鉄琴のようなフルートのような、金属的で透明な音が聞こえる。
もうずっとだ。
きぃ…ん。…ぃぃん。
旋律はぎこちなくて、だけどどこか規則性がある。
早く眠りたいのに、これではいつになっても眠れない。
この音が聞こえるようになったのはいつからだったろう。随分昔のような気もするし、最近のことのような気もする。
真っ黒に塗りつぶされた空間の中で、私はゆっくりと目をこらす。
ぐるりと寝返りを打って、「天井」を見上げた。
見えない。
何も。
蛍光灯の影も、壁の染みも書棚も机もクローゼットもぬいぐるみも、扉も、――何も。
目が暗闇に慣れていないのだろう。それに私はひどい近視だし。…メガネ、いつ外したっけ?
けれど、見えないという事実は意識した瞬間に小さな恐怖を呼び起こした。
首筋がぞわり、と粟立つ。
きぃぃ…ぃん。…ぃん。
音自体は、ささやかで澄んでいて綺麗なものだと思う。
なのに、急に怖くなった。真っ暗闇に私がひとりきり、出どころ不明の音を聴いている。
外からだろうか。
そう考えて、途方もないほどの違和感を覚える。
外。
そんなもの、ないじゃないの。
「……えっ」
思わず声が出ていた。上半身を起こした。
違和感を確認する。確信する。私は一体…どこにいる?
手をついて起き上がったのに、そこに感触はなかった。ふんわりとした、当たり前の弾力がない。
身体を覆っているはずのタオルケットの感触も、ない。
腕を思い切り横に伸ばしてみても、そこにあるべき段差がない。
私は自室のベッドの上に――いない?
何、これ?
立ち上がる。足の裏に感触がない。
そもそも…私に「足」ってあるのか。暗闇に紛れた私は、私自身を見失いそうだった。
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<後記>キリリク頂きました。表示文字数の関係で前後編となっております。
このまま後編(すぐ下にUP)に続きますので、そちらにて。