千葉に於ける野球のある話

海浜埋立地に生まれた少年野球チームを中心にコミュニティづくりが進み、世界で初めて少年野球を中国に紹介。

棒球浪漫

2007-08-21 10:42:42 | 少年野球 米・中を行く 
2007年(平成19年)8月18日(土曜日) 讀賣新聞

棒球浪漫4

「リトル外交官」海渡る    国交回復7年 実現に尽力

  1979年7月25日。夕暮れの北京空港に中国民航機が到着し、27人の子どもたちがタラップを下りてきた。緑色のアンダーシャツに純白のユニホーム姿。千葉市の少年野球チーム「幸町リトルインディアンズ」の選手たちだった。
 千葉港に近いマンモス団地の無名チームに過ぎなかったが、試合や合同練習をした球場では、「熱烈歓迎」の横断幕が揺れた。北京では現地の子どもにちとの交歓会が催され、上海では練習の様子がテレビや新聞で報じられた。
 「夢のような話でした。」総監督としてチームを率いた鈴木勝彦さん(67)がそう振り返るのも無理はない。日中国交正常化から7年で、一般人の訪中はまだ難しかった時代。少年野球としては初訪中だった。
 リトルインディアンズは、「団地のもやしっ子に笑顔を取り戻そう」という鈴木さんの呼びかけで結成された。練習してきた中国の歌を人民解放軍の前で堂々と歌い、言葉の壁に気後れすることなく、子ども同士で打ち解けている姿を見て、鈴木さんは「子どもたちは、外交官以上の役割を果たしたと思った」という。
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 「あの訪問は、中国野球にとっても大きな転換点でした」。梁扶初さんの三男、梁友徳さん(85)はそう振り返る。後に中国棒球協会の副主席に就くことになる友徳さんは、訪中実現のために陰で力を尽くした。
 受け入れにあたって、友徳さんの最大の悩みは、広い中国を見渡しても野球ができる子どもがほとんどいないことだった。文化大革命か終息し、野球は少しず復活していたか、選手は中高年ばかり。ソフトボールをしていた中学生を集め、中国野球チームを急造した。
 友徳さんの目に映った日本の子どもたちはチームワーク、技術とも素晴らしかった。特に心を動かされたのは、勝っても相手への敬意を忘れない姿勢だ。「国の将来のためにも、子どもに野球を広めたい」。そう強く感じたという。
 少年野球が普及すれば、優秀な選手の発掘やレベルの底上げにもつながる。リトルインディアンズの訪問をきっかけに、各地の小学校でチームが作られた。
 中国代表チームの捕手だった羅衛軍さん(37)は、80年に友徳さんに誘われて野球を始めた。羅さんは、家庭が貧しい子どもに、友徳さんが靴を買ってあげたのを覚えている。見たことも聞いたこともなかった「棒球」にのめり込んだのは、友徳さんの人柄にひかれたこともあった。
 リトルインディアンズは86年に再訪中し、中国チームは初めて勝利を手にする。友徳さんはこの時、鈴木さんから「私たちは中国に負けました。そのことを私はうれしく思います」という言葉をかけられた。
 友徳さんはその後、日本や米国で少年野球の練習方法やチーム運営を学び、本に李まとめて出版する。中国で野球の教科書といえば、それまでは父親の扶初さんが書いた「棒塁球指南」と「棒球運動」ぐらいしかなかったからだ。
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 しかし、中国では野球の知名度はいまだに低い。道具は高価だし、79年に始まった一人っ子政策で親たちは過保護になり、ケガをするかもしれないと野球に否定的だ。そもそも極端な学歴社会のため、スポーツをしようとする子が少ないという事情もある。
 そんななか、昨年12月、友徳さんたちにとってうれしいことがあった。扶初さんの生まれ故郷、広東省中山市に初めての少年野球チームかできたのだ。
 友徳さんの弟で米国に移住した友文さん(82)は帰国するたびに練習に顔を出す。友文さんは「あと何年生きられるかわからないけど、残りの人生は、父の故郷で野球を教えたい」と話している。

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日中国交正常化と日本人の訪中

 1972年9月29日、田中角栄首相と周恩来首相が口中共同声明に署名し、国交正常化が実現した。それまで中国に渡航するには外務省に特別な旅券を申請し、香港にあった中国の出先機関を通じて査証(ピザ)を取得しなけれぱならなかったが、手続きが簡素になった。74年に日中航空協定が締結され、北京などへの定期便か就航したが、「リトルインディアンズ」の訪中当時も、公的機関などから招待状を受ける必要があった。
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 (写真の注:中国で初めて行われてた少年野球の試合後、
        中国選手と握手するリトルインディアンズの子どもたち(手前))

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