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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

小説やゲームプレイ記録などを投稿します。

禁断の果実 第4話

2025-01-17 21:02:22 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ1<禁断の果実>完

 うっとうしい事一万倍とは、
 正にこの時の状況を指すのかもしれない。
 ケイトは、本日何度目か数えるのも嫌になっていたが
 『やれやれ』という思いと『ハァ』と出るため息を
 同時に出すような仕草を見せていた。
 目の前に突如として現われた暗殺者共に。
 朝から黒装束に身を包んだ者たちに取り囲まれるのって、
 気分害するわね。
 ケイトは、自分も黒のローブをまとっているくせに、
 その事をあからさまに無視する様な思いを抱いていた。
 まぁ、もっともケイトの着ているローブは、
 黒というよりは濃い赤みがかった色をしている。
 炎を象徴するかのような美しい装飾が施されている分、
 目前の黒装束よりは映えていた。
「汝に危害を加えるつもりはない。
 おとなしく渡してはもらえないか。」
 彼等のうちの一人が、
 慎重さに余念のない台詞と声色を使って切り出した。
 ウェストブルッグ家の長女の繰り出す魔法の恐怖は、
 ここの国民なら誰でも熟知している。
 事実、ケイトは王国内第2位の魔法使いとしての実力を
 有しているのだ。
 だがケイトから言わせれば、
 敵がこの様な対応でくるのは至極当然のような、
 目に見えたものであった。
 そんなものだから、たとえ敵が如何なる対応でこようが、
 それに対する応えは同じであった。
「あなたたち、ウェストブルッグ家を敵にまわすつもり?」
 脅しのような台詞であったが、
 どちらかといえば姑のような口調を感じた声色だった。
 あまり威圧感がない。
「止むをえんか。」
 10人のうちの一人が、意を決した声を放った。
 それとほぼ同時に、他のアサッシン9人が、
 ケイトの回りを円を描くように動き出した。
 集団による殺人闘法を得意とするらしい。
 しかし、それでもケイトの表情が恐怖に彩られる事はなかった。
 余程、こういう死と隣り合せの雰囲気には場馴れしてると見える。
 そして、ケイトが右手を腰にあてたその時、
「うぉっ!?」
 と、アサッシンたちが驚き、
 あろうことか10人全員が転倒したのである。
 見れば、10人とも両足首のところを、
 鋭い刃物のようなもので斬られた後があった。
 足首を切断された訳ではないが、
 動脈を斬られたのか噴き出る血が止まらない。
 ケイトは静かにその様子を見、
 そしてノンビリとした歩調で現われた美少女の存在を、
 やむなく認める事にした。
「お姉ちゃん、急いでるんでしょお?
 お客さん方の相手は、あたしに任せていいよぉ。」
 日向で昼寝している猫のごとくノンビリとした仕草に、
 ノホホンとしたお気楽な表情。
 そして、加えて年中眠たそうな声色。
 少し明るめの青白いワンピースに映えた美少女キャサリンは、
 まるで今ベッドから起きてきたかのような印象を周りに与えていた。
 まさか、この美少女が敵に傷を与えた張本人である事などは、
 この表情と仕草からは予測がつくまい。
 だが、ケイトにとってはそんな事はどうでもよかった。
 むしろ、
「あんたねぇ!?
 なんで鍵の開け方ぐらい聞いておかなかったのよ!」
 ごもっともな台詞であった。
 そして、これが暗殺者10人を目前に語る非凡な朝の光景である。
 だが、それに返ってきた声は、今の質問に無視するかのような、
 それでいながら充分に鋭いツッコミであった。
「敵前でそんな事暴露しちゃっていいのぉ。」
 その声に、ケイトが踵を返す。
「キャサリンがこいつらの相手するんでしょ?
 いいこと、全員の息の根止めなきゃ許さないからね!!」
 しかし、そんな台詞でもキャサリンの応えはホエホエであった。
「うん、わかったぁ。
 全員、共同墓地に埋めとくねぇ。」
 ケイトは、その声を確認すると、
「クロコダイルの餌にでもしたらぁ?」
 と、吐き捨てるように台詞を投げかけて、
 さっさと王城へ向かって行ってしまった。
 暗殺者共はそれを追いたかったが、出来なかった。
 足首を斬られていては止むを得まい。
 だが、幸いにも目の前の美少女を
 殺すぐらいの気力は残っている。
 果たしてその力が、吉と出るか凶と出るか。
 当のキャサリンは、両手で複雑な印を結びはじめた。
 精霊使い特有のしなやかな手の動きに合わせて、
 徐々に風が強くなっていく。
 それにしても奇妙な光景だ。
 キャサリンの起こした風の勢いは、決して弱くはない。
 にもかかわらず、路上の小石や少量の砂は
 その風に煽られることなく、平静を保っている。
 風は更に強く吹きはじめた。
 暗殺者10人は、
 この風がこれ以上強くなる前に決着をつけたいのか、
 一斉にキャサリンめがけて飛び掛かってきた。
 殺人を意とも介さぬ、冷酷な集団が。

 王城前広場からは、
 大きなストリートが3つも伸びている。
 1つは、ロード・ストリート。
 この通りは、名を“君主の道”と冠しているが、
 その実はただのメイン・ストリートである。
 左右様々な商店街、酒場等が連ねた通りを抜けると、
 目の前に王城が映る景色に出る事から、
 こんな名が付けられている。
 ちなみに3つの通りの中では一番幅が広い通りで、
 たとえ馬車が行き交っても、
 まだ歩行者のスペースに充分余裕が感じられる程だ。
 2つ目は、リビング・ストリート。
 王国内に住居を構える、
 国民の家が連ねる住宅街の通りである。
 住宅街とは言っても、一般住民区域、魔法街区域、
 共同施設区域、護衛団施設区域、貿易区域等といった
 様々な区域が存在する場所で、王城、寺院の次に
 重要なストリートと言われている。
 ただ、これだけ多くの施設が存在する故か、
 闇商法を行っている場所でもあるというのは、
 王国内の者にとっては皮肉な話だ。
 そして最後の3つ目が、
 今、ドールとイヴの歩いているこの通り、
 ソルドバージュ・テンプル・ストリートである。
 このストリートの名である
 “ソルドバージュ・テンプル”とは、
 このシャンテ=ムーン大陸最大の寺院の名を指している。
 王城前広場からこの通りを抜ければ、
 迷わずソルドバージュ寺院に着くのでこんな名が付いていた。
 寺院の方は、大陸最大と銘打つだけあって、
 王城より一回り小さい程度の巨大さである。
「話には聞いていたけど、壮大なスケールね。」
 イヴが素直な感想を口にしていた。
 ここも王城前と同様に広場があり、
 その場で述べた感想であった。
 もっとも、広場自体は王城前ほどの広さではないが。
 広場を見渡すと、
 城下町から外に出る為の北門と東門に通じる道が、
 寺院の両端から広げた腕のように伸びていた。
 他は、今来た通りを除けば道は無く、
 様々な店が軒を連ねている。
 女性専門衣服店“ミ・レミア”。
 インテリア小物店“ソファーテ”。
 家庭用園芸店“ポート”。
 そして、目的の喫茶店“アリサ”もあった。
「こちらです。」
 ドールが差し示した。
 その喫茶店は、レンガ造りの建築によるものだった。
 赤茶色をベースにした喫茶店の周りには、
 観葉植物が美しく生えていた。
 鮮やかな緑色がレンガ造りの喫茶店に
 見事なほどに似合っている。
「素敵なお店ね。
 気に入ったわ。」
「きっと、ここのマスターの事も
 気に入ると思いますよ。」
 ドールは、“営業中”と書かれた
 コーヒー・マークの札の掛かっているドアを
 開けて中に入った。
 香り豊かなコーヒーや、軽食メニューの
 焼き立てのトーストのいい臭いが鼻を刺激する。
 どうやら、喫茶店“アリサ”は満員のようであった。
 空いている席は、
 カウンターにわずかに3つ残すのみである。
「いらっしゃいませ。」
 女性の店員の声が聞こえたが、
 さて、どうしよう。
 聞かれてはまずいような話をするには、
 最悪の状況と言えた。
 店にとっては実に皮肉な話である。
 だが、その女性の店員の次の台詞は、
 ドールとイヴにとっては実に都合のいいものであった。
「マスターが奥の小部屋でお待ちしてます。」
 それは、ドールが来る事をあらかじめ
 予知していたということなのだろう。
「ドールさん、アリサさんって
 フォーチュンテラーなんですか?」
「いえ、ハイ・プリーステスです。
 おそらくは、彼女は
 神からのお告げを得たのだと思います。」
 フォーチュンテラーとは先見の出来る予言者の事で、
 ハイ・プリーステスとは高レベルな神聖魔法を
 行使出来る尼僧の事である。
 ちなみに、フォーチュンテラーはガーディア王国内には
 わずかに3人しか存在せず、
 ハイ・プリーステスにいたっては7人のみとされている。
 つまり、どちらにせよ並みな実力者ではないのだ。
 ドールは『信用できる』と語っていた。
 今はそれを信じるしかない。
「じゃ、入りましょう。」
 ドールが声を掛けると、イヴは静かに頷いた。
 カウンターの裏へとまわり、
 “従業員以外立入禁止”
 と書かれた札の掛かっているドアを開け、中へと入る。
 そして、その後すぐに、
 モーニング・セットを食べ終えた一人の優男が、
 席を立っていた。
「ありがとうございましたー。」
 店員の明るい声が、店内に軽く木霊した。
 優男は、その声に合わせるかのように、
 左手に持っていた小さなハープの弦を、
 一本軽く指で弾いていた。
 無意識に起こる癖なのだろうか。
 不思議と弦の音は響かなかった。
「さて、仕事に行くとしますか。」
 なにげにつぶやいた一言が、
 店員の耳に届いたのか、
「頑張って下さいね。」
 と、励ましの言葉を頂いてしまった。
 優男はニッコリ笑って見せ、
「どうも。」
 と言うと、外に出て店の裏手へと足を運ばせた。
 これから仕事をする為に。

