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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

小説やゲームプレイ記録などを投稿します。

蟲毒の饗宴 第29話(1)

2025-05-19 20:12:15 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 平原での悪魔との戦闘が終わった頃、
 ようやく冒険者たちが来たようだったが、
 全て終わった事を知らされると皆唖然呆然。
 10人にも満たない少人数で1000体もの悪魔を撃破したのだから、
 ま、当然って言えば当然よねー。
 悪魔の素材もたっぷり手に入れ、
 ホクホク顔に満足な気分で仕事が終わったところだったけど、
 現実はやっぱり甘くなかったわ。

 寺院に運ばれたサリナとヴェスター。
 フィルはわざと攻撃を喰らったのでしょうと語っていたが、現実は違う。
 本当に2人ともガチで倒されていたのだ。
 それもレプリカ(模造品)の魔剣を相手に。
 目を覚ました時にケイトとフランソワから
 戦闘は終わったから大丈夫と聞かされたが、
 サリナに至ってはストレス全開。
「屈辱的だわ・・・!」
 ダアン!と近くにあった石のテーブルを拳で叩く。
 見ていた者たちは、拳よりもテーブルの方を心配していた。
 過去に破壊実績があるらしい。
 寺院の大司教でもある聖女がデストロイとか、
 やっぱり何かが間違っている。
 ま、そんな心配は置いといて。
 ヴェスターに至っては真顔で
「以前から噂はありましたが、非常にまずい展開ですね。」
 と珍しく不安な事実を露呈。
 これにはケイトとキャサリンが目を剥いた。
 明日、赤い雨でも降るのかしら。
「何がまずい・・・の?」
「悪魔たちも魔剣の模造品を作れるようになったという事実です。
 堕天使の剣は魔剣の中でも最強クラス。
 造りは雑だったようですが、
 それでも真空刃を生み出せるくらいには仕上がっていた。
 まだ実験段階でしょうが、
 いずれ本物の魔剣に近い性能の模造品を手にした悪魔が
 出現するかもしれません。」
「ゲ、それは確かにヤバいわ。」
「それだけではないです。
 模造品を作れるという事は、少なくとも悪魔側にも
 キャサリンのような封魔術師がいるという事です。
 そしておそらくは解魔術師も。
 つまり、魔法や魔術に対する人間側のアドバンテージが
 一気に無くなる事を示唆しているのですよ。」
 ・・・!
 今までのような、悪魔をからかったような戦闘は出来なくなる
 ・・・ってことね。
 でも
「あのアークデーモンは、
 解魔術も封魔術も知らなかったみたいよ?」
「アークデーモンにも階級がありますからね。
 今回敵としてやってきた悪魔はおそらく最下級でしょう。
 であれば情報がリークするのを恐れて、
 伝えていなかった可能性が高いです。
 要は、あのアークデーモンを含む1000体の悪魔どもは、
 模造品の魔剣の性能を確認する為の捨て駒だったのですよ。
 我々は悪魔どもにしてやられたわけです。」
「あのアークデーモンと悪魔の軍勢が捨て駒?」
「最下級なら、人間の国を一つ潰せば
 一気に階級は上がるでしょう。
 その付け入る隙に入り込んだんですよ、
 魔剣の模造品を作った悪魔は。」
「父さん、もしかしてその悪魔の名前、知っているの?」
 その問いにサリナが割って入る。
「それは各国と寺院総本山との間で
 機密情報扱いされている内容よ。
 ・・・でもまあ、あなたたち3人ならいいでしょ。」
 ここに来ていたのは、ケイト、キャサリン、フランソワの3人。
 ギルは酒場へ、シャディはギルドへ、アメリは病院へ、
 フィルとライガは王城へそれぞれ戻っている。
「名前はエギル。
 偽名だと思うけど、その名で人間に化けて、
 人間界の世界各地を回っているわ。
 武器商人として、ね。」
 今度はヴェスターが目を丸くした。
「いいんですか、話しちゃっても。」
「一般国民が真っ向から悪魔と戦ってくれたのよ。
 これくらいの情報提供はあってしかるべきでしょ。
 事後報告になるけど、女王には私から話しておくわ。」
「分かりました。」

 あたしは聞かなくてもいいような事を聞いてしまったのでは?
 そう思ったが、もはや時既に遅しなケイトであった。
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蟲毒の饗宴 第28話(3)

