3丁目の夕日/教職課程講座

明日のための演習メモ

第4章 確固とした教育条件を整備する

2007-07-31 07:05:07 | Weblog
-教育の質の向上、財源確保の確実性・予見可能性、地方の自由度の拡大-

(1)教育条件整備に関する共通理解

○  義務教育を支える教育条件の整備に関しては、以下の2点を大きな前提として具体的な在り方を考えていく必要がある。  義務教育は、国全体を通じての最重要事項であること ・  義務教育は国全体を通じての最重要事項であり、その質の向上のため、国と地方が協力して、教職員配置、設備・教材、学校の施設など教育を支える条件整備を確固たるものとする必要がある。


 義務教育に必要な財源を確実に確保する必要があること ・  義務教育費は全ての予算において最優先すべき経費であり、教職員給与費をはじめとする必要な教育費は、確実に確保される必要がある。



○  また、義務教育の質の向上のためには、学校の施設、設備・教材、教職員配置等の条件整備が十分充実していることが肝要であり、特に、義務教育への投資の在り方について、多くの委員から以下の意見が出された。 ・  OECDの調査によれば、1995年から2001年の6年間における公財政による教育費支出の変化を国際的に比較すると、多くの国が教育費支出を伸ばしている中で、我が国の公財政支出は微増にとどまっている状況にある。
・  また、初等中等教育について、OECD平均(2001年)では対GDP比3.5パーセントが公財政支出に充てられているのに対して、我が国は2.7パーセントにとどまっている。
・  今後とも我が国が教育立国としての地位を確保し続けるために、また、保護者の経済的格差が子どもたちの教育環境の格差につながらないようにするために、公財政支出を一層拡充する必要があると考える。
・  また、教育に対する公財政支出の拡充のためには、公債発行対象経費である投資的経費に比べて、消費的経費が大半を占める教育支出が増えにくい財政制度や公財政支出構造の仕組みを見直すことが必要である。
・  なお、公財政支出の拡充について、国民の理解を得るためには、教育の成果についての評価を行うことや、必要な効率化を図ることも併せて検討する必要がある。


○  さらに、教育条件の整備に関連しては、以下も重要である。 ・  教育の分権改革を推進するため、教育内容、学級編制、人事、予算の執行等について、できる限り市区町村や学校の裁量を拡大する必要がある。
・  地方・学校現場の裁量に委ねつつ、教職員配置の改善を通じて、少人数教育を一層推進する必要がある。
・  教職員給与費は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)に基づいて算出される人数に対応して、所要額が確保される必要がある。
・  学校の教材、図書等の整備や、司書の配置など、子どもたちの教育環境を充実させる必要がある。
・  条件整備の状況を把握するための学校の評価制度の導入を検討する必要がある。評価の具体的な実施方法については、学校の序列化などの弊害を生じさせないよう十分な配慮が必要である。


○  なお、費用負担の在り方を検討する際には、義務教育の経費の7割以上を占める教職員人件費(給料・諸手当に、退職手当、共済費などを加えたもの)の将来の動向を踏まえるべきであるとの観点から一定の前提条件の下に推計を行った。
 これによると、平成16年度の公立義務教育諸学校の教職員人件費は5兆8,900億円と見込まれるが、今後、教職員の定期昇給や退職手当、共済費の負担の増大等のため、教職員配置基準を現状のまま改善しない場合でも、平成18年度には6兆円を超え、平成26年度には6兆3,200億円とピークを迎えることが推測される(平成30年度には6兆2,000億円)。これに公立高等学校の分を加えると、教職員人件費の合計は、平成16年度の8兆2,400億円が、平成28年度には8兆8,600億円(平成16年度比6,200億円増)でピークを迎え、平成30年度においても8兆8,400億円となる。平成16年度から平成30年度までの負担増の累積は6兆4,300億円に達することが推測される。

第3章 地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める

2007-07-30 06:43:45 | Weblog
-学校・教育委員会の改革-

(1)学校の組織運営の見直し

ア 学校の自主性・自律性の確立

○  学校が主体的に教育活動を行い、保護者や地域住民に直接説明責任を果たしていくためには、学校に権限を与え、自主的な学校運営を行えるようにすることが必要である。
 現状でも、校長の裁量で創意工夫を発揮した特色ある教育活動を実施することが可能であるが、人事面、予算面では不十分な面がある。
 権限がない状態で責任を果たすことは困難であり、特に教育委員会において、人事、学級編制、予算、教育内容等に関し学校・校長の裁量権限を拡大することが不可欠である。


○  教職員の人事について校長の権限を拡大することが必要である。人事権を有する教育委員会において、例えば、教員の公募制やFA(フリー・エージェント)制などを更に推進することが求められる。


○  学級編制を含めた指導方法の工夫改善については、各学校がそれぞれの実情に応じて個別に判断することが適当である。このため、各学校が個別に学級編制を行うなど学校の判断が尊重されるよう現行の学級編制の仕組みを見直す必要がある。


○  教育内容に関する学校の裁量を拡大するとともに、予算面で、学校の企画や提案に基づいた予算の配分や、使途を特定しない裁量的経費の措置など、学校裁量の拡大を更に進めることが必要である。このため、学校の設置者である教育委員会においては、教育委員会規則の改善や学校予算の配分方法の工夫などを一層進めることが求められる。


○  以上のように、学校の裁量を拡大し、地域や学校の特色を生かした多様で個性的な教育が展開されるようにするためには、その土台として、確固とした教育条件が整備されていることが不可欠である。次章で述べるように、教職員、学校施設、教科書という教育の最も基本的な条件の整備は、特に確実に行われることが必要である。


○  学校運営を支える機能の充実のため、教頭の複数配置を引き続き推進したり、主任が機能するよう更にその定着を図ることが重要である。それとともに、今後、管理職を補佐して担当する校務をつかさどるなど一定の権限を持つ主幹などの職を置くことができる仕組みについて検討する必要がある。
 また、事務の共同実施や共同実施組織に事務長を置くことを検討するなど、学校への権限移譲を更に進めるための事務処理体制の整備を進めることが必要である。


○  機動的な学校運営のため、前述の教頭の複数配置や主任制、主幹制なども活用しつつ、校長が、その権限と責任において決定すべき事項と、職員会議等を有効に活用することがふさわしい事項とを区別して学校運営に当たることが重要である。
 これによって、学校の意思決定が、校長のリーダーシップの下に、高い透明性を確保し、公平・公正に行われることが重要である。また、決定した事項についての教育委員会や校長等の説明責任が常に意識されることが重要である。


○  教師が以前に比べ多忙になり、子どもと触れ合う時間が確保できないという指摘がある。今後、学校が処理する事務・業務の見直しや、国・都道府県・市区町村が行う調査等の精選により、学校の負担軽減を図ることが必要である。

イ 学校・地方自治体の取組の評価

○  学校や地方自治体の裁量を拡大し主体性を高めていく場合、それぞれの学校や地方自治体の取組の成果を評価していくことは、教育の質を保証する上でますます重要となる。また、近年の学校教育の質に対する保護者・国民の関心の高まりに応えるためにも、学校評価を充実することが必要となっている。


○  現在、学校評価は、学校が教育活動の自律的・継続的な改善を行うとともに、「開かれた学校」として保護者や地域住民に対し説明責任を果たすことを目的として、自己評価を中心に行われている。また、この評価は、教職員のほか、保護者、地域住民、学校評議員などが参加して行われており、これらの者が情報や課題を共有しながら学校の改善を進めていく上で重要な役割を果たしている。その一方で、各学校における実施内容のばらつきや、評価結果の公表が進んでいないなどの課題も見られる。


○  今後、更に学校評価を充実していくためには、学校・地方自治体の参考に資するよう大綱的な学校評価のガイドラインを策定するとともに、現在、努力義務とされている自己評価の実施とその公表を、現在の実施状況に配慮しつつ、今後全ての学校において行われるよう義務化することが必要である。


○  また、自己評価の客観性を高め、教育活動の改善が適切に行われるようにしていくためには、公表された自己評価結果を外部者が評価する方法を基本として、外部評価を充実する必要がある。設置者である市区町村の教育委員会は、各学校の教育活動を評価するとともに、学校に対する支援や条件整備など自らの取組について評価し、どのような対応が必要なのかを明らかにしていくことが必要である。国は、評価に関する専門的な助言・支援を行うとともに、第三者機関による全国的な外部評価の仕組みも含め、評価を充実する方策を検討する必要がある。


○  なお、学校評価の実施に当たっては、学校の序列化や過度の競争、評価のための評価といった弊害が生じないよう、実施や公表の方法について十分に配慮する必要がある。また、評価に関する事務負担を軽減するための工夫や支援も重要である。全国的な外部評価の仕組みの検討に当たっても、地方自治体の役割と国の役割を十分整理しながら、我が国の事情に合った方法を開発していく必要がある。

ウ 保護者・地域住民の参画の推進

○  地域に開かれ信頼される学校を実現するためには、保護者や地域住民の意見や要望を的確に反映させ、それぞれの地域の創意工夫を生かした特色ある学校づくりを進めることが不可欠である。それと同時に、保護者や地域住民が、学校に要求するばかりでなく、学校とともに地域の教育に責任を負うとの認識のもと、学校運営に積極的に協力していくことも求められる。学校が責任を果たすことは当然であるが、これからの時代に求められる教育の実現のため、保護者や地域住民には、学校教育に積極的に参画することが重要であるという意識を持つことが期待される。


○  このため、学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校評議員制度の積極的な活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進する必要がある。その際には、校長との権限関係を明確にすることや、委員に適材を得ることが必要である。また、国や地方自治体は、保護者や地域住民の学校運営への参画に関する取組の成功例について幅広く情報提供を行うなど、その促進のための支援策を講じることが必要である。


○  学校運営への保護者や地域住民の参画は、学校運営が透明性を高め、公平・公正に行われるようにするとともに、教育活動等についての評価及び公開を通じ十分な説明責任を果たすという民主主義のルールに基づいて行われるようにする上で重要な意義を有するものである。


○  学校施設の地域への開放や余裕教室の有効利用により、学校が地域住民の活動の場となり、学校が拠点の一つとなって地域づくりが進められていくことも必要である。

(2)教育委員会制度の見直し

ア 教育委員会の設置の在り方

○  教育委員会制度の在り方については、平成16年3月の諮問「地方分権時代における教育委員会の在り方について」以来、地方教育行政部会において審議が行われ、平成17年1月に部会まとめが出されている。


○  教育委員会制度は、首長からの独立、合議制、レイマン・コントロールにより、政治的中立性の確保、継続性・安定性の確保、地域住民の意向の反映を図るものとして我が国に導入され、地方教育行政の基本的な制度として定着している。


○  一方、現在の教育委員会の現状については、会議が形骸化している、国の示す方針に従う縦割りの集権型の仕組みになっている、合議制のため責任の所在が不明確となっている、迅速な意思決定ができない、などの問題が指摘されている。
 これらを理由として、教育委員会の設置を地方自治体の選択に委ねるべきとの意見、その際の代替措置として教育に関する審議会を設置するという意見、特に小規模な町村でその必要があるなどの意見が出された。


○  しかし、教育行政における政治的中立性や継続性・安定性の確保、地方における行政執行の多元化(首長に権限が集中することへの危惧)、首長が広範な事務を処理する中で専門の機関が教育を担当することのメリット(安定した行政執行)、義務教育実施の確実な担保などの重要性を踏まえると、教育委員会の設置は選択制にすべきではなく、必要な運用や制度の改善を図ることが必要であると考えられる。特に、今後、後述するように、教職員人事や学級編制など義務教育に関する市区町村の権限と責任が拡大することを考慮すると、市区町村の教育行政における政治的中立性の確保や教育行政の専門性の発揮、行政執行の多元化等の要請は一層強まり、教育委員会の機能の強化が求められると考えられる。また、指摘される問題の多くは、首長や議会の在り方に起因するものであり、教育委員の選任などについて首長や議会が本来期待されている権能を行使すれば解決できるとの意見も出された。


○  したがって、教育委員会制度の今後の在り方については、全ての地方自治体に設置することなど現在の基本的な枠組みを維持しつつ、それぞれの自治体の実情にあわせた行政が執行できるよう制度をできるだけ弾力化するとともに、教育委員会の機能の強化、首長と教育委員会の連携の強化や教育委員会の役割の明確化のための改善を図ることが適当である。


○  なお、教育委員会の機能の強化については、平成17年1月の地方教育行政部会の部会まとめにおいて様々な方策が指摘されているところであり、特に、教育委員に適材を確保するための選任の改善、教育委員会が責任を持って意思決定できるようにするための教育委員会会議の工夫や公開、住民の意向や教育現場の実情の把握、指導主事など事務局体制の強化、市町村教育委員会の事務処理の広域化等を進めることが重要である。

イ 教育委員会の組織の弾力化

○  教育委員会の組織や運営は、自治体の種類や規模等にかかわらずほぼ一律のものとなっている。しかし、自治体は人口規模や行政資源が多様であることから、その状況に応じ、例えば委員の数などについて各自治体が選択できるよう弾力化することが適当である。また、前項で述べたように、教育委員の選任方法や教育委員会会議の運営等について、各自治体が地域の実情に応じ主体的に工夫改善することが重要である。

ウ 首長と教育委員会の権限分担の弾力化

○  教育委員会は、学校教育のほか、社会教育、文化、スポーツ、生涯学習といった幅広い事務を所掌している。今後、地域づくりの総合的な推進をはじめ、他の行政分野との連携の必要性、さらには政治的中立性の確保の必要性等を勘案しつつ、首長と教育委員会との権限分担をできるだけ弾力化していくことが適当である。このため、教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く)、スポーツ、生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)は、地方自治体の判断により、首長が担当することを選択できるようにすることが適当である。また、高等教育機関である高等専門学校については、首長が所管できるようにすることが適当である。


○  首長は、現行制度でも、教育関係の予算の編成・執行の権限を持つなど、教育行政に大きな責任を負っているところであり、教育委員と首長との協議会の開催など、首長と教育委員会との連携を強化していくことが重要である。特に、自治体の判断で、文化、スポーツ、生涯学習支援に関する事務を首長が担当することとする場合、首長と教育委員会との連携を十分図る必要がある。

エ 教育委員会と教育長との関係

○  教育委員会の使命は、地域の教育課題に応じた基本的な教育の方針・計画を策定するとともに、教育長及び事務局の事務執行状況を監視・評価することであることを制度上明確化する必要がある。また、教育委員会と教育長及び事務局が適度な緊張関係を保ちながら教育事務を執行する体制を実現することが必要である。このため、教育長が教育委員の中から教育委員会によって選ばれるような現在の教育長の位置づけ・選任方法は見直すことについて、今後引き続き検討することが適当である。

(3)国と地方、都道府県と市区町村の関係・役割

ア 基本的な考え方

○  義務教育の実施にあたって、ナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための諸条件を担保する観点から、国は、学校制度の基本的な枠組みの制定や教育内容に関する全国的な基準の設定を行い、その上で、地方は、それぞれの地域の実情に応じ、主体的に教育の質を高め、ローカル・オプティマム(それぞれの地域において最適な状態)を実現するとともに、国、都道府県、市区町村それぞれが必要な財源措置を行っていくことが必要である。


○  教育行政における国、都道府県、市区町村の関係・役割については、平成10年の本審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」において整理がなされ、それをもとに、教育長の任命承認制度の廃止や、国や都道府県の行う指導、助言、援助等の在り方の見直し等、教育行政における地方分権改革が行われた。


○  現在、国は、教育制度の枠組みの設定や、学習指導要領等の基準の制定、地方自治体に対する財源保障を行っている。また、都道府県は、教職員の給与負担をするとともに、広域で人事を行い、市区町村は、小・中学校を設置しその管理運営に当たるなど義務教育の直接の実施主体となっている。
 義務教育については、地方自治体が学校の設置管理を行うなど直接的な責任を負っている一方、教育の機会均等や全国的な教育水準の維持向上といった義務教育の根幹の保障については国が責任を負っている。


○  義務教育については、今後の分権改革の重点は、都道府県から市区町村への分権、教育委員会から学校への権限移譲であると考えられる。
 地方の中でも、義務教育の直接の実施主体である市区町村や学校に権限の移譲を進めるとともに、市区町村が設置者としてその地域の状況に応じて独自の教育方針や基準を設定するなど、地域の実情に応じた教育を実現できるようにしていくことが必要である。これに対応し、都道府県は、広域人事など市区町村間の調整や小規模市町村に対する支援にその役割を一層重点化し、市区町村の自主性を尊重しつつ、義務教育の質の保証・向上に責任を果たしていくことが求められる。
 このように、都道府県から市区町村へ権限を移譲した上で、国、都道府県、市区町村が協力しながら、その責任と役割を果たしていくことが重要である。

イ 地方の主体性を生かした教育行政の推進

○  教育行政に関しては、文部科学省、都道府県教育委員会、市区町村教育委員会の間で、上意下達の中央集権的な行政になっており、地方の創意工夫を阻害しているとの指摘がある。


○  義務教育の機会均等や水準確保などの根幹の保障は国の責任であり、その責任を果たす上で、都道府県や市区町村に対し必要な指導・助言や援助を行うことは必要である。
 一方、教育行政における国と地方の関係については、これまでも、指揮監督による権力的な作用よりは、指導・助言や援助による非権力的な作用によって、地方の主体的活動を促進することが基本となっており、今後も、この方針を重視していく必要がある。
 さらに、国の定める教育内容、教職員配置、学級編制などに関する基準を、できる限り大綱化・弾力化したり、最低基準性を明確にするなど、地方の裁量を拡大することが必要である。


○  地方の主体性により義務教育の質の向上を図るためには、その基盤となる財源保障が安定的で確実であることが重要である。
 義務教育費国庫負担制度が、地方や学校の創意工夫の発揮を妨げ、国からの指示待ちの状態を招き、主体的に行政執行しようとする意識改革を阻害している、あるいは、特色ある教育活動の実施や人材の活用、教材の開発などにおける地方の独自の取組を阻害しているとの意見が少数ながら出された。しかし、現在も、学習指導要領や義務標準法などの基準・法令を遵守した上で、地方の独自性を活かした取組を行うことが期待されている。次章で述べるように、現在認められている以上に地方独自の創意工夫を活かすためには、義務教育費国庫負担制度に基づく確実な財源保障の下で、学習指導要領や義務標準法などの基準・法令を地方の自由度を高める方向で見直すことが必要である。


○  市区町村教育委員会や学校に対して、都道府県教育委員会から過度の関与が行われているとの指摘もある。義務教育に関しては、市区町村の権限と責任を拡大し、都道府県教育委員会から、瑣末な部分にまで及ぶ指導の行き過ぎが行われないようにすることが必要である。
 さらに、義務教育の実施主体である市区町村の側において、教育委員会が教育行政の責任ある担い手として、地域の教育課題に主体的に取り組むなど、市区町村教育委員会の機能の強化を図る必要がある。また、首長が、教育委員への適材の選任など、本来期待されている機能を果たし、市区町村教育委員会が自立し主体性を発揮することが重要である。

ウ 市区町村への教職員人事権の移譲

○  現在、県費負担教職員の給与負担(給与の支出責任)と人事(任命)権は、基本的に都道府県にあるが、例外的に政令指定都市については人事権が、中核市については人事権のうち研修に関する実施義務のみが、都道府県から移譲されている。