 カウンター奥にあった部屋は、
 従業員の更衣室も兼ねた休憩部屋であった。
 従業員の全員が女性な為か、
 この部屋の美しさの基調は、
 実に暖かで且つ穏やかであった。
 着替えた服を収納するロッカーは木製で、
 それには暖かみを感じさせる草花の彫刻で飾られていた。
 テーブルと椅子もまた木目調が美しく、
 レンガ造りの建築物に見事にマッチしていた。
 窓は、店の裏手に面した庭を映しており、
 空調をしている程度に、申し訳なさそうに少しだけ開いている。
 レースのカーテンが、緩やかな風に揺れていた。
 そんな女の子の部屋の扉を、ドールは軽くノックした。
「どうぞ、開いてますよ。」
 可愛らしい声がノックに応えた。
「失礼します。」
 丁寧に入ったドールを先頭に、イヴも後から入る。
 そこで、まずイヴが立ち止まってしまった。
 その場にいた美少女を見て。

 淡いピンクと白を基調にしたワンピースに
 エプロンを着たその様は、実に可愛らしかった。
 黒い瞳には深い青の色が入っており、
 他の人種との混血のようであったが、
 色白の肌にはこれ以上ない程に似合っていた。
「二人共、どうぞ座って。
 今、美味しいコーヒー入れますから。」
 そして、何よりもこの声。
 もし、この美少女がこの声で男性に言い寄ったとしたら、
 たとえどんな男性であろうと骨抜きになるに違いない。
「そちらのドールちゃんのお供の方も、どうぞ座って下さい。」
「・・・あ、は、はい。」
 声を掛けられて、ようやく我に返ったイヴであった。
 同じ女性同士であるというのに、
 この美少女と一緒にいると、
 こちらの気がおかしくなってしまう。
 イヴが半ばボーッとしながら席に座った時には、
 コーヒーは既にテーブルに用意されていた。
 だが、こんな美少女と一緒にいては、
 コーヒーはあっても無きに等しい状況である。
 もはやそんな事などどうでも良かった。
 イヴは、ボーッとなりかけていた頭を必死に立て直すと、
 キャサリンって名乗っていた美少女も、
 あのホエホエがなけりゃ完璧なのに、と思っていた。
「お待ちになっていたと、
 従業員の方から聞きましたが・・・。」
 早速、ドールが話を切り出した。
 どうやら、イヴのようにボーッとはなっていない様子である。
 人形故にと言うより、普段から顔見知りだからだろう。
「ええ、でもその前に、
 お互い自己紹介といきたいわね。」
 と、ここの美少女店長は、
 可愛い大きな目でイヴを見た。
 思わずイヴが焦りを見せる。
「あ、あの・・・私、イヴと言います。」
「私はアリサ、よろしくね。
 ついでに言うなら、ケイトとは良き親友なの。」
 その一言で、ドールが顔見知りだという理由は
 ハッキリした。
 もちろん、『信用出来る』と語っていた事も。
「あなたが、“禁断の果実の種”の持ち主なのね。」
「ハイ・・・。」
 母親のような優しい声色でのアリサの問いに、
 無垢な子供のように応えるイヴであった。
 イヴは素直に感じていた。
 如何なる悪人でも、彼女にこのように問われては、
 必ず全てを暴露するだろうと。
 彼女の前で、隠し事は不可能だと。
「禁断の果実の種?」
 疑問符をつけたのはドールの声だ。
「ええ、その名の通りの、
 この世にあってはならない禁断の種。
 その種から生まれた果実を食した者は、
 無敵の破壊神になるわ。
 古代の記録を残した書物のうちの1つ“壊魔の書”に、
 3つの王国を滅したと記載されてるの。」
「その後、その果実と破壊神はどうしたのですか?」
「残りの果実は全て木からもぎ取られて行方不明になり、
 木は魔法で抹消されたそうよ。
 破壊神については、
 どうやって殺したとかいう記録は
 残念だけど詳しくは載ってないの。
 ただ、薬物で殺したとだけしかね。」
「・・・。」
 ドールは沈黙に入った。
 アリサが一息ついてコーヒーを口にしたところで、
 ドールも少し飲んだ。
 どうやら、人形でも食する事は出来るようである。
 味覚をも備えているのかもしれない。
「私の神のお告げが確かなら、
 その種はこの王国にとって災いをもたらすもの。
 至急、処分しなければならないわ。でも・・・。」
「でも?」
「その種・・・処分できるかしら?」
 アリサの、実に奇妙な疑問であった。
 果実の種なら、燃やすなりなんなりと
 出来そうに思えるのだが。
 しかし、そんな奇妙な疑問の声が上がっても、
 ドールとイヴの表情は真剣そのものであった。
 なぜなら、ここは剣と魔法の世界である。
 鉄より硬い果実の種があっても、何ら不思議ではない。

 遥か北に位置する大陸“コース=ト”には、
 マイナス40℃の極寒にも耐える“冷華”が生えている。
 ちなみに、この植物の種は絶対零度にも耐える
 特別な殻を有しているという。
 熱帯雨林の多い南方の大陸“パナマ=ラマ”に存在する、
 “メイキング・ロープ”と呼ばれる植物の種は、
 水たまりに落ちた瞬間、約10mも長く伸びて急速成長する。
 ツタに属する植物らしい。
 こんな風に、様々な植物が存在する世界である。
 たとえ、燃えない種が存在したとしても奇妙な事はないのだ。
 そして、この“禁断の果実の種の処分”こそが、
 ケイトの受けた仕事の依頼なのである。