2025-05-16 21:14:30 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 ヴェスターは問いながら間合いを詰めようとするが、
 アークデーモンの脚捌きも素早く、ある一定の距離を保ったままだ。
 おそらくはこの間合いがあの魔剣の最大距離。
「まさかこの魔剣を知っている者が人間界にいようとはな。
 これは魔界で作られた魔界に2本しか存在しない魔剣。
 貴様こそ、何故この魔剣の存在を知っている!?」
 アークデーモンが急に間合いを詰め、鋭く振りぬく。
 サリナ同様、またも一撃でヴェスターの鎧が裂け、血飛沫が舞い倒れた。
「父さん!?」
「フ、我に無謀に挑む者どもの末路を見せしめにしてやろう。」
 アークデーモンの振り下ろす剣が、
 倒れた二人の首を斬り落とそうとした時、
「神樹セフィロト。」
 イグドラシルのような巨大な枝が、剣戟を防いだ。
 堕天使の剣を弾く枝だと!?
 アークデーモンが驚愕している間に、二人を引き離した。
 そしてセフィトロの葉で包み込み、体力を回復させる。
「お姉様ご安心下さい。
 二人は気絶しているだけですわ。」
「あ、ありがとう、フランソワ。」
「ですがお姉様。」
「何?」
「セフィロトは神の樹。
 最大の防御を維持出来るかわりに、私はこれ以上動けなくなります。
 負傷者の防御は引き受けますが、
 他まで手が回せなくなってしまいますの。」
 すると、今までの光景を全て見ていたにも関わらず、
 特に恐怖心も感じていないかのような三つ編みの美少女は、
 スタスタとアークデーモンに歩み寄っていった。
「フィル!」
「では、私が攻撃を引き受けますね。
 ケイトさんは、いつものサポートお願いします。」
「あ、うん、分かった・・・わ。」
 いつものサポートで足りるのかしら。
 とりあえず、フィルを信じるしかない・・・よね。
 両手を下げ、特に構えも見せず無造作にアークデーモンに
 近付いていく様は、恐怖を知らぬ無垢な子供に見えた。
 かまいたちの間合いに入ると、アークデーモンが打って出る。
 最大の攻撃力を持つこの女が倒れれば、貴様らは全員終わりだ!
 そう思っていたが、一瞬ギィンと何かに弾かれたような音がして、
 直後にズバッとアークデーモンの足元の地面が少し裂けた。
 フィル自身は特に怪我も何もない。
 一瞬、フィルの両腕が交差したように見えたが、まさか・・・。
 アークデーモンが歯ぎしりする。
「まさか、まさか貴様、我のかまいたちを弾き返したというのか!」
 驚愕する悪魔の表情を見ても特に感じる事は無いようで、
「はい、その通りです。」
 と淡々と答えるのみ。
 そして解説が続く。
「かまいたちの効果は、振り下ろす剣を見れば、
 どの方角に襲い掛かってくるかが見えます。
 サリナさんとヴェスターさんが事前に“わざと”受けてくれた事で、
 方角と威力の程が分かりました。
 ですので、特に恐ろしく思う必要は無いと思いますよ。」
「わざと・・・だと?」
 その声に、フィルは小さくため息した。
「たぶん女王様かセイクレッド様の魂胆ですよね。
 意地でも私にアークデーモンを倒させたいと
 思っているみたいですけど。
 こんな風に。」
 ザン!と衝撃波のような音が聞こえたかと思うと、
 アークデーモンの左腕が付け根から斬り落とされていた。
 アークデーモンが目を剥く。
「き、きさま・・・きさまぁ!」
 間違いない、今のは堕天使の剣と同じかまいたちの刃。
 魔力を発動している気配すら無いのに、
 何故かまいたちが使える!?
