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3丁目の夕日/教職課程講座

明日のための演習メモ

第2章 教師に対する揺るぎない信頼を確立する

2007-08-21 20:52:33 | Weblog
-教師の質の向上-

(1)あるべき教師像の明示

○  人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教師にかかっていると言っても過言ではない。国民が求める学校教育を実現するためには、子どもたちや保護者はもとより、広く社会から尊敬され、信頼される質の高い教師を養成・確保することが不可欠である。


○  優れた教師の条件には様々な要素があるが、大きく集約すると次の3つの要素が重要である。


教職に対する強い情熱
 教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感などである。
 また、教師は、変化の著しい社会や学校、子どもたちに適切に対応するため、常に学び続ける向上心を持つことも大切である。


教育の専門家としての確かな力量
 「教師は授業で勝負する」と言われるように、この力量が「教育のプロ」のプロたる所以である。この力量は、具体的には、子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級作りの力、学習指導・授業作りの力、教材解釈の力などからなるものと言える。


総合的な人間力
 教師には、子どもたちの人格形成に関わる者として、豊かな人間性や社会性、常識と教養、礼儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人格的資質を備えていることが求められる。また、教師は、他の教師や事務職員、栄養職員など、教職員全体と同僚として協力していくことが大切である。


(2)信頼される教師の養成・確保

ア 基本的な考え方

○  教師の質の向上のためには、養成、採用、研修、評価等の各段階における改革を総合的に進める必要がある。これらの改革に当たっては、教師を励ますような方向で進めるとともに、教職員の処遇の改善が図られるなど、教職や学校が魅力ある職業、職場となるようにすることが重要である。
 教職が魅力あるものとなるためには、教職員の地位や処遇が安定したものであって安心して子どもたちの教育に取り組めることは特に重要であり、資質能力を備えた教職員を安定的に確保するための確実な条件整備が欠かせない。
 そうした土台と合わせて、以下に述べるように、教員養成・免許制度の改革や教員評価の充実等により、教師が常に自己研鑽に努める環境整備が必要である。


○  現在の教師の年齢構成を見ると、大量採用期の40歳代から50歳代前半の層が多くなっており、今後、この世代が退職期を迎えることになることから、量及び質の両面から優れた教師を養成・確保することに十分留意する必要がある。特に、このような時期こそ、養成段階における教職課程の改善・充実を図ること、採用段階でより優れた教師を確保するための採用選考方法の工夫・改善を図ることは極めて重要となる。


○  教師の質の向上のためには、職場の同僚同士のチームワークを重視し、全員のレベルを向上させる視点と、個々の教師の能力を評価し、向上を図っていく視点の両方を適切に組み合わせることが重要である。その際には、校長のリーダーシップ及び学校を支える教育委員会の役割が重要である。

イ 教員養成・免許制度の改革

○  一般大学学部と教員養成系大学学部とが、それぞれの特色を発揮しつつ教員養成を行う「開放制」の原則は、幅広い視野と高い専門的知識を兼ね備えた人材を広く教育界に求める上で意義があり、今後とも尊重する必要がある。
 また、子どもの人格形成にかかわる教師には総合的な人間力が求められることを踏まえ、教員養成を担う大学においては、哲学、倫理学、歴史学等の人文科学や基礎科学等を幅広く履修し、広く豊かな教養を身に付けた人材を育成することが求められる。
 一方、国際的に質の高い教育を実現するためには、質の高い教師が養成されるよう、大学における教員養成の質の維持・向上を図る必要がある。また、教員免許状についても、教師としての資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。


○  大学での養成段階は、教師として最小限必要な資質能力を身に付けさせる段階であり、学校の実態やニーズも踏まえた資質能力の育成を含め、カリキュラム編成や成績評価の改善・充実を図ることが重要である。また、(1)で述べたようなあるべき教師像に示された教師を養成するという使命の重大さにかんがみ、教職課程認定の際の審査の在り方や、外部機関等が教職課程を事後評価する仕組みについても検討する必要がある。


○  高度な専門性と実践的な指導力を有する教師の養成や、現職教師の再教育の充実を図っていくため、学部段階における教員養成の着実な改善・充実とともに、とりわけ大学院段階における教員養成・再教育の格段の充実を図ることが必要である。このため、学校の様々な課題に即した実践的な教育を高度なレベルで行う教員養成分野における専門職大学院制度を創設する方向で検討することが適当である。その際には、現行の大学院修士課程との関係や、社会人を含めた幅広い分野からの入学者の受入れ等について検討する必要がある。


○  教師が、国民や社会から尊敬と信頼を得られるような存在となるためには、教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。このため、まず、免許状の授与の段階で、大学で養成すべき教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるよう、教員免許制度の在り方について見直すことが必要である。


○  また、教員免許状を取得した後も、社会状況の変化等に対応して、その時々で求められる教師として必要な資質能力が確実に保持されるよう、定期的に資質能力の必要な刷新(リニューアル)を図ることが必要であり、このための方策として、教員免許更新制を導入する方向で検討することが適当である。なお、我が国の教師の指導力が高いことについて正当な評価がなされないまま、教師に対する不信感のみから教員免許更新制を導入するのであれば、教師の意欲を喪失させる恐れがある。このため、教師の意欲を高める視点が必要であり、教員免許更新制の導入により、教師への人材登用の途を狭めることや、教師の身分を不安定にしたり、過剰な負担感を与え教職の魅力を低下させることのないよう留意する必要がある。

ウ 採用、現職研修の改善・充実

○  採用や初任者研修、10年経験者研修等の現職研修を通じて、実力ある教師の確保・育成を図ることが必要である。
 採用については、教師としての確かな指導力や総合的な人間力を見極めるため、人物評価を一層重視するとともに、大学の成績やボランティア等の諸活動の実績を評価する選考方法の改善を進めるなど、採用段階でより優れた教師を確保するための積極的な工夫・改善が必要である。また、今後、大量採用時代を迎えることが見込まれるため、民間企業経験者や退職教員等、多様な人材を登用するための工夫・改善も必要である。


○  研修については、校内研修や任命権者等が実施する研修といった体系的な研修と教師の主体性を重視した自己研修の双方の充実が必要である。また、国として、各地域において中核的な役割を担う教師等を一堂に集めて行う研修や、喫緊の重要課題に関する研修について、今後とも、一層の充実を図るとともに、都道府県教育委員会等に対する指導・助言・援助の機能も一層充実・強化する必要がある。研修の在り方については、講義形式だけでなく、実践的な指導力を向上させるとともに、内容・方法の工夫・改善を図ることが必要である。また、大学と教育委員会や学校との一層の連携を図っていくことが重要である。


○  教員養成・免許制度の改革が検討される中で、初任者研修や10年経験者研修等については、これまでの実績を検証し、研修内容・方法や受講者の評価の在り方も含め、一層の改善・充実を図ることが必要である。


○  教師の優れた指導実践を蓄積し、他の教師に継承していくことで、教師全体の指導力の向上を図ることができるような方策についても検討する必要がある。

エ 教員評価の改善・充実

○  学校教育や教師に対する信頼を確保するために、教員評価への取組が必要である。教師の評価は、民間企業で行われるような成果主義的な評価はなじみにくいという教師の職務の特殊性等に留意しつつ、単に査定をするのではなく、教師にやる気と自信をもたせ、教師を育てる評価であることが重要である。


○  教員評価に当たっては、主観性や恣意性を排除し、客観性をもたせることが重要であり、教師の権限と責任を明確にし、それに基づいて行うことが効果的である。


○  優れた教師を顕彰し、それを処遇に反映させたり、教師の表彰を通じて社会全体に教師に対する信頼感と尊敬の念が醸成されるような環境を培うことが重要である。


○  高い指導力のある優れた教師を位置づけるものとして、教育委員会の判断で、スーパーティーチャーなどのような職種を設けて処遇し、他の教師への指導助言や研修に当たるようにするなど、教師のキャリアの複線化を図ることができるようにする必要がある。


○  多くの教師は、教育活動や自己研鑽に熱心に努めているが、一方で、熱意や指導力の不足、必要な人格的資質の欠如など、問題のある教師がいることも事実である。安心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を実現するためには、これら問題のある教師に対し毅然と対処することが重要である。また、各教育委員会に設置されている相談窓口を通じ、教師に関する保護者の意見や苦情に対応していくことが必要である。

オ 多様な人材の学校教育への登用

○  優れた知識・技能と社会経験を持つ学校外の多様な人材を学校教育に積極的に登用していくことは、子どもたちに実社会と触れる機会を与え、社会とのかかわり方を身に付けさせるとともに、学校の活性化につながるものであり、有意義である。
 このため、特別非常勤講師制度や特別免許状制度を積極的に活用したり、学校ボランティアとして多様な外部人材の協力を得ることが重要である。


○  多様な人材の登用に当たっては、優れた指導力を有する退職教員を含む教職経験者や、企業等において種々の専門的な知識・技能を有する職業人、教員志望の学生など、地域や学校の実情に応じて様々な人材に協力を得る工夫が考えられる。
 その際、例えば、学校が中心となって組織を作ったり、活動の場を積極的に提供することなどによって、学校の教育活動にこれらの人材の協力を得ていくことが重要である。


○  校長や教頭といった管理職に人を得ることは肝要である。教頭については、管理職として民間企業等で培った経営感覚を生かすことが期待されることから、校長と同様に民間人などを登用できるよう、資格要件を緩和することが適当である。

第1章 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する

2007-08-20 20:51:06 | Weblog
-義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善-

(1)義務教育の使命の明確化

ア 義務教育の目標の明確化

○  義務教育については、憲法第26条において、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」こと、また、「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」ことが規定されており、具体的には、学校教育法において、保護者にその子女を満6歳から9年間、小学校、中学校等に就学させる義務が課されており、市区町村には小・中学校を設置する義務が課されている。


○  義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点に集約することができ、この両者の調和のとれた教育を実現することが必要である。
 このため、学校では、子どもたちに「確かな学力」として基礎的な知識・技能と思考力、創造力などを育むとともに、「豊かな心」、「健やかな体」を培い、これらをバランスよく育成することが求められる。
 このような義務教育の内容・水準は、ナショナル・スタンダードとして、全国的に一定基準以上のものを定め、その実現が保障されることが必要である。


