goo blog サービス終了のお知らせ 

ペンネーム牧村蘇芳のブログ

小説やゲームプレイ記録などを投稿します。

蟲毒の饗宴 第18話(1)

2025-04-09 19:59:50 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 朝、カイルたちは朝食後に冒険者ギルドへ顔を出すと、
 受付嬢が待ってましたとばかりに一言、
「ギルドマスターがお呼びです。」
 と即座に口を開いた。
 その表情からは、来てくれたわー、逃がさないからねー、的な
 強い視線を感じ取れる。
「はい、分かりました。」
 命を狙われていたとはいえ、同業者に罠を仕掛けただけでなく、
 何人かは消し炭にしたのだ。
 勧告が出ても不思議じゃない。
 そう思ってギルドマスターの部屋に入ると、
 思っていたのとは全く違った応対となる。
「低能な冒険者どもに命を狙われたそうね。
 気付けなくて申し訳なかったわ。」
「あ、い、いえ・・・。」
 デカい。
 身長180はあるだろう。
 そして美しいロングの金髪にスタイルも抜群。
 ・・・いや、露出している腕や脚は筋肉の張りが
 常人と違い引き締まっている。
 格闘系の技能者か。
「改めて自己紹介させてもらうわね。
 私の名はシャディ。
 六英雄のサリナ司祭から直接格闘術を学んだ無手の格闘家よ。
 今はここのギルドマスターを務めているわ。」
 気迫がビリビリと肌に感じる。
 一般人なら腰が抜けてしまう者もいるだろう。
 それでもカイルたち6人は臆する事無く面と向かう。
「カイルといいます。
 6人パーティーのリーダーを務めています。」
 続けて皆が名乗った後、椅子に腰掛ける。
「報告は聞いているわ。
 調べつくした西区の地下迷宮未踏エリアの発見、見事よ。
 そして邪教徒に誘拐された被害者たち3名の救出、
 素晴らしい実績だわ。」
「ありがとうございます。
 ですが、まだやらねばならない事があります。」
「何?」
「奴隷商アラクネの壊滅と子供たちの救済です。」
 一点の曇りもない真っ直ぐな目。
 ・・・真っ直ぐ過ぎるわね。
「ギルドから協力してほしい事はある?」
「俺たちが子供たちを連れてきたら、
 保護出来る孤児院を紹介して下さい。」
「私が知っているところだと、人使い荒いわよ。」
「それは願ったりです。
 生きる目的が与えられるなら最高です。」
 ここまで話すとシャディは一呼吸おいた。
「・・・そう、一度は子供たちに会ってきたのね。」
 !
 ここまでの会話でそれを見抜いたのか。
 このギルドマスター、ただの格闘家ってだけじゃない。
「ええ、会ってきました。
 そして奴隷商アラクネの支配人と用心棒にも会いました。
 二人ともかなりの強者です。」
 勝算はあまり無さそうね。
 どうしたものかしらとシャディが思っていると、
 ふとカイルの胸元にある一輪の花が目に入った。
 森の女神の花、しかも青!
 なるほど、いつの間にか人脈も広くなってきたみたいね。
 フランソワがバックにいるという事は、
 おそらくケイトも絡んでいるはず。
 それなら心配無い、か。
 シャディがゆっくりと立ち上がった。
「では、見事その強者たちを跳ね除け本懐を遂げなさい。
 全てが終わった時には、銀等級への昇格を推薦してあげるわ。」
 カイルたちも立ち上がり頭を下げる。
「ありがとうございます。
 では、失礼致します。」

 カイルたちが地下迷宮入口に来ると、
 王宮護衛団の立入禁止ロープが張られていた。
「もうここからは入れないみたいだねー。」
 のんびり声のミウに比例して、皆にも焦りは無い。
 もうマンホールから地下下水道経由で侵入するルートは
 把握済みなのだから。
 今はそんな事よりも向こうだ。
「ここか、小さな教会は。」
 入口は血飛沫が舞った跡がある。
 フランソワの薔薇の鞭によるものだが、
 カイルたちはそこまで知らない。
「ケイトが、ゴロツキいるって言っていたけど・・・
 そいつらを殺した跡なのかなぁ。」
 ミウの声にシーマが軽く頷く。
「おそらくそうだろう。
 ケイト、ドール、フランソワ、
 あの3人の佇まいには隙が全く無かった。
 この城下町でもかなりの実力者なのは間違いない。」
「とんでもない花屋さんだよねー。」
 ラナの声にカイルも同意する。
「ああ、だから頂いたこの青い花はなるべくとっておきたい。
 おそらく最大の切り札になるはずだ。」
 話しながら教会の中に入る。
「シーマとラナは入口で監視。
 ミウはケイトに言われた位牌の魔力感知だ。」
「了解。」
 カイルたちが位牌を手に取り、確認する。
「中央が全員10歳以下、
 他も20代は数人程度であとは皆10代だな。
 若すぎる。
 あとは女性が圧倒的に多い。
 これはまるで・・・。」
「生贄?」
 カイルの声に続けるようにミリアが漏らした。
 ミウは一番若い年齢の位牌を手に取り、
「じゃあ、魔力感知始めるよ。」
 と言って両手で位牌に魔力を込める。
 すると少ししてミウが、
「うっ!」
 と唸ったかと思うと、即座に魔力感知をやめた。
 よろめくところをゴッセンが支える。
「なんだおい、どうした?」
「・・・アーク・デーモン(高位悪魔)。」
「なに!?」
「カイル、間違いない。
 この位牌はアーク・デーモンを召喚し、
 願いの対価にさせられた生贄の子供たちの位牌よ。」
 ミウの声に、カイルたち全員が凍り付いた。
 奴隷商アラクネやバーグラウト教団と関連しているなら、
 教団に利用され殺された子供たちの位牌とばかり思っていたのだが、
 これは予想外の展開だ。
 ミウが震えた声で語る。
「どうする、カイル?」
 カイルはゴクリと生唾を飲み込みながら、
 深く息を吸って自身を落ち着かせた。
「ケイトのいるヴェストブルッグ家へ行こう。
 とりあえず事実を報告だ。
 俺たちでは手に負えないかもしれん。
 急ぐぞ。」
 皆が頷き、急ぎ足で魔法街へと向かう。

 アーク・デーモンの存在。
 それが一連の事件の核心だ。
 マーキュリー伯爵領に行ってきた出張班からの報告が、
 全容を物語る事になる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする