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3丁目の夕日/教職課程講座

明日のための演習メモ

学校教育法

2007-08-31 17:51:04 | Weblog
学校教育法
(昭和二十二年三月三十一日法律第二十六号)


最終改正:平成一九年六月二七日法律第九八号


(最終改正までの未施行法令)
平成十九年六月二十七日法律第九十六号 (未施行)

平成十九年六月二十七日法律第九十八号 (未施行)

 


   第一章 総則


第一条  この法律で、学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、特別支援学校及び幼稚園とする。

第二条  学校は、国(国立大学法人法 (平成十五年法律第百十二号)第二条第一項 に規定する国立大学法人及び独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。以下同じ。)、地方公共団体(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項 に規定する公立大学法人を含む。次項において同じ。)及び私立学校法第三条 に規定する学校法人(以下学校法人と称する。)のみが、これを設置することができる。
○2  この法律で、国立学校とは、国の設置する学校を、公立学校とは、地方公共団体の設置する学校を、私立学校とは、学校法人の設置する学校をいう。

第三条  学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない。

第四条  国立学校、この法律によつて設置義務を負う者の設置する学校及び都道府県の設置する学校(大学及び高等専門学校を除く。)のほか、学校(高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)の通常の課程(以下全日制の課程という。)、夜間その他特別の時間又は時期において授業を行う課程(以下定時制の課程という。)及び通信による教育を行う課程(以下通信制の課程という。)、大学の学部、大学院及び大学院の研究科並びに第六十九条の二第二項の大学の学科についても同様とする。)の設置廃止、設置者の変更その他政令で定める事項は、次の各号に掲げる学校の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者の認可を受けなければならない。
一  公立又は私立の大学及び高等専門学校 文部科学大臣
二  市町村の設置する高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼稚園 都道府県の教育委員会
三  私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼稚園 都道府県知事
○2  前項の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる学校を設置する者は、次に掲げる事項を行うときは、同項の認可を受けることを要しない。この場合において、当該学校を設置する者は、文部科学大臣の定めるところにより、あらかじめ、文部科学大臣に届け出なければならない。
一  大学の学部若しくは大学院の研究科又は第六十九条の二第二項の大学の学科の設置であつて、当該大学が授与する学位の種類及び分野の変更を伴わないもの
二  大学の学部若しくは大学院の研究科又は第六十九条の二第二項の大学の学科の廃止
三  前二号に掲げるもののほか、政令で定める事項
○3  文部科学大臣は、前項の届出があつた場合において、その届出に係る事項が、設備、授業その他の事項に関する法令の規定に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
○4  地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項 の指定都市の設置する幼稚園については、第一項の規定は、適用しない。この場合において、当該幼稚園を設置する者は、同項に規定する事項を行おうとするときは、あらかじめ、都道府県の教育委員会に届け出なければならない。
○5  第二項第一号の学位の種類及び分野の変更に関する基準は、文部科学大臣が、これを定める。

第五条  学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する。

第六条  学校においては、授業料を徴収することができる。ただし、国立又は公立の小学校及び中学校、これらに準ずる特別支援学校又は中等教育学校の前期課程における義務教育については、これを徴収することができない。

第七条  学校には、校長及び相当数の教員を置かなければならない。

第八条  校長及び教員(教育職員免許法 (昭和二十四年法律第百四十七号)の適用を受ける者を除く。)の資格に関する事項は、別に法律で定めるもののほか、文部科学大臣がこれを定める。

第九条  次の各号のいずれかに該当する者は、校長又は教員となることができない。
一  成年被後見人又は被保佐人
二  禁錮以上の刑に処せられた者
三  教育職員免許法第十条第一項第二号 に該当することにより免許状がその効力を失い、当該失効の日から三年を経過しない者
四  教育職員免許法第十一条第一項 又は第二項 の規定により免許状取上げの処分を受け、三年を経過しない者
五  日本国憲法 施行の日以後において、日本国憲法 又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

第十条  私立学校は、校長を定め、大学及び高等専門学校にあつては文部科学大臣に、大学及び高等専門学校以外の学校にあつては都道府県知事に届け出なければならない。

第十一条  校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

第十二条  学校においては、別に法律で定めるところにより、学生、生徒、児童及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図るため、健康診断を行い、その他その保健に必要な措置を講じなければならない。

第十三条  第四条第一項各号に掲げる学校が次の各号のいずれかに該当する場合においては、それぞれ同項各号に定める者は、当該学校の閉鎖を命ずることができる。
一  法令の規定に故意に違反したとき
二  法令の規定によりその者がした命令に違反したとき
三  六箇月以上授業を行わなかつたとき

第十四条  大学及び高等専門学校以外の市町村の設置する学校については都道府県の教育委員会、大学及び高等専門学校以外の私立学校については都道府県知事は、当該学校が、設備、授業その他の事項について、法令の規定又は都道府県の教育委員会若しくは都道府県知事の定める規程に違反したときは、その変更を命ずることができる。

第十五条  文部科学大臣は、公立又は私立の大学及び高等専門学校が、設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反していると認めるときは、当該学校に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
○2  文部科学大臣は、前項の規定による勧告によつてもなお当該勧告に係る事項(次項において「勧告事項」という。)が改善されない場合には、当該学校に対し、その変更を命ずることができる。
○3  文部科学大臣は、前項の規定による命令によつてもなお勧告事項が改善されない場合には、当該学校に対し、当該勧告事項に係る組織の廃止を命ずることができる。
○4  文部科学大臣は、第一項の規定による勧告又は第二項若しくは前項の規定による命令を行うために必要があると認めるときは、当該学校に対し、報告又は資料の提出を求めることができる。

第十六条  子女を使用する者は、その使用によつて、子女が、義務教育を受けることを妨げてはならない。
   第二章 小学校


第十七条  小学校は、心身の発達に応じて、初等普通教育を施すことを目的とする。

第十八条  小学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
一  学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。
二  郷土及び国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。
三  日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
四  日常生活に必要な国語を、正しく理解し、使用する能力を養うこと。
五  日常生活に必要な数量的な関係を、正しく理解し、処理する能力を養うこと。
六  日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。
七  健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図ること。
八  生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。

第十八条の二  小学校においては、前条各号に掲げる目標の達成に資するよう、教育指導を行うに当たり、児童の体験的な学習活動、特にボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動その他の体験活動の充実に努めるものとする。この場合において、社会教育関係団体その他の関係団体及び関係機関との連携に十分配慮しなければならない。

第十九条  小学校の修業年限は、六年とする。

第二十条  小学校の教科に関する事項は、第十七条及び第十八条の規定に従い、文部科学大臣が、これを定める。

第二十一条  小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。
○2  前項の教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる。
○3  第一項の検定の申請に係る教科用図書に関し調査審議させるための審議会等(国家行政組織法 (昭和二十三年法律第百二十号)第八条 に規定する機関をいう。以下同じ。)については、政令で定める。

第二十二条  保護者(子女に対して親権を行う者、親権を行う者のないときは、未成年後見人をいう。以下同じ。)は、子女の満六才に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二才に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子女が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
○2  前項の義務履行の督促その他義務に関し必要な事項は、政令でこれを定める。

第二十三条  前条の規定によつて、保護者が就学させなければならない子女(以下学齢児童と称する。)で、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村の教育委員会は、文部科学大臣の定める規程により、前条第一項に規定する義務を猶予又は免除することができる。

第二十四条  削除

第二十五条  経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない。

第二十六条  市町村の教育委員会は、次に掲げる行為の一又は二以上を繰り返し行う等性行不良であつて他の児童の教育に妨げがあると認める児童があるときは、その保護者に対して、児童の出席停止を命ずることができる。
一  他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為
二  職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為
三  施設又は設備を損壊する行為
四  授業その他の教育活動の実施を妨げる行為
○2  市町村の教育委員会は、前項の規定により出席停止を命ずる場合には、あらかじめ保護者の意見を聴取するとともに、理由及び期間を記載した文書を交付しなければならない。
○3  前項に規定するもののほか、出席停止の命令の手続に関し必要な事項は、教育委員会規則で定めるものとする。
○4  市町村の教育委員会は、出席停止の命令に係る児童の出席停止の期間における学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずるものとする。

第二十七条  学齢に達しない子女は、これを小学校に入学させることができない。

第二十八条  小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。ただし、特別の事情のあるときは、教頭又は事務職員を置かないことができる。
○2  小学校には、前項のほか、栄養教諭その他必要な職員を置くことができる。
○3  校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。
○4  教頭は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。
○5  教頭は、校長に事故があるときはその職務を代理し、校長が欠けたときはその職務を行なう。この場合において教頭が二人以上あるときは、あらかじめ校長が定めた順序で、その職務を代理し、又は行なう。
○6  教諭は、児童の教育をつかさどる。
○7  養護教諭は、児童の養護をつかさどる。
○8  栄養教諭は、児童の栄養の指導及び管理をつかさどる。
○9  事務職員は、事務に従事する。
○10  助教諭は、教諭の職務を助ける。
○11  講師は、教諭又は助教諭に準ずる職務に従事する。
○12  養護助教諭は、養護教諭の職務を助ける。
○13  特別の事情のあるときは、第一項の規定にかかわらず、教諭に代えて助教諭又は講師を、養護教諭に代えて養護助教諭を置くことができる。

第二十九条  市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるに必要な小学校を設置しなければならない。

第三十条  市町村は、適当と認めるときは、前条の規定による事務の全部又は一部を処理するため、市町村の組合を設けることができる。

第三十一条  市町村は、前二条の規定によることを不可能又は不適当と認めるときは、小学校の設置に代え、学齢児童の全部又は一部の教育事務を、他の市町村又は前条の市町村の組合に委託することができる。
○2  前項の場合においては、地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十四第三項 において準用する同法第二百五十二条の二第二項 中「都道府県知事」とあるのは、「都道府県知事及び都道府県の教育委員会」と読み替えるものとする。

