綸太郎の第一短編集
「死刑囚パズル」
・短編には向かない内容だと思う。
・「今日は特別な日」
・改悛の効がなく再犯、その結果の死刑であれば、所長の痛恨はむしろかつての矯正の失敗に向けられるべきである。
・情報小説の体を採っているが、短編ではいかにも浅薄な印象を受ける。もったいない。
・中里は気付きそうなものだが。姿勢・所作といったものは隠しきれまい。
・教誨師は修行が足りない。
・魅力的な謎の提示。
・村上医師の証言に対する検証には納得。
・綸太郎の死刑制度に関する質問はいただけない。
・焼却炉が使用不能というのは、よく考えられた手掛かりである。
・随分強力なシュレッダーだが、ガラス製品を砕けば大きな音がすることは予想されるだろう。紙の比ではない。
・親父さん、ナイスな演出。威圧感大。
・推理の過程も悪くない。名指された犯人も(少なくとも読者にとっては)意外である。
・しかし、真相はいかにも浅墓な犯罪である。結局守るべきものの生活・将来を奪ったようなものである。
・単に秘密を守れなかった、守ったのは己の弱さのみである。元々すぐに露見する犯罪である。
・随分と準備期間の短い犯行である。違和感が大きい。
・註8は不要。自己満足としか思えない。
「黒衣の家」
・最大の欠点は年齢設定に問題があることである。納得する読者はいるのだろうか。
・結局一番悪いのは長男の不甲斐無さ。
「カニバリズム小論」
・綾辻行人「フリークス」のようなテイスト。
・これも薀蓄が長過ぎる。こちらは会話でやっている分、たちが悪い。
・「私」は随分ニューロティックな人物だ。綸太郎以上、というか綸太郎がブレーキを掛ける役に回っている。
・コリン・ウィルソンを読んだ時期があった。
・従って、動機も読書による予想の範囲内であった。
・だが、大久保が真の目的に忠実であるならば、動物を用いていたであろうと思う。
・最後の一文は全然面白くないし、気が利いてもいない。
「切り裂き魔」
・海外の古典はほとんど読んでいない。「アクロイド」は読んだ。酷かった。
・「不連続」は買ったが未読。どんどん後回しになっている。
・真相はすぐ分かったが、仕方がない。
・こういう童貞願望みたいな設定には閉口する。何とかして欲しい。
・こんなこと、データが残されているのなら、検索してソートすれば穂波ひとりでできたこと。
・そんなこと、さっさと口で説明しろよと。これだからミステリ・マニアは…
「緑の扉は危険」
・この設定を続ける気か。気持ち悪さが増している。
・トリックのための間取り。ここを不自然ととるかどうか。
・三島の「悪霊」には私も騙された。確かに「悪霊」の続きは読みたい。
・単に武蔵野署の怠慢である。あんなので被害者の遺族は納得したのか。
・検死報告も酷い。地方ならともかく、都内であり得るのか。
・真相も酷い。住宅街の真ん中で目撃証言が出なかったとは。
・あとがきにもあるが、東野圭吾「名探偵の掟」中の「密室宣言」と基本的に同じである。
但し、取り上げ方は全く違う。時期が重なったことも併せ、著者はその意味するところを
しっかり考えるべきである。
「土曜日の本」
・謎は物凄く魅力的だが、あとがきにある通り著者のものではない。
・股掛七海「髑髏水蛇座自治領」→若竹七海「ぼくのミステリな日常」
・愛川鉄也→鮎川哲也
・蟻塚ヴァリス「元寇ゲーム」「古都パズル」「マジック三井寺」→有栖川有栖「月光ゲーム」「孤島パズル」「マジックミラー」
・鎧帷子「鬼面銃」→依井貴裕「記念樹」
・泪橋幸「いさ子の友は・ミトコンドリア」→澤木喬「いざ言問はむ都鳥」
・雨降地固丸「任侠は小太刀で勝負する」「殺陣映画」→我孫子武丸「人形はこたつで推理する」「探偵映画」
・白胸猟色「翔ぶ女、堕ちる女」→白峰良介「飛ぶ男、墜ちる女」
・時村薫「空と梵」「夜の禅」「火天の花」→北村薫「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」
・原子量「そして重力は衰える」「私が殺したシュードラ」→原「そして夜は甦る」「私が殺した少女」
・雅みずき→宮部みゆき
・詩子でそんな名乗り方する奴いないだろ。これで何が描きたいのか。後の話が脱線するキャラクタとも重ならない。
・あるいは精神異常ということか。
・リバーシブルのブルゾンて。ふかわりょうが言いそうだな。
・あとがきにもある通り、楽屋オチに逃げて何の解決にもなっていない。卑怯というより同人的で、レベル低い。
「過ぎにし薔薇は」
・最初の一行から違和感。乳飲み子を抱く時は水平にならない。
・この近辺に一時期住んだこともあるし、勤務したこともある。懐かしい。
・謎は結構盲点。言われてみれば納得。
・この著者は精神障害や心理学の取り扱いが軽率な印象が強い。
例によってチェックは辛くなってしまいがちだが、特筆すべきは文庫版追記である。
私が著者を特に評価している点は、本人には不本意だろうが、その真摯さである。
本書では、この追記「図書館の自由をめぐって」に如実に表れている。