 その思いを察知してか、フィルはさも当然のように語る。
「剣から真空刃を生み出すのは、地力で出来ますよ。」
 言いながら縮地で落とした左腕を奪い取り、
 空中に投げて両手の短刀で瞬時に細かく切り刻む。
「やっぱりあなたは弱いですね。」
「いい気になるなよ、きさまあ!」
 しかし威勢のいいのは掛け声のみ。
 懐深く間合いを詰められ、かまいたちが出せない。
 長い時間フィルの剣戟を受け続けるが、
 フィルは一向に疲れの欠片も見せていない。
「真空刃の欠点は、振りかぶる深さと広い間合い、
 そして両脚が地面をしっかり噛んでいないと出せない事。
 まして堕天使の剣とはいえ“レプリカ”の剣を相手に、
 私のドラゴン・トゥースが負けるはずがないです。」
 言った直後、アークデーモンの手にしていた
 堕天使の剣が根本から折れ、地に刺さった。
「な、なにいぃぃぃぃ!?」
 そして素早く薙いだフィルの短刀は、
 剣を手にしていた右腕を斬り落とす。
「ギャアアアアア!
 な、何故だああああ!
 何故俺の剣が折れるうううう!」
 鬼女や、遠巻きに見ていたシャディ、
 そしてライガも呆然としていた。
 あれだけアークデーモンが優勢だったのに、何が起きたのだ!?
 しかし、これを見ていたケイトはため息一つ。
「やっぱ、悪魔って馬鹿だわ。
 あたしが解魔術師だって事、分かってたはずよね?」
 ケイトのサポート。
 これに全く気付かなかったのがアークデーモンの敗因か。
 悪魔はガクリと膝をついた。
「・・・なにを、した?
 我の防具は、他の魔力を入り込ませない。
 貴様のハッキングすら無効化するはずだ。」
 この馬鹿悪魔、それはあんたの勝手な思い込みでしょーが。
「解魔術は封魔術でしか無効化出来ないわよ。
 ところで、今もその力を武具から感じ取れる?」
 ケイトに言われ、ようやく気付いた。
 魔剣からも、防具からも、魔力を何一つ感じない。
 アークデーモンが愕然とした様子でケイトを見る。
「魔力を込める前の、初期状態にしたのよ。
 解魔術の1つでフォーマットというの。」
 ・・・・・。
 沈黙するアークデーモン。
 魔の理を根底から覆す解魔術と封魔術は、
 上級悪魔の武具すら容易く打ち破る。
 でもこれが出来たのは、一定時間アークデーモンに
 攻撃し続けてくれたフィルのおかげ。
 フォーマットの欠点は時間がある程度かかる事だ。
 これがばれて術者が攻撃されると、
 フォーマットは簡単に中断されてしまう。
 やっぱりフィルは凄いわ。
 そのフィルが降ろした最後の一振りは、
 アークデーモンの両脚を斬り落としていた。
「・・・きさま、我をなぶり殺しにするつもりか?」
 そう言われ、フィルが顔を覗き込む。
「あなたの身体の中に、伯爵様の魂が入っていますよね?
 ケイトさんとキャサリンさんの解魔術と封魔術で抜き取りますので、
 逃げられないようにしただけです。」
 そしてフィルの背後にケイトとキャサリンが
 ニヤニヤしながらやってくる。
「あ、精神面でかなり激しい頭痛が生じるけど、
 それは特に助けないから。」
「恨むなら、伯爵の身体に取り憑いた自分を恨んでねー。」
「き、きさ、ま、ら・・・!」
 この女ども鬼だ!
 それもかなりドSの!!
 ケイトがジロリとアークデーモンを睨む。
「今なにか余計な事思わなかった?」
「ひっ・・・!」
 馬鹿な、我が、我が恐怖しているというのか!?
「な・・・なんでもないわ!
 さっさと抜き取り、さっさと殺・・・グワァアー!!
 あ、頭が割れるぅぅぅー!!!
 このドS姉妹がぁー、ギャアアアア!!!」
 悪魔の断末魔が、平原いっぱいに響き渡っていた。