第三十二条  町村が、前二条の規定による負担に堪えないと都道府県の教育委員会が認めるときは、都道府県は、その町村に対して、必要な補助を与えなければならない。

第三十三条  削除

第三十四条  私立の小学校は、都道府県知事の所管に属する。
   第三章 中学校


第三十五条  中学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育を施すことを目的とする。

第三十六条  中学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
一  小学校における教育の目標をなお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。
二  社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
三  学校内外における社会的活動を促進し、その感情を正しく導き、公正な判断力を養うこと。

第三十七条  中学校の修業年限は、三年とする。

第三十八条  中学校の教科に関する事項は、第三十五条及び第三十六条の規定に従い、文部科学大臣が、これを定める。

第三十九条  保護者は、子女が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五才に達した日の属する学年の終わりまで、これを、中学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
○2  前項の規定によつて保護者が就学させなければならない子女は、これを学齢生徒と称する。
○3  第二十二条第二項及び第二十三条の規定は、第一項の規定による義務に、これを準用する。

第四十条  第十八条の二、第二十一条、第二十五条、第二十六条、第二十八条から第三十二条まで及び第三十四条の規定は、中学校に、これを準用する。この場合において、第十八条の二中「前条各号」とあるのは、「第三十六条各号」と読み替えるものとする。  

学校教育法改正案

2007-08-30 09:20:23 | Weblog
昨年末に成立した改正教育基本法や、今年1月の教育再生会議第1次報告などを受けて、教育改革3法案(学校教育法改正案、教員免許法改正案、地方教育行政法改正案)の審議が現在、国会で進められています。
この3法案のなかで学校の授業に最も大きな影響を与えるのは、学校教育法改正案です。同法案の大きなポイントは、これから学校教育で子どもたちにどんな力を身に付けさせようとするのかを探る手掛かりが示されているところです。

改正案のなかで、学校教育の中身や今後の学習指導要領に直接関係するのが、「教育の目標」の規定です。
小学校と中学校に共通するものとして新設された「義務教育の目標」(改正案21条)では、基本的には現行の教育目標の内容をほぼ踏襲していますが、「規範意識」「公共の精神」「生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度」「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度」などの育成が、新たに加わりました。

これらは愛国心や道徳教育の重視などとしてマスコミでも取り上げられましたが、それ以上に注目されるのが、目標となる項目を身に付ける際に「自然体験」「読書」「運動」「観察及び実験」といった、具体的な体験をとおして教えることを強調している点です。

さらに改正案では、目標の達成に当たって、これまでになかった留意事項を新しく盛り込んでいます。
それは「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」(同30条2項)というものです。
これは、小学校教育の部分で示されていますが、中・高校にも準用されます。

教育再生会議の第1次報告が「ゆとり教育」の見直しを提言したことを受け、一般的にはこれからの学校教育は「学力」重視に変更されると受け止められています。
しかし、改正案を見ると、基礎知識などの重視を強調してはいるものの、いわゆる詰め込み型の学習を打ち出しているわけではありません。
それどころか逆に、体験的な活動をとおして、知識をより高度な問題解決能力や表現力といったものに高めていくことを、これからの学校教育の目標に据えていることがわかります。
これは、反復学習などによって得られる「習得型学力」と、問題解決能力などの「探究型学力」の統合を狙ったもので、このような学力を文部科学省は、2002(平成14)年に発表したアピールのなかで「確かな学力」と名付けています。

では、文科省は教育再生会議を無視したのかというと、そうではありません。
問題解決能力や表現力などの育成が重要なことは第1次報告でも指摘しており、同会委員でもある義家弘介さんもBenesse教育情報サイトのなかで語っています。
ただ、基礎・基本の知識をきちんと身に付けさせ、それを体験活動などとおして探究型学力にまで高めていくのは、実際にはそう簡単なことではありません。
従来の「ゆとり教育」でもそれを目指していたのに、実際の学校現場が対応できなかったため学力低下が起きた、という指摘もあります。
習得型学力と探究型学力を統合するのに必要な授業時間数をどう確保していくか、教員の指導力をどう高めていくかなど、課題は山積しています。これらの課題を次期学習指導要領などでどう解決していくかで、今後の教育の成否が分かれることになるでしょう。

 Ⅰ 教員養成・免許制度の改革の基本的な考え方

2007-08-29 08:07:34 | Weblog


1. これからの社会と教員に求められる資質能力

社会の大きな変動に対応し、国民の学校教育に対する期待に応えるためには、教員に対する揺るぎない信頼を確立し、国際的にも教員の資質能力がより一層高いものとなるようにすることが極めて重要である。
 変化の激しい時代だからこそ、教員に求められる資質能力を確実に身に付けることの重要性が高まっている。また、教員には、不断に最新の専門的知識や指導技術等を身に付けていくことが重要となっており、「学びの精神」がこれまで以上に強く求められている。

(1) これからの社会と国民の求める学校像

○  近年、我が国の社会は、いわゆる「知識基盤社会」の到来や、グローバル化、情報化、少子化、高齢化、社会全体の高学歴化等を背景に、社会構造の大きな変動期を迎えており、変化のスピードもこれまでになく速くなっている。これからの社会は、政治・経済・文化等のあらゆる分野において、人材の質がその有り様を大きく左右する社会であり、教育の質が一層重要となる。特に我が国のように、天然資源に恵まれず、少子化や高齢化の進展が著しい国においては、生産性の高い知識集約型の産業構造に転換し、国際的な競争力を維持していく上で、既存知の継承だけでなく未来知を創造できる高い資質能力を有する人材を育成することは、極めて重要な課題である。


○  一方、変化の激しいこれからの社会において、一人一人の子どもたちがそれぞれの可能性を伸ばし、一生を幸福に、かつ有意義に送ることができるようにするためには、一人一人が自らの頭で考え、行動していくことのできる自立した個人として、心豊かに、たくましく生き抜いていく基礎を培うことが重要となる。そのような力を教育を通じて育成する必要性が一段と高まっている。


○  社会の大きな変動に伴い、保護者や国民の間に、学校に対して、必要な学力や体力、道徳性等を確実に育成する質の高い教育を求める声が高まっている。これからの学校は、子どもたちの知・徳・体にわたるバランスの取れた成長を目指し、高い資質能力を備えた教員が指導に当たり、保護者や地域住民との適切な役割分担を図りながら、活気ある教育活動を展開する場となる必要がある。また、これからの学校には、保護者や地域住民の意向を十分に反映する信頼される学校となるため、教育を提供する側からの発想だけではなく、教育を受ける側の子どもや保護者の声に応える教育の場となることが求められている。


(2) 教員に求められる資質能力

○  このような社会の大きな変動に対応しつつ、国民の学校教育に対する期待に応えるためには、教育活動の直接の担い手である教員に対する揺るぎない信頼を確立し、国際的にも教員の資質能力がより一層高いものとなるようにすることが極めて重要である。


○  教員に求められる資質能力については、これまでも本審議会等がしばしば提言を行っている。例えば、平成9年の教育職員養成審議会(以下「教養審」という。)第一次答申等においては、いつの時代にも求められる資質能力と、変化の激しい時代にあって、子どもたちに〔生きる力〕を育む観点から、今後特に求められる資質能力等について、それぞれ以下のように示している。

 いつの時代にも求められる資質能力
 教育者としての使命感、人間の成長・発達についての深い理解、幼児・児童・生徒に対する教育的愛情、教科等に関する専門的知識、広く豊かな教養、これらを基盤とした実践的指導力等


 今後特に求められる資質能力
 地球的視野に立って行動するための資質能力(地球、国家、人間等に関する適切な理解、豊かな人間性、国際社会で必要とされる基本的資質能力)、変化の時代を生きる社会人に求められる資質能力(課題探求能力等に関わるもの、人間関係に関わるもの、社会の変化に適応するための知識及び技術)、教員の職務から必然的に求められる資質能力(幼児・児童・生徒や教育の在り方に関する適切な理解、教職に対する愛着、誇り、一体感、教科指導、生徒指導等のための知識、技能及び態度)


 得意分野を持つ個性豊かな教員
 画一的な教員像を求めることは避け、生涯にわたり資質能力の向上を図るという前提に立って、全教員に共通に求められる基礎的・基本的な資質能力を確保するとともに、積極的に各人の得意分野づくりや個性の伸長を図ることが大切であること


○  また、平成17年10月の本審議会の答申「新しい時代の義務教育を創造する」においては、優れた教師の条件について、大きく集約すると以下の3つの要素が重要であるとしている。

 教職に対する強い情熱
 教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感など


 教育の専門家としての確かな力量
 子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級づくりの力、学習指導・授業づくりの力、教材解釈の力など


 総合的な人間力
 豊かな人間性や社会性、常識と教養、礼儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人格的資質、教職員全体と同僚として協力していくこと


○  これらの答申の文言や具体的な例示には若干の違いはあるものの、これからの社会の進展や、国民の学校教育に対する期待等を考えた時、これらの答申で示した基本的な考え方は、今後とも尊重していくことが適当である。むしろ、変化の激しい時代だからこそ、変化に適切に対応した教育活動を行っていく上で、これらの資質能力を確実に身に付けることの重要性が高まっているものと考える。


○  また、教職は、日々変化する子どもの教育に携わり、子どもの可能性を開く創造的な職業であり、このため、教員には、常に研究と修養に努め、専門性の向上を図ることが求められている。教員を取り巻く社会状況が急速に変化し、学校教育が抱える課題も複雑・多様化する現在、教員には、不断に最新の専門的知識や指導技術等を身に付けていくことが重要となっており、「学びの精神」がこれまで以上に強く求められている。