 アリサが疑問に思っているという事は、
 この種の処分方法は、
 アリサの信仰する神には分からなかったのだろうか。
「神に問いかけてみましたか?」
 ドールの、当然のような問いであった。
「えぇ、問うてみました。
 が、種を破滅するには、
 3つの品を錬金術にて調合させた特殊な薬品が
 必要なようです。」
 錬金術のエキスパートなら、
 ウェストブルッグ家には適任の人物が一人いる。
 術を行使する者についての問題はないだろう。
 それよりも問題なのは・・・。
「その3つの品とは何なのですか?」
 イヴが、ようやく口を開いての問いであった。
 なるべく、アリサとは目を合わせないように努力している。
 ある意味では失礼かもしれないが、
 その美しさに惚けてしまうよりはいいのかもしれない。
「1つは、寺院にて清められた聖水。
 これは簡単に入手可能です。
 2つは、ブレッグと呼ばれる真紅の花。
 これは高山植物の一種ですが、
 現在数が品薄しており、入手は困難かと思われます。
 そして、最後の3つは・・・。」
「フォルターっていう麻薬ですよ。」
 先程までは気配の無かった裏庭から、
 陽気な優男の声が聞こえた。
「貴様、いつの間に・・・!」
 イヴが、驚愕した表情を露に席を立った。
 もう、この街にたどり着いたの?
 とでも言いたげな声を上げて。
 その男の出で立ちは、
 実にラフなスタイルをとっていた。
 左手に持つ小さなハープが大きく見える程に、
 背負っている革袋ですら小さめであった。
 一見ローブに見える服は、
 どうやらソフト・レザーという柔らかめの革鎧らしい。
 そして、その服の上に見える様相は、
 ニコニコと陽気に笑う優男そのものであった。
 だが、そんな優しげな表情の男に対して見るイヴの瞳は、
 恐怖の相となっていた。
「あの方は何者ですか?」
 裏庭に現われた異性の存在に対して、
 2人は悲鳴も上げずに冷静に見据えていた。
 その中での落ち着いたドールの声に
 イヴがか弱き小鳥の声で語る。
「フォルター男爵の側近の1人。
 デッド・シンフォニーのルクターです。」
 イヴの声に、ルクターと呼ばれた男は
 ニッコリと笑みを浮かべた。
 そして、ルクターはハープの弦を1本だけ、
 軽く指で弾いた。
 すると、先程の店員の
 『ありがとうございました』
 という声が、裏庭に小さく響いた。
「これは“複製の弦”っていいます。
 面白いでしょ?
 イヴさん、素直に種を渡してくれるなら、
 他の弦は弾かないであげますよ。」
 優しげな、暖かな声での脅迫であった。
 だが、そんなルクターの声に呼応するかのような
 優しげな声は、恐怖という言語を知らない、
 あどけない美少女の声であった。
「私は是非、他の弦の調べを
 耳にしてみたいですわ。」
 あくまでも丁寧な、
 そしてはっきりとした口調で
 人形娘ドールは語っていた。
 それは、ルクターに対する
 戦線布告のようであった。

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禁断の果実 第3話

2025-01-16 20:42:13 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ1<禁断の果実>完

 時が経つにつれて、
 ようやく日差しが暖かく感じられるようになると、
 王城前広場は次第に人の姿が多く見えてくる。
 巨大な公園をイメージさせるこの王城前広場は、
 中央に“水瓶を抱える美女”と題された像を中心に噴水を構えた、
 美しい広場として非常に名高い。
 更に広場内には、様々な自然施設がある。
 子供たちの遊び場として設けられた“トバの芝生”は、
 多種の昆虫群が嫌う植物で出来ており、
 その植物自身かなりの生命力が高い事から、
 正に芝生には適応な植物といえた。
 故に、たとえそこで寝そべっても、
 奇妙な害虫等に冒される心配はない。
 広場のいたるところに植えられた“アラグの木”は、
 防風林としての役目だけでなく夜の公園を美しく彩ってくれる。
 この木の実は夜になると、
 ボウと、淡く優しく輝く夜光性の実で、
 主に冬に実が多くなるという。
 その為か、この木は天然のクリスマス・ツリーとまで呼ばれており、
 国民にとても親しまれている。

 そんな、美しく優しい広場の一角で、異様な空気が支配していた。
 そこでは、1人の女性が5人の男性に囲まれていた。
 その者たちの出で立ちは、
 囲まれている女性も囲んでいる男性も全く同様の軽装さである事から、
 同業者のように思える。
 男性陣の方は、全員がダガー(短刀)を手にしていた。
「ったく、しつこいわね。」
 囲まれていた女性が、周りに吐き捨てるように言った。
「いいかげん観念しな。
 あんたがあの“種”を手に入れてきた事が不運だったんだよ。」
 5人のうちの1人が奇妙な事を語った。
「さあ、さっさと“種”を出しな。
 そうすりゃ、また元の鞘に収まるってもんよ。
 ギルドとしても腕ききのアンタを失いたくはないんでな。」
 やはり同業者のようであった。
 ギルドとは、おそらく盗賊ギルドの事だろう。

 ギルドとは組合の様なもので、
 種類は職業の数だけあると言われている。
 当然の様に、
 こういった事業制度は裏社会でも古くから確立されており、
 スリや強盗等の盗賊共でも、
 盗賊ギルドと呼ばれる組合が存在するのだ。
 内容は鍵の外し方や罠の仕掛け方等の初歩的な内容の教育から、
 証拠隠滅、暗殺方法のテクニックといった上級レベルな教育、
 そして盗みなどを犯した者たちの保護等と、
 実に様々な悪徳事業を展開している。

