Addicted To U

ハンギョンとヒチョルを応援します!

Paradise Lost  <略奪>

2011-02-15 | FanFiction(suju)
体だけじゃなく、ハンギョン兄さんの全てが欲しい。

そう思い始めたのはいつ頃からなんだろう。

ヒチョル兄さんの代わりに抱かれたあの日。

くやしくて、くやしくて、体中が震えて押さえ込むことができない怒りをハンギョン兄さんにぶつけた。

罵倒しただけでは収まらない荒れた心をハンギョン兄さんを傷つけることで解消しようとした。

それが全ての間違いだったのかもしれない。

解熱剤を飲んでスヤスヤと眠るシウォンの隣で、ソファーに沈み込んだ。

-ドンヘ、好きだよ。

その言葉が俺の心をどんどん溶かしてゆく。

普段あまり感情を表に出さないハンギョン兄さんからは想像もつかないほど、熱い舌先や太くてしっかりした指が執拗さとすれすれの動きで俺の肌の上を這いまわるとそれだけで何度も達しそうになる。

今までになかったこのゆったりとした動きが、肉体のあらゆる部分から愛情の泉を溢れさせ、皮膚が擦れ合うたびに胸を激しく踊らせていた。

もしもあの時-と考えてみる。

ハンギョン兄さんの動きを力づくで止めていたら、と。

その場合、俺はこの数カ月どう過ごしていただろう。

本体とMのスケジュールを毎日忙しくこなしながら、時折寂しさに押しつぶされそうになることもなく、みんなと楽しく騒いでいただろう。

そうしたらハンギョン兄さんの跡をみんなに気づかれないよう追うこともなく、ヒチョル兄さんの存在を重く感じることはなかったのだろうか。

意識が他に向いている。

そう感じ取ったのか、ハンギョン兄さんに耳の縁を強く噛まれた。

声が漏れ、腰がはねる。

「ドンヘ、声。我慢して」

兄さんに言われたとおり、声を押し殺す。

そうすると出口を塞がれた快感は、内へ内へとこもっていって、奥の方で小爆発を繰り返した。

欲しい。

この人が。

-俺も大好き。

息ができないほどの苦しさと切なさに包まれながら俺はやっと言葉を紡いだ。

何の迷いもなかった。

ハンギョン兄さんの全てを自分にぶつけて欲しかった。

長々と続く脈動を受けとめながら、すべてが白く弾け飛んだ。

微かにくぐもった声を上げ自分の上にハンギョン兄さんがくずおれるように覆いかぶさる。

その時俺は、ハンギョン兄さんのまだ呼吸の整わないどくどくと波打つ心臓の音を聞いた。

あたたかい…

それは今まで感じることのなかったものだった。


堰を切って流れ出した感情を簡単に止めることはできない。

溺れていけばいくほどに、二人はお互いの体にしがみついていった。

TV局のトイレ、ホテルの廊下、エレベーターの中、二人になれる空間さえあればどこでも構わなかった。

何かにとり憑かれたかのように、性に浸りきった淫らな時間が流れた。

「明日、合流するね」

シンガポール行きを明日に控えた夜、寂しさとも嫉妬ともつかない感情を吐き出すように俺はハンギョン兄さんの耳元で呟いた。

言ってすぐ後悔したが、後の祭りだった。

どうしてこうも感情をコントロールできないんだろう…

自分の幼稚さに嫌気がする。

抱きしめられていた腕のぬくもりがするすると逃げていくようで、俺は慌てて兄さんにしがみついた。

今日の始まりは覚えている。

部屋割りでハンギョン兄さんと同室だったリョウクが買い物に出かけた隙に滑り込んだ。

ただどうやって終わったのか覚えていない。

部屋から出たあと、廊下を歩きだしたとたんに、目頭が熱くなり堪え切れないいくつもの涙が頬を伝った。

このままでは部屋に戻れない、そう思い非常口近くの自販機の前でぼんやり立ちつくした。

涙をこらえればこらえるほど、かえってハンギョン兄さんへの想いが内にこもり、深まり強まって、どんどん自分を埋め尽くしてゆく。

いまの自分はほんとうに、みっともないほど、ハンギョン兄さんに恋をしている。


見上げれば巨大なシャンデリアから眩いほどの光が降り注ぐ。

ロビーに荷物を預けて、茶色とエンジ色を基調としたクラシカルなソファーに深く腰掛けた時、遠目にでもはっきりとわかる白のパーカーに細身の赤いパンツを合わせた人がゆっくりとこちらに近づいてくる。