稲むらの火

2007-08-28 10:07:34 | Weblog
稲むらの火(いなむらのひ)は、紀州廣村(現代の和歌山県広川町)で起きた故事と、それを題材にした物語。

1854年(安政元年)12月に発生した安政南海地震の際、津波の来襲に気付いた儀兵衛(後の濱口梧陵、作品中では「五兵衛」。ヤマサ醤油の当主)は、それを知らせるため、刈り取った稲に火をつけて住民を高台に避難させ、住民を津波の被害から守った、という内容である。

この話は、小泉八雲(旧名:Patrick Lafcadio Hearn)が著作「生ける神」(" A Living God ")の中で紹介したことにより、海外にも広く知られている。またこの物語は、同町の小学校教員中井常蔵によって学校教材用に再訳され、1937年(昭和12年)から1947年(昭和22年)まで、国定教科書である尋常小学校5年生用「小学国語読本巻十」と「初等科国語六」に掲載されていた。さらに、アメリカ・コロラド州の小学校でも、副読本として「稲むらの火」の英訳「The Burning of The rice Field」が使われていたこともある。

一般にもよく知られた話であるが、史実に基づいてはいるものの、実際とはかなり異なっている。儀兵衛が燃やしたのは稲の束ではなく、脱穀を終えた藁であった(津波の発生日が12月24日〈新暦換算〉で、真冬であることに注意)。また、儀兵衛が火を付けたのは津波を予知してではなく、津波が来襲してからであり、村人に安全な避難路を示すためであった。彼の偉業は稲むらの火よりは、被災後、将来再び同様の災害が起こることを慮り、私財を投じて防潮堤を築造した点にある。これにより広川町は、昭和の東南海地震・南海地震による津波に際して被害を免れることができた。

2005年1月、インド洋大津波をうけてジャカルタで開催された東南アジア諸国連合緊急首脳会議でシンガポールのリー・シェンロン首相が当時の小泉純一郎総理大臣に「日本では小学校教科書に『稲むらの火』という話があって、子供の時から津波対策を教えているというが、事実か?」と尋ねた。しかし、小泉は戦後世代なのでこの話を知らなかった。東京の文部科学省に照会したが、誰も知らなかったということである。

~稲むらの火プロジェクト「アジア防災教育子どもフォーラム」~

2007-08-27 09:59:21 | Weblog
(1) フォーラムの参加者
《アジアから》
財団法人ユネスコ・アジア文化センター(以下ACCU)及びアジア防災センターが窓口となり、現地の関係機関の協力を得ながら、インド洋地震津波で大きな被害を受けたインド・インドネシア・マレーシア・スリランカ・タイを含め、バングラデシュ・フィリピンの7カ国から、それぞれ4名の高校生と2名の引率者からなる総勢 42名を招きました。
《日本国内から》
アジアから招いた生徒とともに活動する代表参加者として、応募者の中から選考した和歌山県内の中学生・高校生9名がすべてのプログラムに参加しました。また、地震被災地域や地震・津波の危険対策地域である新潟、千葉、神奈川、静岡、兵庫、徳島、高知の各県における防災教育実践校の中学生・高校生を招待するとともに、県内の小学生・中学生・高校生も多数参加しました。
《ファシリテーター》
アジアという共通基盤の上に立った議論が展開できるようにするためにACCUのメンバー3名とともに、インド・インドネシア・スリランカから経験豊かな3名をファシリテーターとして招き、事前のワークショップや研修からサミットまでの企画・運営に携わっていただきました。
(2) フォーラムの事業内容
a.プレイベント
○広川町現地研修・交流会 ( 10月31日:和歌山県有田郡広川町)
津波の被災経験をもつ広川町を訪問し、津波を想定した避難訓練や救急訓練、炊き出し訓練の実施や、当地に残されている浜口梧陵の偉業についての学習や、国史跡広村堤防、耐久舎等の見学などを実施しました。

 
b.プログラム
○開会式 ( 11月1日:和歌山市・和歌山県民文化会館)
主催者・来賓等の挨拶のあと、和歌山県参加者代表によるフォーラム開催趣旨説明とこれまでの経過報告、各国参加者紹介、参加者代表による開会宣言を行った後、インド洋地震津波やジャワ島中部地震などの犠牲者の冥福を祈り、1分間の黙とうを捧げました。
また、フォーラムの関連企画として全国募集した「防災教育実践事例」や「ラジオ番組コンテスト」、和歌山県内学校から募集した「ぼうさい絵手紙」の優秀賞等の表彰及び事例発表などを行いました。
○子ども防災教室 ( 11月1日:和歌山市・和歌山県民文化会館)
防災教育に関して活躍する講師を迎え、参加8カ国の子どもたちが、震災や防災に関する様々な思いや考えを語り合う授業を実施しました。


開 会 式 開会宣言 子ども防災教室
○アジア子ども防災サミット ( 11月2日:和歌山市・ホテルアバローム紀の国)
現地研修やワークショップ等で学んだことをもとに、災害に負けない社会づくりに自分たちは何ができるのかを考え、その成果をとりまとめた「わかやま宣言」を採択しました。

○記念イベント ( 11月2日:和歌山市・和歌山県民文化会館)
和歌山県内の中学生・高校生による記念創作劇「稲むらの火と浜口梧陵」を上演しました。
また、京都大学防災研究所長 河田惠昭 氏による、特別講演「被害を少なくする減災社会に向けて」を実施しました。

記 念 創 作 劇 特別講演
○閉会式 ( 11月2日:和歌山市・和歌山県民文化会館)
和歌山県参加者代表による今までの活動報告と、子どもたちの手による防災のメッセージをまとめたピクチャーボードの紹介の後、「わかやま宣言」を各国の母語で発表しました。
11月1日(水)、2日(木)の2日間で、延べ3000名の参加者を得て開催したフォーラムは、好評を博して閉幕しました。

問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)

2007-08-26 16:27:04 | Weblog
18文科初第1019号
平成19年2月5日

各都道府県教育委員会教育長
各指定都市教育委員会教育長
各都道府県知事
附属学校を置く各国立大学法人学長 殿

文部科学省初等中等教育局長
銭谷 眞美

 いじめ、校内暴力をはじめとした児童生徒の問題行動は、依然として極めて深刻な状況にあります。
 いじめにより児童生徒が自らの命を絶つという痛ましい事件が相次いでおり、児童生徒の安心・安全について国民間に不安が広がっています。また、学校での懸命な種々の取組にもかかわらず、対教師あるいは生徒間の暴力行為や施設・設備の毀損・破壊行為等は依然として多数にのぼり、一部の児童生徒による授業妨害等も見られます。
 問題行動への対応については、まず第一に未然防止と早期発見・早期対応の取組が重要です。学校は問題を隠すことなく、教職員一体となって対応し、教育委員会は学校が適切に対応できるようサポートする体制を整備することが重要です。また、家庭、特に保護者、地域社会や地方自治体・議会を始め、その他関係機関の理解と協力を得て、地域ぐるみで取り組めるような体制を進めていくことが必要です。
 昨年成立した改正教育基本法では、教育の目標の一つとして「生命を尊ぶ」こと、教育の目標を達成するため、学校においては「教育を受ける者が学校生活を営む上で必要な規律を重んずる」ことが明記されました。
 いじめの問題への対応では、いじめられる子どもを最後まで守り通すことは、児童生徒の生命・身体の安全を預かる学校としては当然の責務です。同時に、いじめる子どもに対しては、毅然とした対応と粘り強い指導により、いじめは絶対に許されない行為であること、卑怯で恥ずべき行為であることを認識させる必要があります。
 さらに、学校の秩序を破壊し、他の児童生徒の学習を妨げる暴力行為に対しては、児童生徒が安心して学べる環境を確保するため、適切な措置を講じることが必要です。
 このため、教育委員会及び学校は、問題行動が実際に起こったときには、十分な教育的配慮のもと、現行法制度下において採り得る措置である出席停止や懲戒等の措置も含め、毅然とした対応をとり、教育現場を安心できるものとしていただきたいと考えます。
 この目的を達成するため、各教育委員会及び学校は、下記事項に留意の上、問題行動を起こす児童生徒に対し、毅然とした指導を行うようお願いします。
 なお、都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して、都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して、この趣旨について周知を図るとともに、適切な対応がなされるよう御指導願います。



1  生徒指導の充実について
(1)  学校においては、日常的な指導の中で、児童生徒一人一人を把握し、性向等についての理解を深め、教師と児童生徒との信頼関係を築き、すべての教育活動を通じてきめ細かな指導を行う。また、全教職員が一体となって、児童生徒の様々な悩みを受け止め、積極的に教育相談やカウンセリングを行う。


(2)  児童生徒の規範意識の醸成のため、各学校は、いじめや暴力行為等に関するきまりや対応の基準を明確化したものを保護者や地域住民等に公表し、理解と協力を得るよう努め、全教職員がこれに基づき一致協力し、一貫した指導を粘り強く行う。


(3)  問題行動の中でも、特に校内での傷害事件をはじめ、犯罪行為の可能性がある場合には、学校だけで抱え込むことなく、直ちに警察に通報し、その協力を得て対応する。


2  出席停止制度の活用について
(1)  出席停止は、懲戒行為ではなく、学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するために採られる措置であり、各市町村教育委員会及び学校は、このような制度の趣旨を十分理解し、日頃から規範意識を育む指導やきめ細かな教育相談等を粘り強く行う。


(2)  学校がこのような指導を継続してもなお改善が見られず、いじめや暴力行為など問題行動を繰り返す児童生徒に対し、正常な教育環境を回復するため必要と認める場合には、市町村教育委員会は、出席停止制度の措置を採ることをためらわずに検討する。