追記は本書親本発売直後に発表した自身の文章の引用から始まる。
その中で著者は「図書館シリーズ」での図書館の個人情報の扱いについての読者からの指摘について、
謝罪している一方で、フィクションとリアリティの問題として、その融通性を主張している。
著者は威張った書き方と評価しているが、私は引用文の内容に賛成である。
これに較べたら警察の扱いなんて、と思ってしまう。
捜査内容を部外者に漏らすところから、推理小説・探偵小説は始まるからである。
警察がこれに抗議し、それを受け入れるならば、警察以外の探偵役は存在が困難である。
続いて著者は作品に手を入れない一方、引用文発表時点での問題の理解不足を告白し、
「図書館の自由」の理念の問題であると捉え直す。
そしてこの理念を巡る問題について著者が新たに収集した情報を紹介する形を採っている。
これは読者、関係者に対する非常に真摯で誠実な対応として評価したい。
特に自身の問題に対する理解の過程を示すところに著者の特徴が表れているように思う。
追記は、その後「図書館の自由」に関する各種引用文が続くのだが、最後の文章に関しては、
(個人利用データの押収についての一文)、賛同できない。
まさしく「宣言」の第三項の1但し書きの通りであって、手続きが踏まれているとの館長コメントも
捜査当局の判断も全く正しい。
このレポートの筆者(雑誌編集者)の見識のなさがそのまま表れているような文章ではある。
具体的には、
・国立国会図書館と開架が基本の小さな町の図書館の運営を同列に論じていること
・日本図書館協会が明文化しているにもかかわらず、それに従った図書館側および尊重した捜査当局を批判していること
・根拠もなく「ほとんどすべては無関係なデータ」と断じていること。それは結果論であり、
全てのデータを調べてはじめて得られる結論である。そして「無関係」と判断するのは(捜査権のある)捜査当局のみである。
・警察による押収を外部漏洩と位置付けていること。警察には図書館より強力な守秘義務が課されている。
僅か2ページの引用文であるが、これほど主張が支離滅裂であるというのは、
筆者は馬鹿でなければ相当なパラノイアである、と言うしかない。
この追記だけでもこの一冊を手にする価値がある。
図書館シリーズの続行については「図書館の自由」の問題との絡みから不明としているが、
あの童貞願望みたいな設定は止めた方が良い。
しかし続編があるということは、やはり続いているのだろうか。
「死刑囚パズル」
・短編には向かない内容だと思う。
・「今日は特別な日」
・改悛の効がなく再犯、その結果の死刑であれば、所長の痛恨はむしろかつての矯正の失敗に向けられるべきである。
・情報小説の体を採っているが、短編ではいかにも浅薄な印象を受ける。もったいない。
・中里は気付きそうなものだが。姿勢・所作といったものは隠しきれまい。
・教誨師は修行が足りない。
・魅力的な謎の提示。
・村上医師の証言に対する検証には納得。
・綸太郎の死刑制度に関する質問はいただけない。
・焼却炉が使用不能というのは、よく考えられた手掛かりである。
・随分強力なシュレッダーだが、ガラス製品を砕けば大きな音がすることは予想されるだろう。紙の比ではない。
・親父さん、ナイスな演出。威圧感大。
・推理の過程も悪くない。名指された犯人も(少なくとも読者にとっては)意外である。
・しかし、真相はいかにも浅墓な犯罪である。結局守るべきものの生活・将来を奪ったようなものである。
・単に秘密を守れなかった、守ったのは己の弱さのみである。元々すぐに露見する犯罪である。
・随分と準備期間の短い犯行である。違和感が大きい。
・註8は不要。自己満足としか思えない。
「黒衣の家」
・最大の欠点は年齢設定に問題があることである。納得する読者はいるのだろうか。
・結局一番悪いのは長男の不甲斐無さ。
「カニバリズム小論」
・綾辻行人「フリークス」のようなテイスト。
・これも薀蓄が長過ぎる。こちらは会話でやっている分、たちが悪い。
・「私」は随分ニューロティックな人物だ。綸太郎以上、というか綸太郎がブレーキを掛ける役に回っている。
・コリン・ウィルソンを読んだ時期があった。
・従って、動機も読書による予想の範囲内であった。
・だが、大久保が真の目的に忠実であるならば、動物を用いていたであろうと思う。
・最後の一文は全然面白くないし、気が利いてもいない。
「切り裂き魔」
・海外の古典はほとんど読んでいない。「アクロイド」は読んだ。酷かった。
・「不連続」は買ったが未読。どんどん後回しになっている。
・真相はすぐ分かったが、仕方がない。
・こういう童貞願望みたいな設定には閉口する。何とかして欲しい。
・こんなこと、データが残されているのなら、検索してソートすれば穂波ひとりでできたこと。
・そんなこと、さっさと口で説明しろよと。これだからミステリ・マニアは…
「緑の扉は危険」
・この設定を続ける気か。気持ち悪さが増している。