 救助しながらもケイトはひしひしと感じていた。
 聖女サリナ、金等級冒険者シャディ、女王護衛団ヴェスター、
 ニードル序列1位エル、そしてキャサリンとイヴ。
 これらの実力者を瞬時に倒した上級悪魔相手でも
 余裕で倒したフィル。
 あたしのサポートなんて武具の無力化だけで、
 あの悪魔の地力をどうにかしたわけじゃない。
 この娘が本気になる事ってあるのかしら?
 そのケイトの想いに気付いたのか、フィルがニコリとする。
「あの堕天使の剣って、大きく振りぬかないと
 かまいたちが出せないみたいなんですよ。
 だから間合いを深く詰めたままの方が安全だったので、
 とても楽な戦闘でした。」
「あ、そうなんだ・・・ね。」
 フォーマットが成立する時間は、
 魔力の多い武具ほど時間がかかる。
 その長時間をものともしないばかりか
 呼吸が全く乱れないのはなんでなの?
 と、ケイト自身もフィルの実力の秘密を知る事は
 出来ぬままであった。
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蟲毒の饗宴 第28話(2)

2025-05-15 20:16:16 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 レグザが爆炎系の魔法を詠唱する中、
 対峙していたフランソワが素手の状態で至近距離に近付く。
「沈黙の魔法だけが対抗手段でない事を教えて差し上げますわ。」
 すると、フランソワは近付いただけなのに、
 レグザの詠唱していた魔法の魔力が消え失せていった。
 レグザが歯ぎしりする。
 マジックドレイン(魔力吸引)か!
 この女、詠唱してもいないのにどうやって発動させた!?
 驚きのまま、レグザは早くも討たれる事になる。
 フランソワの袖口から金色の蛇が姿を現す。
 蛇の身体が全て出たところで尾の辺りを握り、鞭のように扱う。
 使い魔を手にした、生きた鞭。
 蛇の牙がレグザの身体を切り裂く度、レグザの身体が薄くなる。
 この蛇、まさか・・・!
「私の使い魔コアトルは、アストラルボディーすら喰らいます。
 塵も残しませんわよ。」
「ち、ちくしょおおお!」
 我儘なレグザの哀れな叫びが、最後の断末魔となり消え失せていった。

 暗黒騎士は黒いフルプレートメイルの重装備。
 必然、動きは遅くなる。
 これで大きな楯を構えていれば立派なタンカー(囮役)だが、
 こちらはクレイモアのような大型の剣を手にしていた。
 間合いでは槍の方が上手だが、完全防備の鎧を相手にどう戦うのだろう。
 何度突こうが硬い装甲で弾かれ、その度に大剣の一振りがライガを襲った。
 辛うじて躱すも擦り傷が増えていき、徐々に出血が目立ち始める。
 明らかに圧倒的不利に見えたライガであったが、
 暗黒騎士の容態が突如急変した。
 バキッと音がしたかと思うと、鎧の継ぎ目が次々に割れていき、
 重装備の鎧が剝がれていく。
「ようやく効きよったか。
 我の技も使えるという事かな。」
 穂先を震わせ振動を相手の防具に送り込む破壊技。
 これが身体に伝わると身体がもたない筈だが、
 フルフェイスの鉄仮面が割れた時、その正体が明かされる。
「骸骨の騎士、スケルトンウォリアーか。
 輪廻に従い、成仏せい!」
 鋭い最後のひと突きは、骸骨の身体を粉々に打ち砕いていた。

 サリナ大司教とアークデーモンの一騎打ち。