(3)  この制度の運用に当たっては、教師や学校が孤立することがないように、校長をはじめ教職員、教育委員会や地域のサポートにより必要な支援がなされるよう十分配慮する。
 学校は、当該児童生徒が学校へ円滑に復帰できるよう学習を補完したり、学級担任等が計画的かつ臨機に家庭への訪問を行い、読書等の課題をさせる。
 市町村教育委員会は、当該児童生徒に対し出席停止期間中必要な支援がなされるように個別の指導計画を策定するなど、必要な教育的措置を講じる。
 都道府県教育委員会は、状況に応じ、指導主事やスクールカウンセラーの派遣、教職員の追加的措置、当該児童生徒を受け入れる機関との連携の促進など、市町村教育委員会や学校をバックアップする。
 地域では、警察、児童相談所、保護司、民生・児童委員等の関係機関の協力を得たサポートチームを組織することも有効である。


(4)  その他出席停止制度の運用等については、「出席停止制度の運用の在り方について」(平成13年11月6日付け文部科学省初等中等教育局長通知)による。


3  懲戒・体罰について
(1)  校長及び教員(以下「教員等」という。)は、教育上必要があると認めるときは、児童生徒に懲戒を加えることができ、懲戒を通じて児童生徒の自己教育力や規範意識の育成を期待することができる。しかし、一時の感情に支配されて、安易な判断のもとで懲戒が行われることがないように留意し、家庭との十分な連携を通じて、日頃から教員等、児童生徒、保護者間での信頼関係を築いておくことが大切である。


(2)  体罰がどのような行為なのか、児童生徒への懲戒がどの程度まで認められるかについては、機械的に判定することが困難である。また、このことが、ややもすると教員等が自らの指導に自信を持てない状況を生み、実際の指導において過度の萎縮を招いているとの指摘もなされている。ただし、教員等は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合においても、身体に対する侵害(殴る、蹴る等)、肉体的苦痛を与える懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間保持させる等)である体罰を行ってはならない。体罰による指導により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの土壌を生む恐れがあるからである。


(3)  懲戒権の限界及び体罰の禁止については、これまで「児童懲戒権の限界について」(昭和23年12月22日付け法務庁法務調査意見長官回答)等が過去に示されており、教育委員会や学校でも、これらを参考として指導を行ってきた。しかし、児童生徒の問題行動は学校のみならず社会問題となっており、学校がこうした問題行動に適切に対応し、生徒指導の一層の充実を図ることができるよう、文部科学省としては、懲戒及び体罰に関する裁判例の動向等も踏まえ、今般、「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」(別紙)を取りまとめた。懲戒・体罰に関する解釈・運用については、今後、この「考え方」によることとする。



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別紙

学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方
1  体罰について
(1)  児童生徒への指導に当たり、学校教育法第11条ただし書にいう体罰は、いかなる場合においても行ってはならない。教員等が児童生徒に対して行った懲戒の行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。


(2)  (1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、蹴る等)、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。


(3)  個々の懲戒が体罰に当たるか否かは、単に、懲戒を受けた児童生徒や保護者の主観的な言動により判断されるのではなく、上記(1)の諸条件を客観的に考慮して判断されるべきであり、特に児童生徒一人一人の状況に配慮を尽くした行為であったかどうか等の観点が重要である。


(4)  児童生徒に対する有形力(目に見える物理的な力)の行使により行われた懲戒は、その一切が体罰として許されないというものではなく、裁判例においても、「いやしくも有形力の行使と見られる外形をもった行為は学校教育法上の懲戒行為としては一切許容されないとすることは、本来学校教育法の予想するところではない」としたもの(昭和56年4月1日東京高裁判決)、「生徒の心身の発達に応じて慎重な教育上の配慮のもとに行うべきであり、このような配慮のもとに行われる限りにおいては、状況に応じ一定の限度内で懲戒のための有形力の行使が許容される」としたもの(昭和60年2月22日浦和地裁判決)などがある。


(5)  有形力の行使以外の方法により行われた懲戒については、例えば、以下のような行為は、児童生徒に肉体的苦痛を与えるものでない限り、通常体罰には当たらない。
○  放課後等に教室に残留させる(用便のためにも室外に出ることを許さない、又は食事時間を過ぎても長く留め置く等肉体的苦痛を与えるものは体罰に当たる)。
○  授業中、教室内に起立させる。
○  学習課題や清掃活動を課す。
○  学校当番を多く割り当てる。
○  立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる。


(6)  なお、児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して、教員等が防衛のためにやむを得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行われたものではなく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰には該当しない。また、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、これを制止したり、目前の危険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使についても、同様に体罰に当たらない。これらの行為については、正当防衛、正当行為等として刑事上又は民事上の責めを免れうる。


2  児童生徒を教室外に退去させる等の措置について
(1)  単に授業に遅刻したこと、授業中学習を怠けたこと等を理由として、児童生徒を教室に入れず又は教室から退去させ、指導を行わないままに放置することは、義務教育における懲戒の手段としては許されない。


(2)  他方、授業中、児童生徒を教室内に入れず又は教室から退去させる場合であっても、当該授業の間、その児童生徒のために当該授業に代わる指導が別途行われるのであれば、懲戒の手段としてこれを行うことは差し支えない。


(3)  また、児童生徒が学習を怠り、喧騒その他の行為により他の児童生徒の学習を妨げるような場合には、他の児童生徒の学習上の妨害を排除し教室内の秩序を維持するため、必要な間、やむを得ず教室外に退去させることは懲戒に当たらず、教育上必要な措置として差し支えない。


(4)  さらに、近年児童生徒の間に急速に普及している携帯電話を児童生徒が学校に持ち込み、授業中にメール等を行い、学校の教育活動全体に悪影響を及ぼすような場合、保護者等と連携を図り、一時的にこれを預かり置くことは、教育上必要な措置として差し支えない。

不登校・増加

2007-08-25 16:17:26 | Weblog
1年間で学校を30日以上欠席した「不登校」の生徒が5年ぶりに増えたことがわかった。原因としては「いじめられるならば学校に行かなくても良い」という考え方が広がった、という見方も唱えられている。ところが、1,000人あたりの不登校児童数を見てみると、最も多いところと少ないところでは、実に2倍の差があることがわかった。一体、何が起こっているのだろうか。

最も不登校率が少ない愛媛県の実に2倍以上
文部科学省が2007年8月9日に発表した「平成18年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によると、06年度の不登校小中学生は12万6,764人で、調査対象の1,079万人の1.1%を占める。これは前年比3.7%増で、増加に転じたのは01年度以来5年ぶりだ。

不登校のきっかけとしては、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(15.6%)、「親子関係をめぐる問題」(9.3%)、「学業の不振」(7.9%)「(病気以外の)その他本人にかかわる問題」(31.2%)などが目立つ。ずばり「いじめ」も、3.2%だ。

この中で、興味深いのが、各県ごとに算出された「1,000人当たりの不登校児童生徒数」というデータだ。最も不登校の割合が少ないのが愛媛県(8.2)人で、宮崎県(8.3人)、秋田県(8.7人)と続く。逆にワースト3は、島根県(16.3人)、高知県(14.9人)、和歌山県(14.7人)だ。愛媛と島根では、実に2倍以上の差があることになる。さらに島根県は3年連続のワースト1だ。なにか特別な事情はあるのだろうか。

学習指導カウンセラー派遣に係る調査研究事業実施要項

2007-08-24 07:38:56 | Weblog
1 趣旨
小・中学校に大学研究者等の学習指導の専門家を「学習指導カウンセラー」として派遣し、その助言の下、各学校において、児童生徒の学習状況の把握、教育課程に関する自己点検・自己評価、及びそれに基づいた指導計画や指導方法の改善など、児童生徒の「確かな学力」の向上に向けた取組について実践研究を行い、成果の普及を図る。


2 調査研究期間
平成15年度及び平成16年度の2年間とする。

3 調査研究の委嘱
(1) 本事業の実施を希望する都道府県教育委員会は、別紙様式により事業実施計画書を作成し、所定の期日までに文部科学省初等中等教育局教育課程課長あて提出するものとする。
(2) 文部科学省は、提出された事業実施計画書を審査し、事業の実施を都道府県教育委員会に委嘱する。


4 事業の実施方法
(1) 事業の委嘱を受けた都道府県教育委員会(以下「関係都道府県教育委員会」という。)は、本事業の趣旨を踏まえ、実践研究を実施する小・中学校(以下「指定校」という。)を合わせて原則3校指定する。
(2) 関係都道府県教育委員会は、各指定校の実態に応じ原則として各校2名の大学研究者等に学習指導カウンセラーとしての本事業への協力を委嘱する(学習指導カウンセラーは複数の指定校を担当することもできる)。
(3) 指定校は、学習指導カウンセラーの助言の下で、児童生徒の学習状況の把握、教育課程に関する自己点検・自己評価、及びそれに基づいた指導計画や指導方法の改善についての実践研究を行う。その際、指定校は、国等の行う学力調査の問題の活用等により児童生徒の学習状況を客観的に把握・分析し、指導上の課題を明らかにする。
(4) 学習指導カウンセラーは、定期的に指定校を訪問し、それぞれの学校における児童生徒の学習状況の把握・分析、教育課程に関する自己点検・自己評価、及びそれに基づいた指導計画や指導方法の改善を支援する観点から、「確かな学力」の向上に向けた取組に関する適切な助言を行う。
(5) 関係都道府県教育委員会は、学習指導カウンセラーと連携し、適切な支援を行う体制を整えるとともに、指定校に対し、本事業の実施に関して必要な指導・助言を行う。また、文部科学省は、関係都道府県教育委員会に対して、本事業の実施に関して必要な指導・助言を行う。
(6) 関係都道府県教育委員会は、各指定校の実践研究の開始時の実態を把握し、学習指導カウンセラー派遣による指導の改善などの取組を適切に評価するとともに、様々な手段・方法により、積極的に学習指導カウンセラー派遣における成果を関係都道府県内の学校等に普及するよう努めるものとする。


