”ご縁日記”木挽棟梁をめざして

出会いに偶然はないと聞く。これまで出会った方々からどんなメッセージを受け、私はどのように進むのだろうか?

北九州国際自然大学校 岡本広治

2006-03-13 15:33:06 | 火の師(エネルギー・安全)

杉山君からの電話は、いい材木屋さんを紹介してもらえないかという人がいる、というものだった。


彼のフォレストキーパーズキャンプの立ち上げの時、応援してくれた人らしい。それは、北九州国際自然大学校http://www.kitakyushu.tv/というNPOを立ち上げた岡本広治さんだった。


岡本さんは、(有)アルカンシェルという工務店の代表取締役でもあるが、当時はNPOの活動で特に脚光を浴びていた。テレビや新聞などに取り上げられない日は無いのでは…というほどだ。岡本さんは純粋で真直ぐな人だ。そして、熱い思いに引き寄せられるように数多くの人々が集まっている。そんな岡本さんが、古民家の移築再生という仕事を請け負うことになったらしい。こだわりのある材木屋さんを探していたのは、その仕事があるためだったのだ。一度、面通しの後、見積もり依頼書がFAXされてきた。


ところが…送られてきた木拾表は、地松と桧が中心で、私は見積もりすることをためらってしまった。


躊躇したのには理由がある。私は、製材所を営んでいるが、製材する木の95パーセントが杉だからだ。


残り5%が桧。また、杉の殆どを樹齢70~80年生以上のいわゆる高樹齢材で占めている。原木(丸太)の太さも大きいものが多い。これは、父の時代に役物(やくもの)専門工場だった歴史がそうさせている。(役物とは、化粧で見せる、節のない木材の総称)父は和室などの柾(まさ)柱や鴨居を中心に作ってきた。和室も無節神話も姿を消した今の住宅にはあまり使われなくなった。とはいえ、杉を中心におく事に当時も今も変わりはない。


見積りをしようか、しまいか、悩みながら、岡本さんに率直にこう言った。「地松や桧だったら私でなくてもいいと思います。いつもお付き合いされている材木店さんに頼まれた方が安くていいものが手に入るのではないかと思います。」


すると岡本さんは笑いながらこう言ってくれた。「あんた正直な人やねえ。じゃあ私でなくてはならないものは何なの?」


そこで、杉に対する思いを伝えた。九州の人工林は杉が多くを占めているということ。構造材として使用されている杉の多くは、4寸(12センチ)角止まりで、間伐、いわゆる間引かれた材が殆どだということ。間伐後に残されてきた立派な杉は、化粧材を主とした行き場がなく、価値が評価されていないこと。それにより森林の荒廃が進んでいること…


また、それまで暖めていた高樹齢杉材の使い方を提案したい、とも伝えた。耐久性や美しさを活かした杉の使い方を考えていたのだ。


岡本さんの答は、「地松・桧のパターンと杉パターンの両方で見積りしてくれないか」というものになった。その提案の大まかなところは…


1.主な構造材は全て杉または桧の赤身材を使う。(木には辺材部の白身と心材部の赤身があり、赤身部分に樹脂分を蓄積し、カビや腐朽菌、虫などの外的から身を守る性質がある。高樹齢材でしか赤身の構造材は作れない。)


2.化粧板に赤身の節有材と、白身の無節材の2パターンを用意する。(木の持つ美しさ、杢目(もくめ)、色・艶などを色づけなしで味わってほしい。塗装はクリア塗装)


3.床板厚は40ミリにし、傷が入りにくくするため浮づくり(うづくり=木目の柔らかいところを研ぎ出し、表面を古い板のように凸凹にすること)とする。


4.それまでの天日干しによる自然乾燥から、実験的にマイクロ波(電子レンジ)による人工乾燥を試みる。(これは、割れない芯持ち化粧材を作ってみたかったため。芯持ち材=年輪の中心部が入った材。乾燥時に必ず干割れが発生する。)


5.積極的に長尺材を使用してもらう。(国産材は山出しの際、ほとんど4mまでの長さに玉伐る。長尺材は4mより長い材を指す。現在の木造住宅は4m以下の長さの材を継いで使っている場合が多く、長材には集成材が増えてきた。継ぎ手をどれだけ固めても、継がない一本モノにはかなわない。)


というようなものだ。どれも、市場にはあまり流通しておらず、買う側からすれば特注品となり、手に入り難いものだった。


祖母の命日である11月14日、岡本さんと建て主のTさんがお見えになった。こちらの提案を見てから決めたいということだった。今から約5年半前になる。


ここで、私の提案はほぼ受け入れられ今に繋がっていく。今思うと、木挽棟梁(見習い)としての一作目がこのT邸であったと思う。


その時、工務店である岡本さんと建て主Tさんとの間に「調整役の方」がいた。この方との出会いがあったからこそ、杉の使い方の試行錯誤が可能になったと言ってもいい。その後の人との繋がりにも大きな役目を担ってくれた…


 


 


 


 


 


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