彼には家族は無かった。
妻も子もいなかった。肉親も。
2030年に起こった中部大震災で、故郷のM市は壊滅。
弟、妹を失った。それから5年後、復興しつつあるM市
の閑静な住宅街の中、父母も老衰で死んだ。
彼は黙々と凡庸なサラリーマンとして働き、2038年5月26日に定年退職した。退職記念パーティが盛大に行われ、彼を祝福してくれた。帰宅後、彼を迎えてくれたものは、誰も居ない部屋。彼は結局、地球上のどこにも、自分の「Home」を作り上げることは出来なかった。
翌日からはもう何者でもない人生が始まったのだった。
彼は退職後、犬を飼った。名は無かった。彼は一度もその犬を呼んだ事は無かった。だが、それでも犬は彼に良く懐き、彼を主人と -或いは友だったかもしれない- 認めた。朝と夕には欠かさずH川を一緒に散歩するのが日課だった。
その犬も2048年に死んだ。犬が息を引き取った時、
彼は、「おい」とその犬を呼んだ。それが最初にして最後の
犬への呼びかけだった。
彼はまた独りになった。
妻も子もいなかった。肉親も。
2030年に起こった中部大震災で、故郷のM市は壊滅。
弟、妹を失った。それから5年後、復興しつつあるM市
の閑静な住宅街の中、父母も老衰で死んだ。
彼は黙々と凡庸なサラリーマンとして働き、2038年5月26日に定年退職した。退職記念パーティが盛大に行われ、彼を祝福してくれた。帰宅後、彼を迎えてくれたものは、誰も居ない部屋。彼は結局、地球上のどこにも、自分の「Home」を作り上げることは出来なかった。
翌日からはもう何者でもない人生が始まったのだった。
彼は退職後、犬を飼った。名は無かった。彼は一度もその犬を呼んだ事は無かった。だが、それでも犬は彼に良く懐き、彼を主人と -或いは友だったかもしれない- 認めた。朝と夕には欠かさずH川を一緒に散歩するのが日課だった。
その犬も2048年に死んだ。犬が息を引き取った時、
彼は、「おい」とその犬を呼んだ。それが最初にして最後の
犬への呼びかけだった。
彼はまた独りになった。