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Lady Ella

ひとり語り・・・

少年だった日・・・前編・・・

2005-05-01 06:23:17 | 単車
 私は北野晶夫になりたかった・・・だけなのかも知れない・・・

 午前3時、原付に針金で括り付けたリヤカーにレーサーを二台積み込む。赤と黒のツートンの革つなぎには、およそ似つかわしくない、怪しい・・・怪しすぎるいでたちで、私は友達に声を掛ける。
「ぼちぼち、行くか・・・」
「そうだな・・・」マーチが答える。
スズキのGN50と言うアメリカンのエンジンを掛ける。トットロロロロと、まことに心もとない音がしてエンジンは始動した。
 初めて運転するリヤカー付きの原付・・・これは本当に怖いのだ。ただ、私達に選択の余地はなかった、これからほぼ100キロ先のカートコース場まで、なんとしても辿り着かなければならないのだ。
「時間は大丈夫だろ・・・7時間もあれば着くよな」
「う、うん、多分な・・・」マーチが跨ったのはパッソーラ・・・

 トロトロ、ガクガクとなんとか出発した私達だったのだけれど・・・トラブルはすぐに起きた。リヤカーがブレーキを掛けるたびに車体に激しくぶち当たるのだ。あっという間にフェンダーが傷だらけになる。しょうがないから手拭いを巻き付けてみた・・・状況はあまり変わらない、でも、まぁ、ないよりはいいだろうって事でそのまま走り続けていく。
 バイパスを通り抜け、いよいよ難所である峠越えにかかる。精進湖線・・・結構に急坂である。時速にして15キロ、これが限界なんである。50CCのエンジンは悲鳴を上げ続け、場所を見つけては休ませなければならない。すでに出発してから2時間以上が経過している。時刻は5時を回った。観光客であろう、富士山を目指す家族連れの車が増えてきた。気を付けて邪魔にならないように端っこのほうを上るのだが、もうほとんどやってる事は動くシケイン・・・大顰蹙をかってしまう。少し行っては休み・・・後に続く車をやり過ごす、そしてまた少しだけ上って・・・

 半分ほど来た時点で時刻は8時を過ぎ、どう考えても10時には着けない。しかし引き返すには来過ぎてしまっている。後戻りは出来ない。先に進むしかないのだ・・・エンジンもなんだか変な臭いがしてきている。ようやく坂を上りきり、平坦な道路に出た。少しだけだけれどもスピードを上げて目的地である、白糸カートコース場に辿り着いた・・・その瞬間、主催者であるバイク屋の親父さんが駆け寄って来た。
「まさか、これで峠を越えてきたのかぁ~」
「ええ、他に方法がなかったもんで・・・」
「クラスは何だ」
「スペシャル50に出ようかと思ったんですけど」
「そうか、残念だけれども予選は終わってるんだよ・・・でもなぁ、いいよ、最高尾スタートでよければ出ろ、エントリーフィーもいらねえから」
「ただし、勝ったとしても賞品はなしだぞ」
なんだかみそっかすのような扱いだけれども・・・出られりゃーいいやと・・・
「はい、勿論です」と答えてしまう私。
すると親父さん、何を思ったか、
「そのリヤカーのまんま、ちょっとこっち来て」ってテントの方を指差す。
「はぁ~」何がなんだか分からない私達は言われるがまま原付リヤカーとパッソーラでそちらに向かう。
 先に行って関係者みたいな人達となにやら話し込んでいた親父さんの所に行くと・・・やんやの喝采と薄ら笑いを浮かべたおっさん達に囲まれた。そして口々に・・・
「よく来たもんだ」だの、「おいおい、マジかよぉ、道交法違反じゃね~の」とか勝手な事を抜かしてる。
 そんな好奇の目に晒されながらも・・・ちょっと得意げになっていたのは・・・言うまでもない・・・

 あっという間に私が出る事になっているスペシャル50の時間がやってきた。親父さんは拡声器を使って呼び出しやルールの説明をしながら、私の事も紹介してくれたのは言うまでもない・・・ところで私の友人のマーチはと言うと、あまりの反響の大きさに怖気づき・・・てな冗談で自分のGRのセッティングが出ず、出場を辞退してしまっているのであった。
 コースに意気揚揚と私は出て行き、またまたあちらこちらから・・・
「あの子だよ、リヤカー引っ張って来たのは」とか・・・
「おめぇ~なんぞにはゼッテー負けないぜ」ってな顔に書いてあるような敵のレーサーの視線も見事に跳ね返し・・・工事中の道路で使う2つ目信号機が置かれたッスターティンググリッドに、愛車RZ50改を押してゆく。
 タコメーターしかないメーターには、
「絶対にこの範囲から針を出すなよ、下はスカスカ、上にいったら間違えなく焼き付くから」ってマーチに言われたガムテープが貼ってある。ただそれは10000回転から11500回転の幅しかなく、
「ケニーロバーツでなきゃ~そんなんは無理ジャン」って呟いてしまった・・・・・

 スターターがフラッグを持っていそいそと登場して・・・私の緊張は頂点に達する。しかし、それはとても心地よく、完全な静寂のなか心臓の鼓動しか聞こえなくなる。前ブレーキを掛け車体を前後に揺すりながら・・・信号機だけを見詰める・・・プツプツプーと聞こえたように思ったのは私の空耳であろう・・・なんてったって2つ目信号機なのだから・・・単車を思いっきり前方に押し出し4歩5歩と走り出す。クラッチを切った瞬間にヒラリと単車に跨り・・・パッパッパァ~ンと自家製のスーパーモンキーのコピーチャンバーから2サイクル独特の甲高い排気音が破裂する。
 絶妙の、これ以上ないと、自分では思えるスタートだった。19台いるなかで19番手スタートの私は4台くらいの単車をかわし、14~5番手に付けた。
「くふ~ゼッコーチョー」思わず叫び声を上げていた。1コーナーを抜け2コーナー、そこから・・・確かS字だったように思う、そして短い直線、目まぐるしいほどのシフトチェンジを繰り返して・・・全開・・・すると・・・「なんじゃ~こりゃ~」突然、黄色いウレタンマットが目の前に飛び出して来た。止まれるはずもなく、真正面から・・・突っ込む・・・ボヨヨヨヨヨ~ン、身体は前に投げ出され単車ははじき返された。あとで聞いたら予選の前に急遽設置された物らしく事前に貰っていたコース図には影も形もなかったものだ。
 私以外はなんなくそこをクリアーし脇を抜けて行く・・・
「上等だよ・・・」すぐさま単車に駆け寄り起こす、ウレタンだった為に大した損傷も車体にはなく、セパハンの右側が少~し中に入ったくらいだ。ダダダダダダッダダ~ダライディングハ~イ・・・曲も流れた、サイドの押し掛け、すぐさまエンジンは息を吹き返す。猛然とダッシュをかけて、はるか彼方に消え行くマシンどもを追いかける・・・1周目、最下位。
 2周目に入りなんとか最後方のそのまた後ろに追いつき、最終コーナーを抜ける・・・その時前のマシンに追いつき、抜き去ろうとした瞬間・・・タコメーターの針がない~・・・・・カァ~ンと異様な音を残してエンジンがシャカった。
「燃え尽きたよ・・・真っ白にね・・・」
私は突然、北野晶夫から矢吹丈になってしまった。
 
 この日のレース結果・・・7時間半かけてレースに出て・・・1周と3/4リタイヤ。まぁでも、この結果には大変満足していた。
 しかし本当の地獄はここから始まるのだった・・・・・後編に続く・・・
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