goo blog サービス終了のお知らせ 

Life Line

18年続いたteacupでの活動をこちらへと引き継ぎました

日々を綴ります 生きている限りにおいて

future memory2

2008-12-13 22:11:47 | future memory
彼には家族は無かった。

妻も子もいなかった。肉親も。

2030年に起こった中部大震災で、故郷のM市は壊滅。
弟、妹を失った。それから5年後、復興しつつあるM市
の閑静な住宅街の中、父母も老衰で死んだ。


彼は黙々と凡庸なサラリーマンとして働き、2038年5月26日に定年退職した。退職記念パーティが盛大に行われ、彼を祝福してくれた。帰宅後、彼を迎えてくれたものは、誰も居ない部屋。彼は結局、地球上のどこにも、自分の「Home」を作り上げることは出来なかった。

翌日からはもう何者でもない人生が始まったのだった。

彼は退職後、犬を飼った。名は無かった。彼は一度もその犬を呼んだ事は無かった。だが、それでも犬は彼に良く懐き、彼を主人と -或いは友だったかもしれない- 認めた。朝と夕には欠かさずH川を一緒に散歩するのが日課だった。

その犬も2048年に死んだ。犬が息を引き取った時、
彼は、「おい」とその犬を呼んだ。それが最初にして最後の
犬への呼びかけだった。


彼はまた独りになった。

コメント

future memory1

2008-12-08 00:06:26 | future memory
2058年冬

比較的大きな地方都市の駅前のコーヒーチェーン店に、
毎朝来店する老人が居た。

頭は半ば禿げ上がった、どちらかというと醜い風貌の男だ。

持参するバッグにはいつも小難しそうな本を抱えていた。
ラージサイズのコーヒーを飲みながら、しかめつらしい顔で
それを夕方まで読むのが日課だ。

時々、彼は、今となっては完全に時代遅れとなったモノクロ写真などテーブルの上に広げてはぼんやりと眺めていることもあった。

1年365日 それが彼の生活の全てだった。

コメント