何も知らずに行ったのだけれど、その後いろいろなことを調べて、ぜひもう一度行きたいところがある。
ポーランドのクラクフ・旧市街にあるカジミェシュ(Kazimierz)地区だ。一歩足を踏み入れた途端、今まで味わったことのない静謐を感じ、真摯な気持ちになった。それまでクラコフの雑踏を歩いてきたので、この地区の静寂さは唐突だった。
そしてなんだか私の気持ちは丸裸になった。何でも心に受け止めよう。そして抱こう、と。
まずは近くにある喫茶店(カフェという面持ちではない)に入った。静けさ。清潔さ。真面目さ。トイレを借りるときには、店の人が鍵を持って、暗い通路を案内してくれた。
この店で私は、この街を歩くための心の準備をした。
このカジミェシュ地区は、なんと1335年にカジミェシュ大王によって建設された街なのだ。その後、1495年からポグロムによってクラクフを追われたユダヤ人が多く住み着くようになった。そして、ワルシャワやウッジと並ぶ、ユダヤ文化の中心地となったのだ。
その後、大戦があり多くのユダヤ人街は破壊された。だが、このカジミェシュ地区は、どこをどう見てもワルシャワのように戦後再建された気配はない。ことごとく、昔の建物のまんま、昔の良き時代のユダヤの人々の暮らしが慮れる街なのだ。
シナゴークも古い建物のまま。アパートメントもレストランも古いまま。そこに暮らす人々も、自由に自分たちの文化を守っている雰囲気なのだ。
それもそのはず、このカジミェシュ地区は、非常に稀な大戦の惨禍を免れたユダヤ人街なのだそうです。
わたしが行ったのは、ちょうど戦後60年の式典が夕刻から行われる日だったので、アウシュビッツから生還した人、世界中から集まったユダヤ人たち、そしてテレビクルーが入っており、多分いつもとは違う雰囲気だったのだろう。
それでもこの静謐さ。
式典に参加できた経験は偶然で、それはそれで良い敬虔だったのだが、普段のカジミェシュ地区をもう一度訪れたいと心から思う。
この街は、街にも人々にも敬意を抱くことができた特別な街だ。
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