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2013ISU世界選手権 男子シングルショートプログラム

2013年03月15日 | ISU Championships
公式リザルト プロトコル


男子シングル

マキシム・コフトン選手(ロシア)
ユーロの派遣はもめにもめて、結局は彼が一番成績を残したということで1枠しか出場枠のないワールドに派遣されたわけですが、まだジュニアの選手にいきなりシニアワールドの、しかも自国開催の五輪のための出場枠取りを任せなければいけなかったところに、今のロシアの苦しさがあります。
他のジャンプは綺麗に決まっただけに冒頭の4T+3Tが3T+1Tになり、必須要素抜けで大減点されたのが非常に痛かったです。
手足が長くスケールの大きい演技ができてスピードもある。申し分のない才能の持ち主なだけに、ここで潰されずに成長してほしいと思います。

マックス・アーロン選手(アメリカ)
新しい全米王者。その名前にふさわしい力強く勢いのある演技でした。これが初めてのワールド出場だとは思えない、物おじしない素晴らしい滑りでした。
すべてのジャンプの着氷が若干勢いが付き過ぎな気がしましたが、今できることは全部出し切れたと思います。ステップでのはじけっぷりもよかったですね。FSもこの調子で頑張ってほしいです。

ミーシャ・ジー選手(ウズベキスタン)
メダル争いをする上位の選手だけではなく、下位の選手であっても人を引きつけて離さない魅力的な演技をする選手がいるのもフィギュアスケートの魅力で、だからこそフィギュアスケートファンは大会に出場する全選手の放送を切望するのです(地上波では無理だとはわかっていても)。
というわけで今回も彼の演技を楽しみにしていました。公式練習で苦戦していた3Aは着氷も乱れてUR判定でしたが、ジャンプをすえべて着氷してしまえば、あとは彼の世界なんですよね。
ステップでの踊り狂いっぷりを堪能させていただきました。素晴らしいステップをありがとう。PEとINが7点台に乗って嬉しいです。

ナン・ソン選手(中国)
バンクーバー五輪では出場枠を獲得できなかった中国としては、今回こそ出場枠を確保しておきたいところ。何と言っても下にはハン・ヤン選手が控えていますからね。
着氷の乱れなどで細かい減点はあったものの、全体的にはさほど悪くない滑りだったのに、意外にPCSが伸びなかったのは滑走順の影響もあるかもしれません。
選曲にも振付けにも工夫を凝らし、端正で指先まで意識した演技だったけれど、アーロン、ミーシャと先に滑った二人に比べると、いまいち引きつけるものが見られない。力強さではアーロンが、華やかさではミーシャが勝っていて、後に滑ったナン・ソンの演技が映えなかったのかもしれません。
持っているものは良いだけに今後の課題ですね。

ハビエル・フェルナンデス選手(スペイン)
ユーロのタイトルも取って、優勝候補の一人として乗り込んだ大会でしたが、だからこそ今までこういう立場で試合に臨んだことのない彼にとっては試金石となるSPでした。
素晴らしいスピードから入った4SはGOE加点2点の納得の出来。そのあとのアクセルのポップさえなければ完璧だったでしょうに、これで10点近く損してしまいました。残念。
ただ点数的にはメダル争いに十分絡めますので、FSでの巻き返しに期待します。
「マスク・オブ・ゾロ」はラテン系の彼にはぴったりの選曲だと思うんですが、どうもオーサーコーチに移ってからの彼は、ユーロの選手と言う雰囲気がせず、絶対嵌まるだろうと思っていたこの曲もあまり…なのが不思議です。

ケヴィン・レイノルズ選手(カナダ)
今までどれだけ4回転を跳んでも評価されにくかった選手。それでも腐らずなげださず、弱点だと言われたスケーティングや他の要素を黙々と磨いてきた成果が、ようやく形になってきたようで、4CCの彼の優勝はとてもうれしかったです。これでずいぶんと自信になったと思います。
4Tはオーバーターンしてしまい惜しかったですが、要素が少ない分一つの失敗が大きく響くショートプログラムに、二つの4回転を組み込む負担と緊張を乗り越えて着氷させ、しかもスピンもステップもすべてレベル4でそろえる。とんでもなく凄い事です。
自国開催のワールドでスタンディングオベーションで称えられる演技ができて良かった。おしゃれな振付けのプログラムを自然に表現できるようになったのも成長ですよね。おめでとう。