 サリナの圧倒的なパワーに屈するかと思いきや、それは外れていた。
 アークデーモンから間合いを詰め、
 上から振り下ろすようなローキックを放つ。
 サリナの倍の身長はある悪魔からの直接攻撃は、重く鋭い。
 それが数回続いたかと思うと右拳のストレートパンチを
 ジャブのごとく連撃。
 本当に右腕1本の動きなのかと思わせる技に、
 サリナがたまらず後退した。
 このアークデーモン、どこで仕入れた知識なのか知らないけど、
 空手かキックボクシングの技を熟知しているわね。
 アークデーモンは後退したサリナを見て軽く挑発する。
「聖女であるそなたは柔術が得意だと聞くが、
 我にその技が簡単に使えるとは思わぬ事だ。」
 聖女であるこの私の身体に打撃を与え、
 尚且つ聖属性の気に触れても意に介さない上級悪魔がいるなんて。
「フ、フフ、これは神に感謝すべきかしらね。」
「なにぃ?」
 すると徐々に青白い闘気が湯気のように上がっていくのが
 肉眼で見えてくる。
 そして、ドゥッとアークデーモンの左脚に、
 サリナの鋭いローキック。
 先ほど攻撃を喰らっていた脚とは思えぬ強い打撃に、
 アークデーモンの膝が折れそうになった。
「馬鹿な!?きさまぁ!!」
 続けて放つストレートパンチをアークデーモンは両腕でブロック。
 しかし腕は腫れ、打撃のダメージをまともに受けていた。
 アークデーモンと同じ攻撃技で、格の違いを見せつける。
「私は柔術しか使えないと言った事は一度もありません。
 勝手な勘違いは困りますので、徹底して教えてあげましょう。」
 ブロックされても構わずにジャブを放ち続け、
 両腕のガードが緩くなったところに鳩尾を打つ。
 よろめき倒れそうなところを左拳で顎をアッパー。
 アークデーモンの身体を無理矢理起こして直立させる。
 そしてまた右拳のジャブ、右脚のローキックと、
 単調だが細身で小柄な女性とは思えない重い連撃に、
 アークデーモンの身体はボロボロだ。
 フィルに敗れた鬼女が凝視する。
 この娘といい、あの聖女といい、何なんだこの国の人間どもは。
「・・・凄まじいな
 ・・・まさか、早くもこれを使う事になるとは・・・。」
 アークデーモンは腰に帯剣していた長剣を鞘から抜いた。
 サリナの拳を弾き、右手で剣を構える。
「聖女の聖属性防壁を無効化させる長剣だ。
 私の纏っている服とセットの武具でな。」
 言いながら片手持ちを両手持ちに変え、ゆるりと構えた。
 サリナの連撃が止まったからか、
 アークデーモンの身体が徐々に回復していく。
 自己再生能力が高い。
 それを遠目で見ていたヴェスターが、訝し気な表情をする。
「あの剣は・・・まさか・・・。」
 フランベルジュのような大剣を大きく振りかぶり、
 サリナに向けて振りぬいた。
 見え見えな動きの剣戟など容易く躱せる。
 その躱せたという思い込みが、意外な展開を招く。
 ザン!と空を斬ったかのような勢いと共にサリナが血を流し、
 地に伏した。
 ・・・完璧に躱したはずなのに何故・・・!?
「終わりだ。」
 もう一度大きく振りぬこうとすると、
 突如割って入ったヴェスターの剣に弾かれ、
 アークデーモンが数歩引き下がる。
「フ、まさか堕天使の剣を弾き返す者がいようとはな。」
「その魔剣・・・どこで手に入れました?」
 ヴェスターの声に、いつもの陽気な声色は欠片として感じなかった。