○  これについて、義務教育諸学校は、市区町村が設置し教職員も市区町村の職員でありながら、給与負担と人事権が都道府県にあるため、県費負担教職員が地域に根ざす意識を持ちにくくなっていること、また、より教育現場に近いところに権限をおろすべきであることなどから、人事権についても都道府県から義務教育の実施主体である市区町村に移譲する方向が望ましいと考えられる。


○  とりわけ、中核市については、既に研修実施義務が移譲されており、これに加えて人事権全体についての移譲を求める意見が強かった。また、大都市周辺部等には、中核市相当やそれに準ずる規模を有する市区も多いことなど、一定の規模を有する市区町村についても人事権の移譲を求める意見があった。


○  一方、とりわけ町村には小規模なところも多く、給与や人事権の行使に伴う負担には耐えられないとの意見や、中核市など大規模な市区町村抜きでの広域の人事異動は考えられないなどの意見、また、県内に一又は複数の人口50万人程度の広域連合による「教育機構」を作るなどの意見があった。


○  これらの意見を踏まえ、教職員の人事権については、市区町村に移譲する方向で見直すことが適当である。
 一方、現在の市区町村の事務体制で人事関係事務を処理できるか、離島・山間の市町村を含めた広域で人材が確保できるかにも留意する必要がある。
 このため、当面、中核市をはじめとする一定の自治体に人事権を移譲し、その状況や市町村合併の進展等を踏まえつつ、その他の市区町村への人事権移譲について検討することが適当である。
 また、人事権の移譲に伴い、都市部と離島・山間部等が採用や異動において協力し、広域で一定水準の人材が確保されるような仕組みを新たに設けることが不可欠である。
 なお、教職員人事権を市区町村に移譲する場合には、その財源保障は安定的で確実なものであることを前提に、人事権者と給与負担者はできる限り一致することが望ましく、人事権移譲に伴う給与負担の在り方も適切に見直すことを検討する必要がある。


○  さらに、人事権が移譲されない市区町村でも、現在、構造改革特別区域において行われている市町村費負担教職員任用事業の全国化により、市区町村独自の教職員の任用を可能とすることが適当である。

エ 教職員配置の改善と市区町村、学校への学級編制に係る権限の移譲

○  義務教育のナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための諸条件を整備する観点から、国が学級編制及び教職員配置についての基準を明確にすることは重要であり、早急に次期定数改善計画を策定する必要がある。これにより、少人数教育の一層の推進や、学習指導や特別支援教育の充実、養護教諭、栄養教諭、事務職員、司書教諭の配置充実、外国人児童生徒への支援の充実など、今日的な教育上の課題に迅速かつ適切に対応した教職員配置の改善を進める必要がある。


○  その上で、今後は学校の判断により地域や学校の実情に合わせた指導形態・指導方法や指導組織とするため、現行制度を見直し、学級編制に係る学校や市区町村教育委員会の権限と責任を拡大する必要がある。
 例えば、義務標準法による教職員の標準定数について都道府県ごとの算定から市区町村ごとの算定に改めることや、学校や市区町村教育委員会の判断で学級編制が弾力的に実施できるようにすることなど現行の学級編制の仕組みを見直す必要がある。
 また、学校や市区町村教育委員会の判断で少人数学級編制を可能とすることができるよう、これまで例外的な措置とされていた40人学級を下回る学級編制が自由に選択できる制度とする必要がある。
 その際、各都道府県に対し教育上の特別な事情に基づきさらに必要とされて加えられる定数(いわゆる教職員定数の加配定数)について、その配分と運用ルールの見直しを検討すべきである。

第2章 教師に対する揺るぎない信頼を確立する

2007-07-29 07:24:30 | Weblog
(1)あるべき教師像の明示

○  人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教師にかかっていると言っても過言ではない。国民が求める学校教育を実現するためには、子どもたちや保護者はもとより、広く社会から尊敬され、信頼される質の高い教師を養成・確保することが不可欠である。


○  優れた教師の条件には様々な要素があるが、大きく集約すると次の3つの要素が重要である。


教職に対する強い情熱
 教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感などである。
 また、教師は、変化の著しい社会や学校、子どもたちに適切に対応するため、常に学び続ける向上心を持つことも大切である。


教育の専門家としての確かな力量
 「教師は授業で勝負する」と言われるように、この力量が「教育のプロ」のプロたる所以である。この力量は、具体的には、子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級作りの力、学習指導・授業作りの力、教材解釈の力などからなるものと言える。


総合的な人間力
 教師には、子どもたちの人格形成に関わる者として、豊かな人間性や社会性、常識と教養、礼儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人格的資質を備えていることが求められる。また、教師は、他の教師や事務職員、栄養職員など、教職員全体と同僚として協力していくことが大切である。


(2)信頼される教師の養成・確保

ア 基本的な考え方

○  教師の質の向上のためには、養成、採用、研修、評価等の各段階における改革を総合的に進める必要がある。これらの改革に当たっては、教師を励ますような方向で進めるとともに、教職員の処遇の改善が図られるなど、教職や学校が魅力ある職業、職場となるようにすることが重要である。
 教職が魅力あるものとなるためには、教職員の地位や処遇が安定したものであって安心して子どもたちの教育に取り組めることは特に重要であり、資質能力を備えた教職員を安定的に確保するための確実な条件整備が欠かせない。
 そうした土台と合わせて、以下に述べるように、教員養成・免許制度の改革や教員評価の充実等により、教師が常に自己研鑽に努める環境整備が必要である。


○  現在の教師の年齢構成を見ると、大量採用期の40歳代から50歳代前半の層が多くなっており、今後、この世代が退職期を迎えることになることから、量及び質の両面から優れた教師を養成・確保することに十分留意する必要がある。特に、このような時期こそ、養成段階における教職課程の改善・充実を図ること、採用段階でより優れた教師を確保するための採用選考方法の工夫・改善を図ることは極めて重要となる。


○  教師の質の向上のためには、職場の同僚同士のチームワークを重視し、全員のレベルを向上させる視点と、個々の教師の能力を評価し、向上を図っていく視点の両方を適切に組み合わせることが重要である。その際には、校長のリーダーシップ及び学校を支える教育委員会の役割が重要である。

イ 教員養成・免許制度の改革

○  一般大学学部と教員養成系大学学部とが、それぞれの特色を発揮しつつ教員養成を行う「開放制」の原則は、幅広い視野と高い専門的知識を兼ね備えた人材を広く教育界に求める上で意義があり、今後とも尊重する必要がある。
 また、子どもの人格形成にかかわる教師には総合的な人間力が求められることを踏まえ、教員養成を担う大学においては、哲学、倫理学、歴史学等の人文科学や基礎科学等を幅広く履修し、広く豊かな教養を身に付けた人材を育成することが求められる。
 一方、国際的に質の高い教育を実現するためには、質の高い教師が養成されるよう、大学における教員養成の質の維持・向上を図る必要がある。また、教員免許状についても、教師としての資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。


○  大学での養成段階は、教師として最小限必要な資質能力を身に付けさせる段階であり、学校の実態やニーズも踏まえた資質能力の育成を含め、カリキュラム編成や成績評価の改善・充実を図ることが重要である。また、(1)で述べたようなあるべき教師像に示された教師を養成するという使命の重大さにかんがみ、教職課程認定の際の審査の在り方や、外部機関等が教職課程を事後評価する仕組みについても検討する必要がある。


○  高度な専門性と実践的な指導力を有する教師の養成や、現職教師の再教育の充実を図っていくため、学部段階における教員養成の着実な改善・充実とともに、とりわけ大学院段階における教員養成・再教育の格段の充実を図ることが必要である。このため、学校の様々な課題に即した実践的な教育を高度なレベルで行う教員養成分野における専門職大学院制度を創設する方向で検討することが適当である。その際には、現行の大学院修士課程との関係や、社会人を含めた幅広い分野からの入学者の受入れ等について検討する必要がある。


○  教師が、国民や社会から尊敬と信頼を得られるような存在となるためには、教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。このため、まず、免許状の授与の段階で、大学で養成すべき教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるよう、教員免許制度の在り方について見直すことが必要である。


○  また、教員免許状を取得した後も、社会状況の変化等に対応して、その時々で求められる教師として必要な資質能力が確実に保持されるよう、定期的に資質能力の必要な刷新(リニューアル)を図ることが必要であり、このための方策として、教員免許更新制を導入する方向で検討することが適当である。なお、我が国の教師の指導力が高いことについて正当な評価がなされないまま、教師に対する不信感のみから教員免許更新制を導入するのであれば、教師の意欲を喪失させる恐れがある。このため、教師の意欲を高める視点が必要であり、教員免許更新制の導入により、教師への人材登用の途を狭めることや、教師の身分を不安定にしたり、過剰な負担感を与え教職の魅力を低下させることのないよう留意する必要がある。

ウ 採用、現職研修の改善・充実

○  採用や初任者研修、10年経験者研修等の現職研修を通じて、実力ある教師の確保・育成を図ることが必要である。
 採用については、教師としての確かな指導力や総合的な人間力を見極めるため、人物評価を一層重視するとともに、大学の成績やボランティア等の諸活動の実績を評価する選考方法の改善を進めるなど、採用段階でより優れた教師を確保するための積極的な工夫・改善が必要である。また、今後、大量採用時代を迎えることが見込まれるため、民間企業経験者や退職教員等、多様な人材を登用するための工夫・改善も必要である。