ブライアン・ジュベール選手(フランス)
SPは5位で折り返し。何気なく言いますがベテランがこの位置にいることがどれだけ凄い事か。今回のワールドに出場した選手の中で、旧採点の4回転全盛期時代にシニアに上がり、新採点に変わって2つの五輪を経て、未だに現役を続けているのはトマシュ・ヴェルネル選手と高橋大輔選手と、このジュベールのもうたった3人だけになってしまいました。
ジュベールは旧採点とはまったく変わってしまった採点法に対応しながら、ルールによって4回転を跳ぶことが不利でしかなかった時代にも、変わらず4回転に挑戦し続けました。
ジャンプ以外のほかの要素も努力しろと揶揄されたこともありますが、それでも実直に自分のやるべきことをコツコツと積み上げてきました。すでに年齢は28歳。体力のピークは過ぎ、怪我や病気に何度も悩まされてきました。
それでも今回のこの演技。前年は取りこぼしていたスピンも今回はきっちりレベル4で揃えてきました。
何より彼自身が楽しそうに滑っていたのが印象的で、滑り終わった後のガッツポーズが本当にうれしかったです。ジュベールの男性的な魅力を生かし、パワフルな振付けを考えてくれたデンコワとスタビスキーにも感謝。あなたたちがこうしてフィギュアスケートにまだ関わっていてくれることも本当にうれしい。
大きな挫折も味わって自暴自棄になったこともある選手が、それでも何度も何度も立ち上がり、こうして素晴らしい演技を見せてくれる。その姿にどれだけ勇気づけられるかわかりません。ブライアン、ありがとう!
まだフリーが残っていますが、これだけの演技をしてくれたことに胸がいっぱいです。

フローラン・アモディオ選手(フランス)
スケーティングは良く伸びていてスピードもありました。4Sが3Sになってしまったのは痛かった。前半のリリカルな曲調はモロゾフコーチにつく前の彼を思い出させ、このままの雰囲気で…と思ったところで曲が変わってしまいます。前半はしっとりとスケーティングの良さを見せ、後半は早いテンポで彼の踊れる部分をアピールと言うモロゾフの戦略はわかるんですけど、個人的な好みで言えばリリカル路線のままいってほしかったです。
最後のスピンの入りでの転倒は不運としかいいようがなく、かなり痛そうでした。これが無ければ盛り上がって終わったでしょうに残念です。

トマシュ・ヴェルネル選手(チェコ)
とても良い演技だったと思います。ただジャンプが決まらなかっただけ。怪我を抱えずっと不調で、心が折れていつ投げ出してしまってもおかしくない状況で、ここまで気持ちのこもった演技をできたことに敬意を表したい。
だからこそ、彼がこの位置にいるのが悔しい。ここに留まっていていい選手じゃない。なんとか浮上してきてほしいと切実に思います。
いつも失敗した後力ない笑みを浮かべることが多い彼だけど、終わった後の表情にはまだ闘志がありました。まだこれだけできるのだと見せてもらえたから、こちらも諦めずにずっと応援したいです。すごくいい滑りでした。

無良崇人選手(日本)
夏のアイスショーで見た時は、テンポの速いこの曲はゆったりと大きく滑る無良選手のスケーティングの質に合わないのではないかなあと思いましたが、猛々しさを上手く利用してスピードに乗せて違和感なく滑れるようにしてきたなと思いました。
トウを突き損ねてしまったようですが、最初の4Tが決まれば印象も大きく変わっていたでしょう。
身体の動きは悪くないのでFSは思いっきりいってほしいですね。

ミハル・ブレジナ選手(チェコ)
冒頭の4Sはふわりと跳びあがって余裕をもって降りてくる素晴らしい質の良さ。なぜこれでGOEの評価が+1なのか疑問。助走の時にあからさまにこれから「跳ぶぞ」と言う感じなのがダメだったんでしょうか。それにしても上下カットで消えてるとはいえ-2をつけたジャッジには本気で疑問。
最後のスピンの逆回転のキャメルでスピードが落ちたのが気になったくらいで良い演技でしたね。ユーロでやっとメダルが取れて長かったトンネルをようやく抜けた感じがします。

羽生結弦選手(日本)
人間、いつもいつも絶好調とはいきませんが、インフルエンザに左ひざの怪我と悪いことは重なるもので、身体もずいぶんと痩せてしまったように思えます。
冒頭、ジャッジの前で髪を書き上げる振り、いつもならもっと自信満々にアピールしたはず。練習が十分積めなかったということが、そのまま不安となって出てしまったなあと思いました。
4Tにいつもの自然な流れと高さが無く、あんなに軽々となんでも内容に飛んでいるように見えたのも、やはり日々の厳しい練習の積み重ねがあってこそだと改めて認識させられました。
スピンの切れや3Aの素晴らしさはいつもの通りで、この1シーズンの練習の積み重ねがあるから、思うようにできない今回でもこれだけやれるのだと自信を持ってほしいです。
曲を完全にものにして余裕をもって滑ってさえいたけど、今回はとにかく必死にもがいているようで、それはそれで胸を打たれるものがありました。
中1日休めることが吉と出ればいいのですが。将来のことも考え、怪我を悪化させることのないように祈っています。

