拙作集

自作の物語をアップしました。つたない話ですが、よろしくお付き合い下さい。ご感想などいただければ幸いです。

イブの偶然(1) 全8話

2008年12月09日 23時52分46秒 | Weblog
12月12日
「もしもし、イエローデリさんですか?神田のエクスロードと言いますけど、ランチ弁当の予約を…え?やめた?ご商売をってことですか?あら、そうなの。残念だわ、マスター込みでファンだったのよ。ええ、そう。カーナビの会社よ。それが何か?」


12月22日
 「おひとり様」という状況は同じなのに、どうしてこの季節は妙に身に沁みて感じるのだろう?北風の運ぶ寒さのせいか、あるいは街にカップルがあふれる時節柄ゆえ、ということなのだろうか?

 冷たい風が吹こうが、年が暮れようが、仕事は待ってはくれない。朝から課長のお供で、中野まで出かけた。部品メーカーのプレゼンがいよいよ山場にさしかかった時、携帯が振動し、お前だけは戻れと連絡があった。どうやら、本部長よりじきじきのご指示があるようだ。やむを得ず、失礼を詫びつつ、中座して中央線に飛び乗った。カーナビ会社の社員が電車で外回りというのは、ちょっと恥ずかしい気もするが、「経費削減の折」というご時世には逆らえない。

 新宿を過ぎ、例の実績グラフは奈々子に頼んじゃおうかなと考えながら、外を見ていたら、ポケットの携帯が再び振動した。しかし、それは長くは続かず、すぐに止まった。メールの着信だったようだ。

 ショートメール受信 差出人:090-YYYY-YYYY
 本文:どうしても忘れられないので、イブの19時、白いバラを持ってアルタの画面が見えるところにいます。綾香

 「彼女いない歴更新中」なので、身に覚えはないが、迷惑メールにしては手がこみ過ぎている。クリスマスを前に新手の美人局か?とも思ったが、意味深な文面がかえって気になった。あと5分遅かったら放っておいたのに、会社のある神田まで少々時間があったのがいけなかった。気がつくと指は携帯を操り、返信を送っていた。知らない奴に番号が知られるリスクより、何かわくわくすることへの期待の方が勝っていたから、と自分に説明しながら。

 ショートメール発信 差出人:090- XXXX-XXXX
 本文:間違いかと思いますが、私でよかったら、うかがいます。当方、27歳、独身、男、会社員。俊介


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