・トリックのための間取り。ここを不自然ととるかどうか。
・三島の「悪霊」には私も騙された。確かに「悪霊」の続きは読みたい。
・単に武蔵野署の怠慢である。あんなので被害者の遺族は納得したのか。
・検死報告も酷い。地方ならともかく、都内であり得るのか。
・真相も酷い。住宅街の真ん中で目撃証言が出なかったとは。
・あとがきにもあるが、東野圭吾「名探偵の掟」中の「密室宣言」と基本的に同じである。
但し、取り上げ方は全く違う。時期が重なったことも併せ、著者はその意味するところを
しっかり考えるべきである。
「土曜日の本」
・謎は物凄く魅力的だが、あとがきにある通り著者のものではない。
・股掛七海「髑髏水蛇座自治領」→若竹七海「ぼくのミステリな日常」
・愛川鉄也→鮎川哲也
・蟻塚ヴァリス「元寇ゲーム」「古都パズル」「マジック三井寺」→有栖川有栖「月光ゲーム」「孤島パズル」「マジックミラー」
・鎧帷子「鬼面銃」→依井貴裕「記念樹」
・泪橋幸「いさ子の友は・ミトコンドリア」→澤木喬「いざ言問はむ都鳥」
・雨降地固丸「任侠は小太刀で勝負する」「殺陣映画」→我孫子武丸「人形はこたつで推理する」「探偵映画」
・白胸猟色「翔ぶ女、堕ちる女」→白峰良介「飛ぶ男、墜ちる女」
・時村薫「空と梵」「夜の禅」「火天の花」→北村薫「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」
・原子量「そして重力は衰える」「私が殺したシュードラ」→原「そして夜は甦る」「私が殺した少女」
・雅みずき→宮部みゆき
・詩子でそんな名乗り方する奴いないだろ。これで何が描きたいのか。後の話が脱線するキャラクタとも重ならない。
・あるいは精神異常ということか。
・リバーシブルのブルゾンて。ふかわりょうが言いそうだな。
・あとがきにもある通り、楽屋オチに逃げて何の解決にもなっていない。卑怯というより同人的で、レベル低い。
「過ぎにし薔薇は」
・最初の一行から違和感。乳飲み子を抱く時は水平にならない。
・この近辺に一時期住んだこともあるし、勤務したこともある。懐かしい。
・謎は結構盲点。言われてみれば納得。
・この著者は精神障害や心理学の取り扱いが軽率な印象が強い。
例によってチェックは辛くなってしまいがちだが、特筆すべきは文庫版追記である。
私が著者を特に評価している点は、本人には不本意だろうが、その真摯さである。
本書では、この追記「図書館の自由をめぐって」に如実に表れている。
追記は本書親本発売直後に発表した自身の文章の引用から始まる。
その中で著者は「図書館シリーズ」での図書館の個人情報の扱いについての読者からの指摘について、
謝罪している一方で、フィクションとリアリティの問題として、その融通性を主張している。
著者は威張った書き方と評価しているが、私は引用文の内容に賛成である。
これに較べたら警察の扱いなんて、と思ってしまう。
捜査内容を部外者に漏らすところから、推理小説・探偵小説は始まるからである。
警察がこれに抗議し、それを受け入れるならば、警察以外の探偵役は存在が困難である。
続いて著者は作品に手を入れない一方、引用文発表時点での問題の理解不足を告白し、
「図書館の自由」の理念の問題であると捉え直す。
そしてこの理念を巡る問題について著者が新たに収集した情報を紹介する形を採っている。
これは読者、関係者に対する非常に真摯で誠実な対応として評価したい。
特に自身の問題に対する理解の過程を示すところに著者の特徴が表れているように思う。
追記は、その後「図書館の自由」に関する各種引用文が続くのだが、最後の文章に関しては、
(個人利用データの押収についての一文)、賛同できない。
まさしく「宣言」の第三項の1但し書きの通りであって、手続きが踏まれているとの館長コメントも
捜査当局の判断も全く正しい。
このレポートの筆者(雑誌編集者)の見識のなさがそのまま表れているような文章ではある。
具体的には、
・国立国会図書館と開架が基本の小さな町の図書館の運営を同列に論じていること
・日本図書館協会が明文化しているにもかかわらず、それに従った図書館側および尊重した捜査当局を批判していること
・根拠もなく「ほとんどすべては無関係なデータ」と断じていること。それは結果論であり、
全てのデータを調べてはじめて得られる結論である。そして「無関係」と判断するのは(捜査権のある)捜査当局のみである。
・警察による押収を外部漏洩と位置付けていること。警察には図書館より強力な守秘義務が課されている。
僅か2ページの引用文であるが、これほど主張が支離滅裂であるというのは、
筆者は馬鹿でなければ相当なパラノイアである、と言うしかない。
この追記だけでもこの一冊を手にする価値がある。
図書館シリーズの続行については「図書館の自由」の問題との絡みから不明としているが、
あの童貞願望みたいな設定は止めた方が良い。
しかし続編があるということは、やはり続いているのだろうか。