デニス・テン選手(カザフスタン)
2008年のワールドで8位になった時、これからこの選手はもっと伸びていく、と誰もが思ったはず。それが思ったほどスムーズには実力を発揮できなくて、もどかしい思いはファンもそしてジャッジも同じだったんだなあと思います。ヴェルネルもそうですが、「点を出したい」と思わせるものを持っているのに、なかなかその実力が発揮できない選手というのは、観ていて本当につらいです。
その今までの鬱憤を吹き飛ばす素晴らしい演技でした。ハラショー!!
文句なしです!スピンステップオールレベル4。ジャンプはすべてGOEで1点以上の加点をもらえる質の良さ。余裕をもって降りてきています。ガッツポーズも納得の出来。これほど気前よく点数をつけられる演技もないです。
まさに「アーティスト!」。いい演技をありがとう。

高橋大輔選手(日本)
4CCの結果、そして聞こえてくる雑音。悔しかったことは間違いないでしょう。それをバネに良くここまで仕上げてきたなと思いました。
特に最後のステップシークエンスのすさまじさには何度見ても言葉を失います。GOEも一人を除いて全員が+3の評価。ステップの満点評価なんて初めて見ました。スピンもすべてレベル4。今季一番回転は速く実施も正確でした。
ただこれは彼がやるべきプログラムだったのかというと、やはり疑問符がつきます。同じ曲でもほかの振付師だったらどういうふうに料理したんだろうと。
かといって「The Stroll」と比べたらどっちが良かったかと言われたら、断然こっちなんですけど、変えずにあのままやっていたら、4回転の練習にもっと時間を費やせてワールドに間に合ったんじゃないか、けれど本人が自信が持てないプログラムなら、この局面では今回のようにまとめることも難しかったかもしれないし、と色々考えてしまいます。外野が考えたって仕方がないことなんですが、「労を多くして~」という思いがどうしても浮かんでしまう今シーズンです。
ソチ五輪までの3シーズン計画の今季は中間。そう考えるといろいろ試したことも、モロゾフと再タッグを組んだことも、答えが出るのは来季なんだとそう思うんですけどね。
今シーズンの苦しみは決してモロゾフだけが原因とも言えないですし。
高橋選手としては五輪出場枠のことをどうしても意識せざるを得ない立場ですし、自分のことだけに専念することもやはりできそうにない状況は残念ですが、全力でやったことならどんな結果になっても次につなげられると思うので、最後になるかもしれないワールドのFS、思いっきり滑ってほしいと思います。

パトリック・チャン選手(カナダ)
今季大きく環境を変え、無敵の王者が無敵ではなくなって、地元開催のワールド、五輪に向けての三連覇もかかっていて、こちらも色々と言われ続けてきたと思いますが、最後の最後でしっかりとパトリックらしい滑りをしてくれてほっとしました。
4CCを欠場し調整に専念したのは正解。連盟とテレビ局が密接にかかわりあっていることで、こういう選択が許されない日本の選手は可哀そうですね。
静かに始まる曲調でただ振付けをなぞるだけだったらしらけそうなところを、気持ちを込めて動けるようになった。これが今季のパトリックの成長です。そして4Tの軸がぶれたと思った次につけた3Tの余裕。本田さんが解説で指摘したようにこれでGOEをプラスに持っていきました。わずかなミスを直ちに修正して見せたことで、「やはりすごい」とジャッジに印象付けられる確かなジャンプ技術は健在でした。
え?もうステップだっけ?と勘違いしそうなほど密度の濃いTRを経て次の3Aへ。どうやれば点数が出るのか、CoP方式を知り尽くしたジェフリー・バトルの振付けは隙が無く、それでいて「ここで点数を稼ぎますよ」というあざとさも無い。静謐な曲調に合わせたあくまで上品な振付け。
この曲で世界観を作るのは並みの選手には難しい。それを見事にやってのけました。文句なしの結果です。素晴らしかった。


日本の五輪出場枠3枠獲得に黄信号がついているのが複雑ですが、上位陣の失敗なんて見たくないのも正直なところです。
誰もが実力を発揮したうえで望んだ通りの結果が出せたら、と思いますが、誰かが笑えば誰かが泣くのが勝負の世界。
それでもどの選手もベストを尽くせるフリーであるように祈っています。