○  国際的に質の高い教育の実現のためには、義務教育の目的に照らし、今日のグローバル社会、生涯学習社会において、義務教育段階の学校教育で具体的にどのような資質能力を育成することが求められるのかを明らかにすること、すなわち、義務教育の到達目標を明確化することが必要である。
 このため、義務教育9年間を見通した目標の明確化を図り、明らかにする必要がある。その内容としては、一人一人の子どもたちの個性や能力を伸ばし、生涯にわたってたくましく生きていく基礎を培うととともに、国家・社会の形成者として必要な資質能力を養うということを基本に据え、今後、教育基本法の改正の動向にも留意しながら、更に検討を進める必要がある。


○  国は、このような義務教育の目標が確実に実現されるよう、義務教育への十分な投資を行い、教育条件の整備に万全を期すとともに、示した目標が実現されているかどうかについて評価し、それを踏まえ、義務教育の質の保証と更なる向上に取り組んでいく必要がある。
 教育条件に関しては、義務教育の目標を実現する上で最も基本的な要素、すなわち、教育を直接担う教職員、子どもたちが学ぶ場である学校施設、主たる教材である教科書については、特に確実な条件整備が図られる必要がある。
 また、義務教育の目標の実現状況の評価・検証について、今後、国として力を注いでいく必要がある。学力だけではなく、体力や道徳性の育成なども含め、地域性や教師の指導方法などとの関係を含めて結果を検証し、それを学校の指導や国の施策の改善に生かし、義務教育の質の保証・向上を図っていくことが必要である。

イ 学校の役割の重要性の再認識

○  学校は、子どもたちが集団生活をする中で、義務教育の目標が実現されるよう、発達段階に応じて、教育内容を体系的に編成して提供し、組織的、計画的な教育を行うことを、その基本的な役割としている。また、学校がその役割を果たす上で、家庭や地域との連携・協力が大変重要である。


○  特に、平成8年7月の中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」以来、学校の役割を巡っては、学校、家庭、地域の連携、とりわけ家庭、地域の教育力の充実が必要であるとの基本的な方向がとられ、それに沿って、学校週5日制が導入され、子どもの居場所づくりなどの施策が推進されている。


○  学力の向上をはじめ子どもたちの健全な育成のためには、睡眠時間の確保、食生活の改善、家族のふれあいの時間の確保など、生活習慣の改善が不可欠である。子どもの育成の第一義的責任は家庭にあり、教育における保護者の責任を明確化することが必要である。
 また、学校外の多様な学習活動について、情報提供や支援を行い振興を図っていくことも有効である。
 さらに、大人が家庭や地域で子どもの教育に十分役割を果たせるようにするためには、大人の働き方の問題がかかわっており、企業の協力も必要である。男女共同参画社会において、職業を持つ母親が増えており、子育てと職業が両立できるようにするための行政や企業の取組、父親の子育てへの参画のための環境作りも求められる。


○  他方、今日、朝食をとっていない子どもの問題など、家庭や地域の教育力が依然として不十分な現状、あるいは今後更にそれらの教育力が低下する懸念、格差拡大の懸念などを背景として、学校と家庭、地域との役割分担の在り方が改めて議論されている。
 本審議会でも、家庭や地域の教育力を取り戻すことは難しく、学校への期待は大きいとの意見、一方で、本来家庭や地域が果たすべき機能を学校に持ち込むのではなく、家庭や地域がその責任を果たすことが必要であるとの意見、家庭の教育力が低下しているからといって学校の役割を拡大しても、子どもの心の満足は得られず、家庭の教育力は学校で代替できる性質のものではないとの意見などが出された。学校週5日制についても、両方の立場から様々な意見が出された。
 このほか、家庭の支援のための福祉行政との連携の必要性、ゲーム・テレビの影響などマスメディアを含め大人社会の在り方の問題なども意見として出された。また、学校と、家庭・地域とが共同し、両方が教育力を高めるべきとの意見も出された。


○  これらも踏まえると、学校週5日制についても、学校、家庭、地域の三者が互いに連携し、適切に役割を分担し合うという基本的な考え方は今後も重要であり、それを基本にしつつ、地方や学校の創意工夫を生かすことについて、今後さらに検討する必要がある。その際、特に、学校、家庭、地域の協力・共同の取組をこれまで以上に強化するための方策、土曜日や長期休業日の有効な活用方策等を更に検討する必要がある。


○  工業化社会から知識基盤社会へと大きく変化する21世紀においては、単に学校で知識・技能を習得するだけではなく、知識・技能を活かして社会で生きて働く力、生涯にわたって学び続ける力を育成することが重要である。
 そのためにも、21世紀の学校は、保護者や地域住民の教育活動や学校運営への参画等を通じて、社会との広い接点を持つ、開かれた学校、信頼される学校でなければならない。

(2)教育内容の改善

ア 基本的な理念・目標

○  「ゆとり」の中で「生きる力」をはぐくむことを理念とした現行の学習指導要領については、実施されて3年以上が経過しており、そのねらいは十分達成されたのかを、しっかりと検証していく必要がある。


○  現行の学習指導要領の学力観について、様々な議論が提起されているが、基礎的な知識・技能の育成(いわゆる習得型の教育)と、自ら学び自ら考える力の育成(いわゆる探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的にとらえるべきものではなく、この両方を総合的に育成することが必要である。
 これからの社会においては、自ら考え、頭の中で総合化して判断し、表現し、行動できる力を備えた自立した社会人を育成することがますます重要となる。
 したがって、基礎的な知識・技能を徹底して身に付けさせ、それを活用しながら自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育成し、「生きる力」をはぐくむという基本的な考え方は、今後も引き続き重要である。


○  他方、子どもたちの学力の現状については、昨年12月に公表された国際的な学力調査の結果から、成績中位層が減り、低位層が増加していることや、読解力、記述式問題に課題があることなど低下傾向が見られたところである。
 また、本年4月に公表された国立教育政策研究所の教育課程実施状況調査の結果からは、国語の記述式の問題について正答率が低下するなどの課題が見られた。
 しかし、同調査からは、学校における基礎的事項を徹底する努力等、学力向上に向けた取組による一定の成果も現われ始めている。一方、学習意欲、学習習慣・生活習慣などは、若干の改善は見られるが、引き続きの課題である。
 このような子どもたちの学力の状況を踏まえると、現行の学習指導要領については、基本的な理念に誤りはないものの、それを実現するための具体的な手立てに関し、課題があると考えられる。


○  以上のことを踏まえつつ、学習指導要領の見直しに当たっては、 ・  「読み・書き・計算」などの基礎・基本を確実に定着させ、教えて考えさせる教育を基本として、自ら学び自ら考え行動する力を育成すること
・  将来の職業や生活への見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる教育を充実し、学ぶ意欲を高めること
・  家庭と連携し、基本的な生活習慣、学習習慣を確立すること
・  国際社会に生きる日本人としての自覚を育てること
などを重視する必要がある。

イ 学習指導要領の見直し

○  前項で述べた基本的な考え方のもとに、以下のような点について、教育内容の改善を図る必要がある。


○  義務教育の目標を明確化するため、学習指導要領において、各教科の到達目標を明確に示すことが必要である。
 また、学習の評価についても、目標に照らして子どもたちのより確実な修得に資するようにすることなど、具体的な評価の在り方について今後検討が必要である。


○  学習指導要領は、すべての児童生徒に対して指導すべき内容を示す基準であり、学校においては、必要がある場合には、これに加えて指導することができるものである。国民として共通に学ぶべき学習内容を明確に定めた上で、学校ができるだけ創意工夫を生かして教育課程を編成できるようにすることが求められる。


○  国語力はすべての教科の基本となるものであり、その充実を図ることが重要である。また、科学技術の土台である理数教育の充実が必要である。このため、全体の見直しの中で、それらの授業時数の在り方について検討する必要がある。また、グローバル社会に対応し、小学校段階における英語教育を充実する必要がある。具体的な実施方法については専門的な検討が必要である。さらに、社会のIT化に対応し、学校の情報環境を整備し、情報リテラシーを高める教育を充実することも重要である。


○  総合的な学習の時間については、大きな成果を上げている学校がある一方、当初の趣旨・理念が必ずしも十分に達成されていない状況も見られる。
 また、義務教育に関する意識調査の結果によると、総合的な学習の時間については、全体として評価は高いが、小学校と中学校とでは教師、保護者、子どもの意識や評価に差があることが明らかになった。
 思考力、表現力、知的好奇心などを育成する上で総合的な学習の時間の役割は今後とも重要であるが、同時に、授業時数や具体的な在り方については、各教科との関係を明確化するなど改善を図ることが適当である。その際、全国的に一律に定めるのか、学校の裁量による弾力的な取扱いができるようにするのかなどを考慮する必要がある。
 また、学習が効果的に行われるよう、学校に対する支援策を充実することが必要である。さらに、総合的な学習の時間の充実のためには、学校外の人材の協力や地域との連携が重要である。


○  学校図書館は、子どもたちの読書活動や主体的な学習を支えるために欠くことのできないものであり、その充実を図る必要がある。その際、司書教諭や学校図書館を担当する職員の役割が更に重要になることから、それらの充実を図る必要がある。


○  指導方法については、従来の一斉指導の方法も重視することに加えて、習熟度別指導や少人数指導、発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的かつ適切に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれる。


○  教科書、教材の質、量両面での充実も必要である。特に、教科書については、義務教育の質の向上を図る上で主たる教材として重要な役割を果たすものであり、子どもたちが学習内容について十分に理解を深め、基礎・基本を確実に身に付けられるよう工夫され、かつ、特色ある教科書が提供されることが必要である。


○  子どもたちの健やかな心と体の育成も重要な課題である。学校生活を通じて社会性や集団性を育成すること、健康で安全に生活できる能力を身に付けさせること、子どもたちの創造力や体力をはぐくむ教育活動の充実を図ることが必要である。

ウ 学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施

○  各教科の到達目標を明確にし、その確実な修得のための指導を充実していく上で、子どもたちの学習の到達度・理解度を把握し検証することは極めて重要である。客観的なデータを得ることにより、指導方法の改善に向けた手がかりを得ることが可能となり、子どもたちの学習に還元できることとなる。このような観点から、子どもたちの学習到達度・理解度についての全国的な学力調査を実施することが適当である。なお、実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。


○  具体的な実施の方法、実施体制、結果の扱い等について更に検討する必要がある。その際には、自治体や学校が全国的な学力状況との関係でそれぞれの学力状況を把握することにより、教育の充実への取組の動機付けとなることが重要な視点であると考えられる。


○  また、併せて、収集・把握する調査データの取扱いに慎重な配慮をしつつ地域性、指導方法・指導形態などによる学力状況との関係が分析可能となる方法を検討する必要がある。なお、学力調査の調査内容に関しては、知識・技能を実生活の様々な場面などに活用するために必要な思考力・判断力・表現力などを含めた幅広い学力を対象とすることが重要である。

