします。
「ナース麻子を前に寝落ちとはもったいないことをするな!」
冊子に関しては、「手塚はこれからが本領発揮ですよ」とだけネタバレしない程度に伝えておきます。笑