 ヴェスターは問いながら間合いを詰めようとするが、
 アークデーモンの脚捌きも素早く、ある一定の距離を保ったままだ。
 おそらくはこの間合いがあの魔剣の最大距離。
「まさかこの魔剣を知っている者が人間界にいようとはな。
 これは魔界で作られた魔界に2本しか存在しない魔剣。
 貴様こそ、何故この魔剣の存在を知っている!?」
 アークデーモンが急に間合いを詰め、鋭く振りぬく。
 するとまたも一撃でヴェスターの鎧が裂け、血飛沫が舞い倒れた。
「父さん!?」
 そして短距離転移魔法を使い、
 シャディ、キャサリン、エル、イヴと次々に倒していく。
 それを見ていたケイトがカタカタと震えだした。
 堕天使の剣・・・何故あの悪魔が手にしているの!?
 フランソワはレグザと、ライガは暗黒騎士と対戦していて手が離せない。
 皆が倒れていってるっていうのに・・・!

 すると、今までの光景を全て見ていたにも関わらず、
 特に恐怖心も感じていないかのような三つ編みの美少女は、
 スタスタとアークデーモンに歩み寄っていった。
「フィル!」
「ケイトさん、いつものサポートお願いします。」
 ・・・フィルは、あれを見てもやる気なんだ。
 波のようにうねった形状の刃をしている魔剣の攻撃は、
 あの刃先から繰り出されるかまいたちにある。
 あの剣を封じるには父さんのアンチマジックしかないが、
 それを使わせる間もなく父さんを倒したあの悪魔の動きは侮れない。
 いつものサポートで足りるのか・・・
 とにかく今はフィルを信じるしかないわね。
「分かった。」
 そのケイトの声を合図にしたのか、
 フィルが縮地で一気にアークデーモンの傍に移動した。
 フィルの手にしているドラゴン・トゥースは短刀。
 長剣と比べて極端に短い為、
 間合いを詰めねば攻撃が届かないのは分かるが、
 無謀ではないのか。
 そう感じたのは束の間だった。
 懐深くもぐりこんだフィルは、間合いを詰めたまま連撃を繰り出す。
 アークデーモンは長剣の根本で受けるのが精一杯だ。
 先ほどのような大きく振りぬく余裕が無い。
 しかしアークデーモンはニヤリとしていた。
 所詮は人間。
 この機敏な動きがいつまでも続くわけがない。
 攻撃を受け続け、力尽きた時がチャンス。
「その動き、いつまでもつのかなぁ?」
 するとフィルはニコリと笑みを見せ
「その台詞、そのままお返ししますね。」
 と言った。
 言った直後、アークデーモンの手にしていた堕天使の剣が
 根本から折れ、地に刺さった。
「な、なにいぃぃぃぃ!?」
 そして素早く薙いだフィルの短刀は、
 剣を手にしていた両腕を斬り落とす。
「ギャアアアアア!
 な、何故だああああ!
 何故俺の剣が折れるうううう!」
 鬼女や、遠巻きに見ていた暗黒騎士、
 そしてレグザも呆然としていた。
 あれだけ優勢だったのに、何が起きたのだ!?
 しかし、これを見ていたケイトはため息一つ。
「やっぱ、悪魔って馬鹿だわ。
 あたしが解魔術師だって事、分かってたはずよね?」
 ケイトのサポート。
 これに全く気付かなかったのがアークデーモンの敗因。
 悪魔はガクリと膝をついた。
「・・・なにを、した?
 我の防具は、他の魔力を入り込ませない。
 貴様のハッキングすら無効化するはずだ。」
 この馬鹿悪魔、言わなきゃわかんないの?
「今もその力を防具から感じ取れる?」
 ケイトに言われ、ようやく気付いた。
 魔剣からも、防具からも、魔力を何一つ感じない。
 アークデーモンが愕然とした様子でケイトを見る。
「魔力を込める前の、初期状態にしたのよ。
 解魔術の1つでフォーマットというの。
 少しは勉強になったかしら?」
 ・・・・・。
 沈黙するアークデーモン。
 魔の理を根底から覆す解魔術と封魔術は、
 上級悪魔の武具すら容易く打ち破る。
 でもこれが出来たのは、
 長時間アークデーモンに攻撃し続けてくれたフィルのおかげ。
 フォーマットの欠点は時間がある程度かかる事だ。
 これがばれて術者が攻撃されると、
 フォーマットは簡単に中断されてしまう。
 やっぱりフィルは凄いわ。
 そのフィルが降ろした最後の一振りは、
 アークデーモンの首を斬り落としていた。
 それを見ていた暗黒騎士とレグザは、
 皆の視線がアークデーモンにいってたのをいいことに逃走。
「あーっ!逃げられますわー!」
 フランソワの声に、ケイトが放っておけと言いたげに手をブンブン振る。
「・・・宜しいんですの、お姉様?」
「アークデーモンの手下2人なんてどうでもいいわよ。
 それより倒れている皆を救助するわ。
 ギルを呼んできてもらえる?」
「はい、お姉様。」
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蟲毒の饗宴 第28話(1)