エ 関連する課題

○  小・中・高等学校の各学校段階を通じて、自然体験、職場体験、就業体験(インターンシップ、デュアルシステム)、奉仕体験などの体験活動を計画的・体系的に推進する必要がある。ニートやフリーターの問題が指摘される中、キャリア教育の推進が求められており、このような観点からも、苦労して成果をあげる体験は意義が大きい。
 さらに、少子化の中で、兄弟姉妹の少なくなっている子どもたちが年齢や学年、学校種を超えて交流する機会や、自然の中での長期の集団宿泊体験の機会などを拡大することが必要である。


○  家庭教育や幼児教育との連携を図り、基本的な生活習慣を確立し、学ぶ意欲を高めるため、幼児教育と小学校教育との連携を図ることが重要である。


○  教育活動の充実のためには、子どもたちが過ごす学校の規模が適正であることも必要と考えられる。


○  義務教育において、個性的で特色ある教育機会を提供する上で、私立学校の役割は重要である。平成14年には小学校及び中学校の設置基準が制定され、私立の小・中学校の数も増加傾向にあるが、今後とも、公立学校、私立学校それぞれの充実が図られ、互いにその役割を発揮し合うことが重要である。


○  公立の小・中学校については、学力の育成の面で不安があり、これが理由となって子どもを学習塾に通わせる保護者が少なくないとの指摘がある。また、このことが、教育費の家計負担の増大や家庭の経済的な条件による教育格差の拡大につながっていることも懸念されている。
 義務教育においては、教育の機会均等や一定の水準確保が損なわれたり、無償制が損なわれたりすることは許されない。公立義務教育諸学校は、子どもたちが成長発達していく上で必須不可欠な学力、体力、道徳性を育成する責任を負っている。関係者はこのことをしっかりと自覚し、基礎・基本の確実な定着、家庭と連携した学習習慣の確立などに取り組む必要がある。

(3)義務教育に関する制度の見直し

○  義務教育を中心とする学校種間の連携・接続の在り方に大きな課題があることがかねてから指摘されている。また、義務教育に関する意識調査では、学校の楽しさや教科の好き嫌いなどについて、従来から言われている中学校1年生時点のほかに、小学校5年生時点で変化が見られ、小学校の4~5年生段階で発達上の段差があることがうかがわれる。研究開発学校や構造改革特別区域などにおける小中一貫教育などの取組の成果を踏まえつつ、例えば、設置者の判断で9年制の義務教育学校を設置することの可能性やカリキュラム区分の弾力化など、学校種間の連携・接続を改善するための仕組みについて種々の観点に配慮しつつ十分に検討する必要がある。


○  少子化、家庭の教育力の低下などの状況の中で、幼児教育の充実、幼小連携の推進に資するため、幼稚園への就園を一層推進し、そのための奨励事業を拡大する必要がある。また、幼稚園の保育内容の改善充実や預かり保育の拡充、幼稚園と小学校の教育課程の連携、幼稚園と保育所との連携、就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の実現などを図ることも重要である。


○  不登校への対応を考えるに当たっては、不登校児童生徒の減少に成功した学校の取組例を参考にすることも重要である。さらに、不登校等の児童生徒について、一定の要件のもとで、フリースクールなど学校外の教育施設での学修を就学義務の履行とみなすことのできる仕組み等について検討することも求められる。


○  特別支援教育について、障害の種別ごとの盲・聾・養護学校を、障害の重度・重複化に対応し、小・中学校等を支援するセンター的機能をもつ特別支援学校に転換すること、また、小・中学校等において、特別支援教育の体制を整備し、LD、ADHD等の児童生徒への支援を充実することが必要である。


○  このほか、幼稚園や高等学校を義務教育の対象とするなど義務教育の年限を延長すべきとの意見、義務教育への就学年齢を引き下げ5歳児からの就学とすべきとの意見なども出されたが、これらについては、学校教育制度全体の在り方との関係など慎重に検討すべき点があること、義務教育に関する意識調査の結果ではこれらの事項について賛成する割合が全体として低かったことなども踏まえ、今後引き続き検討する必要がある。

第Ⅱ部 各論

2007-08-19 20:50:03 | Weblog
序章 義務教育の質の保証・向上のための国家戦略

○  資源に恵まれない我が国は、教育を通じて人材育成を充実することが何より重要である。
 国際的な大競争時代の今日、どの国においても義務教育の質の保証・向上が国家戦略の中核に据えられている。我が国においても、諸外国に遅れをとることなく、世界最高水準の教育を目指し、人材育成の基盤である義務教育の質の向上に国家戦略として取り組む必要がある。


○  第部で述べた新しい義務教育の創造に向けた構造改革の方向を具体的な改革策として整理すると、以下の4つの教育国家戦略になる。そこで、第部では、以下の戦略に即して、義務教育の改革策を述べたい。


教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する
 義務教育の到達目標を明確化し、教育内容の改善を図るとともに、質の高い教科書を確保する。また、実際に教育の成果が上がっているか結果を評価・検証するための方策を講じる。これらにより、すべての子どもたちに質の高い教育を保証する。


教師に対する揺るぎない信頼を確立する
 教師に対して児童生徒・保護者・国民から尊敬と揺るぎない信頼が得られ、国際的にも教師の質が高いものとなるよう、国の責任で、教員養成の質的な水準を高め、採用後も教師の質が常に向上するような仕組みの充実を図る。


地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める
 地方・学校の主体性と創意工夫によって教育の質の向上を図るため、国がナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための財源保障など諸条件を整備した上で、市区町村が行うべきことは市区町村が、学校が行うべきことは学校が担うシステムを確立する。学校は、自主性・自律性の確立のため、権限と責任を持つとともに、保護者・住民の参画と評価で透明性を高め説明責任を果たすシステムを確立する。


確固とした教育条件を整備する
 義務教育の質の保証・向上を図るため、教職員配置、学校施設、設備、教材など教育の実施を支える財源などの教育条件の整備については、国際的にも誇れる確固たるものとなるよう、国の責任でその確立に万全を期す。

第Ⅰ部 総論

2007-08-18 20:48:54 | Weblog
(1)義務教育の目的・理念

 変革の時代であり、混迷の時代であり、国際競争の時代である。
 このような時代だからこそ、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成を担う義務教育の役割は重い。
 国は、その責務として、義務教育の根幹(機会均等、水準確保、無償制)を保障し、国家・社会の存立基盤がいささかも揺らぐことのないようにしなければならない。

○  憲法第26条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、また、その権利を実現するために、義務教育の制度が設けられている。
 義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点であり、このことはいかに時代が変わろうとも普遍的なものである。


○  子どもたち一人一人が、人格の完成を目指し、個人として自立し、それぞれの個性を伸ばし、その可能性を開花させること、そして、どのような道に進んでも、自らの人生を幸せに送ることができる基礎を培うことは、義務教育の重要な役割である。
 自らの頭で考え、行動していくことのできる自立した個人として、変化の激しい社会を、心豊かに、たくましく生き抜いていく基盤となる力を、国民一人一人に育成することが不可欠である。


○  同時に、義務教育は、民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な国民としての資質を育成することをその責務としている。
 文化・政治・経済・科学・技術などあらゆる面において、これからの社会の在り方は、それを担う人材によって決定される。
 我が国が、変動の激しいこれからの時代において、今後とも国際的な競争力を持つ活力ある国家として、また、世界に貢献する品格ある文化国家として発展するためには、国民一人一人が、そのような国家・社会の形成者として、それぞれの分野で存分に活躍することのできる基盤を、義務教育を通じて培う必要がある。


○  こうした義務教育の目的に照らせば、学校は、知・徳・体のバランスのとれた質の高い教育を全国どこでも提供し、安心し信頼して子どもを託すことのできる場でなければならない。
 国民が質の高い教育をひとしく受けることができるよう、憲法に定められた機会均等、水準確保、無償制という義務教育の根幹は、国がその責務として保障する必要がある。
 特に、現代社会では、すべての国民に地域格差なく一定水準以上の教育を保障する義務教育制度の充実は、格差の拡大や階層化の進行を防ぐセーフティ・ネットとして、社会の存立にとって不可欠なものとなっている。


○  変革の時代であり、混迷の時代であり、また、国際競争の時代でもある今日、人材育成の基盤である義務教育の根幹は、これまでのどの時代よりも強靭なものであることが求められる。
 教育を巡る様々な課題を克服し、国家戦略として世界最高水準の義務教育の実現に取り組むことは、我々の社会全体に課せられた次世代への責任である。

(2)新しい義務教育の姿

 学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。公立学校に対する不満も少なくない。
 我々の願いは、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことである。
 そのために、質の高い教師が教える学校、生き生きと活気あふれる学校を実現したい。
 学校の教育力、すなわち「学校力」を強化し、「教師力」を強化し、それを通じて、子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標である。

○  学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。学力低下への懸念、塾通い等、特に公立学校に対する不満は少なくない。それらは時代や社会の変化に起因するものもあるが、学校教育、教育行政が十分対応できなかったことも否めない。
 義務教育は子どもが成長発達していく上で不可欠な学力、体力、道徳性を養う責任を担っている。義務教育の失敗は、国家・社会の存立基盤を揺るがすことになる。


○  小・中学校等の義務教育学校は、保護者や地域の期待に応え、子どもの社会的自立を支え、一人一人の多様な力と能力を最大限伸ばす場とならなければならない。


○  我々は、これからの新しい義務教育の姿として、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことを目指し、高い資質能力を備えた教師が自信を持って指導に当たり、そして、保護者や地域も加わって、学校が生き生きと活気ある活動を展開する、そのような姿の学校を実現することが改革の目標であると考える。
 学校の教育力(「学校力」)を強化し、教師の力量(「教師力」)を強化し、それを通じて、子どもたちの「人間力」の豊かな育成を図ることが国家的改革の目標である。


○  学校は、目指す教育の目標をこれまで以上に明確に示し、それに即して、子どもたちに必要な学力、体力、道徳性をしっかりと養い、教育の質を保証することが求められる。指導力不足など問題のある教師が教壇に立つことがないようにし、優れた教師を称え、信頼され尊敬される教師が指導に当たる学校にならなければならない。


○  同時に、これからの学校は、保護者や地域住民の意向を十分反映する、信頼される学校でなければならない。また、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)や学校評議員の積極的活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進することも求められる。教育を提供する側からの発想ではなく、教育を受ける側である保護者や子どもの求める質の高い教育の場となる必要がある。教育現場の意識改革がその鍵を握っている。


