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アメリカの暗部 ≪ジーナ6≫2008-01-26

2015-10-28 | 気になったニュース

アメリカの暗部 
≪ジーナ6≫
2008-01-26

 事件のきっかけは1年以上前にさかのぼる。米メヂィアの報道や
反人種差別団体の調べによると、事態は以下のような経緯をたどった。

ジーナ高校の校庭には、その木陰に黒人生徒は座れない、という
暗黙のルールを持つ木があったという。白人生徒だけが集まることから、
「ホワイト・ツリー」(白人の木)と呼ばれていた。
06年の夏、この木陰に座る許可を学校側に求め、実際に座った
黒人生徒がいた。その翌日、この木に「首吊り縄」がつるされていた。
過去に奴隷のリンチで使われ、今も人種差別やヘイトクライムの
象徴とされる。

教育委員会は「ただのいたずら」と判断。実行犯の白人生徒3人は
停学3日の処分ですんだ。コレを機に黒人と白人の生徒間でいさかいが
起きたとされる。そして06年12月、1人の白人生徒を殴り倒したとして、
6人の黒人生徒が逮捕された。

被害者は顔が腫れ上がったが、その日の学校行事には参加できたという。
しかし、黒人性トラの容疑はただの暴行ではなく、刑罰の重い「殺人未遂」
とされた。他のいさかいで暴力をふるった白人青年らが軽い処分だったのとは
対照的だった。

事件について、州の反人種差別団体は「不当に重い容疑の背景には人種差別が
ある」と検察当局を非難。抗議の輪はじわじわと全米にひろがった。

全米有色人地位向上協会(NAACP)が呼びかけて昨年9月にジーナで
行われたデモには全米から1万人以上が参加、テレビで中継された。
11月には首都ワシントンでも同様のデモがあった。



■ (黒人)差別批判「僕で最後に」

州都バトンルージュから車で3時間、ジーナは中心部に小売店や飲食店が
数軒しかないような、ひなびた町だった。
昨年11月、少年らの裁判日程を決める公判が、町の裁判所であった。
「もし人種差別がなかったら、息子は逮捕されることはなかったはず」
殺人未遂の「主犯」とされている少年(17)の母親、メリッサ・ベル
さん(38)は裁判所の前でそう語った。
「フットボールが上手でクラスの人気者だったから主犯扱いにされた
のだと思う。もう、こんな町からは引っ越すつもり」

少年は、一審で殺人未遂罪に問われて通常の裁判所に記録され、10ヶ月間、
成人と同じ拘置所に拘留されていた。二審で少年裁判所に審理が移された後、
少年は司法取引に応じ、暴行罪を認めて現在は釈放されている。
「町のみんなが人種差別的とは思わない。ただ、息子を他の人たちと
同様に扱って欲しい」。逮捕された別の少年の母親、ティナ・ジョーンズさんは
そう話した。

表面的には町に「人種間の断絶」があるようには見えない。だが白人と
黒人で居場所が決まっており、私生活での交流はほとんどないのが実態だと
ジョーンズさんは言う。
「自分が巻き込まれるまで、この町に人種差別があるとは思っていなかった。
こんなことは僕で最後にしてほしい」。ジョーンズさんの息子は公判後、
取材陣に話した。取材の間、他の住民は裁判所を遠巻きにし、決して
近づかなかった。少年とその家族は町で孤立しているように見えた。

■ (白人)誤解強調「十分に罪だ」

「ジーナ6のことなら何も話すことはない」。
高校近くの小道を散歩していた高齢の白人男性に事件のことを尋ねると、
表情が一変した。目抜き通りで雑貨店を営む白人女性は「デモの日は
店を開けられなかった。一日も早く忘れたい」と言ったきり、下を向いた。
多くの住民が口をつぐむなか、地元紙ジーナタイムズの編集次長、
クレイグ・フランクリンさんは、「町の代表」として取材に応じた。

話は、報道されていた内容を覆すことばかりだった。そもそも、事件の
きっかけとなった「白人の木」など存在していなかった、というのだ。
「木には黒人生徒も以前から座っていた」「つるされた縄は、高校の
ロデオチームをからかう冗談にすぎなかった」「被害者の白人生徒は
後頭部を強打され、意識を失って倒れたところを踏みつけられた。
これは十分、殺人未遂罪にあたる」
間違った話が広まったのはメディアの怠惰な取材のせいだという。
逮捕された黒人生徒らは札付きで、住民の置くが逮捕を喜んだ、とも
話した。

町の住民は85パーセントが白人で黒人は15パーセント。
ジーナタイムスの読者の多くは白人だ。父は編集長、妻はジーナ高校の
教員をしているというフランクリンさんの話は、白人住民の考えを
代弁しているといえる。
「別の地区の裁判所で審議してほしい。「サーカス」は町から出て行って
ほしいと住民は願っている」。最後に強調した。

■ 問題再燃 増える憎悪犯罪

人種偏見が事件に影を落としているのか、いないのか。
真相は藪の中だ。ただ双方の話からは、人種を異にした住民の間に
横たわる、ぬぐい難い不信感が伝わる。
事件後、「首吊り縄」を公共の場につる模倣犯が相次いだ。
白人優越主義者が、逮捕された黒人少年らの住所氏名をネットに
掲載する事件も起きた。人種問題の古傷が事件をきっかけに
米国社会に噴出している。

