今は昔、ある暑い夏の日、わたくしは独り、五輪峠を歩いておりました。
五輪峠は岩手県は江刺市と遠野市の境にある峠で、いまでは車の交通もまばらです。わたくしはその峠道を、重い旅荷を背負って、えっちらおっちら歩いておりました。
その日は大変暑い日で、日差しが容赦なく照りつけました。ふきだした汗は、またたくまに塩の結晶となって、首筋がじゃりじゃりしました。あたりの空気はむされて、よどんで、鳥の鳴き声だけがこだましていました。
それでも、木陰は涼しい空気で満たされていました。わたくしはいくどもいくども木陰でしゃがみこんで休憩をとりながら、峠道を登っていきました。
持っていた1リットルの麦茶はまたたくまに飲み干してしまいました。この麦茶は峠の入り口の農家で、おばあちゃんに頼んでいただいたものでした。この時ほど麦茶がおいしく、尊く思えたことはありませんでした。
五輪峠を越えて、遠野へ下り、わたくしは小友の集落へといたりました。峠道を下り終えたところで、てきとうにマットを敷いて寝転び、しばらく夏の空を眺めていました。
とんびが、飛んでいたでしょうか。
こんな一日が、わたくしにとって一番暑い夏でした。
r: Rumelaj / Besh O Drom
五輪峠は岩手県は江刺市と遠野市の境にある峠で、いまでは車の交通もまばらです。わたくしはその峠道を、重い旅荷を背負って、えっちらおっちら歩いておりました。
その日は大変暑い日で、日差しが容赦なく照りつけました。ふきだした汗は、またたくまに塩の結晶となって、首筋がじゃりじゃりしました。あたりの空気はむされて、よどんで、鳥の鳴き声だけがこだましていました。
それでも、木陰は涼しい空気で満たされていました。わたくしはいくどもいくども木陰でしゃがみこんで休憩をとりながら、峠道を登っていきました。
持っていた1リットルの麦茶はまたたくまに飲み干してしまいました。この麦茶は峠の入り口の農家で、おばあちゃんに頼んでいただいたものでした。この時ほど麦茶がおいしく、尊く思えたことはありませんでした。
五輪峠を越えて、遠野へ下り、わたくしは小友の集落へといたりました。峠道を下り終えたところで、てきとうにマットを敷いて寝転び、しばらく夏の空を眺めていました。
とんびが、飛んでいたでしょうか。
こんな一日が、わたくしにとって一番暑い夏でした。
r: Rumelaj / Besh O Drom