○  義務教育の改革を通じて、子どもたちが、知力、体力を身に付け、徳を備えた人間として成長し、それぞれの志や希望を実現して幸せをつかむとともに、我が国が活力と誇りに満ちた、世界から尊敬される国として発展することが可能になるものと確信する。

(3)義務教育の構造改革

 今こそ、義務教育の構造改革が必要である。
 義務教育システムについて、目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行った上で、市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果の検証を国の責任で行い、義務教育の質を保証する構造に改革すべきである。

○  新しい義務教育の実現に向けて、現在の教育システム全体を真摯に検証することが必要である。我が国の義務教育の良さや強みは維持する一方、これまでの政策について、実証的な立場から検証し、反省すべき点は反省し、改めるべき点は改めるという姿勢に立って、義務教育の構造改革に取り組むことが求められる。


○  義務教育の構造改革の基本方向として、国が明確な戦略に基づき目標を設定してそのための確実な財源など基盤整備を行った上で、教育の実施面ではできる限り市区町村や学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果について国が責任を持って検証する構造への転換を目指すべきである。
 いわば国の責任によるインプット(目標設定とその実現のための基盤整備)を土台にして、プロセス(実施過程)は市区町村や学校が担い、アウトカム(教育の結果)を国の責任で検証し、質を保証する教育システムへの転換である。


○  こうした義務教育の構造改革により、国の責任でナショナル・スタンダードを確保し、その上に、市区町村と学校の主体性と創意工夫により、ローカル・オプティマム(それぞれの地域において最適な状態)を実現する必要がある。
 国の責任と分権改革は、車の両輪である。両者が相まって、時代を切り拓く新しい義務教育を実現する必要がある。

(4)国、都道府県、市区町村の役割の明確化と協力関係の強化

 義務教育の中心的な担い手は、学校である。
 国、都道府県、市区町村の協力で、学校を支えなければならない。
 国は義務教育の根幹保障の責任を、また、都道府県は域内の広域調整の責任を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、より大きな権限と責任を担うシステムに改革する必要がある。

○  現実の教育の在り方を考えるとき、子どもたちの最も身近なところで教育活動を担っているのは学校であり、市区町村である。
 義務教育の構造改革に当たっては、こうした学校や市区町村が、それぞれの地域の状況を踏まえた最適な教育を行うことができるよう、できる限りその権限と責任を拡大する改革を進めることが必要である。
 併せて、教育委員会と学校との関係をより良いものにすることにより、自立して質の高い教育を提供する学校を実現することが必要である。
 義務教育について、今後求められる分権改革の重点は、都道府県から市区町村への分権、教育委員会から学校への権限移譲である。


○  同時に、義務教育は、国家・社会の存立基盤であり、国全体で共同して支えることが不可欠である。
 全国的に一定水準の教育を保障する最終的な責任は、国が担うべきものである。国は、その責務として、各学校、市区町村が創意あふれる教育に取り組むために必要な基盤整備を行う必要がある。


○  国、都道府県、市区町村の役割を明確にし、三者の協力関係を強化した上で、学校の存分な取組を支援する仕組みが必要である。
 すなわち、国が義務教育の根幹を保障する観点から、また、都道府県が域内の広域調整の観点から、それぞれの役割を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、これまで以上に多くの権限と責任を持つシステムへの転換を図る必要がある。

(5)義務教育の基盤整備の重要性

 義務教育を支える基盤整備は確固たるものでなければならない。
 そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。
 とりわけ重要なのは教職員である。
 教育の成否は、資質能力を備えた教職員を確実に確保できるか否かにかかっている。
 教職員の養成、配置、給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。

○  義務教育の構造改革を行い、質の保証・向上を図る上で、それを支える教育基盤の整備は極めて重要である。教職員の養成・配置、学校施設、設備、教材などの教育基盤は確固たるものである必要がある。そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。


○  とりわけ重要なのは教職員である。
 教育は、教師と子どもたちとの人格的ふれあいを通じて行われる営みである。
 人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教職員にかかっていると言っても過言ではない。
 どの国においても、教職員の質と量を確保するための戦略は大きな課題である。
 資質能力を備えた教職員を安定的に確保できるか否か、教職員が安心して職務に従事できる環境があるか否か、教職員を尊敬する社会であるか否かは、教育の成否の鍵を握る問題である。


○  義務教育こそ、外交や防衛とともに国が担うべき最重要政策であり、そのために必要な教育費の総額は確実に確保されなければならない。
 特に、機会均等や水準の維持向上などの義務教育の根幹を保障するためには、優れた教職員の必要数を全国どこでも確保できることが不可欠である。
 教職員の人件費は義務教育費全体の四分の三を占める最大の要素であり、教職員の養成、配置や給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。

(6)義務教育の費用負担の在り方

 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。
 教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費も、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。
 公立学校施設の整備についても、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持って推進すべきである。

○  義務教育の経費の大半を占める教職員の確保と適正配置のため、昭和15年に義務教育費国庫負担法が成立しており、国と地方の共同により教職員給与費を負担している(終戦後の昭和25~27年度にシャウプ勧告により一時的に廃止されたが、全国知事会からの要請もあり昭和28年度に復活)。これにより、教職員給与費として都道府県が実際に支出した額の二分の一を国が負担することを通じて、教職員人件費の総額確保が果たされている。
 また、負担金の交付に当たって、地方の裁量を拡大する仕組み(総額裁量制)も導入されている。


○  平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策と、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方の検討が、中央教育審議会に求められた。


○  地方六団体は、義務教育費国庫負担金の全額を廃止し税源移譲の対象とすることを前提として、まず中学校分8,500億円に係る負担金を移譲対象補助金とすることを求めている。一方、平成17年度には1,044の市区町村(全国の市区町村の47パーセント)の議会から義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている(10月25日現在)。これは平成16年度から通算すると全国の市区町村の65パーセントに達する。
 中央教育審議会は、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下で、地方の意見を真摯に受け止め、費用負担についての地方案を活かす方策について審議を行った。


○  地方六団体から推薦された委員(以下「地方六団体委員」という。)は、国が義務標準法や学習指導要領を定めた上で、税源移譲による一般財源化を行って、地方の自由度を拡大し、自らの責任と判断で義務教育を運営する方法が地方分権の観点からも最も適切であるとの意見を述べた。
 しかし、多くの意見は、地方公共団体間の財政力格差や教育格差が生じることを懸念するものであった。税源移譲を行った場合、47の都道府県のうち40の道府県で義務教育費国庫負担金による配分額よりも税源移譲額が下回ることが推計されている。


○  一方、義務教育の質の向上のためには、最も確実性・予見可能性の高い方法を選択すべきであり、そのためには義務教育に使途が特定された財源保障の制度、すなわち国庫負担制度が不可欠であるとの意見が多く出された。


○  義務教育の主たる経費である教職員の給与を保障する方法としては、全額を国庫負担する制度、現行の国庫負担制度のように国と地方が負担割合を法定し、それにより給与費の全額が保障される制度、全額一般財源化により、地方が全額を負担する制度、などが考えられる。


○  義務教育の機会均等と水準の維持向上を図ることは国の存立に関わるもっとも重要な基本政策である。義務教育の成果は、一地方にとどまらず、国全体に関わるものであり、義務教育の経費はこの観点から考えられなければならない。また、教育の質の向上のためには、教職員が安心して職務に従事できる基盤の保障と強化が重要である。


○  義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は、教職員給与費の優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。


○  中学校に係る国庫負担金を対象から外すという考え方については、同じ義務教育である小学校と中学校の教職員の取扱いを分けることになり、合理性がなく、適当ではない。


○  教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費についても、国と地方の協力により、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。


○  さらに、重要な教育基盤である公立学校施設の整備は、大きな地域間格差が生じてはならないものであり、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持って推進すべきである。


○  地方六団体が目指す教育の地方分権についての提案は、本答申を貫く一つの理念として十分尊重されている。学校や市区町村が、特色ある教育活動、柔軟な学級編制などを行い、それぞれの地域の伝統や独自の文化を生かし、個性ある多様な人材を育てることが重要である。それは、学校とその設置者である市区町村の裁量権限と自由度の拡大を進めることにより実現されるものであり、義務教育費国庫負担金や公立学校施設整備費負担金等を通じ国がその財源を担保することが重要であると考える。

新しい時代の義務教育を創造する(答申)

2007-08-17 20:47:21 | Weblog
はじめに
○  中央教育審議会は、平成15年5月の「今後の初等中等教育改革の推進方策について」、平成16年3月の「地方分権時代における教育委員会の在り方について」、平成16年10月の「今後の教員養成・免許制度の在り方について」の3つの諮問を受け、義務教育の在り方について審議を進めてきた。


○  また、国庫補助負担金、税源移譲を含む税源配分、地方交付税の在り方を一体的に見直すこととしている「三位一体の改革」において、義務教育費国庫負担金をはじめとする義務教育に係る費用負担の在り方が議論となった。
 中央教育審議会では、平成16年5月に初等中等教育分科会教育行財政部会・教育条件整備に関する作業部会が「義務教育費に係る経費負担の在り方について(中間報告)」において考え方をとりまとめている。


○  その後、平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、平成18年度までの三位一体の改革に関して合意がなされており、その中で、「義務教育制度については、その根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する。その方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策を検討し、また教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方について幅広く検討する」こととされ、「こうした問題については、平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得る」とされた。
 これを受け、中央教育審議会では、義務教育の在り方について集中的な審議を行うため、平成17年2月、総会直属の部会として義務教育特別部会を設置した。


○  義務教育特別部会は、平成17年2月28日の第1回以来、これまで8ヶ月の間に41回の会議を開催した。
 その審議経過については、まず、5月23日の総会に、子どもの現状、学力の問題、教育内容、義務教育制度、教師像、学校像、教育委員会の在り方、国と地方の関係、教育費総額とその内容などを中心とする「審議経過報告(その1)」が報告された。
 続いて、合宿集中審議等を経て、7月19日の総会に、義務教育に関する費用負担の在り方を中心とする「審議経過報告(その2)」が報告された。
 また、今回の審議に当たっては、幅広く各界各層の意見を徴するため、有識者、関係団体、関係省庁等からの意見聴取や、地方公聴会(一日中教審)の開催(水戸市及び高知市)、文部科学省ホームページにおける意見募集、「義務教育に関する意識調査」の実施などに積極的に取り組んだ。御協力いただいた方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げたい。
 これらを踏まえ、8月以降、義務教育特別部会及び総会において、更に審議を深め、このほど本答申をとりまとめたものである。