奥歯に自然と力が入るのがわかる。

「みんな疲れてるな。ほらっ、元気出していこうぜ」

イトゥク兄さんが真っ先に声をかけてきた。

それまでハンギョン兄さんの右側に座っていたシウォンがすばやく席を立った。

するとその空いた場所には当然のようにヒチョル兄さんが座り、ハンギョン兄さんの方に顔を向けソファーの肘掛けに置いてある手に自分の手を重ねる。

その一連の流れには誰も気にするものもなく、それはごく当たり前のことで、そう食事の後に自然と歯を磨く行為となんら変わらないほどだ。

「ドンヘ何だよ、めちゃくちゃ怖い顔してるぜ」

ヒチョル兄さんに言われて我に返った俺は、そんなことないよ、自分でも顔の引きつりがわかるくらいの不自然な笑顔を見せた。

ヒチョル兄さんに気づかれてはいけないと思う一方で、ハンギョン兄さんへの想いの深さを気づかせたい自分がいる。

胸がむかむかする。

絡み合う二人の視線を見たくなくて、俺はシャンデリアの華やかな光を丁寧に浮かび上がらせている大理石に目を落とした。

「スタンバイできたぞ」

遠くで声がした。

プレスのひしめく前方、一段高くなった舞台が煌々と照らされ、俺たちの登場を今かと待ち構えていた。

5つだけ椅子が並べられたそこへメンバーが勢揃いするとフラッシュが次々にたかれ、真っ白な光が場内にあふれる。

まばゆい光に目を覆いたくなるのを堪えながら、俺は自分の前でお互いに耳打ちしながら楽しそうに笑い合う兄さんたちをじっと見ていた。

さんざん心の準備はしてきたはずなのに、どうしていざとなるとこうなんだろ。

平常心を保ちたい気持ちとは裏腹に呼吸は苦しくなり、心臓の背中の側がキリキリと痛む。

この感情を俺はどこへ持ってゆけばいいのだろう…

ふとある考えが俺の中に浮かんだ。

「ヒチョル兄さん、俺たちココだよ」

声を掛けながらキーロックを外しドアを開けた。

部屋を見回すと、かなり広くゆったりと造られたその空間にはさまざまな調度品が丁寧に並べられている。

窓から日差しが降り注ぎ明るい開放感のある雰囲気に思わず大きく息を吸い込んだ。

「いつ代わったんだ?」

背中にヒチョル兄さんのいぶかしげな声が刺さる。

「ああ…。シウォンがずっと風邪引いてたから、兄さんにうつること気にすると思って。さっき俺から声をかけたんだ。俺、一人部屋だっただろ。シウォンもそれなら気を使うことなくゆっくりできると思ったからさ」

声が不自然にうわずった。

「シウォン、具合悪いのか…そうか…なぁ、ドンヘ…」

「そ…それにさ、ヒチョル兄さんと久しぶりに会えたからいっぱい話したいことあったし。ほら、だってさ、今月の頭にソウル離れてからずっと仕事で電話とかもできなかったし」

俺はヒチョル兄さんの言葉を遮った。

ヒチョル兄さんが俺に言いたいことは全部わかっていた。

-ドンヘ、ハンギョンと代わってくれないか。

ヒチョル兄さんが望んでいることが手に取るようにわかっていた。

それは俺が想っていることとなんら変わらないことだから。

「兄さん、急がなきゃ。リハが始まるよ」

ヒチョル兄さんに考える隙を与えちゃいけない。

シンガポールにいる間の俺はヒチョル兄さんに気づかれないよう兄さんの周りにバリアを張り巡らせ、ハンギョン兄さんが自然に遠ざけるように仕向けた。

俺の行動は二人の間にひどく冷たい風を吹き込んだ。

朝の光を吸い込んだ吹き抜けのロビーは辺り一面透き通るような白を纏い俺たちに爽やかな目覚めを与える中、さっきまで俺の隣でそっと溜息を漏らしていたヒチョル兄さんが見当たらない。

俺は周りのメンバーに気づかれないようロビーを離れ、正面玄関を出て辺りを見回した。

どこまでも白い廊下が続くその先に二人の姿を見て捉えた俺は、息を潜め会話の聞こえる距離まで近づいた。

「…違わないさ、それは俺を避けてるのと同じことだ」

ヒチョル兄さんが声を荒げる。

「電話に出ないのは当たり前で、たまに出たと思ったら“忙しいから切るよ”って。あの頃から俺も気づいていれば良かったんだよな…」

「ヒチョル…久しぶりに会えてどうしてこんな話しになるんだ?」

「会ってわかったんだ。俺は…俺は離れていても俺たちの気持ちは揺らがないってずっと信じてた」

でも、と、ヒチョル兄さんは深く息を吸い込んで言葉を継いだ。

「絶対ということはこの世には存在しないんだな。俺たち、しばらく距離を置いた方がよさそうだ」

「待てよ、ヒチョル。突然そんな…」

ハンギョン兄さんに掴まれた腕を振り払うと、ヒチョル兄さんは振り返りもせず、お前だって気づいていたことだろう、そう言ってロビーへと続く回廊を歩いて行った。

「ヒチョル…」

弱々しいハンギョン兄さんの声が、柔らかな針を飲んだように俺の胸に刺さった。

二人の距離がどんどん遠くなるのを見ながら、嬉しさと後ろめたさの間で俺は揺れ動いていた。

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