 事を荒立てたくないのか、男は落ち着いた口調で語っていた。
 しかし、それでも返ってきた女の声は冷たかった。
「おとといきな。」
「このアマァ、下手に出りゃぁいい気になりやがって。
 殺せぇ!」
 5人のうちのリーダーらしい男が叫んだ。
 彼等の手に持つダガーが、血に飢えて光る。
 これに対して彼女は、
 腰に帯剣していたショート・ソード(短剣)を抜き、
 返り打ちにしてくれようと構えた。
 が、その時、
「か、体が・・・!?」
 彼女の体が、剣を構えた瞬間に硬直してしまった。
 今になって気付いたが、彼等5人の背後に1人、
 影のような漆黒のローブをまとった者がいた。
 魔法使いだろう。
 おそらくホールド(固定化)の呪文。
「くっ、卑怯な・・・!」
「卑怯?
 いいや、これが戦闘の常識よ。」
 男はダガーを持つ手に力を入れた。
「死ねぇ!!」
 正に絶対絶命と思われる場面であった。
 しかし、その時、
「グアッ!?」
 と、急に男が呻いた。
 いや、その男だけではない。他の4人も。
 そして、漆黒のローブをまとった魔法使いまでもが、
 呻き、苦しんでいた。
 硬直して動けなくなってはいるが、
 先程魔術師が発動させた魔法と比べると雲泥の差がある。
 女性は硬直しただけであった。
 だが、6人は硬直して尚且つ苦しんでいる。
 その場に現われたのは、
 小柄でスリムな美少女であった。
 ビロードのサテン・ドレスを着ていたその美少女は、
 これから買い物なのか左手に少し大きめの篭を持っていた。
 愛らしい美少女の、長くて美しい金髪が初秋の風に揺れている。
 やって来た方角は、魔法街であった。
 一度に6人もの人間を硬直させ、苦しめたのはこの者・・・
 いや、この美少女の仕業なのか。
「申し訳ないですが、その方は私どもの客人です。
 危害を加えるつもりでしたら、まず私がお相手致しますわ。」
 その美少女は、硬直させた6人の人間に対して、
 あくまでも丁寧に語った。
 そして、硬直している女性のもとへ近寄る。
「今、その呪文解いてさしあげます。」
 美少女が、硬直している女性へ優しく声をかけると、
 可愛い手を女性に向けて軽く指をパチンと鳴らした。
 すると、美女は一瞬体をふらつかせたが、
 元どおり自由の空間を取り戻す事ができたのである。
 呪文すら唱えず、
 一瞬にしてこれらの行為をたやすく行使できるのは、
 広大な王国内といえどほんの一握りしかいない。
「ドール・・・!!!」
 6人のうちの魔術師が、
 驚嘆の意をこめて声を出した。
 ウェストブルッグ家の人形娘は、
 悪人側でも有名人であった。
 魔術師のその声に、他の5人も共感する。
「ま、待ってくれ。
 あんたのとこの客だなんて知らなかったんだ。
 本当だ!!!」
 先程までは威勢のよかったリーダーが
 必死になって弁明しだした。
 ウェストブルッグ家を敵に回した者の末路は、
 闇の世界の者にとっては常識中の常識である。
「では、こちらの方を狙った理由をお教え願えますか?」
「そ、それは・・・。」
「フォルター男爵からの依頼ね。」
 おそるおそる語ろうとしていた
 リーダーの声に合わせるかのように、
 戒めを解いてもらった美女、イヴが淡々と語った。
 その声に、ドールはイヴがかなり以前から
 その人物に付け狙われていたのだろうと確信していた。
「フォルター男爵とは・・・?」
「あなた方はかかわらない方がいいわ。」
「そうはいきません。
 あなたは魔術探偵の大切な客人です。
 もしもの事があっては、ケイト様の顔が立ちません。」
 ドールのこの台詞に、
 意思の強い瞳を感じたイヴであった。
 この美少女が人形である事など、
 誰が信じられるだろう。
 イヴは『ハァ』と軽く諦めのため息をつくと、
「話す前に、こいつらどうにかしない?」
 と、とりあえず邪魔者6人の始末を優先願った。
「そうですわね。」
 ドールも同意すると、
 ドールは美しい手を軽く振って、
 人差し指で護衛団本部のある城門を指した。
 すると硬直していた6人は、
 その指先に従うかのごとく、
 ゆっくりと城門へ向けて歩き出したのである。
 相手の動きを奪い、尚且つ操る魔術。
 これがドールの魔術であった。
「凄いわね。
 魔術師を含む6人をここまで見事に操れるなんて。」
 イヴの正直な声が、広場内に小さなベルのごとく鳴った。
 ドールは目線をイヴに移し、
 こちらも正直に、そして丁寧に語る。
「私がドールと呼ばれている理由は2つあるんです。
 1つは、私が人形であるという事。
 そして2つ目は、私が相手を人形のように操れるという事。
 ですから、私の事を知っている冒険者さんなどは、
 “人形使いのドール”と語っている方もいますわ。」
「なるほどねー。」
 イヴは、納得したような、感心したような声色で語った。
 だがイヴは、この“人形使い”の言葉の意に、
 恐怖の念までもがこめられたもう1つの語意がある事などは、
 当然ながら知る由もない。
 そして、それ故に人形娘の製造技術を闇に封じた事も・・・。
「では、美味しいコーヒーでも飲みながら、
 ゆっくりお話しませんか。」
 ドールのこの突然の声に、イヴが目を丸くした。
 まさか、人形娘からお茶のお誘いを受けようとは。
 イヴはクスッと笑った。
 小気味よい笑みであった。
「いいわね。
 どこか美味しいお店知ってる?」
 本来なら、敵に悟られない為にも
 このお誘いは断わるべきであった。
 だが、それができなかったのは、
 先程のドールの強い瞳を感じたのと、
 なによりこの美少女が人形であるという事を忘れさせる程の、
 人の暖かさを感じていたからだろう。
 そしてドールもまた、
 イヴの気のいい返事に丁寧に応える。
「ソルドバージュ寺院通りへ行きましょう。
 寺院の向かいに、アリサさんっていう
 美しい女性が経営してらっしゃる喫茶店があるんですよ。
 もちろん、信頼できる方です。」
「じゃ、そこにしましょう。」
 イヴの声に、反論の色は少しとしてなかった。
 それはドールの事を完全に信頼しきっている、
 安堵の声であった。

 ケイトが自宅に帰り、
 魔術探偵用の玄関から中に入ると、
 奇麗にかたずけられた応接室のテーブル上にある、
 奇妙な鉄製の箱が目に入った。
「なんだろ?」
 悪趣味なプレゼント・ケースだなと思いつつもその箱に近寄ると、
 箱の傍に羊皮紙も置かれているのに気付いた。
 それには、以下のように書かれていた。

『イヴっていう人がこれ置いていってね。
 中にある“もの”をブッ壊してほしいっていう依頼だったんだけど、
 鍵の開け方聞くの忘れちゃったー。
 ゴメンネ、お姉ちゃん。ガンバッテネー!
 とっても可愛いキャサリンより♡』

 なるほど、見れば確かに箱にはシッカリと
 鍵がかけられているではないか。
 体中の血管全てが思いきりよく切れたのを感じたケイトは、
 一言、
「あの、万年ノウ天気娘はー!!!」
 と、元気に吠えていた。
 そして、突如ガックリと肩を落とすと、
「今日は大凶なんだわ、きっと。」
 と、自分を慰めるように語っているケイトの姿がそこにあった。
 もちろんのこと、
 それが祖母ベレッタの本日の占いの結果の一端であり、
 その災いの基が、この鉄製の箱の中味であるという事などは、
 今の段階では予測不可能であった。

 それから何十分過ぎただろう。
 箱には、様々な開封の呪文を試みたが、
 一向に箱が開く気配はなかった。
 アンロック(開封)の呪文はもちろん、
 東方の地から伝わったというタオ(呪符魔術)までをも
 行使してみたのに開かないなんて。
「仕方ない。
 アイデンティファイ(鑑定魔法)で鍵の鑑定でもするか。」
 一向に箱が開かなくても、
 自暴自棄にならないところは
 さすがに22歳のお姉さんであった。
 100件以上の依頼をこなした実績は伊達ではない。
 魔力を自らの目に集中させ、鍵をみつめた。
 その結果、出た答えとは
「え?
 これって上位古代語の魔法で鍵かけてるの?」
 鑑定の結果は、古代に使われていた
 上位言語で魔鍵をかけたものであることが分かった。
 これなら、たしか以前にアルバイトで
 古代語呪文の解読をした中にあったのを覚えている。
「よし、箱持っていって向こうで開けよう。」
 向こうとは、城内にある王宮魔法陣の事らしい。
 先程出向いてきたばかりだったが、
 今度はこちらの仕事の用件である。
 グチッていては仕事は成り立たない。
 それに・・・。
「もう一回、同じ場所に行かなきゃいけないなんて・・・。」
 再びバサッとローブをまとい、玄関を開ける。
 そして一言語る声は『やれやれ』とでも言いたげな、
 気の抜けた声であった。
「やっぱり今日は大凶ね。」
 バタン!
 と、ちょっと強めに玄関が閉まった。
 とりあえず箱を開ける算段が見つかったので、
 怒りはこの程度で済んでいるようである。
 箱は大きめの皮袋に入れていた。
 その頃、とある場所では、
「ちぇっ、箱開ける手段見つけちゃったか。
 つまんないなー。」
 という、ホエホエな声が、
 ケイトの耳には聞こえる事のない場所で出ていた。
 そしてケイトと言えば・・・。
「申し訳ないが、その皮袋の中味を渡してもらえないか?」
 玄関を出て数分のところで、
 黒づくめの衣装をまとった者たち10人に囲まれていた。
『アサッシン(暗殺者)たちか。』
 プロの暗殺者たちに囲まれ、
 ケイトは声に出さずに疲れた思いにふけっていた。
 そして、今日が大凶であるという事を、
 改めて思い知らされていたケイトであった。
 だが、そんな中、
 ケイトとアサッシンたちの聞こえない場所で、
「あっ、面白そう。
 あたし、お邪魔してこよーっと。」
 という、常識外れな台詞が風に揺れていた。
 その声は、アサッシンたちにとっての、
 死の予告の声であった。

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禁断の果実 第2話

2025-01-15 20:53:57 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ1<禁断の果実>完