5 指定校の成果の分析会議
(1) 関係都道府県教育委員会は、指定校及び学習指導カウンセラー間等の情報交換等を通じて本事業の円滑な実施に資するとともに、取組の評価及び成果の取りまとめを効果的に実施する観点から、分析会議を設けることとする。
(2) 分析会議は、関係都道府県教育委員会関係者、学習指導カウンセラー、指定校関係者、その他(PTA関係者、校長会関係者、外部の専門家等)をもって構成する。


6 研究実施報告書等
(1) 関係都道府県教育委員会は、学習指導カウンセラーの協力を得て、第1年度の終わりに中間報告書を、事業の終了時に研究実施報告書を、また、各年度の終了時に経費に関する報告書を提出するものとする。
(2) 中間報告書、研究実施報告書及び経費に関する報告書等の様式その他必要な事項については、文部科学省から別途連絡する。
(3) 中間報告書、研究実施報告書については、文部科学省においてその集録を編集し、書籍その他の媒体により公表することができるものとする。


7 経費
(1) 文部科学省は、各年度ごとに予算の範囲内で、この事業の実施に必要な経費を支出する。
(2) 都道府県が行う国の会計事務として支出する経費とする。


8 その他
(1) 文部科学省は、必要に応じて、本事業の実施状況及び経理処理状況についての実態調査を行う。
(2) 文部科学省は、本事業の適切な運営に資するため、必要に応じ、関係者の参加を得て連絡協議会を開催する。

「平成18年度 学校教育指導の方針と重点」から  人権教育

2007-08-23 08:52:42 | Weblog
                
1 各校種別の指導の重点(抄)

 
 
○ 友達と一緒に活動する楽しさを知ることにより、人と支え合って生活する力を育てるようにする。
○ 友達との遊びの中で、言ってはいけないことやしてはいけないことがあることに気づくようにする。
○ 動植物など、生命あるものに直接ふれる体験を通して、生きることや命の大切さに気づくようにする。
 
 
 
 
 
 
 
○ 児童が身の回りにある不合理や矛盾に気づき、自らその解決に取り組むため、公正で合理的なものの見方ができるよう指導する。
○ 教育活動全体を通して、人権尊重に関わる指導を進め、学校や地域の実態に即しながら、同和問題をはじめ様々な人権問題について正しく理解、認識するための基礎を身に付けるよう計画的な指導に努める。
○ 他者の喜びや悲しみを共感をもって受け止めるとともに、自分のよさや他者のよさを認め、互いの人権を尊重できる児童を育てる。また、学級や学校の中にある様々な問題に対し、全員で考え、協力し合って解決していこうとする態度を育てる。
○ 家庭、地域との連携を密にしながら、基本的な生活習慣を身に付け、意欲をもって学習に取り組む児童の育成に努める。
○ 学習活動を進めるにあたっては、児童一人ひとりの基礎的・基本的な内容の確実な定着を図るとともに、自主的・自発的に学習し、相互に助け合い、ともに向上しようとする態度を育てる。
 
 
 
 
 
 
 
 
○ 生徒に科学的・合理的なものの見方や考え方を身に付けさせるとともに、社会にある不合理な問題や差別問題について、自分の生き方や生活との関わりの中で正しく認識し、その解決を自らの課題とする態度を育てる。
○ 教育活動全体を通して、基本的人権について具体的に理解させるとともに、学校や地域の実態に即しながら、同和問題をはじめ様々な人権問題に対する認識を深めさせ、その解決に向けた実践力を育てるよう計画的な指導に努める。
○ 友達の喜びや悲しみを共感をもって受け止めるとともに、自分のよさ、友達のよさを認め、お互いの人権を尊重し合いながら、集団や社会の一員としてよりよい生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てる。
○ 家庭、地域との連携を密にしながら、基本的な生活習慣を身に付け、意欲をもって学習に取り組む生徒の育成に努める。
○ 学習活動を進めるにあたっては、生徒一人ひとりの基礎的・基本的な内容の確実な定着を図るとともに、自主的・自発的に学習し、相互に助け合い、ともに向上しようとする態度を育てる。
○ 生徒の進路を阻む不合理な差別的取扱いを排除し、進学・就職の機会均等の確保に努める。
 
 
 
 
 
 
 
 
○ 人権を自分の生き方に関連させてとらえるとともに、社会に存在する不合理な問題や差別の解消に向けて、主体的・実践的に取り組もうとする態度を育成する。
○ 教育活動全体を通して、人権尊重の理念について正しく理解させるとともに、同和問題をはじめ様々な人権問題に対する認識を深めさせ、その解決に向けた実践力を高め、人権が尊重される社会づくりの担い手となる意識の高揚を図るよう計画的な指導に努める。
○ 望ましい集団生活を通して、互いの人格を尊重し、自己実現への意欲や態度の形成を図り、集団や社会の一員としてよりよい生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てる。
○ 一人ひとりの生徒の学力の向上を図り、自らの進路を切り開いていくことができる力を育成する。
○ 生徒の進路を阻む不合理な差別的取扱いを排除し、就職・進学の機会均等の確保に努める。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
○ 児童生徒の障害や発達等の状況に応じ、学校や身近な生活の中にある問題を踏まえながら、教育活動全体を通して、人権尊重の意識を高めるよう計画的な指導に努める。
○ 自己の人権の大切さに気づき、あわせて他の人々の人権を大切にする心を育成する。
○ 障害に基づく種々の困難を改善・克服し、たくましく生きる力の育成に努める。
 
 
 
 
 
 
 
 
2 時代の進展に即し、豊かに生きる教育の充実
(3)人権教育
 
 人権尊重の精神を貫く教育は、民主主義の実現と充実をめざすものであり、すべての教育活動の根幹をなすべきものである。
 本県における同和教育は、様々な変遷を経て、昭和48年、「同和対策審議会答申」の精神にのっとり策定された「県同和教育基本方針」に基づき、「個人の尊厳を重んじ、合理的精神及び社会連帯意識を身に付け、差別を取り除く人間を育成する。」ことを目的として、差別とそれを支えている様々の不合理な問題との関わりや違いを正しくとらえる学習を重視してきた。
 このことにより、国民的課題としての同和問題解決への自覚を深めるとともに、幅広い人権問題に関する学習を通して、人権意識の高揚に大きな成果をあげてきた。
 今や人権尊重を求める世論は国際的にもますます高まりをみせているとともに、人権問題への積極的な取組が進められている状況にある。
 国際連合は、1995年から2004年を「人権教育のための国連10年」とする決議を採択し、我が国においては、平成9年(1997年)7月、国内行動計画が示され、平成10年8月、「人権が尊重される社会づくり」と「人権文化の創造」を目標とする「和歌山県行動計画」が策定された。
 また、平成12年12月、人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について、国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにした「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定され、その法律に基づき、平成14年3月、「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定された。加えて平成18年1月には、「人権教育の指導方法等の在り方について[第二次とりまとめ]」が発表されたところである。
 本県においても、平成14年4月、すべての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を図ることを目的とする「和歌山県人権尊重の社会づくり条例」が施行され、平成16年8月には、「和歌山県人権施策基本方針」が策定された。また、平成17年2月には、これらのことを踏まえ、教育委員会において人権教育を推進する上で指針となる「和歌山県人権教育基本方針」を策定し、人権の尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することを目指した教育を推進しているところである。
 人権教育の推進にあたっては、この基本方針にのっとり、すべての人の尊厳が守られ、自己実現が図られるよう、人権及び人権問題について理解を深め、人権が尊重される社会を築くための力を身に付けることをめざした取組を進めることが必要である。また、本県における同和教育の歴史と取組の成果を継承し、今後とも児童生徒とそれを取り巻く社会の現実と課題を直視し、同和問題を人権問題の重要な柱として明確に位置付けるとともに、男女平等や子ども、高齢者、障害者などの人権に関わる問題について、国際的な潮流をも踏まえ、世界的な視野への広がりをもって実践に取り組むことが大切である。
 
○「同和教育」について
 本県においては、「県同和教育基本方針」に基づき、これまで学校、家庭、地域、行政が一体となって課題解決に取り組み、多くの面で相当の成果をあげてきた。
 しかしながら、地区児童生徒の学力や進路、児童生徒の意識等、解決に向けてなお取り組まなければならない課題が存在している。
 こうしたことから、いわゆる「地対財特法」期限後においても、子どもの実態、地域の実情を十分把握し、各学校における課題を明らかにして、同和問題の解決をめざす教育実践を一層確かなものとするため、以下の事項に留意しながら推進することが大切である。

ア 憲法、教育基本法及び県同和教育基本方針にのっとり、すべての教育活動において、基本的人権の尊重を貫く教育を徹底する。
イ すべての子どもに科学的、合理的なものの見方、考え方を育て、互いに人権を尊重し、協力し合う生活態度を身に付けさせる。
ウ 同和問題に関する歴史や現状について正しく認識させ、その解決を自らの課題とする自覚を育てる。
エ 児童生徒の発達段階に応じて、幼稚園から高等学校まで一貫した同和教育を行う必要がある。そのため、すべての学校において、校種間の連携を密にするとともに、自校の同和教育の課題を明確にし、それを踏まえた指導方針と具体的な教育計画を立て、教育実践を進める。
オ 学校教育、社会教育が相互に連携・協力して、保護者や地域の人々の同和問題に関する認識と子どもに対する指導力を高めるよう努める。
カ 各学校においては、近隣校との間で積極的な実践交流を図り、教材開発や指導方法の工夫改善に努める。
キ 児童生徒の学力の実態を継続的に把握し、学習のつまずきや遅れの実態とその背景を明らかにして、学習指導の一層の充実を図るとともに、家庭、地域との連携を密にしながら、基本的な生活習慣の確立をはじめ、意欲をもって学習に取り組むなど確かな学力の育成に努める。
ク 学校における進路指導においては、子どもたちが自分の将来に夢と希望を抱き、社会的、職業的自己実現をめざしていく能力や態度を育成するとともに、学業成績のみに偏ることなく、一人ひとりの子どもの適性や実態に応じ、家庭環境や保護者の願いを十分把握しながら、指導・援助に努める。
 