○  本答申は第部総論と第部各論から成っている。総論においては、我々の目指す義務教育の改革の基本的な方向性を述べ、各論においては、この改革の実現のための具体的な改革策を述べるとともに、審議の過程において出された様々な意見についても盛り込んでいる。したがって、第部、第部全体を通して我々の考えを御理解いただきたい。


○  答申をとりまとめるに当たっては、できるだけ簡潔で分かりやすいものを目指した。このため、委員から出された数多くの意見や提言をすべて盛り込むことはしていない。これらの意見、提言については、審議経過報告や議事録もご覧いただき、本答申に至る背景を御理解いただきたい。


○  なお、義務教育の在り方に関する審議事項は極めて広範にわたることから、学習指導要領の見直しを含む教育内容の改善や教育評価については教育課程部会で、教員養成・免許制度の改革については教員養成部会で、また、教職員配置の改善に関しては別途設置された調査研究協力者会議で、それぞれ専門的な検討が行われてきた。本答申では、それらの検討の成果をも踏まえつつ、基本的な方向について提言を行っている。教育内容、教育評価、教員養成・免許制度に関しては、引き続き、関係部会等で審議を深めることとしている。


○  義務教育は、国民一人一人の幸せな人生の実現の根幹であるとともに、国や社会の発展の基礎である。
 中央教育審議会としては、我が国の将来を見据え、新しい時代の義務教育の在り方について総合的な展望を描くことを目指し、限られた時間の中で全力を尽くして議論を行い、答申をとりまとめた。
 政府においては、義務教育の在り方について中央教育審議会において結論を得るとされた政府・与党合意のとおり、本答申の内容を責任を持って確実に実現していただきたい。
 国民の皆様には、本答申の内容が確実に実現されるかどうかをしっかりと見守っていただきたい。

第二章 教員の校務と学校の組織運営体制の見直し

2007-08-16 08:35:48 | Weblog
第二章 教員の校務と学校の組織運営体制の見直し
1. 教員の校務と学校事務の見直し

○  教員勤務実態調査暫定集計の結果によれば、7月、9月、10月、11月の通常期の小中学校の教諭の残業時間が1日あたり平均約2時間となるなど、昭和41年の勤務状況調査の結果と比べ、残業時間が増加しており、まずはこの事実を認識する必要がある。その上で職務内容を分析すると、子どもの指導に直接かかわる業務以外の、学校経営、会議・打合せ、事務・報告書作成等の学校の運営にかかわる業務や保護者・PTA対応、地域対応等の外部対応といった業務に多くの時間が割かれている。教育の質の向上を図っていくには、何よりもまず、教員が子どもたちに向き合い、きちんと指導を行えるための時間を確保することが重要である。


○  このため、教員の校務について見直しを行い、校長、教頭、教諭、助教諭、講師や事務職員などのそれぞれの職に応じた役割分担の明確化を図り、教諭、助教諭、講師(以下「教諭等」という)が子どもたちの指導のための時間を十分に確保できるようにすることが必要である。
 また、校長及び教頭は、学校組織のマネジメントをしっかりと行い、特定の教員の勤務負担が過重にならないよう、教員の時間外勤務の縮減や勤務負担の適正化等を図る必要がある。


○  教員の校務を整理をした上で、なお教員が行う必要のある学校事務については、以下のような方策を通じて軽減・効率化を図り、時間外勤務を縮減していくことが必要である。  Eメールや電子掲示板の活用などを通じて会議・打合せの回数・時間を縮減する。このため、教員に1人1台パソコンを整備することやICT活用を支援できる職員の確保など学校のICT環境の整備・充実を図る。
 国・都道府県・市町村等が行う調査の縮減・統合を図る。
 業務日誌、学校運営関連書類等の様式の簡素化・統一化を図る。


○  あわせて、教員が抱える事務負担を軽減するため、事務職員が学校運営に一層積極的に関わるとともに、そのサポートにより、教員の事務負担を軽減することができるよう、事務の共同実施の促進、事務職員の質の向上のための研修の充実などを行うとともに、教育委員会の判断により大規模な学校や事務の共同実施組織に事務長(仮称)を置くことができるように制度の整備を行うなど、事務処理体制の充実を図っていくことが必要である。
 また、アウトソーシングが可能な業務については、専門的な能力を持った民間人や退職教員等を活用して積極的にアウトソーシングしていくことも必要である。


○  学校をより地域に開かれたものとし、地域全体で支えていくため、地域対応に関連する活動や放課後・週休日の活動について、放課後子どもプランの推進などを通じて地域住民や退職教員等が積極的に参画するようにし、地域社会との連携を通じた教育の活性化や教員の負担を軽減するサポート体制の構築を図っていくことが必要である。


○  学校を取り巻く社会環境は日々変化し、それに伴い、子どもたちが抱える背景も複雑化・多様化しているため、現在の教員には、いじめ、問題行動、不登校並びに被虐待児童及び外国人児童生徒への対応、発達障害も含めた特別支援教育といった様々な教育課題に取り組むことが求められている。
 これらの教育上の諸課題に対応するため、教員の職務の見直しや学校事務の軽減・効率化を図るとともに、教職員や外部人材の配置の充実、又は様々な教育課題に対応できるような研修の充実を図ることが必要である。
 なお、これらの諸課題は、必ずしも教育だけで解決するものではないことがあるため、外部専門家の活用や、福祉や医療等関係機関との連携を促進することも必要である。


2. 学校の組織運営体制の見直し

○  現在の学校はいわゆる鍋蓋型組織となっており、管理職である校長・教頭以外は職位に差がない教諭が大多数を占めている。その結果、学校をめぐる環境の複雑化に伴い、教頭の学校運営に係る各種調整のための業務が増大してきており、教員勤務実態調査暫定集計の結果においても教頭のこれらに係る勤務時間がかなり長くなっている。より円滑な学校運営を実施していくためには、教頭の業務のサポートが必要となってきている。


○  このような状況を踏まえ、教頭の複数配置を促進するとともに、校長を補佐し、担当する校務を自ら処理する副校長(仮称)制度や校長及び教頭を補佐して担当する校務を整理するなど、一定の権限を持つ主幹(仮称)制度の整備を行うことが必要である。その場合においては、副校長(仮称)や主幹(仮称)の職務内容や既存の職との関係を整理するとともに、学校の組織運営上の必要性、学校規模や市区町村及び各学校の状況などを踏まえつつ、都道府県・政令指定都市教育委員会の判断により学校に配置できるようにすることが必要である。


○  各学校においては、校務分掌上の部科や主任の在り方等既存の学校組織の在り方の見直しを行うとともに、必要に応じて都道府県・政令指定都市教育委員会から教頭の複数配置、主幹(仮称)や事務長(仮称)の配置などを受けることにより、一層効率的な学校運営組織の構築を図るとともに、校務分掌や役割分担の在り方を整理していくことが必要である。


3. 学校の指導体制の充実

○  教育の質の向上を図るためには、校外における研修の充実だけでなく、校内におけるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:職場内研修)を通じて、日々の実践の中で個々の教員の資質向上を図ることが重要であり、そのためには、指導力に優れた教諭が、他の教諭等に対して日常的に教育上の指導助言や研修を行い、学校全体として教員の指導力を高めていくことが必要である。


○  このため、各学校の必要性に応じて、指導力に優れ、他の教諭等への教育上の指導助言や研修に当たる職務を担う指導教諭(仮称)の職を設け、都道府県・政令指定都市教育委員会の判断により、学校に配置できるように制度の整備を行い、教諭のキャリアの複線化に資するようにすることが必要である。

第一章 教員給与をはじめとした処遇の在り方についての基本的な考え方

2007-08-15 08:35:03 | Weblog
第一章 教員給与をはじめとした処遇の在り方についての基本的な考え方
○  近年、我が国の社会は、グローバル化、情報化、少子化、高齢化など、社会構造の大きな変革期を迎えており、このような時代にあって、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成を担う学校教育の重要性はますます高まってきている。「教育は人なり」といわれるように、学校教育の成否は教員の資質、能力や熱意に負うところが極めて大きく、教員は子どもたちの心身の発達に関わり、その人格形成に大きな影響を与える重要な責任を持っている。


○  社会の価値観の多様化や地域や家庭の教育力の低下など、近年の学校を取り巻く環境の変化の中で、学校教育に対する過度な期待や学校教育が抱える課題の一層の複雑化・多様化が進んできている。このような中、学校の管理運営や外部対応に関わる業務が増えてきており、結果として教員に子どもたちの指導の時間の余裕がなくなってきている。
 このような状況を踏まえ、教員の職務について見直しを行い、それぞれの職に応じた役割分担の明確化を図るとともに、学校事務の軽減・効率化又は事務体制の強化を図ることなどにより、教員が子どもたちの指導により専念できるような環境を整備していくことが必要である。
 さらに、学校を取り巻く環境の変化により、学校運営に係る業務が増大してきていることを踏まえ、新たな職の設置も含めて学校の組織運営体制の見直しを図ることにより、学校運営の効率化を進めていくことも必要である。


○  このような教員の職務の見直しや新たな職の設置を踏まえつつ、教員が、教員としての使命感や誇り、熱意を持って子どもたちの指導を行っていくことができるよう、教員の職務と責任の特殊性に応じて適切に給与が定められ、処遇されなければならない。
 このためには、まず、教員という職業が魅力あるものとなり、教員に優秀な人材が確保されるよう、やりがいのある職務内容とし、その職務に合致した勤務形態にするとともに、教員の給与の一定程度の水準が安定的に確保され、安心して教育活動に取り組むことができるようにすることが必要である。
 また、教員が適切に評価され、教員の士気が高まり、教育活動が活性化されていくためにも、それぞれの職務に応じてメリハリを付けた教員給与にしていくことが必要である。
 さらに、教員一人一人の能力や業績を評価し、教員に意欲と自信を持たせるよう、適切な教員評価の構築に取り組み、指導力や勤務実績に優れた教員を適切に評価できるようにし、その実施状況を踏まえつつ、評価結果を任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映していくことが必要である。
 一方、大多数の教員が懸命に職務に従事している反面、一部に指導力不足教員や不適格教員などが存在することも事実であり、昨今、このような教員に対する国民の視線はますます厳しいものとなっている。このため、教員全体への信頼性を向上させるためにも、このような指導力不足教員等に対しては、研修の実施等人事管理システムを厳格に適用するとともに、相応の処遇とするよう毅然とした対応をすることも必要である。


