拙作集

自作の物語をアップしました。つたない話ですが、よろしくお付き合い下さい。ご感想などいただければ幸いです。

イブの偶然(2)

2008年12月09日 23時53分58秒 | Weblog
 会社に戻ると、すぐ本部長に呼ばれた。明日は祝日だが、得意先との接待ゴルフ&忘年会があり、かばん持ちで同行することが決まっていた。食事のメニューとか、二次会の手配とか、うるさいことこの上ない。とりあえず、「かしこまりましたっ!」で切り抜ける。この調子でかき回されたら、またプロジェクトの書類が遅れて、課長にぶつくさ言われそうだ。憂鬱な顔でデスクに戻ると、我らが職場の花、吉岡奈々子嬢に睨まれてしまった。

「俊ちゃん、請求書の提出が遅いって!何度言わすのよ、まったく。支払い遅れのお詫びをする身にもなってよね。あと、会社の名前が入った紙の手提げに、なんでもかんでも詰め込んで出かけないでね。みっともないから」
 こっちが二つ年上なんだから、ちゃん付けはないだろうという抗議をかろうじて心に収め、はいはいとうなずく。僕が一浪、向こうは短大卒で入社が一年早いから、先輩には違いない。「天敵」と言えなくもないのだが、日頃さんざんご厄介をかけているので、頭があがらないのは仕方がないところだ。
「以後気をつけまーす。ところで、一つ頼みがあるんだけど」
「何よ?」
「ええっと、先日FGI社で発行されました物販データの…」
「昨年度の実績分をグラフにまとめて、そのファイルをメールしてくれ、でしょ?」
「どうしてわかるの?」
「奈々子さまは何でもお見通しよ。課長がこぼしてたんだから。梶山、ちゃんと資料出すかなって。本件の報酬は…そうね、例のデパ地下の淡雪チーズケーキ。あれで手を打つわ」
 かえって高くつきそうだなと思った時、またポケットが振動した。まさかという思いは的中していた。

 ショートメール受信 差出人:090- YYYY- YYYY
 本文:間違えてごめんなさい。でも、よろしければ花瓶持参でお越し下さい。5つ年下で学生(未婚)です。綾香

 あまりにもうますぎる話だが、感じるものがあった。まさか、この僕に限ってクリスマスという季節に浮かれるはずはないのだが。

 あわてて記憶と手帳を確認する。本日は、この後すぐ接待の準備と明後日の会議資料作成に入り、いつ終わるか見当もつかない。明日は朝から接待本番で、祝日というのに二次会のカラオケまでびっしりだ。肝心の24日は終日、販売方針会議がある。聖なるイブの日も、本部長のありがたいお顔を拝んでいられるわけだ。

 ただ、会議は18時半終了の予定なので、終わったらすぐに奈々子の視線をかいくぐってダッシュすれば、新宿アルタ前19時は、絶対に無理というわけではない。問題は花瓶の調達だが、一つ思い当たる秘策があった。


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