 
○「男女平等の問題に関する教育」について  
 我が国では、「女子に対するあらゆる形態の差別撤廃に関する条約」の批准をはじめ、これまで様々な形で性差別の解消に向けた取組がなされており、学校教育においては、男女同一のカリキュラムによる授業が実施されている。また、平成11年6月、男女共同参画社会の実現を21世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付けた「男女共同参画社会基本法」が制定された。
 本県においても、平成14年4月に施行された「和歌山県男女共同参画推進条例」において、男女共同参画をさらに推進し、すべての男女が、人間としての誇りをもち、心の豊かさと経済的な豊かさをともに実感しつつ、安心して生きていけるふるさと和歌山の創造をめざし、学校教育その他のあらゆる教育において、男女の人権の尊重及び男女共同参画に関する学習の機会の確保及び教育の内容の充実が図られるよう努めることが定められた。平成15年3月、「県男女共同参画基本計画」が策定され、男女共同参画推進のための具体的な施策が示されたところである。
 こうしたことから、男女が性別により差別的取扱いを受けている問題等を理解するとともに、児童生徒が性別にとらわれることなく、一人の人間としてお互いの人格や個性を尊重し合い、一人ひとりの個性や能力を十分に発揮して自らの意志で行動できる力を育むため、以下の事項に留意しながら取り組むことが大切である。

ア 女性差別の撤廃に関する歴史的経緯と現状について正しく理解させる。
イ 個人の人格や個性を尊重し合える人間関係を築く力を養う。
ウ 社会的・文化的につくられた性別(ジェンダー)による固定的な性別役割分担意識を是正する。
エ 日常の教育活動の中で、男女平等が実現されるよう配慮する。
 

 
○「子どもの人権に関する教育」について
 近年、いじめや不登校、児童虐待等の問題にみられるように、子どもを取り巻く状況は、人権の観点からみても、深刻さを増してきている。
 子どもの人権が保障される社会を実現するため、「児童の権利に関する条約」や「児童福祉法」「児童虐待の防止等に関する法律」等の理念に基づき、子どもがその発達段階に応じて、適切な保護を受けるとともに、権利を行使する主体であるとの認識を深める必要がある。
 各学校においては、人権に配慮した学校運営や教育指導を推進し、児童生徒が安心して楽しく学ぶことができる環境を確保するよう努力することが求められている。
 こうしたことから、以下の事項に留意することが大切である。
 
 

ア 児童生徒が、自分の個性やよさを認識し、自信をもって学校生活を送るとともに、他者の個性やよさについても理解し尊重できる態度が身に付けられるよう指導方法等の工夫を行う。
イ 教育活動全体を通して基本的人権尊重の精神を一層徹底するとともに、児童生徒が互いに人権を尊重し合う集団づくりに努める。
ウ 児童生徒一人ひとりの人権に十分配慮し、どの児童生徒も「わかる・できる」喜びを共有し合える授業づくりに努める。
エ 児童生徒が、発達段階に即して、「児童の権利に関する条約」の趣旨及び内容等について学習する機会を設け、自らが権利の主体であるという意識を高めるよう努める。
オ 「いじめ」は子どもの基本的人権に関わる重大な問題であるととらえ、この問題の防止と解決に努める。
カ 校則等については、児童生徒の実態、地域の実情等を踏まえて、絶えず見直し、改善することが肝要であり、保護者や児童生徒の意見を聞き、適切に反映できる方法や機会を工夫する。
キ 体罰は厳に禁じられるべきであることはもちろんのこと、児童生徒の人格を傷つけるような言動を慎む。
ク 問題行動等に対する指導に際しては、当該児童生徒や保護者から事情や意見をよく聞くとともに、個々の状況に十分留意し、教育的効果を持つものとなるよう配慮する。
ケ 中途退学や不登校等を防ぐための日常の指導に十分配慮する。
コ 教職員は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見、関係機関と連携した適切な対応に努める。
 

 
○「高齢者の人権に関する教育」について
 我が国では、急速な高齢化の進行に伴い、高齢者が生きがいと安らぎをもって生活できる社会をつくることが重要な課題となっている。
 このため、児童生徒に対し、高齢者の人権についての正しい認識を育てるとともに、交流活動に積極的に取り組み、高齢者が社会を構成する大切な一員であることを理解させる必要がある。
 こうしたことから、以下の事項に留意しながら取り組むことが大切である。

ア 様々な機会を通じ、他人に対する思いやりの心や優しさ等豊かな心を育て、高齢者の人権を尊重する態度を育成する。
イ 高齢社会の特徴や課題について認識し、高齢者とともに豊かな社会の実現に向けて努力することの大切さを理解させる。
ウ 福祉施設やその他におけるボランティア活動への積極的な参加を促し、高齢者の介護や福祉の問題についての理解と認識を深めさせる。
エ 特別活動、「総合的な学習の時間」等において、高齢者との交流の機会を積極的に設ける。
 

 
○「障害者の人権に関する教育」について
 「完全参加と平等」をテーマとした「国際障害者年」を契機として、障害者のライフステージのすべての段階において全人間的復権をめざす「リハビリテーション」の理念と、障害のある人もない人も同等に生活し、活動する社会をめざす「ノーマライゼーション」の理念のもと、これまで各種の施策が推進され、障害者の社会参加や生活条件の向上が進んできた。
 この間、障害者の人権に関する理解が深まってきているものの、障害のある人への人権侵害行為や社会参加の障壁など、まだ多くの課題が残されている。
 障害者(児)の人権に関する教育の充実を図り、障害者の自立と社会参加をより一層推進するため、以下の事項に留意しながら取り組むことが大切である。

ア 児童生徒が発達段階に即して「ノーマライゼーション」の理念について学習する機会を設ける。
イ 障害についての理解や介助・福祉の問題などに関する理解と認識を深めるために、特別活動や「総合的な学習の時間」等において体験活動を積極的に取り入れる。
ウ 盲・ろう・養護学校と小・中・高等学校等や、特殊学級と他学級の交流及び共同学習を推進するとともに、ボランティア活動への積極的な参加を促す。
エ 障害のある児童生徒の発達や社会的自立を支援する環境づくりに努める。
 

 
 
○「在日外国人の人権に関する教育」について
 戦後60数年を経過した現在においても、在日韓国・朝鮮人の人権に関わる問題が残されている。また、国際化の進展に伴い、本県で暮らす外国人が増加してきており、言葉や生活習慣、価値観や文化の違いから生じる様々な問題が発生してきている。
 そうした中で、他国の文化や価値観を理解し、尊重し合い、外国人に対する偏見や差別意識を解消するとともに、共生に向けた生き方を身に付けることが一層重要になってきている。
 こうしたことから、以下の事項に留意しながら取り組むことが大切である。

ア 異なる文化や伝統、歴史に対する理解を深め、互いに尊重し合う態度を育てる。
イ 人種・民族に関する誤った知識や偏見が差別につながることを理解させ、人種・民族問題について正しい理解、認識を育てる教育を推進する。
ウ 日本に在住する外国人児童生徒が民族的自覚と誇りをもって生き抜く力を養うことができるよう努めるとともに、将来の進路を自ら選択し、自己を実現できるよう進路指導の充実を図る。
エ 児童生徒が、自国の文化や伝統等に対する理解・認識の上に立って、諸外国の生活や文化等に関する理解を深めるよう交流活動を積極的に推進する。
オ 各教科や特別活動、「総合的な学習の時間」等における国際理解教育との効果的な関連を考慮して、計画的に指導を進める。
 

 
○「人権教育」を進めるにあたって

ア 特に、「和歌山県人権教育基本方針」や「和歌山県人権施策基本方針」「地域改善対策協議会意見具申」「児童の権利に関する条約」「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」「人権教育・啓発に関する基本計画」及び「人権教育の指導方法等の在り方について[第二次とりまとめ]」等の内容について十分に共通理解を図る。
イ 各教科、道徳、特別活動及び「総合的な学習の時間」等の関連を考慮し、教育活動全体を通して効果的な指導を行う。 
ウ 各学校においては、児童生徒の実態や地域の実情を十分に把握し、全教職員の共通理解のもと、保護者の理解や協力を得ながら指導を進める。
エ 人権教育の手法には、「法の下の平等」「個人の尊厳」といった人権一般の普遍的な視点からのアプローチと、具体的な人権課題に即した個別的な視点からのアプローチがあることを踏まえ、この両者のバランスを考慮しつつ、適切な年間指導計画の立案にあたる。
オ 人権教育を推進するにあたっては、単に知識だけでなく、問題解決のための具体的な実践力を身に付けさせるものとなるよう留意する。
カ 社会教育との連携を図りつつ、ボランティア活動などの社会奉仕体験活動、自然体験活動など体験活動を積極的に取り入れる。
キ 人権について学習する際には、自分の人権のみならず他人の人権についても正しく理解し大切にすること、自分の行動に責任をもたなければならないことについても指導を行う。
ク それぞれの人権問題について、その特性や共通性を明らかにし、それぞれの関連に留意して指導する。
ケ 児童生徒の発達段階に即した実践に取り組むとともに、各校種間の連携を図る。
コ 人権問題に対する理解・認識を一層深めるために、教職員一人ひとりが積極的に自己研修を行うとともに、学校にあっては現職教育等の充実に努める。
サ 家庭教育、社会教育との連携を図り、学校での取組について家庭や地域の理解と協力を得るように努める。
シ この項で取り上げた以外の人権問題についても、児童生徒、保護者及び地域の実態に即して、適切に指導する。