 ケイトが家を飛び出した後、
 家では祖母のベレッタが外で打ち水をしていた。
 表に3つも玄関があるビッグなホームは、
 ベレッタがこれをやるとかなり時間がかかる。
 だが、この打ち水は
 ベレッタが好きでやっている事であった。
 左手に小さめのバケツを持ち、
 右手で水を撒いているその様は、
 決してただ単に水を撒いているわけではない。
 撒かれる水の、地に落ちたその水滴の具合で、
 本日の我が家の占いをしているのである。
 その占いの確率は実に9割超で、
 この“水華の占術”は雨や雪が降らない限りは
 毎日の様に行われていた。
 ちなみにベレッタは
 他の占術も行使できる占術の天才で、
 普段雨の降らない日は王城前広場で占いをして
 自分の小遣いを稼いでいるほどである。
 もっとも、小遣いとは言っても並みな額ではないが。
 その、水華の占術で見たベレッタの今日の占いは、
「やれやれ、大凶かい。」
 であった。

 それから少し後。
 クセッ毛のウェーブヘアが美しいキャサリンが、
 ケイトの魔術探偵用事務所の掃除をしていた。
 応接室の部屋を掃き、
 テーブルを拭く姿は自然そのものであるが、
 なぜか優美さを感じずにはいられない。
 キャサリンは、昨年18歳の時に
 セレネ魔法学院をトップで卒業しており、
 今は一応家事手伝い&発明家である。
 断わっておくが、
 キャサリンに就職先の声が
 全くかからなかったわけではない。
 むしろ逆に多すぎたぐらいである。
 にもかかわらず、
 どの声にも応じなかったのは、
 本人曰く、
「どの職業も平凡なんだもん。」
 と、いうことであった。
 確かに“発明家”とは非凡かもしれないが、
 発明家として食べていける能力を
 キャサリンは充分に有していた。
 その、今までに発明した品々は実に豊富である。
 寝る前にベルを鳴らせば、
 寝た後でブラウニーが現れて
 後かたずけをしてくれるという
 小さなベル“夜の小人”。
 1日か2日程度ですぐ腐食してしまいそうな
 食物をこのケースに入れれば絶対に腐らないという、
 特殊防腐三角錐ケース“ピラミッド・パワー”。
 この指輪をしていれば、
 起きている間はずっと精神が安定します。
 これから魔法学院を受けんとする受験生の方に最適!
 精神安定リング“ピース”。
 これらはほんの一部にすぎない。
 いずれは家の裏手に空いている土地に、
 小さな研究所を建てようと目論見中であるらしい。
 ビッグハウスが益々ビッグになりそうな、
 そんな予感すら感じられる。
 家事手伝いは、本人にとっては、
 発明考案の息抜きのようなものであろう。
 掃除をしている最中は、
 勿論のこと魔術探偵の玄関には、
”ただいま準備中”
 という、ビールジョッキのマークが付いた札が掛けられていた。
 ちなみに、ビールジョッキのマークが付いている理由は、
 この札は“キルジョイズの酒場”で貰ったものだから、である。
 センス以前の問題に、何かがズレているようであった。
 そんな札がかかっているにもかかわらず、
 キャサリンがテーブルを拭いていると、
 コンコン
 と、扉をノックする音が軽く聞こえた。
 キャサリンは、
「ウニャ!?」
 と意味不明な声を発して首を傾げ、
 パタパタと扉の前に来て小さな覗き窓を覗く。
「どちらさまですかぁ?」
 キャサリンのこの声色は、まるで
『本日は休業です。』
 とでも言いたげな、そんなホエホエ声であった。
「すみません、先日御伺いしたイヴという者ですが。」
 確か約束は昼のはずである。
 この者はひょっとしたら、
 身体と声色を変えた強盗ではないだろうか?
 思わず、そう考えずにはいられない。
 ふざけた思いに感じられる内容であろうが、
 実のところ、これはいたって真面目な考慮である。
 剣と魔法の世界の犯罪内容は、決して並みではない。
 例えば、前述した内容については、
 変身させてくれる“変魔の店”等の
 魔法店にいけば簡単に変身できる。
 もちろん、実物の人間に変身する場合は
 本人の承諾が必要だが、
 闇商法で承諾なしに行える場所がいくつかあり、
 そこに行けばこんな内容は朝飯前の裏技だ。
 そんな実情を考慮すれば、
 前述の思いを抱くのは、実にごく自然であった。
 しかし、だからといって自然に対処する
 ウェストブルッグ一家ではない。
 そもそもこの家は、
 何を考えてか不審者対応の魔法道具を
 1個も玄関に設置していないのだ。
 その分、他の者どもには一種不気味と言えた。
 まして対応する人間がキャサリンでは、
 自然に対応することが不自然と言えた。
 そして、その事を象徴するかのごとく、
 キャサリンは目の前の扉をゆっくりと開けたのである。
 一般国民がこの状況を見れば、
 おそらく何も言葉が出まい。
「あ、すみません。
 今、追われているので、
 とりあえず依頼の品を渡しておきます。」
 キャサリンの目の前に現れた美女は、
 どうやら本人らしかった。
 後ろ髪だけ肩を越す程度に伸ばした髪形は少し男っぽいが、
 何故かその髪形は自然とよく似合っていた。
 服装は盗賊の様な軽装さで、
 実に動きやすいスタイルをとっていた。
 あまりお洒落には感じないが、軽装な分、
 美しいプロポーションが映えて充分に魅力的である。
「はあ。」
 受け取ったそれは、小さな鉄製の箱であった。
 ご丁寧に鍵までかけてある。
「箱の中に入っているものを
 完膚なきまでに破壊して下さい。
 お願いします。」
「はあ。」
 返事に力のないキャサリンであった。
 イヴは、不安になったのか名前を尋ねる。
「あ、私、キャサリンといいまーす。」
「じゃ、キャサリンさん、
 必ずそれをケイトさんに渡して下さい。」
 イヴの声には、念を押したような響きがあった。
 が、その声がこの美少女に伝わったかどうか。
「はい、わかりましたー。」
 終始ニコニコ顔のキャサリンに
 イヴは本当に大丈夫だろうかと一抹の不安を募らせたが、
 追手の気配を感じたのか、
 ではこれでと言うと足早にこの場を去っていった。
 おそらくはこの家に迷惑をかけまいとしての、
 彼女の気遣いであろう。
 キャサリンは、
 彼女の気配が完全に絶ったのを確認すると、
 家の中に入った。
 そして、その箱をテーブルの上に置いてボーッと眺め、
 今頃になって重要な事に気付いていた。
「あ、鍵の開け方聞くの忘れちゃったー。」
 ケイトがこの声を聞いたら何と叫ぶであろう。
 箱は、見たところ魔術的な要素も含んだ特別製だ。
 いかにこの一家が魔術一家とは言え、
 開けるのに苦戦は必死にちがいない。
 キャサリンはこの箱を見つめ、
 珍しく発明以外の内容を考えていた。
 が、しかし、
「ま、いっかー。」
 と、呆気なく諦め、
 魔術探偵の部屋を出ていった。
 受け取った箱をテーブルの上に置いたまま。
 箱は無言であった。
 もし箱に意識があったなら、
 そして言葉が発せられたら、
『バカヤロー!』
 と怒鳴っていたであろう。
 だが、このキャサリンのホエホエに勝てるのは、
 この美少女の両親と祖母の3人だけである。
 箱の無言の声は、空しく宙に舞っていた。