○  研修については、校内研修や任命権者等が実施する研修といった体系的な研修と教師の主体性を重視した自己研修の双方の充実が必要である。また、国として、各地域において中核的な役割を担う教師等を一堂に集めて行う研修や、喫緊の重要課題に関する研修について、今後とも、一層の充実を図るとともに、都道府県教育委員会等に対する指導・助言・援助の機能も一層充実・強化する必要がある。研修の在り方については、講義形式だけでなく、実践的な指導力を向上させるとともに、内容・方法の工夫・改善を図ることが必要である。また、大学と教育委員会や学校との一層の連携を図っていくことが重要である。


○  教員養成・免許制度の改革が検討される中で、初任者研修や10年経験者研修等については、これまでの実績を検証し、研修内容・方法や受講者の評価の在り方も含め、一層の改善・充実を図ることが必要である。


○  教師の優れた指導実践を蓄積し、他の教師に継承していくことで、教師全体の指導力の向上を図ることができるような方策についても検討する必要がある。

エ 教員評価の改善・充実

○  学校教育や教師に対する信頼を確保するために、教員評価への取組が必要である。教師の評価は、民間企業で行われるような成果主義的な評価はなじみにくいという教師の職務の特殊性等に留意しつつ、単に査定をするのではなく、教師にやる気と自信をもたせ、教師を育てる評価であることが重要である。


○  教員評価に当たっては、主観性や恣意性を排除し、客観性をもたせることが重要であり、教師の権限と責任を明確にし、それに基づいて行うことが効果的である。


○  優れた教師を顕彰し、それを処遇に反映させたり、教師の表彰を通じて社会全体に教師に対する信頼感と尊敬の念が醸成されるような環境を培うことが重要である。


○  高い指導力のある優れた教師を位置づけるものとして、教育委員会の判断で、スーパーティーチャーなどのような職種を設けて処遇し、他の教師への指導助言や研修に当たるようにするなど、教師のキャリアの複線化を図ることができるようにする必要がある。


○  多くの教師は、教育活動や自己研鑽に熱心に努めているが、一方で、熱意や指導力の不足、必要な人格的資質の欠如など、問題のある教師がいることも事実である。安心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を実現するためには、これら問題のある教師に対し毅然と対処することが重要である。また、各教育委員会に設置されている相談窓口を通じ、教師に関する保護者の意見や苦情に対応していくことが必要である。

オ 多様な人材の学校教育への登用

○  優れた知識・技能と社会経験を持つ学校外の多様な人材を学校教育に積極的に登用していくことは、子どもたちに実社会と触れる機会を与え、社会とのかかわり方を身に付けさせるとともに、学校の活性化につながるものであり、有意義である。
 このため、特別非常勤講師制度や特別免許状制度を積極的に活用したり、学校ボランティアとして多様な外部人材の協力を得ることが重要である。


○  多様な人材の登用に当たっては、優れた指導力を有する退職教員を含む教職経験者や、企業等において種々の専門的な知識・技能を有する職業人、教員志望の学生など、地域や学校の実情に応じて様々な人材に協力を得る工夫が考えられる。
 その際、例えば、学校が中心となって組織を作ったり、活動の場を積極的に提供することなどによって、学校の教育活動にこれらの人材の協力を得ていくことが重要である。


○  校長や教頭といった管理職に人を得ることは肝要である。教頭については、管理職として民間企業等で培った経営感覚を生かすことが期待されることから、校長と同様に民間人などを登用できるよう、資格要件を緩和することが適当である。

第Ⅱ部 各論

2007-07-28 21:31:53 | Weblog
序章 義務教育の質の保証・向上のための国家戦略

○  資源に恵まれない我が国は、教育を通じて人材育成を充実することが何より重要である。
 国際的な大競争時代の今日、どの国においても義務教育の質の保証・向上が国家戦略の中核に据えられている。我が国においても、諸外国に遅れをとることなく、世界最高水準の教育を目指し、人材育成の基盤である義務教育の質の向上に国家戦略として取り組む必要がある。


○  第部で述べた新しい義務教育の創造に向けた構造改革の方向を具体的な改革策として整理すると、以下の4つの教育国家戦略になる。そこで、第部では、以下の戦略に即して、義務教育の改革策を述べたい。


教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する
 義務教育の到達目標を明確化し、教育内容の改善を図るとともに、質の高い教科書を確保する。また、実際に教育の成果が上がっているか結果を評価・検証するための方策を講じる。これらにより、すべての子どもたちに質の高い教育を保証する。


教師に対する揺るぎない信頼を確立する
 教師に対して児童生徒・保護者・国民から尊敬と揺るぎない信頼が得られ、国際的にも教師の質が高いものとなるよう、国の責任で、教員養成の質的な水準を高め、採用後も教師の質が常に向上するような仕組みの充実を図る。


地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める
 地方・学校の主体性と創意工夫によって教育の質の向上を図るため、国がナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための財源保障など諸条件を整備した上で、市区町村が行うべきことは市区町村が、学校が行うべきことは学校が担うシステムを確立する。学校は、自主性・自律性の確立のため、権限と責任を持つとともに、保護者・住民の参画と評価で透明性を高め説明責任を果たすシステムを確立する。


確固とした教育条件を整備する
 義務教育の質の保証・向上を図るため、教職員配置、学校施設、設備、教材など教育の実施を支える財源などの教育条件の整備については、国際的にも誇れる確固たるものとなるよう、国の責任でその確立に万全を期す。

第Ⅰ部 総論

2007-07-27 21:31:02 | Weblog
(1)義務教育の目的・理念

 変革の時代であり、混迷の時代であり、国際競争の時代である。
 このような時代だからこそ、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成を担う義務教育の役割は重い。
 国は、その責務として、義務教育の根幹(機会均等、水準確保、無償制)を保障し、国家・社会の存立基盤がいささかも揺らぐことのないようにしなければならない。

○  憲法第26条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、また、その権利を実現するために、義務教育の制度が設けられている。
 義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点であり、このことはいかに時代が変わろうとも普遍的なものである。


○  子どもたち一人一人が、人格の完成を目指し、個人として自立し、それぞれの個性を伸ばし、その可能性を開花させること、そして、どのような道に進んでも、自らの人生を幸せに送ることができる基礎を培うことは、義務教育の重要な役割である。
 自らの頭で考え、行動していくことのできる自立した個人として、変化の激しい社会を、心豊かに、たくましく生き抜いていく基盤となる力を、国民一人一人に育成することが不可欠である。


○  同時に、義務教育は、民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な国民としての資質を育成することをその責務としている。
 文化・政治・経済・科学・技術などあらゆる面において、これからの社会の在り方は、それを担う人材によって決定される。
 我が国が、変動の激しいこれからの時代において、今後とも国際的な競争力を持つ活力ある国家として、また、世界に貢献する品格ある文化国家として発展するためには、国民一人一人が、そのような国家・社会の形成者として、それぞれの分野で存分に活躍することのできる基盤を、義務教育を通じて培う必要がある。


○  こうした義務教育の目的に照らせば、学校は、知・徳・体のバランスのとれた質の高い教育を全国どこでも提供し、安心し信頼して子どもを託すことのできる場でなければならない。
 国民が質の高い教育をひとしく受けることができるよう、憲法に定められた機会均等、水準確保、無償制という義務教育の根幹は、国がその責務として保障する必要がある。
 特に、現代社会では、すべての国民に地域格差なく一定水準以上の教育を保障する義務教育制度の充実は、格差の拡大や階層化の進行を防ぐセーフティ・ネットとして、社会の存立にとって不可欠なものとなっている。


○  変革の時代であり、混迷の時代であり、また、国際競争の時代でもある今日、人材育成の基盤である義務教育の根幹は、これまでのどの時代よりも強靭なものであることが求められる。
 教育を巡る様々な課題を克服し、国家戦略として世界最高水準の義務教育の実現に取り組むことは、我々の社会全体に課せられた次世代への責任である。

(2)新しい義務教育の姿

 学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。公立学校に対する不満も少なくない。
 我々の願いは、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことである。
 そのために、質の高い教師が教える学校、生き生きと活気あふれる学校を実現したい。
 学校の教育力、すなわち「学校力」を強化し、「教師力」を強化し、それを通じて、子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標である。

○  学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。学力低下への懸念、塾通い等、特に公立学校に対する不満は少なくない。それらは時代や社会の変化に起因するものもあるが、学校教育、教育行政が十分対応できなかったことも否めない。
 義務教育は子どもが成長発達していく上で不可欠な学力、体力、道徳性を養う責任を担っている。義務教育の失敗は、国家・社会の存立基盤を揺るがすことになる。


○  小・中学校等の義務教育学校は、保護者や地域の期待に応え、子どもの社会的自立を支え、一人一人の多様な力と能力を最大限伸ばす場とならなければならない。


○  我々は、これからの新しい義務教育の姿として、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことを目指し、高い資質能力を備えた教師が自信を持って指導に当たり、そして、保護者や地域も加わって、学校が生き生きと活気ある活動を展開する、そのような姿の学校を実現することが改革の目標であると考える。
 学校の教育力(「学校力」)を強化し、教師の力量(「教師力」)を強化し、それを通じて、子どもたちの「人間力」の豊かな育成を図ることが国家的改革の目標である。


○  学校は、目指す教育の目標をこれまで以上に明確に示し、それに即して、子どもたちに必要な学力、体力、道徳性をしっかりと養い、教育の質を保証することが求められる。指導力不足など問題のある教師が教壇に立つことがないようにし、優れた教師を称え、信頼され尊敬される教師が指導に当たる学校にならなければならない。


○  同時に、これからの学校は、保護者や地域住民の意向を十分反映する、信頼される学校でなければならない。また、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)や学校評議員の積極的活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進することも求められる。教育を提供する側からの発想ではなく、教育を受ける側である保護者や子どもの求める質の高い教育の場となる必要がある。教育現場の意識改革がその鍵を握っている。


