(プレジデントオンライン)
PRESIDENT 2013年1月14日号 掲載
■「必要だ」の意識はブレーキになる
社内の公用語が英語になったり、TOEICをはじめ語学試験のスコアが昇進、昇給に影響する会社が増えています。もっとも、そのような会社でも、普段の業務に英語とまったく関係のない部署もありますし、今のうちに勉強しようと思っても、すぐに使う機会もなくてやる気の出ない人もいるでしょう。
でも、そこで強引にやる気を出そうとする前に、「やる気」の仕組みを理解することが大切です。実は、やる気と呼ばれているものには2種類あって、一つは動機がはっきりしている“モチベーション”。しかしこれを持つ人は少数派で、大半はそうではない“テンション”なんです。
やる気は“出す”ものではなく“出る”もの。モチベーションの基幹はmotive=動機、つまりやる理由があって自然に“出る”ものです。一方、テンションはあえて“出す”もの。上がったら必ず下がるので長続きしません。大事なのは、ちゃんとしたモチベーションを持つことです。
人の意識は、顕在意識と潜在意識(無意識)に分けられますが、脳の活動は約97%が潜在意識に占められていて、顕在意識が占める割合はわずか3%。いくら頭で「英語を勉強しよう」と思っても、潜在意識が反対していれば到底続きません。
バスケットボール在意識には、車に例えるとアクセルとブレーキの2つがあります。アクセルに当たるのは「好き」「楽しい」「情熱」といった前向きな気持ち。逆に「嫌い」「苦手」「やりたくない」「不安」といったネガティブな気持ちがブレーキ。実は「必要だ」はアクセルではありません。理屈ではエネルギーは湧かないからです。で、アクセルとブレーキの差分が“やる気”です。プラスなら“やる気アリ”。前に進みやすくなります。
やる気が出ないという方は、そもそも英語の勉強をやりたくない、嫌い。でも、アクセルを増やすのは結構難しい。簡単なのはブレーキをとること。苦手意識の解消です。
アクセルになる材料は、誰でも皆ある程度持っています。英語ができるようになったら海外に行きたい、外国人の友人をつくりたい、等々。ただ、多くの人にはブレーキが強烈です。ここを軽くするだけで、ずっと前に進みやすくなります。そもそも「頑張る」「張り切る」は、ブレーキがないと出てこない言葉。英語が大変だと思い、どうやればいいかわからないから頑張るんですね。「頑な」に「張って」も、張り「切って」もテンションしか上がりません。
なかでも英語嫌いは大きなブレーキ。でも、嫌いになった原因を追求すると別に最初からそうだったわけではなく、多くは「先生が嫌いだった」「暗記ばっかりだった」あたりが遠因。英語そのものが嫌いなわけではないでしょう。生まれつき英語が嫌いな人などいませんし、最初は授業もわくわくして聴いたのでは?
英語は暗記科目ではなく、納得科目です。例えば、put onの意味(表参照)をただ「着る」と覚えるのは暗記。そうではなく、「置く」よりもっと意味の広い概念を持つputと、「~の上」よりむしろ「接触」を意味することの多いonを合わせて「着る」なのだと理解すれば、納得の度合いが高まるはず。英語は動詞の重要性が非常に高いんです。日本語は助詞で文を繋ぎますが、英語は動詞と前置詞で繋ぎますし、動詞が文の最後にくる日本語に対し、英語は主語の次にいきなり動詞を使わないと通じません。基本的な動詞20~30、前置詞10程度(表参照)についてこの“納得”を積み重ねていけば、楽しく学べますし、普段使わなくてもなかなか忘れません。
自分にダメ出しせず、まずはゆっくりと楽しむペースでいきましょう。
「上達」という結果は、“英語というマラソン”を続けられると実感してから意識すれば十分です。
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英語力コンサルタント、心理カウンセラー 西澤ロイ1977年、北海道生まれ。獨協大学英語学科卒業。TOEIC990点(満点)、英検4級。言語学、脳科学等の知識を生かし英語を指導。著書に『英語を「続ける」技術』『頑張らない英語学習法』。
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(英語力コンサルタント、心理カウンセラー 西澤ロイ 構成=金井良寿 撮影=石橋素幸)