2025-05-14 21:09:56 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 あたしとフィルと父さんとシャディの4人は待機か。
 後からギルも再戦しにくるから、もう余裕だわね・・・ん?
 ・・・おかしい、チャリオットにはそれぞれ強者が乗っていた。
 フランソワが相手にしているレグザは、
 チャリオットに取り憑いていたオマケ。
 厄介だけどそれほどの存在ではない。
 ライガと対戦している暗黒騎士に比べれば劣っている。
「・・・フィル、気を付けて。
 もう一人敵がいるわ。」
「はい。」
 すると停止したチャリオットの一体から黒煙のようなものが噴き出て、
 人の形をとった。
 暗黒騎士のようなフォルムに手にしている剣まで煙で出来ている。
 それが突如、機敏に動き出した。
 煙の剣をフィルに向けて突くがフィルは寸でのところで躱す。
 しかし、ピッとフィルの服の右袖が斬れ、フィルとケイトは驚愕。
「フィル!」
 ケイトの声と同時にフィルが短刀で突くが、
 煙を相手にダメージを与えられない。
 こいつは・・・
「フィル、スモッグビースト(霧獣)だわ。
 物理攻撃が効きにくいから、あたしが・・・。」
「いえ、大丈夫です。」
 するとフィルの両手にある短刀ドラゴン・トゥースが光り、
 煙の騎士を蒸発させるかのように消し去った。
 それと同時にフィルに長剣で急襲してくる者がいる。
 素早い動きを身上とするフィルが躱せず、ギィンと短刀で受け流した。
 そして距離を取り敵の間合いから外れて対峙。
「なるほど、少しは出来るようね。
 スモッグビーストは無粋だったかしら。」
 額から伸びる2本の角、鬼女だ。
 向こうも二刀流なのか、長剣2本を手にしている。
「ケイトさん、離れてて下さい!」
 鬼女の連撃が続く。
 フィルの縮地に負けない動きで続く連撃は、
 常人なら一瞬で殺されてしまうだろう。
 しかし相手はフィル。
 その連撃の全てを受けきってみせた。
 鬼女が驚愕の表情を隠さず、
 一旦間合いを取り直して舌なめずりする。
 ニタリと、鬼女独特の笑みが妖しく恐ろしく感じさせ、
 周囲の雰囲気を冷ややかにしていく。
「凄いね、あんた。
 あたしの剣戟を受けきる奴なんて初めて見たよ。」
「鬼族が悪魔に肩入れですか?」
「あたしは強い奴が大好きなのさ。
 あのアークデーモンは異常に強い。
 だから従っているまでの事よ。」
 それを聞くと、フィルはクスッと軽く笑う。
「何がおかしいんだい?」
「あのアークデーモンは弱いです。
 そして貴女も弱い。」
 そう言われると、鬼女は高らかに笑い声を上げる。
「クックックッ、ずいぶん安い挑発してくれるじゃないか。」
 言いながら鬼女は、ようやく今までの戦いの内容を悟った。
 この女、体内の魔力を極力抑えて戦っている?
 馬鹿な、あれだけの動きが純粋な体力によるものだというの!?
 魔力を発動させず、あたしの剣戟全てを受けきったっていうの!?
 そして、普段は両手を下げて特に構えないフィルが、
 初めて剣先を鬼女に向けて構えを見せた。
「では次は、こちらから参ります。」
 言葉の直後、フィルの姿が消えた。
 頭上か!
 長剣で受けたかと思うと、
 真正面にフィルが立ち、鬼女の喉元を突く。
「クウッ!」
 紙一重で躱すと、フィルの剣が一瞬止まり、
 首を薙ぎ落とす様に直角に振りぬいてきた。
 鬼女はこれを身をそって躱し、バク転して離れようとする。
 しかし
「遅いです。」
 フィルはバク転した先に既に移動。
 縮地か!
 鬼女は防戦一方。
 もはや最初の勢いは欠片も無く、
 フィルの剣を受け止めるので精一杯になっていた。
 そしてついに鬼女の左手にしていた長剣が弾かれ、
 ガックリと膝をつく。
 鬼女の息が荒い。
 こ、こんな、長い時間剣戟を繰り出すなど・・・!
 鬼女はフィルを見て更に驚愕した。
 フィルは息切れなど全くしていない。
 まるで今ここに来たかのような素振りで、
 鬼女と間合いをとり対峙している。
 ・・・この女、化け物か!
 そしてフィルの最後の一振りは、
 鬼女の右手の長剣を呆気なく地に弾き落としていた。
「投降して下さい。
 そうすれば貴女の命は保証します。」
 フィルにそう言われると、鬼女はドカッと胡坐をかいて地に座る。
「・・・敗者の命は勝者のもんだ・・・好きにしな。」
 するとフィルはニコリと笑みを見せ、背を向ける。
「では、しばらくここで見学していて下さい。」
「はぁ?」
 拘束もしないつもりなのか、このフィルって娘は。
「アークデーモンがこちらに逃げてきたら、
 私とケイトさんで止めを刺します。」
 ・・・逃げる?
 あのアークデーモンが?
 そんなあり得ない事を前提に・・・!