○  義務教育の改革を通じて、子どもたちが、知力、体力を身に付け、徳を備えた人間として成長し、それぞれの志や希望を実現して幸せをつかむとともに、我が国が活力と誇りに満ちた、世界から尊敬される国として発展することが可能になるものと確信する。

(3)義務教育の構造改革

 今こそ、義務教育の構造改革が必要である。
 義務教育システムについて、目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行った上で、市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果の検証を国の責任で行い、義務教育の質を保証する構造に改革すべきである。

○  新しい義務教育の実現に向けて、現在の教育システム全体を真摯に検証することが必要である。我が国の義務教育の良さや強みは維持する一方、これまでの政策について、実証的な立場から検証し、反省すべき点は反省し、改めるべき点は改めるという姿勢に立って、義務教育の構造改革に取り組むことが求められる。


○  義務教育の構造改革の基本方向として、国が明確な戦略に基づき目標を設定してそのための確実な財源など基盤整備を行った上で、教育の実施面ではできる限り市区町村や学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果について国が責任を持って検証する構造への転換を目指すべきである。
 いわば国の責任によるインプット(目標設定とその実現のための基盤整備)を土台にして、プロセス(実施過程)は市区町村や学校が担い、アウトカム(教育の結果)を国の責任で検証し、質を保証する教育システムへの転換である。


○  こうした義務教育の構造改革により、国の責任でナショナル・スタンダードを確保し、その上に、市区町村と学校の主体性と創意工夫により、ローカル・オプティマム(それぞれの地域において最適な状態)を実現する必要がある。
 国の責任と分権改革は、車の両輪である。両者が相まって、時代を切り拓く新しい義務教育を実現する必要がある。

(4)国、都道府県、市区町村の役割の明確化と協力関係の強化

 義務教育の中心的な担い手は、学校である。
 国、都道府県、市区町村の協力で、学校を支えなければならない。
 国は義務教育の根幹保障の責任を、また、都道府県は域内の広域調整の責任を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、より大きな権限と責任を担うシステムに改革する必要がある。

○  現実の教育の在り方を考えるとき、子どもたちの最も身近なところで教育活動を担っているのは学校であり、市区町村である。
 義務教育の構造改革に当たっては、こうした学校や市区町村が、それぞれの地域の状況を踏まえた最適な教育を行うことができるよう、できる限りその権限と責任を拡大する改革を進めることが必要である。
 併せて、教育委員会と学校との関係をより良いものにすることにより、自立して質の高い教育を提供する学校を実現することが必要である。
 義務教育について、今後求められる分権改革の重点は、都道府県から市区町村への分権、教育委員会から学校への権限移譲である。


○  同時に、義務教育は、国家・社会の存立基盤であり、国全体で共同して支えることが不可欠である。
 全国的に一定水準の教育を保障する最終的な責任は、国が担うべきものである。国は、その責務として、各学校、市区町村が創意あふれる教育に取り組むために必要な基盤整備を行う必要がある。


○  国、都道府県、市区町村の役割を明確にし、三者の協力関係を強化した上で、学校の存分な取組を支援する仕組みが必要である。
 すなわち、国が義務教育の根幹を保障する観点から、また、都道府県が域内の広域調整の観点から、それぞれの役割を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、これまで以上に多くの権限と責任を持つシステムへの転換を図る必要がある。

(5)義務教育の基盤整備の重要性

 義務教育を支える基盤整備は確固たるものでなければならない。
 そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。
 とりわけ重要なのは教職員である。
 教育の成否は、資質能力を備えた教職員を確実に確保できるか否かにかかっている。
 教職員の養成、配置、給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。

○  義務教育の構造改革を行い、質の保証・向上を図る上で、それを支える教育基盤の整備は極めて重要である。教職員の養成・配置、学校施設、設備、教材などの教育基盤は確固たるものである必要がある。そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。


○  とりわけ重要なのは教職員である。
 教育は、教師と子どもたちとの人格的ふれあいを通じて行われる営みである。
 人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教職員にかかっていると言っても過言ではない。
 どの国においても、教職員の質と量を確保するための戦略は大きな課題である。
 資質能力を備えた教職員を安定的に確保できるか否か、教職員が安心して職務に従事できる環境があるか否か、教職員を尊敬する社会であるか否かは、教育の成否の鍵を握る問題である。


○  義務教育こそ、外交や防衛とともに国が担うべき最重要政策であり、そのために必要な教育費の総額は確実に確保されなければならない。
 特に、機会均等や水準の維持向上などの義務教育の根幹を保障するためには、優れた教職員の必要数を全国どこでも確保できることが不可欠である。
 教職員の人件費は義務教育費全体の四分の三を占める最大の要素であり、教職員の養成、配置や給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。

(6)義務教育の費用負担の在り方

 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。
 教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費も、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。
 公立学校施設の整備についても、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持って推進すべきである。

○  義務教育の経費の大半を占める教職員の確保と適正配置のため、昭和15年に義務教育費国庫負担法が成立しており、国と地方の共同により教職員給与費を負担している(終戦後の昭和25~27年度にシャウプ勧告により一時的に廃止されたが、全国知事会からの要請もあり昭和28年度に復活)。これにより、教職員給与費として都道府県が実際に支出した額の二分の一を国が負担することを通じて、教職員人件費の総額確保が果たされている。
 また、負担金の交付に当たって、地方の裁量を拡大する仕組み(総額裁量制)も導入されている。


○  平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策と、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方の検討が、中央教育審議会に求められた。


○  地方六団体は、義務教育費国庫負担金の全額を廃止し税源移譲の対象とすることを前提として、まず中学校分8,500億円に係る負担金を移譲対象補助金とすることを求めている。一方、平成17年度には1,044の市区町村(全国の市区町村の47パーセント)の議会から義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている(10月25日現在)。これは平成16年度から通算すると全国の市区町村の65パーセントに達する。
 中央教育審議会は、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下で、地方の意見を真摯に受け止め、費用負担についての地方案を活かす方策について審議を行った。


○  地方六団体から推薦された委員(以下「地方六団体委員」という。)は、国が義務標準法や学習指導要領を定めた上で、税源移譲による一般財源化を行って、地方の自由度を拡大し、自らの責任と判断で義務教育を運営する方法が地方分権の観点からも最も適切であるとの意見を述べた。
 しかし、多くの意見は、地方公共団体間の財政力格差や教育格差が生じることを懸念するものであった。税源移譲を行った場合、47の都道府県のうち40の道府県で義務教育費国庫負担金による配分額よりも税源移譲額が下回ることが推計されている。


○  一方、義務教育の質の向上のためには、最も確実性・予見可能性の高い方法を選択すべきであり、そのためには義務教育に使途が特定された財源保障の制度、すなわち国庫負担制度が不可欠であるとの意見が多く出された。


○  義務教育の主たる経費である教職員の給与を保障する方法としては、全額を国庫負担する制度、現行の国庫負担制度のように国と地方が負担割合を法定し、それにより給与費の全額が保障される制度、全額一般財源化により、地方が全額を負担する制度、などが考えられる。


○  義務教育の機会均等と水準の維持向上を図ることは国の存立に関わるもっとも重要な基本政策である。義務教育の成果は、一地方にとどまらず、国全体に関わるものであり、義務教育の経費はこの観点から考えられなければならない。また、教育の質の向上のためには、教職員が安心して職務に従事できる基盤の保障と強化が重要である。


○  義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は、教職員給与費の優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。


○  中学校に係る国庫負担金を対象から外すという考え方については、同じ義務教育である小学校と中学校の教職員の取扱いを分けることになり、合理性がなく、適当ではない。


○  教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費についても、国と地方の協力により、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。


○  さらに、重要な教育基盤である公立学校施設の整備は、大きな地域間格差が生じてはならないものであり、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持って推進すべきである。


○  地方六団体が目指す教育の地方分権についての提案は、本答申を貫く一つの理念として十分尊重されている。学校や市区町村が、特色ある教育活動、柔軟な学級編制などを行い、それぞれの地域の伝統や独自の文化を生かし、個性ある多様な人材を育てることが重要である。それは、学校とその設置者である市区町村の裁量権限と自由度の拡大を進めることにより実現されるものであり、義務教育費国庫負担金や公立学校施設整備費負担金等を通じ国がその財源を担保することが重要であると考える。

新しい時代の義務教育を創造する(答申)

2007-07-26 19:55:05 | Weblog
はじめに
○  中央教育審議会は、平成15年5月の「今後の初等中等教育改革の推進方策について」、平成16年3月の「地方分権時代における教育委員会の在り方について」、平成16年10月の「今後の教員養成・免許制度の在り方について」の3つの諮問を受け、義務教育の在り方について審議を進めてきた。


○  また、国庫補助負担金、税源移譲を含む税源配分、地方交付税の在り方を一体的に見直すこととしている「三位一体の改革」において、義務教育費国庫負担金をはじめとする義務教育に係る費用負担の在り方が議論となった。
 中央教育審議会では、平成16年5月に初等中等教育分科会教育行財政部会・教育条件整備に関する作業部会が「義務教育費に係る経費負担の在り方について(中間報告)」において考え方をとりまとめている。


○  その後、平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、平成18年度までの三位一体の改革に関して合意がなされており、その中で、「義務教育制度については、その根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する。その方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策を検討し、また教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方について幅広く検討する」こととされ、「こうした問題については、平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得る」とされた。
 これを受け、中央教育審議会では、義務教育の在り方について集中的な審議を行うため、平成17年2月、総会直属の部会として義務教育特別部会を設置した。