○  学校を取り巻く環境の変化に応じて、教員が対応すべき課題の複雑化・多様化が進み、これにより教員の職務負荷が増大している中で、文部科学省が平成18年度に実施した教員勤務実態調査暫定集計によれば、恒常的な時間外勤務の実態が明らかになっている。
 このような状況を踏まえ、教員の職務の見直しや学校事務の軽減・効率化によって教員の時間外勤務の縮減を可能とする実効性のある措置を講じるとともに、教員の勤務態様の特殊性等を踏まえつつ、教員の勤務時間の弾力化を進めていくことが必要である。


○  今回の報告のねらいは、「学校教育の一層の質の向上」にあり、そのためには、学校現場の実情を踏まえながら、上述のように、教員の職務の在り方の見直し、事務作業の軽減・効率化、学校事務体制の強化、学校の組織運営体制及び指導体制の整備、適切な教員評価の実施と処遇への反映、指導力不足教員等に対する人事管理システムの厳格な運用並びに勤務時間の弾力的運用などに総合的に取り組む中でメリハリを付けた教員給与の見直しを行っていくことが必要である。

学校教育法

2007-08-14 16:56:02 | Weblog
<第1条>(学校の定義)★★★
この法律で、学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園とする。

<第2条>(学校の設置者)★★
(1)学校は、国(国立大学法人法第2条第1項に規定する国立大学法人及び独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。以下同じ。)、地方公共団体(地方独立行政法人法第68条第1項に規定する公立大学法人を含む。次項において同じ。)及び私立学校法第3条に規定する学校法人のみが、これを設置することができる。
(2)この法律で、国立学校とは、国の設置する学校を、公立学校とは、地方公共団体の設置する学校を、私立学校とは、学校法人の設置する学校をいう。

<第3条>(学校の設置基準)★
学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない。

<第5条>(学校の管理)★
学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する。

<第6条>(授業料の徴収)★
学校においては、授業料を徴収することができる。ただし、国立又は公立の小学校及び中学校、これらに準ずる盲学校、聾学校及び養護学校又は中等教育学校の前期課程における義務教育については、これを徴収することができない。

<第11条>(懲戒)★★★
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

(参考)法務府の見解(「生徒に対する体罰禁止に関する教師の心得」)
(ア)用便に行かせなかったり、食事時間を過ぎても教室に留め置くことは肉体的苦痛を伴うから、体罰となり、学校教育法に違反する。
(イ)遅刻した生徒を教室に入れず、授業を受けさせないことは、たとえ短時間でも、義務教育では許されない。
(ウ)授業時間中怠けたり、騒いだからといって生徒を教室外に出すことは許されない。
(エ)人の物を盗んだり、こわしたりした場合など、こらしめる意味で、体罰にならない程度に、放課後残しても差し支えない。
(オ)盗みの場合などその生徒や証人を放課後訊問することはよいが、自白や供述を強制してはならない。
(カ)遅刻や怠けたことによって、掃除当番などの回数を多くするのは差し支えないが、不当な差別や、酷使はいけない。
(キ)遅刻防止のための合同登校は構わないが、軍事教練的色彩を帯びないように注意すること。

<第12条>(健康診断等)★★
学校においては、別に法律で定めるところにより、学生、生徒、児童及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図るため、健康診断を行い、その他その保健に必要な措置を講じなければならない。

第2章 小学校

<第17条>(目的)★★★
小学校は、心身の発達に応じて、初等普通教育を施すことを目的とする。

<第18条>(教育の目標)★★★
小学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。

学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。
郷土及び国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。
日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
日常生活に必要な国語を、正しく理解し、使用する能力を養うこと。
日常生活に必要な数量的な関係を、正しく理解し、処理する能力を養うこと。
日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。
健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図ること。
生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
<第18条の2>(体験活動)★★
小学校においては、前条各号に掲げる目標の達成に資するよう、教育指導を行うに当たり、児童の体験的な学習活動、特にボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動その他の体験活動の充実に努めるものとする。この場合において、社会教育関係団体その他の関係団体及び関係機関との連携に十分配慮しなければならない。

<第21条>(教科用図書・教材の使用)★
(1)小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。
(2)前項の教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる。

<第22条>(就学義務)★★
(1)保護者は、子女の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子女が、満12歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を終了しないときは、満15歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは、その終了した日の属する学年の終わり)までとする。

<第23条>(就学猶予)★
前条の規定によって、保護者が就学させなければならない子女(以下学齢児童と称する。)で、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村の教育委員会は、文部科学大臣の定める規定により、前条第1項に規定する義務を猶予又は免除することができる。

<第25条>(就学援助)★★
経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない。

<第26条>(出席停止)★★
(1)市町村の教育委員会は、次に掲げる行為の一又は二以上を繰り返し行う等性行不良であって他の児童の教育に妨げがあると認める児童があるときは、その保護者に対して、児童の出席停止を命ずることができる。

他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為
職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為
施設又は設備を損壊する行為
授業その他の教育活動の実践を妨げる行為
(2)市町村の教育委員会は、前項の規定により出席停止を命ずる場合には、あらかじめ保護者の意見を聴取するとともに、理由及び期間を記載した文書を交付しなければならない。
(3)前項に規定するもののほか、出席停止の命令の手続に関し必要な事項は、教育委員会規則で定めるものとする。
(4)市町村の教育委員会は、出席停止の命令に係る児童の出席停止の期間における学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずるものとする。

<第28条>(教員)★★★
(1)小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。ただし、特別の事情のあるときは、教頭又は事務職員を置かないことができる。
(2)小学校には、前項のほか、必要な職員を置くことができる。
(3)校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。
(4)教頭は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。
(5)教頭は、校長に事故のあるときはその職務を代理し、校長が欠けたときはその職務を行う。この場合において教頭が2人以上あるときは、あらかじめ校長が定めた順序で、その職務を代理し、又は行う。
(6)教諭は、児童の教育をつかさどる。
(7)養護教諭は、児童の養護をつかさどる。
(8)事務教員は、事務に従事する。
(9)助教諭は、教諭の職務を助ける。
(10)講師は、教諭又は助教諭に順ずる職務に従事する。
(11)養護助教諭は、養護教諭の職務を助ける。
(12)特別の事情のあるときは、第1項の規定にかかわらず、教諭に代えて助教諭又は講師を、養護教諭に代えて養護助教諭を置くことができる。

<第29条>(設置義務)★
市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるために必要な小学校を設置しなければならない。

第3章 中学校

<第35条>(目的)★★★
中学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育を施すことを目的とする。

<第36条>(教育目標)★★★
中学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。

小学校における教育の目標をなお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。
社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
学校内外における社会的活動を促進し、その感情を正しく導き、公正な判断力を養うこと。
<第39条>(就学義務)★★
(1)保護者は、子女が小学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、中等教育学校の前期課程又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の中学部に就学させる義務を負う。

第4章 高等学校

<第41条>(目的)★★★
高等学校は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする。

<第42条>(教育目標)★★★
高等学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。

中学校における教育の成果をさらに発展拡充させて、国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと。
社会において果たさなければならない使命の自覚に基き、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な技能に習熟させること。
社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること。
<第50条>(教員)★★
(1)高等学校には、校長、教頭、教諭及び事務職員を置かなければならない。
(2)高等学校には、前項のほか、養護教諭、養護助教諭、実習助手、技術職員その他必要な職員を置くことができる。
(3)実習助手は、実験又は実習について、教諭の事務を助ける。
(4)特別の事情のあるときは、第1項の規定にかかわらず、教諭に代えて助教諭又は講師を置くことができる。
(5)技術職員は、技術に従事する。

第4章の2 中等教育学校

<第51条の2>(教育の目的)★★
中等教育学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育並びに高等普通教育及び専門教育を一貫して施すことを目的とする。

<第51条の3>(教育目標)★
中等教育学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。

国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと。
社会において果たさなければならない使命の自覚に基き、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な技能に習熟させること。
社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること。
第6章 特殊教育

<第71条>(目的)★★★
盲学校、聾学校又は養護学校は、それぞれ盲者(強度の弱視者を含む。以下同じ。)、聾者(強度の難聴者を含む。以下同じ。)又は知的障害者、肢体不自由者若しくは病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施し、あわせてその欠陥を補うために、必要な知識技能を授けることを目的とする・

<第72条>(小学部・中学部・幼稚部・高等部)★
(1)盲学校、聾学校及び養護学校には、小学部及び中学部を置かなければならない。ただし、特別の必要のある場合においては、その一のみを置くことができる。
(2)盲学校、聾学校及び養護学校には、小学部及び中学部のほか、幼稚部又は高等部を置くことができ、また、特別の必要のある場合においては、前項の規定にかかわらず、小学部及び中学部を置かないで幼稚部又は高等部のみを置くことができる。

<第74条>(設置義務)★★★
都道府県は、その区域内にある学齢児童及び学齢生徒のうち、盲者、聾者又は知的障害者、肢体不自由者若しくは病弱者で、その心身の故障が、第71条の2の政令で定める程度のものを就学させるに必要な盲学校、聾学校又は養護学校を設置しなければならない。

<第75条>(特殊学級)★
(1)小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校には、次の各号のいずれかに該当する児童及び生徒のために、特殊学級を置くことができる。

知的障害者
肢体不自由者
身体虚弱者
弱視者
難聴者
その他心身に故障のある者で、特殊学級において教育を行うことが適当なもの
(2)前項に掲げる学校は、疾病により療養中の児童及び生徒に対して、特殊学級を設け、又は教員を派遣して、教育を行うことができる。

第3章 食に関する指導の充実のための総合的な方策

2007-08-13 19:00:42 | Weblog
第3章 食に関する指導の充実のための総合的な方策
1 学校における一体的取組
食に関する指導は,給食の時間や学級活動の時間のほか,家庭科,技術・家庭科や体育科,保健体育科などの教科指導,「総合的な学習の時間」など,様々な機会を通じて行われるものである。したがって,食に関する指導を効果的に進めるためには,校長のリーダーシップの下,関係する教職員がそれぞれの専門性を十分に発揮しつつ,相互に連携・協力して取り組む必要がある。このため,栄養教諭だけではなく,他の教職員についても,研修等を通じて食に関する理解を深める必要がある。
当審議会としては,「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月21日答申)において,「地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫を凝らした教育活動を展開していくには,校長,教頭のリーダーシップに加えて,教職員一人一人が,学校の教育方針やその目標を十分に理解して,それぞれの専門性を最大限に発揮するとともに一致協力して学校運営に積極的に参加していくことが求められている」と指摘したところ,食に関する指導は,まさに地域や子どもの状況を踏まえて行われるべきものであり,同答申における指摘が全面的に当てはまるものであるといえる。


