我が家は大学病院の近くにあります。
大学病院が近いということは、いろいろな意味でとても心強いものです。
ただ、大学病院には医師の教育や最新医療の研究、あるいは先端医療を提供するという大きな役割があるわけで、「ちょっと風邪っぽいかな・・・?」と思うようなときに、気軽に診療を受けられる場所ではありません。
(最近では、紹介状がないと初診を受け付けてもらえない診療科も多いです)
だから、私は大学病院よりも、いつでも気軽に診てもらえる小さなクリニックがあったらいいな・・・と思っていました。
そんな私の願いが通じたかのように、我が家から2~3分の所に小さなクリニックが開業したのです。
もう20年以上も前のことです。
新規開業ですから、そのクリニックの評判は何も分かりませんでしたが、私は「インフルエンザワクチン」の接種に行きました。
(不遜ながらお試しに・・・と言う気持ちがあったことは否定しません)
その時の印象は、正直言って、それほど良いものではありませんでした。
何しろ、ドクターも看護師さんも、言葉がとてもブッキラボーなのです。
初対面なのに「うん、わかった」「そうかい?」「いいか?」「これか?」「あれか?」等々、会話がセンテンスにならず、もちろん丁寧語など論外。
聞く人によっては『横柄』と感じるかも知れません。
クリニックは普通の客商売とは違いますから、患者にお愛想を言ったり、媚びる必要は全くありませんが、それにしても・・・と思うほどでした。
でも、何度かクリニックに通い、ドクターや看護師さんの人柄が分かるにつれ、私の最初の印象は覆っていきます。
まず、ドクターも看護師さんも(お二人はご夫婦でした)日本人ではなかったのです。
ドクターは、学生の頃、台湾から日本の医大に留学、卒業後は日本の医師国家試験を受け、そのまま日本の医師になりました。
台湾にいるときからすでに付き合っていた奥様は、彼が日本に留学をすると決めたとき、「何が何でも、自分も一緒に行かなくては」と思ったそうです。
「こんな素敵な人を、一人で日本に行かせたら、必ず日本の女の子に取られてしまうから・・・」と。
そして、来日してからは自分が働き、彼が一人前の医師になるまで支え続けたのです。
心の中では、「この人を、日本人の女の子に取られてたまるものか・・・」という思いを強く抱きながら。
今、私はこのクリニックを『私のかかり付け医』と勝手に決めています。
お二人とも、言葉遣いは相変わらずブッキラボーですが、これは、日本人ではない故のものだと理解できますから、もう、何も気になりません。
それより何より、私がイメージする『かかり付け医』に近いのです。
患者の顔や名前はもちろんですが、身体のことも良く把握しています。
病気のことも患者の無知を馬鹿にしないで、きちんと説明をしてくれます。
家族の状況も気に掛けてくれ、いつも声を掛けてくれます。
大学病院に限らず大きな病院の医師達は、いつも忙しそうで、しかも事務的です。
診察の際にはパソコンの画面から目を離さず、患者の名前と顔が一致しているかどうかも分からないし、ましてや家族のことなど・・・。
そして、最近の医療は、検査結果によって診断を下し、治療をしていきます。
もちろん、それは正しい事でしょう。
でも、検査結果の基準値と自分の基準値は違うと思うのです。
その違いを埋めるのは、医師の言葉や態度。
病気の時の私達は心が弱っていますが、そんなとき、患者に寄り添って、話を聞いてくれるだけでも大きな励みになるものです。
私は、良い『かかり付け医』に巡り会うことが出来ました。
(第一印象で人を決めつけそうになったことを、つくづく反省しています)
ドクターのことを『こんな素敵な人』と奥様は言いましたが、それは見た目の姿形のことではなく、心根を指したのでしょう。
私も、ドクターはもちろんですが、彼を支え続ける奥様も、とても素敵な人だと思っています。
いつまでも、お二人で力を合わせて、クリニックを維持していって欲しい。
せめて、私が『かかり付け医』を必要としなくなるまで。。。。