○  義務教育特別部会は、平成17年2月28日の第1回以来、これまで8ヶ月の間に41回の会議を開催した。
 その審議経過については、まず、5月23日の総会に、子どもの現状、学力の問題、教育内容、義務教育制度、教師像、学校像、教育委員会の在り方、国と地方の関係、教育費総額とその内容などを中心とする「審議経過報告(その1)」が報告された。
 続いて、合宿集中審議等を経て、7月19日の総会に、義務教育に関する費用負担の在り方を中心とする「審議経過報告(その2)」が報告された。
 また、今回の審議に当たっては、幅広く各界各層の意見を徴するため、有識者、関係団体、関係省庁等からの意見聴取や、地方公聴会(一日中教審)の開催(水戸市及び高知市)、文部科学省ホームページにおける意見募集、「義務教育に関する意識調査」の実施などに積極的に取り組んだ。御協力いただいた方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げたい。
 これらを踏まえ、8月以降、義務教育特別部会及び総会において、更に審議を深め、このほど本答申をとりまとめたものである。


○  本答申は第部総論と第部各論から成っている。総論においては、我々の目指す義務教育の改革の基本的な方向性を述べ、各論においては、この改革の実現のための具体的な改革策を述べるとともに、審議の過程において出された様々な意見についても盛り込んでいる。したがって、第部、第部全体を通して我々の考えを御理解いただきたい。


○  答申をとりまとめるに当たっては、できるだけ簡潔で分かりやすいものを目指した。このため、委員から出された数多くの意見や提言をすべて盛り込むことはしていない。これらの意見、提言については、審議経過報告や議事録もご覧いただき、本答申に至る背景を御理解いただきたい。


○  なお、義務教育の在り方に関する審議事項は極めて広範にわたることから、学習指導要領の見直しを含む教育内容の改善や教育評価については教育課程部会で、教員養成・免許制度の改革については教員養成部会で、また、教職員配置の改善に関しては別途設置された調査研究協力者会議で、それぞれ専門的な検討が行われてきた。本答申では、それらの検討の成果をも踏まえつつ、基本的な方向について提言を行っている。教育内容、教育評価、教員養成・免許制度に関しては、引き続き、関係部会等で審議を深めることとしている。


○  義務教育は、国民一人一人の幸せな人生の実現の根幹であるとともに、国や社会の発展の基礎である。
 中央教育審議会としては、我が国の将来を見据え、新しい時代の義務教育の在り方について総合的な展望を描くことを目指し、限られた時間の中で全力を尽くして議論を行い、答申をとりまとめた。
 政府においては、義務教育の在り方について中央教育審議会において結論を得るとされた政府・与党合意のとおり、本答申の内容を責任を持って確実に実現していただきたい。
 国民の皆様には、本答申の内容が確実に実現されるかどうかをしっかりと見守っていただきたい。

(4)管理職の一層の適材確保

2007-07-25 18:20:27 | Weblog
 組織的な学校運営を進める上でも、校長やこれを支える教頭といった管理職に人を得ることが肝要であることは言うまでもないところである。
 管理職の適材確保については、これまでも、その選考の在り方について、知識等に偏重しないで、より人物、識見を重視する方向で、例えば面接を取り入れたり、筆記試験の比重を少なくするなどの取組が行われてきたところである。また、その研修においてマネジメント研修や社会体験を取り入れるなど、管理職としての能力の向上を図る取組も進められてきたところである。さらに、中央教育審議会の提言を踏まえ、平成12年の学校教育法施行規則の改正により、校長、教頭の資格要件を緩和する制度改正が行われた。これにより、各教育委員会において、民間人をはじめ幅広い人材の登用が図られているところであるが、これについては、今後、その成果を地域全体に広げていくことが課題となっていると言える。
 これらを踏まえ、管理職の一層の適材確保について検討する必要があると考える。

管理職の一層の適材確保
 管理職の適材確保については、その登用後の研修も重要であるが、登用前の管理職の育成が重要である。とりわけ、前述のキャリアの複線化を図るとすれば、管理職を志向する者について必要な資質能力を育成することが大切となるであろう。


(ア)管理職の育成と登用
 ○  管理職の人材育成と適材確保の観点から、管理職となる候補者に研修などを行い、そのなかで資質能力を育成しながらこれを見極めて登用を行うよう、例えば管理職候補者登録制などの仕組みについて検討する必要があると考える。その場合、管理職候補者を前述の主幹や教務主任などとしてOJTを行うことも考えられる。
 ○  管理職としてふさわしい人材を育成するため、独立行政法人教員研修センターや各教育委員会の研修センターの一層の活用が必要である。それとともに、教職員については、日々の業務を通じて管理職としての資質能力を身に付けることや、これに関する研修の機会が必ずしも十分にあるとは言えないことから、大学院における研修などの充実も含め、大学院と連携した育成の在り方について検討することも考えられるのではないか。
 ○  管理職の登用については、教員の年齢構成や今後の退職者数の推移を踏まえ、計画的な人事を行い、在職期間の長期化を図るなど、それぞれの理念や能力を発揮できるようにすることも重要な視点であると考える。



(イ)幅広い人材登用
 ○  教頭について、校長と同様、民間人などを登用できるよう、学校教育法施行規則の改正により、その資格要件を緩和することについて検討する必要があると考える。さらに、前述の事務長や主幹についても民間人などを登用することが考えられるのではないか。
 ○  キャリアの複線化のなかで、教頭は校長になれなかった人というのではなく、教頭としてまっとうする人、さらに前述のスーパー・ティーチャーなどとしてまっとうする人など、教職員のキャリアの在り方も様々な形があってよいのではないかと考える。



(ウ)組織全体の総合力の向上
 ○  学校運営の責任者は校長であるが、校長一人がすべてを担うのではなく、学校組織全体の総合力を高めることが重要である。そのためには、すべての職員が自らの職責を自覚しながら能力や個性を発揮し、組織全体として有機的な運営態勢となることが求められることから、例えば、教育活動面で特に力量のある校長のもとに民間人等の教頭を配することなどが有効であると考えられる。
 ○  さらに、組織的な学校運営を行うには、すべての教職員がマネジメントの発想やリーガル・マインドを持ちながら教育活動を含め業務を遂行することが大切であり、そのような研修等について工夫することも必要であろう。それとともに、学校の組織運営全体について整理しておくことで、人事異動などがあっても、全体の組織運営の流れは維持されるものと考えられる。





教育委員会の学校支援
 組織的な学校運営を進めるには、前述の管理職の適材確保、あるいは組織体制の整備などと同時に、教育委員会が学校を支援する機能を強化することが不可欠である。これについては、地方教育行政部会で同様の検討が行われているが、本作業部会としても、以下の点について言及があったところである。


 ○  学校への支援の強化や教育委員会とのパイプ役となるよう、校長職、教頭職に相当する学校支援の専門職を教育委員会に置くことができるような仕組みについて検討する必要があるのではないかと考える。その場合、これを含め計画的な人事を行うことにより、管理職の在職期間の長期化を図ることも考えられる。
 ○  特に危機管理などにおいて学校を支援する機能を充実し、例えば事件、事故などの場合、法務相談をはじめ学校を支援し、学校に過度の責任を負わせないようにすることが求められる。
 ○  教育委員会の行政評価の中で、教育委員会の学校への支援が十分に行われているかチェックすることも重要な視点であると考える。
 ○  学校の権限の強化に伴い、学校が適切にその権限を行使しているか、管理職のマネジメントがうまく機能しているかなどについて、学校現場自らや住民が評価することが重要になるであろう。
 ○  学校の評価に関連して、学校現場からのフィードバックを可能にするシステムについても検討する必要があると考える。

(3)教職員の評価と処遇

2007-07-24 18:19:48 | Weblog
 教職員が意欲を持って業務を遂行し、自らの役割を果たすことができるよう、一人一人の教職員の能力や業績を適正に評価するとともに、これを適切に人事や処遇に反映することが極めて重要であると考えられる。
 このため、教職員の評価の改善充実とその処遇などへの反映について検討する必要があると考える。また、教職員は専門的な能力が求められるものであり、その資質向上について研修などが行われているところであるが、評価と育成を連動するものとして、その専門性を適切に評価し、これに基づく体系的な人材育成を行うようにすることが大切である。さらに、優れた実績や高い指導力のある教職員について、これを評価することも重要であると考える。
 一方で、教職員の人事管理について、適材適所の配置や教職員の資質向上の観点から、例えば教員の公募制やFA制などの様々な工夫が講じられているところであり、今後更にこうした取組を進めることが求められるところである。
 評価の改善などを進めるに当たっては、これら人事管理全般の見直しの一環として行う必要があり、人事管理に関するシステムすべてを人材育成の観点から見直し、上記の新たな評価システムづくりと併せて、総合的にこれらを推進していくことが大切であると考えられる。

教職員の評価の改善とその処遇への反映
 公立学校の教職員の評価については、公務員法制上の勤務評定制度はあるが、一律の評価や処遇となっているなど、評価や処遇に差を設けることに消極的であり、必ずしも十分に行われていないとの指摘があるところである。しかし、近年、学校教育の信頼確保などの観点から、教職員の評価の改善充実が課題となっている。それとともに、評価結果について適切な処遇への反映を図ることも検討する必要がある。
 なお、平成18年度から実施される予定の公務員制度改革においても、公務員について、能力や実績などに応じた評価や処遇が求められているところであり、その動向を踏まえる必要がある。
 評価の改善充実に当たっては、人材育成と業務改善の向上の2つの視点を重視することが大切であると考える。とりわけ、学校においては集団としての活動が大きな位置を占めることから、チームとしての活動を適切に評価できるよう検討する必要がある。また、学校の評価と教職員の評価は密接に関連するものであり、これらを連動させながら取組を進める必要がある。これらにより、学校の組織的な取組と個々人の取組が連鎖して組織力の向上と教職員の資質向上につながるのである。