第3章 地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める

2007-08-22 20:53:32 | Weblog
-学校・教育委員会の改革-

(1)学校の組織運営の見直し

ア 学校の自主性・自律性の確立

○  学校が主体的に教育活動を行い、保護者や地域住民に直接説明責任を果たしていくためには、学校に権限を与え、自主的な学校運営を行えるようにすることが必要である。
 現状でも、校長の裁量で創意工夫を発揮した特色ある教育活動を実施することが可能であるが、人事面、予算面では不十分な面がある。
 権限がない状態で責任を果たすことは困難であり、特に教育委員会において、人事、学級編制、予算、教育内容等に関し学校・校長の裁量権限を拡大することが不可欠である。


○  教職員の人事について校長の権限を拡大することが必要である。人事権を有する教育委員会において、例えば、教員の公募制やFA(フリー・エージェント)制などを更に推進することが求められる。


○  学級編制を含めた指導方法の工夫改善については、各学校がそれぞれの実情に応じて個別に判断することが適当である。このため、各学校が個別に学級編制を行うなど学校の判断が尊重されるよう現行の学級編制の仕組みを見直す必要がある。


○  教育内容に関する学校の裁量を拡大するとともに、予算面で、学校の企画や提案に基づいた予算の配分や、使途を特定しない裁量的経費の措置など、学校裁量の拡大を更に進めることが必要である。このため、学校の設置者である教育委員会においては、教育委員会規則の改善や学校予算の配分方法の工夫などを一層進めることが求められる。


○  以上のように、学校の裁量を拡大し、地域や学校の特色を生かした多様で個性的な教育が展開されるようにするためには、その土台として、確固とした教育条件が整備されていることが不可欠である。次章で述べるように、教職員、学校施設、教科書という教育の最も基本的な条件の整備は、特に確実に行われることが必要である。


○  学校運営を支える機能の充実のため、教頭の複数配置を引き続き推進したり、主任が機能するよう更にその定着を図ることが重要である。それとともに、今後、管理職を補佐して担当する校務をつかさどるなど一定の権限を持つ主幹などの職を置くことができる仕組みについて検討する必要がある。
 また、事務の共同実施や共同実施組織に事務長を置くことを検討するなど、学校への権限移譲を更に進めるための事務処理体制の整備を進めることが必要である。


○  機動的な学校運営のため、前述の教頭の複数配置や主任制、主幹制なども活用しつつ、校長が、その権限と責任において決定すべき事項と、職員会議等を有効に活用することがふさわしい事項とを区別して学校運営に当たることが重要である。
 これによって、学校の意思決定が、校長のリーダーシップの下に、高い透明性を確保し、公平・公正に行われることが重要である。また、決定した事項についての教育委員会や校長等の説明責任が常に意識されることが重要である。


○  教師が以前に比べ多忙になり、子どもと触れ合う時間が確保できないという指摘がある。今後、学校が処理する事務・業務の見直しや、国・都道府県・市区町村が行う調査等の精選により、学校の負担軽減を図ることが必要である。

イ 学校・地方自治体の取組の評価

○  学校や地方自治体の裁量を拡大し主体性を高めていく場合、それぞれの学校や地方自治体の取組の成果を評価していくことは、教育の質を保証する上でますます重要となる。また、近年の学校教育の質に対する保護者・国民の関心の高まりに応えるためにも、学校評価を充実することが必要となっている。


○  現在、学校評価は、学校が教育活動の自律的・継続的な改善を行うとともに、「開かれた学校」として保護者や地域住民に対し説明責任を果たすことを目的として、自己評価を中心に行われている。また、この評価は、教職員のほか、保護者、地域住民、学校評議員などが参加して行われており、これらの者が情報や課題を共有しながら学校の改善を進めていく上で重要な役割を果たしている。その一方で、各学校における実施内容のばらつきや、評価結果の公表が進んでいないなどの課題も見られる。


○  今後、更に学校評価を充実していくためには、学校・地方自治体の参考に資するよう大綱的な学校評価のガイドラインを策定するとともに、現在、努力義務とされている自己評価の実施とその公表を、現在の実施状況に配慮しつつ、今後全ての学校において行われるよう義務化することが必要である。


○  また、自己評価の客観性を高め、教育活動の改善が適切に行われるようにしていくためには、公表された自己評価結果を外部者が評価する方法を基本として、外部評価を充実する必要がある。設置者である市区町村の教育委員会は、各学校の教育活動を評価するとともに、学校に対する支援や条件整備など自らの取組について評価し、どのような対応が必要なのかを明らかにしていくことが必要である。国は、評価に関する専門的な助言・支援を行うとともに、第三者機関による全国的な外部評価の仕組みも含め、評価を充実する方策を検討する必要がある。


○  なお、学校評価の実施に当たっては、学校の序列化や過度の競争、評価のための評価といった弊害が生じないよう、実施や公表の方法について十分に配慮する必要がある。また、評価に関する事務負担を軽減するための工夫や支援も重要である。全国的な外部評価の仕組みの検討に当たっても、地方自治体の役割と国の役割を十分整理しながら、我が国の事情に合った方法を開発していく必要がある。

ウ 保護者・地域住民の参画の推進

○  地域に開かれ信頼される学校を実現するためには、保護者や地域住民の意見や要望を的確に反映させ、それぞれの地域の創意工夫を生かした特色ある学校づくりを進めることが不可欠である。それと同時に、保護者や地域住民が、学校に要求するばかりでなく、学校とともに地域の教育に責任を負うとの認識のもと、学校運営に積極的に協力していくことも求められる。学校が責任を果たすことは当然であるが、これからの時代に求められる教育の実現のため、保護者や地域住民には、学校教育に積極的に参画することが重要であるという意識を持つことが期待される。


○  このため、学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校評議員制度の積極的な活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進する必要がある。その際には、校長との権限関係を明確にすることや、委員に適材を得ることが必要である。また、国や地方自治体は、保護者や地域住民の学校運営への参画に関する取組の成功例について幅広く情報提供を行うなど、その促進のための支援策を講じることが必要である。


○  学校運営への保護者や地域住民の参画は、学校運営が透明性を高め、公平・公正に行われるようにするとともに、教育活動等についての評価及び公開を通じ十分な説明責任を果たすという民主主義のルールに基づいて行われるようにする上で重要な意義を有するものである。


○  学校施設の地域への開放や余裕教室の有効利用により、学校が地域住民の活動の場となり、学校が拠点の一つとなって地域づくりが進められていくことも必要である。

(2)教育委員会制度の見直し

ア 教育委員会の設置の在り方

○  教育委員会制度の在り方については、平成16年3月の諮問「地方分権時代における教育委員会の在り方について」以来、地方教育行政部会において審議が行われ、平成17年1月に部会まとめが出されている。


○  教育委員会制度は、首長からの独立、合議制、レイマン・コントロールにより、政治的中立性の確保、継続性・安定性の確保、地域住民の意向の反映を図るものとして我が国に導入され、地方教育行政の基本的な制度として定着している。


○  一方、現在の教育委員会の現状については、会議が形骸化している、国の示す方針に従う縦割りの集権型の仕組みになっている、合議制のため責任の所在が不明確となっている、迅速な意思決定ができない、などの問題が指摘されている。
 これらを理由として、教育委員会の設置を地方自治体の選択に委ねるべきとの意見、その際の代替措置として教育に関する審議会を設置するという意見、特に小規模な町村でその必要があるなどの意見が出された。


○  しかし、教育行政における政治的中立性や継続性・安定性の確保、地方における行政執行の多元化(首長に権限が集中することへの危惧)、首長が広範な事務を処理する中で専門の機関が教育を担当することのメリット(安定した行政執行)、義務教育実施の確実な担保などの重要性を踏まえると、教育委員会の設置は選択制にすべきではなく、必要な運用や制度の改善を図ることが必要であると考えられる。特に、今後、後述するように、教職員人事や学級編制など義務教育に関する市区町村の権限と責任が拡大することを考慮すると、市区町村の教育行政における政治的中立性の確保や教育行政の専門性の発揮、行政執行の多元化等の要請は一層強まり、教育委員会の機能の強化が求められると考えられる。また、指摘される問題の多くは、首長や議会の在り方に起因するものであり、教育委員の選任などについて首長や議会が本来期待されている権能を行使すれば解決できるとの意見も出された。


○  したがって、教育委員会制度の今後の在り方については、全ての地方自治体に設置することなど現在の基本的な枠組みを維持しつつ、それぞれの自治体の実情にあわせた行政が執行できるよう制度をできるだけ弾力化するとともに、教育委員会の機能の強化、首長と教育委員会の連携の強化や教育委員会の役割の明確化のための改善を図ることが適当である。


○  なお、教育委員会の機能の強化については、平成17年1月の地方教育行政部会の部会まとめにおいて様々な方策が指摘されているところであり、特に、教育委員に適材を確保するための選任の改善、教育委員会が責任を持って意思決定できるようにするための教育委員会会議の工夫や公開、住民の意向や教育現場の実情の把握、指導主事など事務局体制の強化、市町村教育委員会の事務処理の広域化等を進めることが重要である。

イ 教育委員会の組織の弾力化

○  教育委員会の組織や運営は、自治体の種類や規模等にかかわらずほぼ一律のものとなっている。しかし、自治体は人口規模や行政資源が多様であることから、その状況に応じ、例えば委員の数などについて各自治体が選択できるよう弾力化することが適当である。また、前項で述べたように、教育委員の選任方法や教育委員会会議の運営等について、各自治体が地域の実情に応じ主体的に工夫改善することが重要である。

