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脳内の共感力メカニズム解明が進む
共感、それは私たちが他者の感情を理解し、共有する素晴らしい能力です。この共感力が、円滑なコミュニケーションや社会生活において極めて重要であることは言うまでもありません。しかし、これまで共感は心の問題とされ、その脳内メカニズムは謎めいていました。そこで、東京大学・定量生命科学研究所の奥山輝大准教授率いる研究グループが、共感する脳の働きを神経細胞(ニューロン)のレベルで解明するための革新的な研究を行っています。
自閉スペクトラム症(ASD)の理解向上へ
奥山准教授らの研究チームは、2023年7月に、驚くべき発見を発表しました。彼らはマウスの脳の「前頭前野」に、自分と他者の情報を併せ持つニューロンを発見したのです。この成果は、共感性に難しさを抱える発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)の理解増進や治療戦略に大きな希望をもたらすものとなるかもしれません。
AIが解き明かす「情動伝染」の謎
感情が伝染する仕組み
「情動伝染」とは、他者の感情が私たちに伝染する現象を指します。例えば、身近な人が悲しんでいるのを見ると、私たちも悲しくなることがあります。これは人間だけでなく、多くの動物、そしてマウスにも見られる現象です。これまでの研究では、マウスに電気ショックを与えて恐怖を感じさせ、隣り合わせたマウスが「すくみ行動」を示す実験で、この現象の神経メカニズムが解明されてきました。
AIによる新たな視点
しかし、従来の実験方法では、マウスの複雑な行動に関する神経メカニズムは不明瞭でした。そこで奥山准教授率いる研究チームは、マウスの行動を自動的に追跡し、解析するためのAIシステムを開発しました。これにより、観察マウスの複雑な行動を客観的に分類・解析することが可能になったのです。
光で見える脳の謎
光遺伝学とカルシウムイメージング
奥山准教授らの研究チームは、新たな行動観察システムを使って、情動伝染に関連する脳領域のニューロンの解明に取り組んでいます。特に注目されたのは「腹内側前頭前野(vmPFC)」という脳領域で、この領域が他者の感情と自分の感情をどのように情報処理しているかを解明しました。
2つのニューロン集団の発見
光遺伝学とカルシウムイメージングを組み合わせた実験により、vmPFCには「他者の感情」と「自分の感情」の情報を同時に持つ2つのニューロンの集団が存在することが判明しました。また、観察マウスの脳内の他の領域からも情報がvmPFCに入力され、情動伝染時の脳の働きを説明する鍵を握ることが明らかになりました。
奥山准教授の研究成果は、共感の謎と自閉スペクトラム症の理解に新たな光を当て、私たちの脳の奥深い部分に迫るものです。この研究は、将来的には共感力を理解し、発達障害の支援に貢献する可能性を秘めています。その一歩を共に見守りたいと思います。