(ア)評価の改善充実
 ○  現在、すべての都道府県、指定都市の教育委員会において、教職員の新たな評価システムの構築が進められているところであるが、今後、これら取組の一層の推進が求められる。
 ○  評価は、公正で透明性の高いものとすることが重要であると考える。具体的には、例えば評価要素や項目ごとに求められる職務行動(コンピテンシー)を基準として明確にすることで、評価の客観性を高めると同時に、職員がどのような職務行動が求められているか理解するようにして自己改善に資するものとし、かつ、評価者とのコミュニケーションを促進するような仕組みについて検討する必要があるのではないかと考える。
 ○  目標管理手法は業務改善の一方法であり、単なる評価のためだけの目標管理とならないようにし、学校全体の目標を共有した上で、これに基づいて個々の職員が自己の目標を設定することが大切である。これにより、学校が目標達成のためのチームとなり得るものである。
 ○  学校組織の中でどれだけの役割を果たしたか、あるいはその貢献度などについても評価されるよう工夫することが必要であると考えられる。これにより、教職員の参画意欲を高め、学校組織全体の総合力の向上につながるものと言える。
 ○  新たな評価システムについては、その趣旨内容を教職員が十分に理解するよう努め、また、そのシステムが有効に機能し適正な評価が行われるよう、特に評価者の十分な研修などが重要となるであろう。
 ○  評価システム自体についても、教育委員会による自己評価や第三者評価などによりきちんと評価し必要な改善を図ることが大切である。
 ○  これら教職員の評価に加え、例えば優れた実践のある学校の表彰など、組織単位で評価する仕組みについても併せて検討する必要があると考えられる。



(イ)処遇などへの反映
 ○  評価結果の適切な処遇などへの反映について検討する必要があると考える。現行でも特別昇給や普通昇給延伸、勤勉率などに結びつけているところもあり、前述の評価の改善とあわせて検討することが大切である。
 ○  具体的には、一般的に能力評価は任用、業績評価は給与上の措置に反映することが考えられるが、能力評価と業績評価のバランスが大切であり、教育においては、その特質にかんがみれば、余りに成果主義に傾きすぎるのはなじまないと考えられる。
 ○  これに関連して、国立学校準拠制の廃止や総額裁量制の導入により地方公共団体の裁量が大幅に拡大したことを踏まえ、給与体系の見直しについて検討することも必要ではないか。その場合、例えば前述の主幹や後述のスーパーティーチャーなどについて新たな級を設けるなど給与体系上の位置付けを明確にすることも検討する必要があると考えられる。その際、必要な財源の確保にも留意する必要があると考える。



(ウ)評価に基づく体系的な人材育成
 ○  能力開発を重視した評価においては、面接などを通じた本人へのフィードバック、評価者による指導なども大切であり、評価を人材育成につなげることが求められると考える。
 ○  人材育成システムの中に評価を明確に位置付けるとともに、評価結果を人材育成の視点から人事配置や研修などにも活用することが適当であると考える。





優秀な教職員の評価と処遇
 優れた実践や高い指導力のある教職員については、一部の教育委員会において、優秀な教員の表彰などの取組を進めており、その処遇への反映を図っているところもある。
 しかし、優れた教員を任用面で遇するには、これまでは管理職への登用しかなかったが、教職員と管理職の能力は必ずしも一致するものではなく管理職には向いていない場合もある。このため、管理職への登用だけでなく、教職員として専門性を高め、これに管理職に相当する位置付けを与え、現場でキャリアをまっとうする道を開くことも検討する必要があると考える。すなわち、教職員のキャリアの複線化を図ることも重要であるのではないか。
 また、教育指導の専門職として高い能力のある教員を適切に位置付けることにより、前述のチームなどにおいて他の教職員の指導的な役割を担わせるようにすることが考えられるところである。
 なお、いわゆる指導力不足教員に対する取組についても、各教育委員会においてその人事管理システムが構築され、適切な対応が図られているところであるが、更にこうした取組を進めることも大切であると考える。


 ○  高い指導力のある優れた教員を位置付けるものとして、例えば、広島県のエキスパート教員などのような認定の仕組みや、さらには宮崎県などで検討されているような、処遇などにおいて相応の位置付けを与えられるスーパーティーチャーなどのような職種を設けることについて、更に検討する必要があると考える。
 ○  これらの優れた教員については、基本的には学校に配置され、教育活動等にその力を発揮してもらいながら、併せて他の教員の指導助言にも当たることになると考えられるが、例えば、他校の研究会や教職員研修などにおいて活用するなど、その成果を普及し、地域全体の水準向上のための指導的役割を担うようにすることも考えられるのではないか。その際、位置付けや職務などについて、教育委員会事務局に置かれ、学校への指導に当たる指導主事との整理を明確にするとともに、研修を体系的に行うなど、それぞれが十分に機能を果たすよう配意する必要がある。
 ○  キャリアの複線化を図る場合には、例えば、30代くらいまでを持ち味を探す時期、30代から40代をその持ち味を磨く時期として、その上で40代半ばくらいにいずれの道を目指すのか選択することとし、その後、管理職を目指す場合には主幹などとなり、あるいは後述の管理職候補者登録制などにより、その資質を育成することも考えられるのではないか。また、系列間移動の道も開いておくことも必要となると考えられる。
 ○  その際、教員の年齢構成などを踏まえ、管理職や上述の指導的な役割を担う教員など全体の構成のバランスを十分に考慮しながら採用や人事を行うことが重要である。
 ○  優秀教員の表彰に関する取組を更に推進するとともに、表彰に伴う措置として特別な研修機会を与えるなどのほか、特別昇給などの処遇への適切な反映を図るとともに、他の学校の研究授業や教職員研修に活用するなど、その成果の普及も併せて考慮する必要がある。

(2)学校の組織体制の再編整備

2007-07-23 18:19:09 | Weblog
 学校においては、その責任者は校長であることは言うまでもないが、個々具体の業務については、校務分掌などの校内組織が定められ、教職員が分担してこれを処理することとされている。しかし、校長、教頭以外は横一線に並んでいる、いわゆる「なべぶた」組織といわれ、かつ、横一線に並んでいる教職員については、「一人一役」の考え方のもと、担当が細かく分けられ、かえって分かりにくいものとなっている。このため、実際には、分掌とは関係なくその場で気が付いた者が処理することがあるなど、組織が実態と必ずしも合っておらず、責任をあいまいにしていることもある。
 また、先に述べたように、学校においては集団としての力を生かすことが大切であると考えられることから、各教職員の適切な役割分担と連携によりチームとしての機能を発揮し、学校全体の組織力の向上につながるようにする視点も重要であると言えるのではないか。
 これらを踏まえ、組織的な学校運営を実現するため、簡潔で機能的な校内組織の在り方について検討する必要がある。その際、今行われている業務をきちんと分析し、その上で事務改善を図るという発想が求められよう。
 一方で、現在の学校運営は実質的には校長と教頭で行われていると言っても過言ではない。しかし、学校の権限の拡大などにより、学校における最終的な責任者は校長であるとしても、すべてを校長、教頭が担うことは難しいと考えられることから、これら学校運営を支える機能の充実について検討する必要がある。さらには、学校運営を支える機能の一つとして、事務処理体制について、学校自らが適切に権限を行使できるようにするとともに、教育活動の充実に資するものとなるよう検討する必要がある。

校務分掌など校内組織の整備
 各学校において校務分掌などの校内組織が定められているが、前述のように、「一人一役」の考え方により校務が細かく分けられ、担当する職員が入り組んでおり、組織が複雑で分かりにくく、かえって責任の所在が不明確になっているものもある。極端な例では、備品ごとにこれを管理する担当者が決められ、学校全体の備品の管理について、誰が責任を持ちどのように管理されるのか分からない場合も見られる。
 職員がいろいろな経験をすることは意義のあることであるが、事務が細分化され、かつ担当者がしばしば変わるのでは、そのノウハウの蓄積もなく責任感も育ちにくく、組織的な学校運営にとってはかえって逆効果であるとも言える。
 また、各種の委員会等が置かれ、これに伴う会議や打合せが頻繁に行われることにより、かえって学校運営を非効率なものとしている場合もある。
 このため、組織的で効率的な学校運営が行われるよう、スクラップ・アンド・ビルドの考え方を踏まえ、校務分掌の整理合理化や会議のスリム化といった校内組織の見直しを行う必要があると考える。その際、地域、保護者との連携の一層の推進や情報公開、情報発信の重要性の高まりなどを踏まえ、渉外の業務の明確な位置付けにも留意することが大切であると考えられる。


(ア)校務分掌の整理合理化
 ○  校務分掌などについて整理合理化を行い、これを簡潔なものとする必要がある。その際、教育活動の領域とこれを支える領域に分けて、その有機的な連携を図ることも考えられる。
 ○  新たな課題に対応できるよう柔軟に組織を見直し、例えば、委員会といった新しい組織を作るときは、スクラップ・アンド・ビルドの考え方により、既存の組織に加えるだけではなく、組織の統廃合を行うことが大切である。併せて、非効率な業務や慣行の見直しを行うことも大切であると考える。
 ○  校長が代わるときなど随時校内組織を見直すことも適当であると考える。



(イ)会議のスリム化
 ○  組織が複雑化し、例えば委員会や部会などが多くなれば、それだけ会議が増えて時間を取られることになる。組織を整理し、会議をできる限り少なくする必要がある。
 ○  職員会議については、中央教育審議会の答申を踏まえ、学校教育法施行規則について、その位置付けを明確にする規定整備が行われ、より一層適正な運営が図られたところである。さらに、企画調整会議などを有効活用し、職員全体が集まる必要がある場合に限定するなど、そのスリム化を図ることも重要である。



(ウ)渉外・広報の位置付け
 ○  校内組織の見直しに際しては、学校の説明責任や地域住民などの参画などによる対外的な業務の重要性の高まりに合わせ、渉外の業務を明確に位置付ける必要があるのではないか。
 ○  また、情報発信の機能も充実する必要があり、広報などの位置付けも重要である。