2 栄養教諭の効果的な活用
先に指摘したように,食に関する指導の推進のためには,校長のリーダーシップと,関係教職員の有機的な連携・協力が不可欠であるが,その中で栄養教諭は,学校における食に関する専門家として,食に関する指導を進める上での連携・調整の要(かなめ)としての役割を果たしていくべきである。いうまでもなく,食に関する指導を担うのは栄養教諭に限られないが,栄養教諭を十分に活用することによって,学級担任や教科担任等による指導とあいまって,一層の指導効果の向上が期待される。特に,望ましい食習慣の形成のためには,単に食に関する知識の教授にとどまらず,習慣化を促すための継続的な指導が不可欠である。このため,栄養教諭が計画的に指導に参画していくことができるようにするとともに,学級担任や教科担任,養護教諭等と十分連携を取り,指導の継続性を確保できるよう,校長のリーダーシップの下,栄養教諭が加わって,食に関する指導に係る全体的な計画を作成することが肝要である。
さらに,家庭や地域社会との連携においても,栄養教諭は要(かなめ)としての役割を果たし得るものであり,積極的な取組が期待される。
このように栄養教諭は,学校の内外において,食に関する指導の充実の鍵(かぎ)を握る立場にあり,その職責は非常に重いものと考えられる。この職責を全うするためにも,栄養教諭には高い資質が要求されるものであり,また,その資質を向上させるための努力が不断になされることが求められる。同時に,栄養教諭がその資質を十分に発揮するためには,校長をはじめとする学校内での理解と協力はもとより,家庭や地域社会の理解と協力が不可欠であり,栄養教諭が他の教職員や家庭・地域社会との連携を確保できるようにするための環境整備が重要となる。
なお,栄養教諭が配置されない学校も想定されるが,そのような学校においても,養護教諭や家庭科教諭などによる指導や,近隣の学校の栄養教諭が定期的に出向いての指導,地域の人材の活用などの工夫により,食に関する指導を充実していくことが望まれる。

3 学校・家庭・地域社会の連携等による総合的取組 栄養教諭制度の創設によって,学校における食に関する指導がより一層充実することが期待されるが,食に関する指導の第一義的な責任が家庭にあることは変わるものではない。しかし,食生活の多様化が進む中で,家庭において十分な知識に基づく指導を行うことは困難となりつつあるばかりか,保護者自身が望ましい食生活を実践できていない場合もある。このような現状を踏まえると,子どもに望ましい食習慣を身に付けさせるには,家庭への働き掛けや啓発活動も非常に重要となってくる。また,子どもに望ましい食習慣を身に付けさせることは,次の世代の親への教育であるという視点も忘れてはならない。
このため,学校においても,給食だよりなどによる情報提供や啓発活動,親子料理教室の開催等を通じ,子どもの食について保護者が考える機会を提供し,また,食に関する正しい知識を伝えていくことが必要である。その際には,食に関する知識や経験を有する地域の人材の活用や,食生活の改善のために活動しているNPO等の協力を得るなど,地域社会との連携・協力を進めていくことが望まれる。
もとより食に関する指導は,家庭だけ,あるいは学校だけで完結するものではなく,社会全体で取り組むべき課題である。このため,国においても,文部科学省はもちろんのこと,関係省庁が食生活の改善のための様々な施策を実施している。食に関する指導の実効性を高めるためには,これら関係省庁が緊密に連携・協力して,政府一丸となった取組がなされることが望まれる。

第2章 栄養教諭制度の創設

2007-08-12 19:00:21 | Weblog
第2章 栄養教諭制度の創設
1 栄養教諭の職務
栄養教諭は,教育に関する資質と栄養に関する専門性を併せ持つ職員として,学校給食を生きた教材として活用した効果的な指導を行うことが期待される。このため,(1)食に関する指導と,(2)学校給食の管理を一体のものとしてその職務とすることが適当である。
(1)食に関する指導
児童生徒への個別的な相談指導
児童生徒の食生活の現状にかんがみ,生活習慣病の予防や食物アレルギーへの対応などの観点から,栄養教諭が児童生徒の個別の事情に応じた相談指導を行うことが,児童生徒の健康の保持増進のために有効であると考えられる。その際,食に関する問題への対応には,児童生徒の食の大部分を担う家庭での実践が不可欠であることに留意し,保護者に対する助言など,家庭への支援や働き掛けも併せて行うことが重要である。
児童生徒の食生活に係る問題の中で,個別的な相談指導が想定されるケースとしては, (a) 偏食傾向のある児童生徒に対し,偏食が及ぼす健康への影響や,無理なく苦手なものが食べられるような調理方法の工夫等について指導・助言すること
(b) 痩(そう)身願望の強い児童生徒に対し,ダイエットの健康への影響を理解させ,無理なダイエットをしないよう指導を行うこと
(c) 肥満傾向のある児童生徒に対し,適度の運動とバランスのとれた栄養摂取の必要性について認識させ,肥満解消に向けた指導を行うこと
(d) 食物アレルギーのある児童生徒に対し,原因物質を除いた学校給食の提供や,献立作成についての助言を行うこと
(e) 運動部活動などでスポーツをする児童生徒に対し,必要なエネルギーや栄養素の摂取等について指導すること
などが考えられる。これらの相談指導には,栄養学等の専門知識に基づいた対応が不可欠であり,学級担任や家庭だけでは十分な対応が困難な場合も多いと考えられるため,栄養の専門家である栄養教諭が中心となって取り組んでいく必要がある。また,相談指導においては,食習慣以外の生活習慣や心の健康とも関係する問題を扱うことも考えられるので,必要に応じて,学級担任や養護教諭と連携して,あるいは学校医や学校歯科医,他の栄養の専門家などと適切に連携を図りながら対応していくことが重要である。特に食物アレルギーや摂食障害など医学的な対応を要するものについては,主治医や専門医とも密接に連携を取りながら適切に対応することが求められる。
このように,栄養教諭は,児童生徒の食生活に関し,その専門性を生かしたきめ細かな指導・助言を行う,言わば食に関するカウンセラーとしての役割が期待される。なお,食に関する相談指導に当たっては,教育相談室や余裕教室を利用するなど,個別相談にふさわしい環境で行われることが望ましい。


児童生徒への教科・特別活動等における教育指導
食に関する指導は,個別指導以外にも給食の時間や学級活動,教科指導等,学校教育全体の中で広く行われるものであり,その中で栄養教諭は,その専門性を生かして積極的に指導に参画していくことが期待される。
各学級における給食の時間や学級活動における指導は,一般的には学級担任が年間指導計画を作成して行うものであるが,食に関する指導の充実のため,その指導計画に基づいて栄養教諭が指導の一部を単独で行うなど,積極的に指導を担っていくことが大切である。
特に給食の時間は,生きた教材である学校給食を最大限に活用した指導を行うことができるだけでなく,食事の準備から後片付けまでを通じて,食事のマナーなどを学ぶ場としても活用できるなど,食に関する指導を行う上での中核的な役割を果たすものである。栄養教諭は,学校給食の管理を担うことから,学校給食を最も有効に活用した指導ができる立場にあり,計画的に各学級に出向いて指導を行うことが期待される。他方,給食の時間は原則として全校一斉に取られるため,栄養教諭がすべての学級において十分な時間を取って指導を行うことは物理的に困難である。したがって,給食の時間や学級活動の時間における指導は,学級担任等と十分に連携することによって,継続性に配慮しつつ計画的に行うことが肝要である。特に,複数の学校を担当する栄養教諭については,この点がより重要となると考えられる。
また,家庭科,技術・家庭科や体育科,保健体育科をはじめとして,関連する教科における食に関する領域や内容について,学級担任や教科担任と連携しつつ,栄養教諭がその専門性を生かした指導を行うことも重要である。特に,食に関する問題は,児童生徒にとっても身近な問題であると同時に,他の様々な問題と関連する広がりを持ったものであり,各教科や特別活動,「総合的な学習の時間」などにおいて,例えば,食べ残しと環境負荷の問題や,食品流通と国際関係,食文化を含む地域文化など,食と関係した指導を行う場合には,栄養教諭を有効に活用していくことが期待される。さらに,各教科指導において取り上げられた食品を学校給食に使うなど,学校給食との連携を図ることにより,児童生徒の興味・関心を引き出し,より教育効果の高い指導を行うことが可能になるものと考えられる。
このように,食に関する指導は,学校教育活動全体の中で広く行われるものである。学校において食に関する指導に係る全体的な計画を策定するに当たっては,栄養教諭がその高い専門性を生かして積極的に参画し,貢献していくことが重要である。


食に関する教育指導の連携・調整
学校における食に関する指導は,給食の時間をはじめとして,関連教科等に幅広く関わるものであり,効果的な指導を行っていくためには,校長のリーダーシップの下,関係する教職員が十分連携・協力して取り組むことが必要である。その中で,栄養教諭は,栄養に関する専門的な教員として,例えば,食に関する指導に係る全体的な計画の策定において中心的な役割を果たすなど,連携・調整の要としての役割を果たしていくことが期待される。特に,学校給食と連携した授業を実施する場合などは,学校給食の管理を担う栄養教諭が,学級担任や教科担任等と連携し,年間指導計画における食に関する指導の計画と給食管理との有機的連携を確保することによって,食に関する指導の効果は一層高まるものと考えられる。また,例えば校務分掌において給食主任を担うなど,その専門性を生かして積極的に学校運営に参画していくことも重要である。
同時に,児童生徒の食の大部分は家庭が担っているという実態を踏まえれば,食に関する指導は,学校内における児童生徒への直接的な指導のみにとどまらず,広く家庭や地域社会との連携を図りつつ指導を充実させていくことが重要である。具体的には,給食だより等を通じた啓発活動や,食物アレルギーに対応した献立作成などについての保護者に対する助言,親子料理教室等の開催,地域社会や関係機関が主催する食に関する行事への参画などにおいて,栄養教諭がその専門性を発揮し,積極的に取り組んでいくことが期待される。
このように,食に関する指導を効果的に進めていくためには,学校の内外を通じて,教職員や保護者,関係機関等の連携を密接に図ることが肝要であり,栄養教諭は,その専門性を生かして,食に関する教育のコーディネーターとしての役割を果たしていくことが期待される。


