京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

やすらい祭と花供養

2020-05-05 06:09:09 | 歳時記・文化・芸術
今日5月5日は「こどもの日」で祝日、そして五節供のひとつ「端午」で、今年は二十四節気のひとつ「立夏」でもありますね。でも今日の話題はそのどれでもなく、過去の写真データを整理していたら、4年前に撮影した「花」にまつわる祭事の写真が出てきました。それが今回のタイトルの祭事です。でも、2つとも5月ではなく毎年4月に行われる祭事なのでどうしようかなと思いましたが、せっかくですので紹介いたします。

毎年4月の第二日曜日に、京都市北区の今宮神社や玄武神社では「やすらい祭」が行われます。もともとは陰暦3月10日に行われていましたが、明治時代の改暦以後は4月10日になり、その後は4月の第二日曜日になりました。いわゆる「鎮花祭」のことで「花鎮め」とも呼ばれ、美しい花で疫病をおびき寄せて封じ込める疫病退散の祭事です。文献には「安良居」や「夜須礼」と記され、有名な「鞍馬の火祭」と「太秦の牛祭」とともに京の三大奇祭のひとつに数えられています。

祭事は、長老を先頭に旗や鉾に続いて赤や黒の熊毛をつけた「小鬼」「大鬼」が鉦や太鼓を打ち鳴らし、そのうしろに囃し方を従えた行列が氏子地域を練り歩くことから始まります。





この行列も異彩といえば異彩なのですが、ひときわ異彩を放ち、祭の中心となるのがこちらの「花傘」です。



この花傘は「風流傘」とも呼ばれ、直径六尺の大傘に緋色の帽額(もこう)をかけ、上部に若松・桜・柳・山吹・椿などの春の花を挿して飾ります。飾った花で疫病をおびき寄せて傘の内に封じ込めるというわけです。そのため、この傘に入ると疫病を落とすことができ、一年間は無病息災でいられるといわれます。さらに、やすらい祭までに生まれた赤ちゃんを抱っこして傘の内に入れば、その赤ちゃんは一生健やかに過ごせるとも伝わります。



祭礼は今宮神社(今宮やすらい)と玄武神社(玄武やすらい)の他に川上大神宮(川上やすらい)と上賀茂(上賀茂やすらい)の四地区で行われます。ただし、上賀茂は近代までは今宮神社と同日でしたが、現在は4月ではなく葵祭の『路頭の儀』と同日(5月15日)に行われます。

また、よく知られている今宮神社と玄武神社ではその発祥にも違いがあります。今宮神社は一条天皇の御代である正暦5(994)年に、もともと社地に祀られていた疫社(この疫社に対して新しい社であることが今宮神社の社名の由来)の神様を齋い(いわい)込めた二基の神輿を船岡山に安置した「紫野御霊会」に端を発するのに対し、玄武神社は康保2(965)年に起こった大水害後の疫病の退散のため、大和国(奈良県)の大神神社とその摂社の狭井神社で行われる「鎮花祭」を玄武神社で行うよう村上天皇の勅命によるものとされています。余談ながら、この「紫野御霊会」と同じように神泉苑で行われたのが、祇園祭の発祥となる「祇園御霊会」です。

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今宮神社のやすらい祭の行列は氏子地域を練り歩いた後、封じ込めた疫病を祓うため夕方に今宮神社に戻ります。また、川上大神宮のやすらい祭も川上大神宮を出て氏子地域を練り歩き、途中に總神社へ立ち寄ってから最後は今宮神社に向かいます。それぞれの行列は本殿に拝礼したのちに拝殿横の境内地で小鬼や大鬼たちが囃し方の音色に合わせて踊ります。







こちらも異様といえば異様ですが、見応えありです。今年のやすらい祭は新型コロナウイルスの影響で、神社内で鎮疫神事のみとなりました。例年ですと今日5月5日は今宮祭の神幸祭で、鷹峯・大宮・安居院(あぐい)地区の三基の神輿が氏子地域を回りますが、今年は神社内での神事だけかもしれませんね。

花傘の写真だけですが、少しでも御利益があるかと思い、皆さんに新型コロナウイルスの影響が出ないようお祈り申し上げます。

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さて、こちらも毎年4月の第二日曜日に行われる祭事ですが、今宮神社や玄武神社の北西部にあたる「鷹峯」の常照寺では「花供養」が行われます。花は花でも植物ではなく華やかな「太夫道中」です。と言っても、俗っぽいものではありません。

鷹峯と聞くと本阿弥光悦が徳川家康より拝領して築いた「芸術村」のほうがよく知られているかもしれませんね。じつは鷹峯は京の七口のひとつである「長坂口」にあたり、中世には「長坂口紺灰座」という藍染(紺染)の媒染剤に用いる栗の木灰を取り扱う商人集団がいました。その末裔にあたる灰屋紹益が関白の近衛信尋と争って身請けしたのが「天下随一の太夫」と呼ばれた島原の花魁である二代目吉野太夫です。この吉野太夫が常照寺の住職の日乾上人に帰依し、朱塗りの三門を寄進したことから彼女の遺徳を偲んで行われるのがこの「花供養」です。

太夫道中は、島原で現役の3人の太夫さんが、源光庵から常照寺までの数百メートルを練り歩きます。





三枚歯の高下駄を履き、いわゆる「内八文字」と呼ばれる歩き方です。京都島原では「内八文字」ですが、江戸吉原で広まった「外八文字」は下駄の裏を見せる歩き方なので肩貸しの男衆がいますよね。外八文字は習得するのに最低3年は掛かるとのこと。



3人目の太夫さんは後ろ姿で。襟足も艶っぽい?



道中を練り歩いた後は常照寺本堂で太夫さんによる献花や、舞や演奏の奉納が行われ、境内に設けられた野点席で太夫さんがお抹茶を振るまわれます。太夫は、美貌だけでなくそれ以上に教養も兼ね備えていなければなれない地位でしたので、舞や音曲だけでなく茶や花、詩歌などの素養も求められました。

常照寺の「花供養」は写真だけ見ると「園芸」ではなく「艶芸」だと言われそうですが、やすらい祭ともに生活に根づいた花や植物とも関わりのある、京都の春の風物詩、歳事です。今年の花供養は秋の11月15日に延期となりましたが、その頃には新型コロナウイルスも落ち着いて、行うことができるようになりますように。

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2 コメント

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楽しめました。 (和田浦海岸)
2020-05-05 15:54:25
こんにちは。
まるで『子供の日』の
お祝いの、おすそ分けをして
いただいたような楽しい気分で
見させていただきました。
さっそく、プリントアウトして
あとでまた、読ませていただきます。

ありがとうございました。
返信する
ありがとうございます (京都園芸倶楽部)
2020-05-05 16:26:46
和田浦海岸様、いつもコメントをありがとうございます。

1か月遅れの京都の春の歳時の紹介になりましたが、やすらい祭の主役は花傘と子供たちなので、こどもの日らしい記事だったのかと、いま気づきました。

花供養のほうは、やすらい祭と同日に行われる行事なのでおまけで紹介しましたが、春の花と美しい太夫さんの共演に、春の陽気にもあてられて、見とれてしまいます。
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