(川崎陽子)
同病院は、2020年3月末から面会を原則禁止にしている。市中心部で救命救急センターを備えており、院内でクラスター(感染集団)が起き、センターに拡大すれば地域医療に大きな影響が出るためだ。
「制限の影響を受けた患者もいる」。同病院救急科の神鳥(かんどり)研二医師は打ち明ける。
今年初めに入院した高齢女性は、最初は受け答えがはっきりしていたが、だんだんと怒りっぽくなり、リハビリもしなくなった。女性はその後、せん妄と診断された。
せん妄は環境変化によるストレスや手術などが原因で起きるとされる。女性を担当した神鳥医師は「環境が変わって注意していたが、発症してしまった」と振り返る。
神鳥医師らは、入院患者のせん妄の発症に面会制限の影響があると考えた。面会制限がなかった19年1月~20年3月の患者5251人と、コロナ禍で制限された20年4~6月に入院した1013人を調べた結果、面会制限前の患者のせん妄発症率は1・8%だったのに対し、制限後は3倍以上の6・2%になっていた。
神鳥医師は「高齢の患者らへの影響を考えると面会制限が正しいとは思えないが、医療を守るためには院内はゼロコロナでなければならない」と苦悩を明かす。
面会制限による患者への影響は、多くの病院の課題となっている。オンライン面会を導入する病院も多いが、京都第二赤十字病院救急科の成宮博理(ひろみち)医師は「画面越しの対面には家族の思いが伝わりにくく、限界がある」と話す。
せん妄に詳しい鶴田良介・山口大教授(救急集中治療学)は「家族がそばにいることが最も大切だが、現状では難しい。医療従事者が日常生活に近いケアを患者に提供することが必要だ」と述べ、具体的に▽カレンダーを見せて日時を確認する▽鏡で自分の姿を見せる▽家族の写真を見せながら話す――など入院前の生活を思い出せるような環境づくりを提案する。
◆せん妄=手術後や環境の変化、治療薬が原因で、場所や時間などがわからなくなったり、不安や混乱が起きたりする意識障害の一つ。不眠や会話の減少といった兆候がある。集中治療やがん治療を受けた患者や、高齢患者に多い。経過観察されやすいが、介入が遅れると、リハビリが滞るだけでなく、死亡リスクも高める。