「おはよーございまーす。」
 あまりお早くなかったが、
 一応元気よく一声を発して城門を突切ったケイトは、
 城内に設けられている“王宮魔法陣の塔”目指して走っていた。
 遅れるわけにいかない。
 少しでも遅れようものなら、
 またあの説教婆さんにグタグタと説教くらうのは目に見えている。
 あぁ、加速装置が欲しい!
 心の内で、無いものねだりをしているケイトであった。
 急ぎたければ“ヘイスト(加速)”の呪文を唱えれば
 いいのではないかと思うだろうが、残念ながらそれは不可能。
 なぜなら、城門を一歩でも入れば、
 そこはもう魔法を発動する事の出来ない、
 特殊な魔法陣の中なのである。
 これは、万が一、王城内に不審な者が侵入してきても、
 魔法を唱えさせない為に設けられているものだという。
 魔法陣は幾重にも渡って張り巡らされており、
 城の周りに建っている物見の塔も、城内の地下通路も、
 その他全ての施設が緻密に計算された魔法陣を構成していた。
 で、あるからして、
 悲しいかなウェストブルッグ家の長女といえど、
 ここでは魔法を唱える事は出来ないのである。
 だが、残念ながらこの世界に加速装置等は無かった。
 “王宮魔法陣の塔”を見つけると急いで中に入り、
 バタバタと音をたてながら廊下を走る。
 そして、目的の部屋の扉を見つけると、
 いきおいよく開けて一言、
「セーフ!!!」
 と言い放つと、
 ゼーハーゼーハーと荒い息をはいた。
「おや、今日は来ないのではなかったのですか、ケイト。」
 部屋には、
 朝から気の張り詰めた様な表情をした品のいいお婆さんが、
 羽根ペン片手にケイトの声に軽く受け応えていた。
「お、お休みでしたけど、
 き、給料日だったのを思い出したので、出てきました。」
 息を切らしながらの台詞であった。
 しかし、その努力丸出しの荒声に対して返ってきたのは、
「なら、もう少し早くきなさい。
 それと、廊下は走ってはいけません。」
 という、本日第一号の小言であった。
 その小言に続いて問いも続く。
「では給料は、先日までの仕上げ分でいいですね?」
「こ、これも追加して下さい。」
 と、ケイトは、
 昨夜で仕上げた解読文書をまとめて提出した。
 目の前の品のいい老婆・・・マサリナに。
「あら、ご苦労だこと。
 じゃ、それも頂くわね。」
「是非、お願いします。
 今月ピンチなもので。」
 マサリナはパラパラと羊皮紙の束をめくって、
 50枚ちかくある文書をわずか1分で見終えると、
「じゃ、お渡ししましょう。」
 と言って、銀貨のいっぱい入った袋を2袋手渡した。
 実に、一般市民の2~3倍近い額である。
 いつでも一人立ちは可能なケイトであった。
「ありがとうございます!」
 ケイトは、ニコニコ顔でそれを受け取った。
 この給料が、果たして何に化けるかは
 何人にも予測し難い事であろう。
 奇麗な服や、化粧品、美味しい菓子などは女性として当然だし、
 もちろんケイトもそれらは買うが、問題はそれ以外の面である。
 黒魔術には最適と言われるディスプレッサー・ビースト(魔豹)
 の体毛を束にしてまとめた物や、双頭蛇を薫製にした物、
 挙句の果てにはジャイアント・トード(巨大蛙)の目玉など、
 数え上げればきりがない。
 ちなみに、これらは全て魔術に使用する物である。
 なんでも、両親の知らないところで
 祖母のベレッタが色々な魔術を教えているそうだが。
 果たして、今回の給料の運命も、そうなるのだろうか。
「じゃ、失礼します。」
 そう声を交して部屋を出たケイトの声は、
 当然のように明るかった。
 だが、この明るさが長く続く事はなかった。
 なぜなら、ケイトにはこれから、
 例の“開かずの箱”の鍵の解除という、
 難題が待っているのだから。
 おそらく受け付けしたキャサリンが手伝う事は、
 万が一にも有りえまい。
 さて、箱は無事に開くであろうか。
 そして、中の正体は知れるであろうか。
 全ては、非情にもケイト1人の努力による。

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禁断の果実 第1話

2025-01-14 22:10:38 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ1<禁断の果実>完

 ここガーディア王国では、
 涼しげな秋の気配を感じる取るようになっていた。
 しかし、『涼しくて気持ちがいい。』というのは、
 あくまで昼の話である。
 朝晩となると、少し冷えるくらいだ。
 初秋の季節は、昼夜の寒暖の差が以外とある。
 そして、そんな冷える朝に今日も耐え切れず、
 今だにベッドに潜り込んでいる美女がいた。
 髪が長いのか、ベッドと布団の隙間から、
 美しいストレートの髪が外の景色を眺めている。
 その美女の部屋には、似合いもしない巨大な机があり、
 その上には昨夜遅くまで見ていたのか、
 様々な魔術書がところ狭しと無造作に重ねてあった。
 そして、その本の全てに、ところどころに栞が挟まれている。
 飾り棚もあったが、中には奇妙な物しかなかった。
 何かの動物の角のようなものや、
 真っ黒いケースに収められたカード。
 更には、しっかりと封印の印を刻んだコルクで
 栓をしている瓶等が連ねてある。
 小さな木箱も口を開いたまま置かれているが、
 そこに入っているのはアクセサリー等ではない・・・
 何かの動物の骨だ。
 いかに、この部屋に住む女性が美女とはいえ、
 仮に男が誘われて入ってきたら、
 おそらく5分とたたずに逃げ出すにちがいない。
 そんな部屋に、少しクセッ毛のあるウェーブのかかった
 美しいロングヘアーを持った美少女が、
 まだ眠いのかホエホエな表情で入ってきた。
 そして、ノホホンとしたお気楽な口調で、
 可愛い声を出す。
「お姉ちゃん、朝よー。」
 他の人が今の声を聞けば
『お休みなさい』
 を言っているかのような、そんな錯覚に囚われかねない。
 しかし、そんな彼女の声に対して返ってきた声は、
 更に輪を100回かけて眠たそうな、そんな声であった。
「・・・んー、もう少し・・・。」
「もう、しょうがないなー。」
 『お姉ちゃん』と呼んだその美少女は、
 特に『しょうがない』と思っていないような口調でそう言うと、
 右手の人差し指を、お姉ちゃんのベッドにゆっくりと向けた。
 そして、その細い指先に淡い光が灯ると、
 徐々に上へ上へと上げていく。
 するとどうした事か、
 お姉ちゃんの寝ていたベッドの掛け布団が、
 フワフワと宙に浮きはじめた。
 その美しい人差し指の動きに合わせるかのように。
 ベッドに寝ていたお姉ちゃんは、
 突如やってきた身震いに手で布団を探すが、
 無情にも布団は天井まで高く上がっていた。
「ちょっと、キャサリン!!
 なんてことするのよ!!!」
「んー?
 優しく起こしてあげてるの。」
 無言で姉から布団を奪い取るのが優しいことなのか!
 と、おもいっきり叫びたかったが、
 悲しいかな毎朝の低血圧には勝てない、
 お姉ちゃんであった。
 お姉ちゃんにキャサリンと呼ばれた美少女は、
「朝食の用意、できてるって。」
 と、まだホエホエなままで言うと、
 お姉ちゃんの部屋を出ていった。
 その部屋の扉には、
“ケイトの部屋”
 と、書かれた札が掛かっていた。
 そして、
“絶対に起こさないで下さい”
 と書かれた札も、扉にしっかりと掛かっていた・・・。
 妹のキャサリンと違い、
 クセッ毛のないストレートのロングヘアーを持った姉のケイトは、
 とりあえず手近にあった服を着て鏡台の前にチョコンと座ると、
 丁寧にブラシで髪をとかす。
「よし、これでOKっと。」
 ようやく髪形が決まったのを確認すると、
 ベッドの枕元に置いてあったアミュレット(護符)を取ろうと、
 再びベッドに上がった。
 しかし、そんな単純な行動が最悪の結果を招く。
 まるで、ケイトが再びベッドに上がってくるのを待っていたかのごとく、
 天井まで高々と上がっていた布団が、
 急速にケイト目がけて落下してきた!
「キャアアアア!!!」
 再び『お休みなさい』とでも言わんばかりに降ってきた
 掛け布団のおかげで、苦労してとかした髪形は、
 やはり再びバサバサな状態へと戻ってしまった。
 もし鏡台に意思があったなら、
 冷や汗ダラダラだったに違いない。
「キャサリンのバカー!!!」
 どうやら、朝の低血圧は完全にどこかへ
 吹き飛んでしまったようだった。
 なんとも、朝から騒がしい家庭である。
 魔法を持つが故に、このような騒ぎになるのだろうか。
 ケイトは、自分も魔法使いであるというのに、
 このときばかりは魔法の存在をとても疎く感じていたのであった。
 これが毎週最低三回は起きるという、
 この魔術師一家の平凡な朝の光景である。