(2)学校給食の管理
現在学校栄養職員が行っている栄養管理や衛生管理,検食,物資管理等の学校給食の管理は,専門性が必要とされる重要な職務であり,栄養教諭の主要な職務の柱の一つとして位置付けられるべきである。具体的な職務内容としては, 学校給食に関する基本計画の策定への参画
学校給食における栄養量及び食品構成に配慮した献立の作成
学校給食の調理,配食及び施設設備の使用方法等に関する指導・助言
調理従事員の衛生,施設設備の衛生及び食品衛生の適正を期すための日常の点検及び指導
学校給食の安全と食事内容の向上を期すための検食の実施及び検査用保存食の管理
学校給食用物資の選定,購入及び保管への参画
などが考えられる。学校給食は食に関する指導を効果的に進めるための重要な教材でもあり,その管理においてもより一層の積極的な取組が期待される。
同時に,献立のデータベース化やコンピュータによる物資管理などの情報化の推進や,調理員の衛生管理等の知識の向上を図ることなどにより,学校給食の管理業務の一層の効率化を図り,食に関する指導のために必要な時間を十分に確保できるよう工夫していくことが求められる。
なお,学校給食における衛生管理については,平成8年度の腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件以降,その徹底が一層図られ,学校給食が原因と考えられる食中毒の発生件数は減少してきているところであるが,より安全で安心な学校給食の実施のためには,学校給食における衛生管理を今後更に充実強化していくことが大切である。

(3)食に関する指導と学校給食の管理の一体的な展開 栄養教諭は,生きた教材である学校給食の管理と,それを活用した食に関する指導を同時にその主要な職務の柱として担うことにより,両者を一体のものとして展開することが可能であり,高い相乗効果が期待される。学校給食の教材としての機能を最大限に引き出すためには,その管理を同時に行うことが不可欠であり,また,食に関する指導によって得られた知見や情報を給食管理にフィードバックさせていくことも可能となると考えられる。具体的には,例えば,体験学習等で栽培した食材や地域の食材を学校給食に用いることで,生産活動と日々の食事のつながりを実感させたり,食に関する指導を通じて児童生徒の食の現状を把握し,不足しがちな栄養素を補うため,献立の工夫や保護者に対する啓発活動を行うことなどが考えられる。

2 栄養教諭の資質の確保
栄養教諭に求められる資質能力を制度的に担保するため,栄養教諭制度の創設に当たっては,保健指導と保健管理をその職務とする養護教諭の例を参考としつつ,次に示す考え方に基づいて新たに栄養教諭の免許状を創設する必要がある。

(1)栄養教諭の免許状の種類及び養成の在り方 栄養教諭の養成段階においては,栄養教諭としての職務内容を適切に行うための資質能力の基礎として,栄養に関する専門性と教職に関する専門性を身に付ける必要がある。
その際には,現在の教員養成・免許制度の基本理念を踏まえ,以下のような制度とすることが適当と考える。
免許状の種類
栄養教諭の免許状の種類は,大学院,大学,短期大学等の学校種別,修業年限や修得単位数に応じて多様な教員養成機関から栄養教諭になる途を開くことにより,教員組織全体の活性化を図るとともに,上位の免許状等の取得を目指すことによる現職教員の自発的な研修を促すため,複数の種類の免許状を設けることとし,普通免許状として専修免許状,一種免許状,二種免許状の3種類とする。
このうち,他の教諭等と同様に,一種免許状は普通免許状の中で標準的なものと考える。
栄養教諭の配置についての考え方,栄養教諭の職務内容として給食の管理が含まれていることなどの栄養教諭制度の性格等にかんがみ,臨時免許状や特別免許状は設ける必要はないと考える。


免許状取得のための基礎資格
免許状取得のための基礎資格としては,大学における教員養成の基本原則を踏まえ,専修免許状については修士の学位(大学院修士課程修了程度),一種免許状については学士の学位(大学卒業程度),二種免許状については準学士の称号(短期大学卒業程度)を有することを原則とすることが必要と考える。


栄養に関する専門性の養成
栄養に関する専門性として,免許状の種類にかかわらず食に関する指導を行うための資質能力を身に付けるため,基礎資格として栄養士の免許を取得することが必要と考える。
さらに,栄養に関する深い専門的知識・技術を養うために,標準的な免許状である一種免許状の取得のためには,管理栄養士養成のための教育課程と同程度の内容・単位数を修得することとすべきである。このため、一種免許状を取得するための基礎資格としては,栄養士の免許に加えて管理栄養士免許を取得するために必要な程度の専門性を有することとすることが適当と考える。また,専修免許状を取得するための基礎資格としては,管理栄養士の免許を有することとすることが適当と考える。
二種免許状の取得のためには,上記のように基礎資格として栄養士の免許の取得を求めることにより,栄養士養成のための教育課程と同程度の内容・単位数を修得することとすべきである。
また,いずれの免許状の取得においても,食文化を含む食に関する課題を踏まえ,栄養教諭としての使命の自覚や,職務内容について理解を深めることが必要と考える。
なお,これらの管理栄養士養成のための教育課程,栄養士養成のための教育課程のうち,教職に関する科目との類似等があるものについては,重複して課すことのないよう配慮することが考えられる。


「教職に関する科目」の内容と単位数
教育の目的・原理,教育の内容・方法,児童生徒の心身の成長・発達等についての深い専門的知識・技術といった教職に関する専門性を修得するための「教職に関する科目」は,養護教諭の養成課程と同程度の内容・単位数を基本として,教職の意義等に関する科目,教育の基礎理論に関する科目,教育課程に関する科目,生徒指導及び教育相談に関する科目,総合演習,栄養教育実習について修得することが必要と考える。


養成課程
大学における開放制の教員養成の基本原則に照らし,栄養教諭の養成においても,文部科学大臣の課程認定を受けた大学の課程において,必要な科目・単位数を修得することを基本とすべきである。
一方,現在の管理栄養士,栄養士の養成課程として,大学以外に専門学校等においても,学校栄養職員等として教育現場に優れた者を輩出していることにかんがみ,他の教諭等の養成において指定教員養成機関の制度を設けていることと同様に,専門学校等について文部科学大臣が指定を行い,栄養教諭の養成を行うことができるようにすべきである。
また,専門学校において修得した栄養に関する科目について,栄養教諭の養成を行う大学等が単位認定を行うようなことも考えられる。

(2)栄養教諭の上位の免許状等取得のための方策
教員免許制度上,現職の教員が研修によって,自ら資質能力の向上を図ることが期待されており,これは栄養教諭についても同様である。このため,栄養教諭の二種免許状や一種免許状を有する者が,それぞれ一種免許状や専修免許状を取得しようとする場合に,栄養教諭としての一定の在職年数と,免許法認定講習等において一定の単位を修得することにより,都道府県教育委員会が行う教育職員検定を経て取得できる措置を講ずることが必要と考える。
この場合,二種免許状を有する者には,養護教諭の場合と同様,標準である一種免許状取得の努力義務を課すとともに,栄養教諭としての在職年数等に応じて修得が必要な最低単位数を一定限度まで逓減する措置を講ずることが必要と考える。
その際,栄養教諭は生活習慣病の予防や食物アレルギーへの対応等についての児童生徒に対する個別指導を担うことから,管理栄養士免許を取得することが望ましく,管理栄養士免許を取得した者には,栄養教諭としての在職年数や免許法認定講習等における単位修得について配慮することが必要である。
なお,管理栄養士免許,専修免許状や一種免許状の取得が促されるような環境づくりにも留意が望まれる。

(3)学校栄養職員に対する措置 教員免許を有しない学校栄養職員に対する措置
現在,学校栄養職員である者が栄養教諭の免許状を取得する場合には,職務を行いながら円滑に必要な資質を身に付けるため,特別非常勤講師としての活動実績も含め,学校栄養職員としての一定の在職年数と,長期休業期間中などに実施される免許法認定講習等において一定程度の単位修得により,教育職員検定を経て授与することが必要と考える。


他の教員免許を有する学校栄養職員に対する措置
他の教諭や養護教諭の免許状を有する学校栄養職員が,栄養教諭の免許状を取得する場合には,教職に関する科目は既に修得していることから,栄養教諭としての使命の自覚や,職務内容について理解を深めつつ,管理栄養士免許を有する程度の専門性を有する者については一種免許状を,栄養士免許を有する者については二種免許状を取得できるようにすることが必要と考える。

(4)その他 栄養教諭としての資質能力は,その養成・採用・研修の各段階を通じて形成されていくべきものであり,大学における養成課程の整備とともに,都道府県教育委員会等における現職研修の促進を図ることが必要である。

3 栄養教諭の配置等
栄養教諭の配置については,栄養教諭が教育に関する資質を有する教育職員として位置付けられるものであり,また,学校給食の管理と食に関する指導を一体のものとして展開するということを基本として考えるべきである。
また,学校給食の管理と食に関する指導を一体的に展開するという栄養教諭の職務を踏まえれば,共同調理場方式を採用する学校の場合,栄養教諭の配置は,共同調理場における給食管理と受配校における食に関する指導を併せて行うことを前提として考慮すべきである。
ただし,学校給食の実施そのものが義務的なものではないこと,現在の学校栄養職員も学校給食実施校すべてに配置されているわけではないこと,及び,地方の自主性を尊重するという地方分権の趣旨にかんがみ,栄養教諭の配置は義務的なものとはせず,公立学校については地方公共団体の,国立及び私立学校についてはその設置者の判断に委(ゆだ)ねられるべきである。
平成14年5月の学校給食実施状況調査によれば,公立小中学校のうち学校給食実施校は30,631校であるのに対し,学校栄養職員は10,370人となっている。学校栄養職員から栄養教諭への移行を考えた場合,学校給食実施校を含め,栄養教諭を配置することのできない学校も想定されるが,近隣の学校の栄養教諭が出向いて指導を行うなどの工夫を講ずることによって,直接栄養教諭が配置できなくとも食に関する指導の充実を図ることができるようにすることが大切である。
なお,栄養教諭制度の創設後も,すべての学校栄養職員が一律に栄養教諭に移行するわけではないため,栄養教諭と学校栄養職員が並存することとなると予想されるが,栄養教諭制度創設の趣旨に照らせば,将来的には,学校栄養職員の資質を高め,栄養教諭への移行を促進することにより,食に関する指導の充実を図るべきである。


4 栄養教諭の身分等
栄養教諭の職務内容等にかんがみ,公立学校の栄養教諭については,教育公務員特例法の適用を受け,自らの資質の向上に不断に努める必要がある。また,国公私を通じて,栄養教諭は学校教育活動全般への積極的な参画が求められる。