連邦捜査局(FBI)によると、06年に米国でおきたヘイトクライム
(憎悪犯罪)は7722件にのぼり、前年比で8パーセント増えた。
その半数以上が人種問題が原因だった。
また、受刑者の人種差別の数には大きな偏りがある。10倍以上の
差がついている州も珍しくない。たとえばアイオワ州では黒人が
白人の13.6倍にも上がっている。
11月の大統領選挙に向け、黒人のオバマ上院議員が有力な立候補予定者
となった今も、米国は無視できない人種間の矛盾をまだ抱え込んでいる。
ジーナの事件は、その地下茎が、たまたま弱い地表を破って姿を
現しただけなのかもしれない。

アーカンソー州で50年前に人種共学が試みられ。9人の黒人生徒らが
連邦軍兵士に守られ登校した「リトルロック高校事件」で、9人は
「リトルロック9」と名づけられた。ジーナで逮捕された黒人生徒たちは
「ジーナ6」と呼ばれている。

「白人の木」は事件後、学校によって切り倒された。場所を尋ねても、
住民はだれ一人、口を開こうとしなかった。
               (1/16付  朝日新聞)

■覚えていますか? あの事件のあった土地柄です。

1992年10月17日、アメリカルイジアナ州バトンルージュに留学していた
日本人の高校生・服部剛丈(はっとり・よしひろ、当時16歳)が、
ハロウィンに留学先の友人と出かけた。しかし、訪問しようとした家と
間違えて別の家を訪問したため、家人ロドニー・ピアース(当時30歳)から
侵入者と判断されて44マグナムを突きつけられ、
「フリーズ(Freeze、訳:動くな)」と警告された。
しかしながら高校生は止まらずに男性の方に進んだため射殺された。

ピアースは、日本の刑法では傷害致死罪に相当する計画性のない
殺人罪で起訴されたが、同州の東バトンルージュ郡地方裁判所陪審員は
12名全員一致で無罪の評決を下した。評決の理由として、
発砲現場の玄関先は屋内と同じであり、
犯罪から身を守るために銃を持って立つことは正当な権利である、
というものであった。なおルイジアナ州の法律では、
屋内への侵入者については発砲が容認されている。

日本での報道はこの時点でアメリカの銃社会に対する不信感を
表明しただけで終わったが、この後行われた、遺族が起こした損害賠償を
求める民事裁判では、刑事裁判とは正反対の結果となった。
ピアースが家に何丁も銃を持つガンマニアであり、しばしば近所の野良犬を
射殺しており、当日は酒に酔っていて、妻の制止を振り払って家から飛び出し
発砲したことなどが実証されたため、正当防衛であると認められないとして
653,000ドル(およそ7,000万円)を支払うよう命令する判決が出され、
同州最高裁も上告を棄却したため確定した。

■この事件があったから、どうこう、というわけではないのですが、
突発的に≪人種間の問題≫が起こりうる環境というものはない、
って思うのですよね。
排他的な土地柄で、自分と家族の安全は自分たちが武装することを
厭わずに守る・・そういう保守的な土壌では、さまざまな問題が
あって、何かのきっかけで暴発するのではないかと思います。
だから、人種間の問題だけをとりあげて、どうこうしようとしても
解決にはいたらないのではないかと。その土地に住むひとたちが
すべてのことについて、少しずつ柔軟に、歩み寄る姿勢を
とらないかぎり、あらゆる局面で、排他的な土地柄が弊害を
生むのだと思いませんか。

15年前のひとつの事件を取り上げただけで、そんなふうに結論づけるのは
短絡的にすぎないかもしれません。でも、アメリカのこの記事を読んで
暗澹たる思いになり、まだまだ解決されてるとは思いがたい、
人種間の問題について、ちょっと一緒に考えられたらと思ったのです。
長々とおつきあいくださいまして、ありがとうございました。


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2 コメント

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ありがとうございます (Rainy)
2008-01-26 00:43:06
長文、ありがとうございます。
あの銃の事件があったのと同じ土地で起こった
事件なのですね。

大どんでん返しな結末にビックリです。
大きな事件は、いつでも、小さなネガティブが
積み重なって爆発する現象なのですね

ヘイトクライムは、社会の未熟さ、幼児性が
非常によく表れていると思います。この事件は、
日本にとっても他人事ではないと思います。
同様の事件は、頻繁に日本でも起こっていると
思います。
返信する
Rainyさんへ ()
2008-01-26 11:02:42
おはようございます。
長文記事を読んでくださってありがとうございます。
この記事を読んで、本当に真相は
≪やぶの中≫なんだろうなと思いました。
だけどもひとりひとりの権利を慮っていると思って
いるアメリカ内部で、このような排他的な事件が
おこっていることに強い衝撃をうけました。
でもRainyさんがおっしゃるように、これはアメリカだけに限らぬことです。
さまざまな事象に連なることでもあるかと思いました。
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