 近くで戦っているアークデーモンとサリナの姿を見て、
 鬼女は一瞬で蒼白の表情と化していた。
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蟲毒の饗宴 第27話(3)

2025-05-13 20:09:24 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 チャリオット(魔戦車)。
 幅3m、奥行き10m、高さ3mの、巨大な動く大量殺戮生体戦車。
 前面に魔王アバドンのような巨大な顔を持ち、
 口からは威力の高い炎のブレス(吐息)を吐く。
 両目の魔眼は魅了の効果を持ち、
 レジスト(抵抗)出来ない者は即座に食い殺される。
 両側面に巨大な蟷螂のような腕を持ち、
 その切れ味はヤワな鎧を簡単に真っ二つ。
 巨大な車輪には13の呪紋が描かれ、
 低い階位の攻撃魔法を完全無効化。
 後部にある巨大な尾は、巨人族すら一薙ぎで打ち払う。
 そして背負っている御車台には、
 そのチャリオットを指揮する強者が乗っていた。

 だが呪文を詠唱するチャリオットなど、聞いた事がない。
 おそらくアークデーモンが乗っているあのチャリオットに、
 魔法使いレグザの魂が封入されているのだろう。
「ほんっとに最後の最後まで面倒くさい奴ね。」
 そのうえ・・・。
 後から出現した2体のチャリオットに乗っている者から感じる、
 凄まじい気迫と殺気。
 只者ではない。
 あのアークデーモンの側近なのだろう。
 そんな状況を見ても意に介さず、先手を打ってきたのはフランソワ。
「花魔術ストラングラーバイン。」
 地下から巨大な蔓が出現し、
 チャリオット3体を行動不能にしようと大蛇のごとく絡みつく。
 しかし蟷螂のような腕がそれらを悉く切り裂き、動きを維持していた。
「花魔術など、チャリオットの敵ではない!」
 しかしフランソワは切断された蔓を見てニコリと笑みを見せる。
「ストラングラーバインの生態をご存じないのかしら?
 蔓を切断した程度でどうにかなると思っているの?」
 次の瞬間、斬られた全ての蔓から勢いよく分岐して伸び始めた。
 切断した全ての蔓からだ。
 数が多すぎる。
 それらをまた斬ると、そこから更に蔓が枝状に伸び、
 数本の蔓を束ねてねじる形をとり、太い幹のようになった。
 チャリオットの口から炎のブレスが吐かれるが、
 幾重にも交差した蔓を焼くのみ。
 モタモタしているうちに、
 ストラングラーバインの本体が出来上がる。
「斬られる度に強固な幹を形成していく魔樹。
 チャリオットなど、敵にも成りえませんわよ。」
 蟷螂の腕で幹を切り刻もうとすると、蔓がそれを抑えつける。
 バキバキと激しい音と共に腕を引き千切った。
 更に再び伸びた蔓が今度はしっかりと絡みつき、
 そのまま蔓の力でチャリオットを圧し潰す。
 植物の力は尋常じゃないパワーを保持し続ける力がある。
 何日にも渡ってコンクリートをぶち破り芽を出すように。
 異世界の植物は何日もなんて日数をかけず、今この瞬間に力を出す。
 チャリオットに乗っていた3人がたまらず飛び降りると、
 それぞれの目の前に強者が待ち構えていた。
 アークデーモンが小刻みに震える。
 魔戦車3体をたった一人の人間の女が瞬殺だと!?
 ・・・この国は魔人の国だとでもいうのか!!
 すると正面から声を掛けられる。
「そろそろ始めても宜しいかしら?」
 ハッとして正面を見据えると、
 悪魔の血で青緑色に染まった道着を着た女性が立っていた。
 聖女か!・・・凄まじい聖女がいるものよな。
 よもやグレーターデーモンを素手で殺す聖女が実在するとは。
 ・・・やはりここは魔人の国か。
 アークデーモンは震える身体を落ち着かせ、ニヤリと妖しく笑う。
 そして手にしていた長剣を腰の鞘に納刀し、両の拳を構える。
 サリナがそれを見て、ほおと少し感心したような声をあげた。
「我が体術など知らぬとお思いだったか?
 見せてやろう、対聖女聖騎士用に生み出された魔族の技をな。」
 アークデーモンから放たれる殺気と魔素は膨大な量だ。
 常人ならそれだけで気絶するであろう状況に、
 サリナはフフと軽く笑う。
「ケイト、フィル、邪魔しないでよ。」
 ・・・なんであたしの周りって戦闘狂しかいないのよ。
 まあいいけど。
「邪魔しないけど、逃げ出した時は手を出すわよ。」

 そしてアークデーモンの側近と思われる二人のうちの一人は、
 漆黒の全身鎧を装備していた。
 まるで暗黒騎士のアガンみたいですねえ。
 ヴェスターが前に出ようとした時、巨僧ライガが先に歩み出る。
「先ずは拙僧が。
 ヴェスター殿は拙僧が負けた時にお願い致す。」
 巨大な錫杖の先端を騎士に向け構える。
 先端には槍の穂先が付いており、
 もはや巨大な槍であるが変わった穂先をしていた。
 真っすぐ伸びた刃と、横に片側だけ少し付いた刃。
 突き、薙ぎ、引きの攻撃を得意とする片鎌槍。
 加えて、ライガの修行僧としての棒術が、
 果たしてこの騎士に通用するか。
 ヴェスターはライガの意思を尊重し、
 ゆっくりと後方に下がった。

 最後の一体は黒いフードを被って顔の見えない魔法使い。
 レグザの魂がチャリオットから抜け出てきたのですね。
 大方、チャリオットが負けた時の為に用意していた人形に
 受肉したといったところでしょうか。
 受肉した人形やアストラルボディなど、
 私のもう一つの鞭では無力だと、たっぷり教えて差し上げますわ。
 花魔術師フランソワが、薔薇の鞭をしまい素手の状態で前に出、
 手を軽く開いた状態で構える。
「お姉様の仕事を散々邪魔した罪を償ってもらいますわ。」

「あたしたちは何かする事あるの?」
 エルの声にケイトは遠くを指さす。
「残っている雑魚悪魔の始末をお願い。
 ・・・競争してたんでしょ?」
 そう言われ、イヴがウッと嫌な顔をする。
「イヴ、どしたの?」
「キャサリンのあの技、何?
 あれ、ぜえったい反則でしょ!!」
 あー、また仮面と服とレプリカの鞭用意してたのねー。
 まあでも
「いつもの技だよ。」
「いつもあんな集団戦みたいなこと一人でしてるの!?」
「そうそう、エルも知ってる事よ。」
 イヴはギロリとエルを睨むが当人は気にする様子ゼロ。
 更に
「だから言ってるでしょ、イヴは絶対負けるって。」
 エルにダメ出しのように言われ、
 イヴがムッとしながら雑魚悪魔の群れに向かう。
「なんの為に投擲訓練したのよー!」
「投擲は暗殺の基本でしょ。
 愚痴ってないで行くわよ。」
「・・・はいはい。」
 対悪魔戦をしている中で、
 ここだけ緊張感が欠片も見えなかった。
コメント
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