憩いの家西510

入院中の備忘録、記録、思い出として

2022/06/13箸休めその1

2022-06-13 12:28:00 | 日記
ああ、お前だね
いいよ、お入りそこへ座ってね 
それでどうだい、お城のお勝手向きのことは
おおよそ分かったかい
明日から自分が働くんだから、よく見て分からないところは何でも聞いて覚えて、いいね、お願いしましたよ
お前は特にお妃様のお世話をしてもらうからね、食事の支度とか、お着替えとかね
先輩のメイドがいるから心配いらないよ 
でも、たった一つお妃様には好き嫌いがあってね、それが不思議なことにリンゴなんだ、リンゴはお食べにならないから気をつけるように
いや、その名前はお妃様がまだ独身で森で暮らしていた頃の名前だよ。今では普通にお妃様と、お呼びしているからね
そう、お妃様は森でお暮らしだったんだよ
お前庭を通った時見なかったかい
築山の上に、小さなお墓が7つあったろう
お妃様が森でお暮らしの頃、お世話をしていた木こりたちのお墓だよ
お妃様は年取って働けなくなったその人たちをお城に引き取ってね
最後まで面倒見られたんだよ
そう、七人もねなかなかできることではないよ
森で暮らしていたと言っても、元々は隣の国のお姫様だからね、王子様、今では王様だけれどとご結婚なさるのも不釣り合いではなかったのさ
それに、今でもそうだけれどその頃のお妃様はそれは美しくてね
薔薇の花があの方のそばでは恥じてしおれてしまう程だった
心も優しい方でね、私たち目下のものにも良くしてくださって、この城でこの国であの方のことを悪く言うものは誰一人いないんだよ
お姫様にもそれは優しくてね
ああ、そうだよお姫様はお妃様の本当の娘ではないんだ、王様が最初に迎えられたお妃様との間に生まれた方だよ
最初のお妃様はお姫様を産んですぐに亡くなってしまわれた
お前、さっきチラッとお顔見ただろう?
お姫様も本当に可憐で美しい方だろう?
今のお妃様がお城にお越しになった頃はまだほんの小さな子供で、それでも見たことがないくらい可愛かったもんだけれど、お妃様はそのお姫様をまるで自分の実の娘のように、大事に大事にお育てになってね
お姫様もなついて

お妃様はあの美しさだから、最初の頃は城中の国中の評判だった
皆んながお妃様に会いたがったもんさ
でも、あの方はそんなこと少しも鼻にかけることなくね
いつも慎ましやかにニコニコとしておいでだった
最近ではね、お妃様もだけど、お姫様の美しさも大評判でね
街に行くとお姫様の似顔絵が売り出されてるそうじゃないか
以前はお妃様の似顔絵も売られてたんだけど、今ではお姫様の似顔絵の方が人気があるのかもしれないね
いや、お妃様はそんなことで機嫌を悪くなさるような方ではないよ
可愛がって育てたお姫様を妬むなんてそんなお人ではないよ
ただ、そこはやはり年齢だからね、お休みになる前に鏡に向かう時間が前よりは長くなったかもしれないね
鏡はね、お妃様がお里のお城からわざわざ運ばせて、大事にお使いになっている鏡だからお前もお掃除する時には充分気をつけてね
そう、お休みになる前には必ず鏡の前にお座りになるね
お里のお母様から引き継いだ習慣だそうだよ
毎晩鏡に向かって仰るんだ
「鏡よ鏡」ってね


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