 ケイトが、不本意ながらも二度目のヘアスタイルを整えて
 ダイニングキッチンに入ると、
 いつもならゆっくりと朝食を取っている父の姿が見えなかった。
 ケイトのその思いを察知してか、
 外見年齢15歳ぐらいの愛らしい美少女がケイトに近寄り、
 丁寧な口調で語る。
「ケイト様。
 ヴェスター様でしたら早朝出勤ということで、
 既に出てらっしゃいます。」
「あ、ありがと。」
 ケイトは、その美少女、
 人形娘“ドール”の台詞を耳に入れると、
『なんだ、そっか』
 とでも言いたげな表情で自分の席に座った。
 脇にはキャサリンが、
 向かいの席には母のアニスと
 祖母であるベレッタが並んで座って食事していた。
 焼きたてのパンと暖かなコーン・ポタージュの香りは、
 朝起きたばかりの胃でも充分に食欲をかきたてる。
「おはよー。」
「昨日、夜遅くまで魔術書あさってたみたいだったけど、
 ちゃんと寝たの?」
 姉妹の母であるアニスが、
 心配そうに顔を覗き込んで問いかけた。
 それもそのはず。
 ケイトは王宮内にある“王宮魔法陣”と呼ばれる
 政権執行組織の呪文書解読のアルバイトをしており、
 昨日も夜遅くまで羊皮紙に解読した文書を
 マメに書いていたのである。
 給料日が近日である事から、
 アルバイト作業に熱が入るのも当然であった。
 だからこそ、扉に『絶対に起こさないで下さい』と
 札をさげておいたのである。
 それなのに・・・!
「ちゃんと寝たのかはともかく、
 低血圧が吹っ飛ぶ勢いで起こされたのは、
 隠しようのない事実よ。」
 隣で食事を取っているキャサリンへの、
 嫌味100%の台詞であった。
 が、しかし、
「あら、よかったわね。
 低血圧に悩まされずに起こしてもらえたなんて。」
「・・・。」
 この母あっての、あの妹か。
 よくよく考えれば、それもそうである。
 なんせ、二日前は母が新しく開発した薬を
 スープの中に混入していた事もあったのだから。
 ちなみにその時は即効性の眠り薬であった。
 さらにその四日前は、
 あろうことか遅効性の媚薬だった。
 確かにその事を考慮すれば、
 母である悪女に対して同意を求めたのは
 間違いだったのかもしれない。
 母、アニス・ファン・ウェストブルッグ。
 その筋では、知る人ぞ知る超天才の錬金術師である。
 錬金術とは、この世に存在しない異世界の物質等を作り出す術で、
 アニスは主にポーション(薬)を製造している。
 ちなみに、祖母であるベレッタには、
 週に一回服用すれば大丈夫という、
 リウマチの薬を作ってあげているらしい。
 この家で薬局を始めて8年になるが、その8年の間、
 毎年新薬開発賞という賞を受け取っている程で、
 腕は決して並みではなかった。
 だが、余計な事に悪女ぶりも並みではなかった。
 ケイトは、隣で上品に音を立てずに
 コーン・ポタージュを飲んでいるキャサリンを尻目に、
『自分は父親に似て良かった。』
 と、奇妙な安堵感を覚えていた。
 ドールが、ケイトの前にコーン・ポタージュとパンを
 ソッと優しく置く。
「どうぞ。」
 ビロードのサテン・ドレスを着たドールは、
 今日もとても愛らしかった。
 男性陣がドールにこれと同じ事をされたら、
 あまりの可愛らしさに誰もが優しく抱きしめて
 あげたくなるに違いない。
 事実、ドールはこの王国内においては、
 女王のエレナ、僧侶のアリサ、
 そしてこの家に住むキャサリンの三人に劣らぬ
 人気を持った美少女で、
 加えてとても優しく丁寧な口調から、
 王国内の街では“お嬢様”とも呼ばれ、親しまれている。
 王国内ではケイト同様に超有名人で、
 昔は彼女の姿を一目見ようとこの家を訪れる客も、
 決して珍しくはなかったほどだ。
 だが、ウェストブルッグ家では、
 この人形娘“ドール”を作ったと言われる200年前に、
 この人形娘の製造方法を闇に封印したという
 奇怪な話が残されている。
 200年前といえば、ウェストブルッグ家と
 他の三家がまだ分離していない、ブルッグ家の頃の話である。
 誰が見ても危険度ゼロの彼女なのに、
 ウェストブルッグ家では何故封印したのだろう。
 残念ながら、ウェストブルッグ家の人間にも分からなかった。
 封印した本人が、死の床まで堅く口を閉ざした為、
 この製造技術は受け継がれなかったのである。
 だが、おそらくドール自身は知っているだろう。
 しかし、それでもドールに直接そのような話を
 聞こうとする者は一人としていなかった。
 皆、この愛らしい美少女を傷つけたくないと
 願っているからに違いない。
 その証拠に、以前異国から訪れた者が
 ドールを手に入れようと試みたが、
 結果、その者は王国内の人間全てを敵にまわしてしまい、
 ついにはその者の首に賞金までかけられ、
 挙句の果てには暗殺組織アサッシン・ギルドの者に殺されたという。
 ドールは決して人ではなかったが、
 今では充分すぎる程に皆から国民として認められ、
 また、皆から愛されていた。
 だからこそウェストブルッグ家では、
 この人形娘と一緒に暮らしている事をとても誇りに感じていたし、
 過去の封印に触れようともしないのだった。
 そして、ドールもまたこの事を知っているからこそ、
 この家の召使いとして住んでいるのである。
 ケイトは、とりあえず今日の予定の確認をドールに聞いた。
「今日、魔術探偵側で何か予定あったっけ。」
「はい、今日の昼頃にお客様がお見えになる予定です。」
 今日のお昼・・・そっか、そういえばそんな予定あったな。
 その予定とは、今日の昼にイヴという名の女性が訪れる
 という内容であった。
 二日前に来たらしいのだが、
 その日は母であるアニスがケイトのスープに
 眠り薬を混入したせいで、対応できなかったのである。
 とりあえず、
 ドールが応じて『2日後に』という事にしてもらったのだが、
 今思い出すと非常に腹が立つ一件であった。
 ・・・ついでにもう一つ思い出した。
 アルバイトの給料日は、確か今日だ。
 ああ、空しいかな、魔術一家の家庭事情。
 しかし、いつまでも感慨に浸ってはいられない。
 昨夜仕上げた分の呪文書の解読を、
 王宮内の王宮魔法陣に持っていかなければ。
 なんせ、今月の給料がかかっている。
 ケイトは朝食を済ませると、
 自分の部屋に戻って魔術師としての格好に着替え(俗に言う法衣)、
 早めに城に向かう事にした。
 今日こそ、イヴという名の女性から依頼を受ける為に。
 しかし、その依頼の内容が今までにない過酷なものであるという事など、
 今朝の時点では分かるはずもなかった。

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禁断の果実 うんちく

2025-01-14 21:57:07 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ1<禁断の果実>完

※ガーディア国
 物語の舞台となっている国。
 シャンテ=ムーン大陸のほぼ中央に位置しており、
 西の帝国を除いた中では最大規模の国だ。
 四方の国境を警備する王宮騎士団、
 城下町全域を警備する王宮護衛団、
 国政・外交を統括する王宮魔法陣、
 これらの部署が主軸となって国を作り上げている。
 大陸の中心だけあって、最も盛んなのは貿易。
 南部国境の近くには空港もある為、
 人や物資の移動が盛んで常に活気が良い。
 旧世界の建造物を利用している箇所も多く、
 城下町の中に於いてさえ未踏のエリアがあるという。

※シャンテ=ムーン大陸
 世界6大陸の中で最大の大陸。
 西の帝国と他国との間は常に嫌悪的で、近年戦争も起きている。
 現在は、今も謎に残る“西の対戦”がきっかけで停戦中。
 緊張状態が続いているという。

