早春賦

2009-01-22 | 草木自然
ウエノさんのお見舞いに行ってきた。

カエデさんと一緒に、二人で山道をびゅんと飛ばした。
あれから・・・カエデさんは何度かウエノさんを見舞いに行き、躊躇するジョージさんを看破したそうだ。(ジョージさんもまた「会」の一人である)

「何言ってんのよ。くだくだいわないでまずは行ってみたらどう?」
「って、カエデさんに背中押してもらって、ボクもこないだの日曜に行ってきました~」
仲間内で流しているメーリングリストでその顛末を知った。心の中で、快哉。
やっぱりカエデさんは、こうでなくちゃ。

病室――。「お、来たね」と言いたげなウエノさんのベッドの横で、とつとつボケとツッコミをやらかす二人。
「MLの大半が迷惑メールに分けられちゃってるんですよね~」
「迷惑なんかい!」

ツッコミね。8年京都にいてもぜんぜんうまくならないのである。話術も時と場合によりけりね。勤務校に行く途中には毎朝、米朝全集聞いてたんですけどね。  
  
              「ヤだよ おまさん」

ちっともうまくならないのである。師匠、どうしましょう。

                  ***

「あなた、時間ある」
ということで北大路の福祉施設にくっついている喫茶店でお茶をのむ。カエデさんはここで月に何度かボランティアをしている。視覚障害の人のための、聴覚資料を作っているのだ。

「退院して、ご実家に戻られるっていうじゃない。ご実家まで行ってもいいけどさ、やっぱり病院のほうが、会いに行きやすいじゃない。私たち。ね」

三時の空はうすみずいろで、全天が光を反射した。
たゆたうように、長い髪が揺れた。
やはりきれいな人なのだった。






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ねえ、山茶花

2009-01-14 | 草木自然
顔を洗って外に出たら自転車に霜が降りていた。
透き通るような寒さだ。心の底から透き通らせる、一月の京都の寒さだ。
西の空を見上げると真白い月が残っている。
冬なのだ。ね。これが冬の朝なのだ。曲が途切れた一瞬の空白に似ている。動き出す前の静寂だ。

堀に咲く山茶花の赤。







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川の底から

2008-04-16 | 草木自然
鴨川を越える用事のかえりにふと左手を見ると、あろうことかいちめんの菜の花。

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな

柔らかな声でこうくり返し、その光の広がりを描いた詩人は誰だったっけ。
今出川通りの橋の上から見晴るかす一面、ゆるやかな鴨川の流れはゆっくりと土をよせてたくさんの中州ができあがるけれど、その島のすべてが菜の花におおわれているんです。
ちょうど今出川通りをつなぐ加茂大橋で北から流れてきた高野川と加茂川が合流し京都の鴨川になるんだけれど、じゃあ川上もと振り返ったその東の山のほうから菜の花たちは来たようだった。
夏は青くそよぐ草原になり、雪ふるころには冬枯れてさびしさをきわだたせる鴨川の中州らが、桜の終わるころにこんな顔を見せるとは、住んで八年目の春にはじめて知った。

ゆく人かえる人問いません。橋をわたるときはいま少し足を止めて川の流れてきたほうを見てみたらどうでしょう。それに流れていくほうも。
いつものせせらぎだけでなく、かすかな花のざわめきも、風の吹くのに少しおくれて聞こえるよ。



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草木譚 

2008-04-12 | 草木自然
この時期の草木の育ちには芽をみはるものがある。

鉢植えでそだてているミニバラがあるんだけれど、新しく伸びてきた葉っぱの一むれが春さきから伸びていた葉っぱたちを押しのけて伸びていくのです。

早春から順調に伸びてきたと思っていたひと群れはそのみずみずしい緑のまま成長を止めその色のままに落ちていく。
厳寒をようよう越えた葉っぱたちをとり去って、次の季節にのびていくものたちを大事にしてきたつもりだけれど、それにしてもこの新しいむれむれには言葉をうしなう。葉のふちをその花びらと同じように紅くたぎらせているその緑。彼らには愛でようとする者を拒む荒々しさがある。
その強さは無目的に発動されうるものか。
ただ生きようとするためのものなのか。
生きるとはかくも厳しいか。
私が叙情に過ぎるのか。

役割を終えた葉はいさぎよい。
力をくわえなくても自ら枝を離れて落ちていく。
雪どけの緑のままひからびた一葉に声をかけたく、しかしまた葉のふちの激しさのまま来たる季節へと向かう挑みにも声をかけたく、
どの言葉も知らずたたずんだ朝だ。



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百日紅 その腕が

2006-09-04 | 草木自然
百日紅(さるすべり)の枝が伸びて、妙に間のぬけた姿が家々の庭からのぞいている。
百日紅は枝の先に花がついているから、おそらくそのためにどの家の人も伐るのが憚られるんだろうな。

いつかとても晴れた日に、青空を背景にして百日紅の花を見上げると本当に気持ちがいいと書いておこうと思い、でもいつのまにかその季節は過ぎてしまった。

もうすぐ秋です。
夏は見る間に過ぎていく。入道雲はもう出来ず、その代わりにうろこ雲が空高く掃かれ、地上に近い雲の速さとあいまって空の広さをおもわせる。
木々は緑。庭のプラタナスに似た大きな木は、朝は勢いよく葉を広げ、昼を過ぎると気化熱にうなだれる。

冬は春を恋い、春は夏を恋い、夏は秋を恋う。

無いものねだりもあるのでしょうか

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