ウ 首長と教育委員会の権限分担の弾力化

○  教育委員会は、学校教育のほか、社会教育、文化、スポーツ、生涯学習といった幅広い事務を所掌している。今後、地域づくりの総合的な推進をはじめ、他の行政分野との連携の必要性、さらには政治的中立性の確保の必要性等を勘案しつつ、首長と教育委員会との権限分担をできるだけ弾力化していくことが適当である。このため、教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く)、スポーツ、生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)は、地方自治体の判断により、首長が担当することを選択できるようにすることが適当である。また、高等教育機関である高等専門学校については、首長が所管できるようにすることが適当である。


○  首長は、現行制度でも、教育関係の予算の編成・執行の権限を持つなど、教育行政に大きな責任を負っているところであり、教育委員と首長との協議会の開催など、首長と教育委員会との連携を強化していくことが重要である。特に、自治体の判断で、文化、スポーツ、生涯学習支援に関する事務を首長が担当することとする場合、首長と教育委員会との連携を十分図る必要がある。

エ 教育委員会と教育長との関係

○  教育委員会の使命は、地域の教育課題に応じた基本的な教育の方針・計画を策定するとともに、教育長及び事務局の事務執行状況を監視・評価することであることを制度上明確化する必要がある。また、教育委員会と教育長及び事務局が適度な緊張関係を保ちながら教育事務を執行する体制を実現することが必要である。このため、教育長が教育委員の中から教育委員会によって選ばれるような現在の教育長の位置づけ・選任方法は見直すことについて、今後引き続き検討することが適当である。

(3)国と地方、都道府県と市区町村の関係・役割

ア 基本的な考え方

○  義務教育の実施にあたって、ナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための諸条件を担保する観点から、国は、学校制度の基本的な枠組みの制定や教育内容に関する全国的な基準の設定を行い、その上で、地方は、それぞれの地域の実情に応じ、主体的に教育の質を高め、ローカル・オプティマム(それぞれの地域において最適な状態)を実現するとともに、国、都道府県、市区町村それぞれが必要な財源措置を行っていくことが必要である。


○  教育行政における国、都道府県、市区町村の関係・役割については、平成10年の本審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」において整理がなされ、それをもとに、教育長の任命承認制度の廃止や、国や都道府県の行う指導、助言、援助等の在り方の見直し等、教育行政における地方分権改革が行われた。


○  現在、国は、教育制度の枠組みの設定や、学習指導要領等の基準の制定、地方自治体に対する財源保障を行っている。また、都道府県は、教職員の給与負担をするとともに、広域で人事を行い、市区町村は、小・中学校を設置しその管理運営に当たるなど義務教育の直接の実施主体となっている。
 義務教育については、地方自治体が学校の設置管理を行うなど直接的な責任を負っている一方、教育の機会均等や全国的な教育水準の維持向上といった義務教育の根幹の保障については国が責任を負っている。


○  義務教育については、今後の分権改革の重点は、都道府県から市区町村への分権、教育委員会から学校への権限移譲であると考えられる。
 地方の中でも、義務教育の直接の実施主体である市区町村や学校に権限の移譲を進めるとともに、市区町村が設置者としてその地域の状況に応じて独自の教育方針や基準を設定するなど、地域の実情に応じた教育を実現できるようにしていくことが必要である。これに対応し、都道府県は、広域人事など市区町村間の調整や小規模市町村に対する支援にその役割を一層重点化し、市区町村の自主性を尊重しつつ、義務教育の質の保証・向上に責任を果たしていくことが求められる。
 このように、都道府県から市区町村へ権限を移譲した上で、国、都道府県、市区町村が協力しながら、その責任と役割を果たしていくことが重要である。

イ 地方の主体性を生かした教育行政の推進

○  教育行政に関しては、文部科学省、都道府県教育委員会、市区町村教育委員会の間で、上意下達の中央集権的な行政になっており、地方の創意工夫を阻害しているとの指摘がある。


○  義務教育の機会均等や水準確保などの根幹の保障は国の責任であり、その責任を果たす上で、都道府県や市区町村に対し必要な指導・助言や援助を行うことは必要である。
 一方、教育行政における国と地方の関係については、これまでも、指揮監督による権力的な作用よりは、指導・助言や援助による非権力的な作用によって、地方の主体的活動を促進することが基本となっており、今後も、この方針を重視していく必要がある。
 さらに、国の定める教育内容、教職員配置、学級編制などに関する基準を、できる限り大綱化・弾力化したり、最低基準性を明確にするなど、地方の裁量を拡大することが必要である。


○  地方の主体性により義務教育の質の向上を図るためには、その基盤となる財源保障が安定的で確実であることが重要である。
 義務教育費国庫負担制度が、地方や学校の創意工夫の発揮を妨げ、国からの指示待ちの状態を招き、主体的に行政執行しようとする意識改革を阻害している、あるいは、特色ある教育活動の実施や人材の活用、教材の開発などにおける地方の独自の取組を阻害しているとの意見が少数ながら出された。しかし、現在も、学習指導要領や義務標準法などの基準・法令を遵守した上で、地方の独自性を活かした取組を行うことが期待されている。次章で述べるように、現在認められている以上に地方独自の創意工夫を活かすためには、義務教育費国庫負担制度に基づく確実な財源保障の下で、学習指導要領や義務標準法などの基準・法令を地方の自由度を高める方向で見直すことが必要である。


○  市区町村教育委員会や学校に対して、都道府県教育委員会から過度の関与が行われているとの指摘もある。義務教育に関しては、市区町村の権限と責任を拡大し、都道府県教育委員会から、瑣末な部分にまで及ぶ指導の行き過ぎが行われないようにすることが必要である。
 さらに、義務教育の実施主体である市区町村の側において、教育委員会が教育行政の責任ある担い手として、地域の教育課題に主体的に取り組むなど、市区町村教育委員会の機能の強化を図る必要がある。また、首長が、教育委員への適材の選任など、本来期待されている機能を果たし、市区町村教育委員会が自立し主体性を発揮することが重要である。

ウ 市区町村への教職員人事権の移譲

○  現在、県費負担教職員の給与負担(給与の支出責任)と人事(任命)権は、基本的に都道府県にあるが、例外的に政令指定都市については人事権が、中核市については人事権のうち研修に関する実施義務のみが、都道府県から移譲されている。


○  これについて、義務教育諸学校は、市区町村が設置し教職員も市区町村の職員でありながら、給与負担と人事権が都道府県にあるため、県費負担教職員が地域に根ざす意識を持ちにくくなっていること、また、より教育現場に近いところに権限をおろすべきであることなどから、人事権についても都道府県から義務教育の実施主体である市区町村に移譲する方向が望ましいと考えられる。


○  とりわけ、中核市については、既に研修実施義務が移譲されており、これに加えて人事権全体についての移譲を求める意見が強かった。また、大都市周辺部等には、中核市相当やそれに準ずる規模を有する市区も多いことなど、一定の規模を有する市区町村についても人事権の移譲を求める意見があった。


○  一方、とりわけ町村には小規模なところも多く、給与や人事権の行使に伴う負担には耐えられないとの意見や、中核市など大規模な市区町村抜きでの広域の人事異動は考えられないなどの意見、また、県内に一又は複数の人口50万人程度の広域連合による「教育機構」を作るなどの意見があった。


○  これらの意見を踏まえ、教職員の人事権については、市区町村に移譲する方向で見直すことが適当である。
 一方、現在の市区町村の事務体制で人事関係事務を処理できるか、離島・山間の市町村を含めた広域で人材が確保できるかにも留意する必要がある。
 このため、当面、中核市をはじめとする一定の自治体に人事権を移譲し、その状況や市町村合併の進展等を踏まえつつ、その他の市区町村への人事権移譲について検討することが適当である。
 また、人事権の移譲に伴い、都市部と離島・山間部等が採用や異動において協力し、広域で一定水準の人材が確保されるような仕組みを新たに設けることが不可欠である。
 なお、教職員人事権を市区町村に移譲する場合には、その財源保障は安定的で確実なものであることを前提に、人事権者と給与負担者はできる限り一致することが望ましく、人事権移譲に伴う給与負担の在り方も適切に見直すことを検討する必要がある。


○  さらに、人事権が移譲されない市区町村でも、現在、構造改革特別区域において行われている市町村費負担教職員任用事業の全国化により、市区町村独自の教職員の任用を可能とすることが適当である。

エ 教職員配置の改善と市区町村、学校への学級編制に係る権限の移譲

○  義務教育のナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための諸条件を整備する観点から、国が学級編制及び教職員配置についての基準を明確にすることは重要であり、早急に次期定数改善計画を策定する必要がある。これにより、少人数教育の一層の推進や、学習指導や特別支援教育の充実、養護教諭、栄養教諭、事務職員、司書教諭の配置充実、外国人児童生徒への支援の充実など、今日的な教育上の課題に迅速かつ適切に対応した教職員配置の改善を進める必要がある。


○  その上で、今後は学校の判断により地域や学校の実情に合わせた指導形態・指導方法や指導組織とするため、現行制度を見直し、学級編制に係る学校や市区町村教育委員会の権限と責任を拡大する必要がある。
 例えば、義務標準法による教職員の標準定数について都道府県ごとの算定から市区町村ごとの算定に改めることや、学校や市区町村教育委員会の判断で学級編制が弾力的に実施できるようにすることなど現行の学級編制の仕組みを見直す必要がある。
 また、学校や市区町村教育委員会の判断で少人数学級編制を可能とすることができるよう、これまで例外的な措置とされていた40人学級を下回る学級編制が自由に選択できる制度とする必要がある。
 その際、各都道府県に対し教育上の特別な事情に基づきさらに必要とされて加えられる定数(いわゆる教職員定数の加配定数)について、その配分と運用ルールの見直しを検討すべきである。