※ソルドバージュ寺院
 ガーディア国内にある巨大な寺院。
 非常に珍しい旧世界の楽器オルガンを備えてあり、
 吟遊詩人には大変興味深い寺院らしい。
 西の対戦で貢献した六英雄の一人である聖女サリナが
 大司教を務めているが、本人は格闘術を極めた脳筋。
 寺院地下に道場があるらしいのだが、
 稀に僧侶の祈りの最中に悲鳴が聞こえる事があるという。
 寺院専属の聖騎士団が存在するのだが、
 総責任者が西の対戦で行方不明になって以来、
 これといった動きは一切見せていない。
 寺院裏手にある大きな霊園も管理している。

※王宮魔法陣の塔
 城壁に囲まれた王城区域内の東部にある。
 旧世界の小さな5階建てビルを利用。
 (実際には地下1階もあり。)
 電気が無くて動けない設備は魔力で補っており
 昇降機も活用されているが、乗り物酔いが多発する
 ところを見るに調整は上手くいってないようだ。
 ここには王宮魔法陣に関わる全ての部署が入っている。
 地下1階に“闇夜の陣”(王宮承認暗殺ギルド“ニードル”を運営する部署)。
 1階に“聖刻の陣”(主に旧世界の資料や魔法書などの管理部署)。
 2階に“皇王の陣”(主に政治を執り行う部署)。
 3階に“幻惑の陣”(主に情報の収集および操作をする部署)。
 4階に“破封の陣”(主に新たに発見されたものを精査する部署)。
 5階に“星界の陣”(全ての陣を統括する部署)。

※魔法街
 ケイトの家族が住んでいる街。
 呪われている、お化けが出る、魔素溜りになっている等、
 いわくつきの土地を活用する目的で
 魔法使いに無償提供された地域を指している。
 そんな所に住んでいる者は
 ケイトを含め変わり者が多い(←失礼でしょ!)。
 道を真っ直ぐ歩いても迷う立体道路と無数の十字路で
 構成されており、この街を訪れるなら地図必須だ。

※魔力
 精霊、五行、信仰、独尊の4系統が混合して
 成り立っていると言われている。
 地、水、火、風、木、金、聖、魔、空の9種類。
 通常は無から始まり、成人(この世界では15歳)
 までに上記いずれかの属性に必ず変化する。
 無のまま維持できないので、
 無の魔力は系統種にカウントされていない。
 一般人を含め、ほとんどが“水”の属性になるが、
 ケイトのように火の魔法を好んで使えば“火”になるのは当然。
 スペルユーザーほど変化に流されやすい傾向だ。
 魔法使いは“魔”、僧侶は“聖”が多いといった感じ。
 あくまで一例で例外もあり。
 ただ、このうち独尊に該当する“空”は変化条件が未だに不明。
 相克に当たらない事から弱点が無く、ある種理想なのだが、
 何故か危険人物扱いされている者たちの大半がこれだったりする。
 ここでケイトを例に詳細説明。
 ケイトは魔法使いで、セレネ魔法学院時代に
 全属性の各種攻撃魔法を習得していた。
 しかし成人を期に属性が火に変化。
 すると、以下の様な特性になる。
 火炎系魔法。
 通常の威力なら、魔力の消費は半分で済む。
 通常の魔力消費だと、倍の威力になる。
 火炎系の攻撃魔法を受けると、ダメージは半分で済む。
 ケイトぐらいの熟練したハイ・ソーサリスになると、完全無効化する。
 氷結系魔法。
 通常の威力なら、魔力の消費は4倍かかる。
 通常の魔力消費だと、4分の1の威力になる。
 (正にやってらんない状態と化す。)
 氷結系の攻撃魔法を受けると、ダメージは2倍くらう。
 魔力が水属性の敵に氷結魔法で攻撃されると、更に倍で4倍ダメージ。
 相克から、ケイトは水属性の敵と相性が悪すぎると言える。
 (基本的な対策は、魔法障壁(マジックシールド)で
  氷結系の攻撃を緩和または無効化。
  あとは地属性魔法で攻撃してアドバンテージを取りたいところ。
  氷結系の攻撃を防御出来るマジックアイテムがあれば尚良い。
  スーレンとの対戦ではそういった事前対策が無く
  魔力の強さが互角だった為、惜敗。
  もしケイトの魔力の強さがスーレンの倍以上あれば、
  相性が悪くてもゴリ押し出来た。
  おそらくケイトはそのつもりで挑んだと思うが、
  想定外にスーレンが強すぎたと言える。)
 ちなみに他の属性魔法は無の魔力の時と同じ。
 補正ゼロでプラスもマイナスも無い。
 また、水属性に聖属性の様な回復魔法があるが、
 こちらは普通に効果を受け入れられる。
 この事から、属性の影響を受けるのは
 攻撃・防御・補助系の魔法のみと思われる。

※魔力の相克と相生
 上記の魔力説明に更に補足。
 セレネ魔法学院では初等部の必須教科で、
 基礎中の基礎と言える。
 複数人のパーティーで冒険する際、
 補助魔法や合成魔法で味方を強化。
 相手の特性を読み、弱点をつく方法。
 初級冒険者でも知恵と工夫で強くなれるという重要課題だ。
 相克。敵の弱体化を狙う。
 水は火に強い。火は金に強い。金は木に強い。
 木は土(地)に強い。土は水に強い。
 相生。味方の強化を狙う。
 木は火を生む。火は土を生む。土(地)は金を生む。
 金は水を生む。水は木を生む。
 風は特殊。
 水の効果範囲を広げ、火の勢いを増し、地の砂嵐を激しくする。
 相性抜群に見えるが、その代償か風を強化してくれる属性は無い。
 空に弱いが空の魔力保持者の敵なんてほぼ無いので、
 あまり気にしないとの事。
 聖と魔も特殊。
 相性は無く、相克が異常。
 聖は魔に弱い、魔は聖に弱いと、
 強いのはどっち?とツッコミたくなる。
 これは単純に魔力の大きさで優劣が決まるらしい。
 しかし聖属性の回復・治療魔法は魔属性の者にも普通に効果がある。
 こちらも攻撃・防御・補助系に限って相克が起きるようだ。

※魔力の強さ(大きさ)
 更に更に補足。
 この世界では数値化出来ないが、感じ取る事は出来る。
 隠蔽は可能だが、隠し続ける事は高難度。
 強さに倍以上の差があると、
 火の魔法で氷の魔法を蒸発・消滅する事が出来る。
 圧倒的な実力差を見せつけるには最適な手段かも。
 学園の授業では“相克の崩壊”などと呼んでおり、
 実習で先生が生徒相手に行使。
 スパルタ学園と言われる理由の一つにもなっている。

※貨幣
 この世界は各国共通で独自通貨が無い。
 ほぼ銅貨と銀貨の2種のみで経済が回っている。
 金貨もあるのだが、金鉱山の産出が年々減少していることから、
 今では価値がかなり跳ね上がっていて投資対象に。
 昔は固定レートで、
 1リラ (銀貨)=10ラード(銅貨)
 1ルーフ(金貨)=10リラ (銀貨)
 (おおよそ、金貨1枚が1万円、銀貨1枚が千円、銅貨1枚が百円の感覚。)
 昔は金が予定より多く産出しても、
 ゴールド輸出量規制法に基づき、
 市場に出回る金の量を一定に保っていた。
 だから固定レートでいけたのだが、
 今では資源減少の現れか、
 産出量が一定量にすら達していない有様。
 ただ高額商品の購入などを考慮して、
 近年では大銅貨(五百円)や大銀貨(五千円)も作られている。
 (どこぞの盗賊様曰く「金貨もあるところにはあるよ!」らしい。)
 ちなみに迷宮で見つかる貨幣は古い銀貨が多く、現貨幣の素材扱い。
 古い金貨は純度も高く投資対象の為か真逆で、
 高額売却出来るから冒険者は血眼になりやすい。
 古い銅貨は酸化しまくっていて大安値らしいが、
 初級冒険者はそれでも必死に持ち帰る。

コメント
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