学校運営を支える機能の充実
 学校組織については、校長、教頭以外は横に並んでいる、いわゆる「なべぶた」組織であると言われている。これは、一人一人が責任を持って業務に当たる上では一定の役割を果たすかもしれないが、組織的な学校運営をかえって難しくしている面もあるのではないか。このような組織では、前述の「一人一役」の考え方とあいまって、その場の対応に終始したり、責任の所在を不明確にするおそれもあると考えられる。
 前述のように、学校の権限の拡大などに伴い、このような「なべぶた」組織では対応しきれないと考えられることから、組織的な学校運営を支える機能が重要であると言える。先に述べたように、学校においては集団としての力を生かすことが求められることから、組織的な学校運営においては、校長、教頭のもとでそれぞれのグループをまとめたり調整を行う中間的な指導層の役割も大切である。同時に、新たな課題への対応も含め、様々な専門職や外部の力の活用が求められているところであり、これらを有機的に連携させ、学校全体の総合力を向上させるよう調整を図る機能も大切である。
 主任制については、中央教育審議会の提言も踏まえながら、一層の定着が図られてきたところであり、全体としては概ね定着してきていると考えられる。特に教育指導面などにおいてその機能を果たしているという認識がある一方で、例えば校長の方針などを組織全体に伝達するには一人一人に説明することになるなど、校務運営面では必ずしも十分に機能していないという指摘もある。これに対し、東京都では担当する校務をつかさどる主幹を置いているが、これについては、担当する校務の責任ある処理が期待できるとともに、管理職と各職員のいわばパイプ役となってその意思疎通や理解に寄与するなどの効果が見られるという指摘もある。
 これらを踏まえ、学校運営を支える機能の充実について検討する必要があると考えるものである。
 さらに、学校組織においては、職員の横並びが指摘される一方で、横の連携が必ずしも十分に行われず、例えば、授業を他の教員に見せたがらない、指導方法について相談することを好まない、あるいは先輩が後輩を指導することが余りないなど、OJT(On the Job Training)が十分に行われず、一人の職員の研修の成果が他の職員になかなか共有されないこともある。組織的な学校運営を支える在り方の一つとして、組織力の向上に資するよう職員間の連携を更に図ることも大切であると考える。


(ア)学校運営を支える体制の整備
 ○  校長や教頭を支えるものとして、例えば教頭や教務主任などを副校長や副教頭として位置付け、これに一定の権限を委ねるような仕組みについて検討する必要があると考える。
 ○  また、例えば教育課程管理などにおいて主任が機能するよう更にその定着を図り、あるいは、必要に応じ、管理職を補佐して担当する校務をつかさどるなど、一定の権限を持つ主幹などの職を置くことができるようにする仕組みについて、更に検討する必要があると考える。
 ○  その場合、これらを一律に行うのではなく、それぞれの実情に応じて工夫することが大切である。
 ○  教頭の役割を再確認し、その機能をより確固としたものとすることも大切であると考える。また、教頭の複数配置の一層の活用について検討することも考えられる。



(イ)職員間の連携
 ○  職員間の連携をより一層緊密なものとし、特色ある学校づくりなどに学校全体として取り組むことが大切である。
 ○  そのためには、個々人の知識や経験を学校全体で共有することが重要であり、例えば、研修の成果を他の職員も共有できるよう校内研修を行うなど、「知の共有化」が図られる体制を作ることが必要である。





事務処理体制の整備
 学校の権限の拡大などにより、学校が自ら責任を持ってその事務、業務を執行することが必要となる。そのなかで、事務職員は、より効果的、効率的な事務処理を図り、事務執行や渉外などにおいて学校経営の専門スタッフとして中心的な役割を担うことが期待される。しかし、特に小・中学校については、事務職員の配置が1人のところが多く、十分な組織体制が取れず、教育行政サービスに差が生じたり、安定性に欠ける場合もある。また、上司、先輩の指導助言も得られないなど、職員自身の資質や意欲の向上を図りにくいという問題がある。また、高等学校等も含め、事務組織の職務権限が必ずしも明確でなかったり、一層の権限の委任が効果的であると考えられるものもある。
 このようなことを踏まえ、人的措置を含め事務処理体制を整備し、前述の教育活動を支える領域として明確に位置付けることが必要ではないか。これにより、効率的で安定的な事務処理が図られるとともに、指導時間の確保など教員が教育活動により専念できる環境づくりにもなり、教育活動の領域にも好影響を与えると考えられる。
 また、教育委員会事務局と学校との間において、学校事務に関し適切な役割分担と協力が大切である。


 ○  事務処理体制が必ずしも十分でない小・中学校については、事務処理の効率化、標準化や職員の資質向上のため、事務の共同実施を推進する必要があると考える。具体的には、拠点校に共同実施組織を置き、各校の事務職員が定期的に集まって共同処理を行う方式などが考えられる。
 ○  その場合、共同実施組織に事務長を置くことができるようにするなど、その制度化についても更に検討する必要があると考える。これにより、学校への権限委譲を更に進め、状況に応じ共同実施組織に予算を示達するなど、一層の効果が期待できるのではないか。
 ○  高等学校等においては、事務長や事務室の職務権限の明確化、一層の機能強化について検討する必要があると考える。
 ○  また、事務局と学校の事務職員の人事交流なども考えられる。
 ○  マネジメント研修も含め研修などにより、事務職員の事務能力のみならず教育活動への理解や学校運営に参画する意欲の向上を図るとともに、管理職や教員の事務に対する理解を進め、相互に刺激し合うようなことも大切ではないか。
 ○  これらに関連して、事務処理も含め学校運営面のIT化を進める必要があると考える。

(1)学校運営をめぐる現状と課題

2007-07-22 18:18:23 | Weblog
 学校運営については、従来から、日常的な具体の学校運営は学校に委ねられていたものの、教育委員会の関与が強く、その細かな指示を受けて行われていた。このように学校の権限が限られ、教育委員会の指示のもとに学校が運営されるのであれば、学校自体の組織運営能力は必ずしも求められるものではない。そのなかで、とりわけ学校本来の目的である教育活動の実施は、教職員の個々具体の活動に収れんされる側面が強く、他の組織よりも組織的な運営を難しくしていると考えられる。学校に組織マネジメントの発想が余りないとの指摘があるが、このような状況にあってはむしろ当然の指摘とも言えるものであり、その結果として、組織や業務がうまく整理されておらず、学校の運営は積み上げ方式となっている(したがって業務を「捨てる」ということがなかなかない)のではないか。
 しかし、主体的な特色ある学校づくりが求められ、そのための学校の権限の拡大が図られているなかでは、学校が自らその権限を責任を持って適切に行使していかなければならない。それを実現するには、個々の教職員の活動をより有機的に結び付け、組織的な学校運営を行う体制を整えることが必要である。さらに、学校については、その組織が分かりにくく責任の所在が不明確であるとの指摘があるが、より多くの権限を移譲するのであれば、より透明性の高い組織運営を行うことも大切である。このことは、開かれた、信頼される学校づくりを進める上でも求められるものである。

 また、他の組織と異なる学校の特質として、例えば一人の児童生徒の指導について多くの教職員がかかわっているなど、教育活動の成果について一人一人の業務に分けてこれをとらえることが難しく、集団としての活動としてとらえる必要があるという点が挙げられる。学校の組織運営体制について検討する場合、このような特質に留意し、個々の教職員が自らの職責を自覚しながら能力や個性を発揮するとともに、チームとしての力を生かしつつ学校組織全体の総合力を高めるよう、組織全体として有機的な運営が行われる態勢を作ることが必要である。その際、従来の学校においては、例えば特徴的な教育実践や研修の成果など、個々人の知識や経験が学校全体で共有化されにくく、その結果として教職員の思考の幅が狭くなりがちであったとの指摘もある。学校組織の集団としての総合力を高めるには、こうした「知の共有化」が図られるようにすることも視野に入れる必要がある。

 これらのことを踏まえ、学校が組織的に機能し、新たな課題にも機動的に対応できるよう、学校の組織体制の再編整備について検討する必要があると考える。その際、地域に開かれた学校づくりの観点から、学校が自ら地域との連携を進められる体制に留意することも大切であると考える。
 また、個々具体の学校運営を担うのは教職員であることから、学校組織がその機能を十分に果たし、機動的な学校運営が行われるには、一人一人の教職員が、組織的な連携のもと、自らの役割をきちんと果たすことが不可欠である。そのためには、教職員の資質能力を高めつつ、教職員が意欲を持って学校運営に参画するようにすることが重要であることから、教職員の評価と処遇の在り方について検討する必要があると考える。
 さらに、自主的、自律的な学校運営が行われるには、その責任者である校長やこれを補佐する教頭などの管理職に適任者を得ることが重要である。これからの管理職は、教育者としても学校という組織の責任者としてもその資質能力を他の教職員以上に高め、「卓越性に基づくリーダーシップ」を発揮することが求められるであろう。このため、管理職のより一層の適材確保について検討する必要があると考える。

 なお、学校の組織体制を検討するに当たっては、学校種や各学校の規模あるいはそれぞれの子どもや地域の状況など様々であり、必ずしもこれを一律のものとすることは適当でないと考える。したがって、具体的な取組を進める際には、各教育委員会や学校においてそれぞれの実情に応じたものとなるよう工夫することが必要である。
 また、制度改正に係る事項について検討する場合においても、国の法令、あるいは地方公共団体の条例や教育委員会規則など様々なものが考えられるところであるが、その制度化に当たっては、各学校や教育委員会においてそれぞれの実情に応じた取組を工夫できるよう、弾力的な仕組みとすることが求められるものと考える。