北海道立釧路芸術館

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最終回;ようこそ「ビーズのはなやぎ・刺繍の美」展へ❺

2021年01月10日 16時05分16秒 | 日記

【 最終回;ようこそ「ビーズのはなやぎ・刺繍の美」展へ❺ 】



いよいよ展覧会の最後の部屋へ。はじめは、ロシアのサハ共和国を中心に暮らすサハの人びとの作品です。



人間の居住域としては、世界で最も寒いサハ共和国。毛皮を豊富に用いた服飾品は、華やかなデザインや装飾におおわれています。カラフルで豪奢なビーズ飾りがあしらわれ、とても贅沢な雰囲気です。





文様では、S字状の巻軸形や十字形を組み合わせたパターンがみられます。刺繍の色づかいも明るく鮮やかです。




〈馬の飾り布〉にも、伝統の民族文様が刺繍されています。サハ共和国の中央部では馬や牛の牧畜が生業とされ、とくに馬は共和国の紋章にも描かれるなど、人びとと密接な関わりがあります。立派な飾り布からも、サハの人びとが馬を大切に思う心が伝わってくるようです。





つづいて、モンゴルのバヤン・ウルギー県に暮らすカザフの人びとによる作品をご紹介します。みどころは大きな〈布製壁かけ〉の数々。横幅2メートル以上もあるほぼ全面に、かぎ針刺繍によってさまざまな模様がほどこされています。




上の写真の作品で、円形の内外を構成する曲線的な文様は「羊の角」がモチーフになっているといいます。また、上の写真の中央にみられる「蕾」や「花」、円を描く縞模様の線は「まだらな虫」・・・といったふうに、具体的な呼び名のついた図柄が組み合わされているのです。



丹念に紡がれた壁かけは、外気や砂埃から室内を守るため、住居の内壁に何枚もかけられます。フェルト製のマットも床に敷かれます。カザフ刺繍で空間全体が覆われるイメージです。
室内を美しく飾ることはカザフの女性たちの大切な役割とされます。刺繍はカザフの装飾文化を象徴する技術であり、家族の幸せが永遠につづくことを願う表現でもあるといえるでしょう。





展覧会最後のセクションでは、スカンジナビア半島北部を中心に暮らすサミの人びとの作品をご紹介します。




サミの人びとはすず(錫)を素材とした手工芸を得意としてきました。すず糸刺繍による作品とともに、刺繍用のすず糸をつくるためのトナカイ角製道具もあわせて展示しています。



精緻な手技によって、金属特有の硬質な輝きや張りのある質感が引き出されています。有機的な曲線模様は、うごめくような生命感も感じさせてくれます。






フィンランドのスコルトサミタイプと呼ばれるスタイルの衣服、服飾品には、装飾にビーズが用いられます。どこまでも緻密な表現はすず糸刺繍と通じ合うところがあります。
サミの人びとは、自然を描写する語彙をゆたかにもつといいます。そうした自然を語る優しく、鋭敏な感性や表現力は、その手仕事にも息づいているように感じられます。



日用品や儀式の用具としての用途をもちながら、民族によって異なる技と表現によって装飾された品々。私たちをゆたかな気持ちにさせてくれるのは、こうした手仕事の数々が、北方の自然と光のなかで生きる人びとの丁寧な暮らしの縮図であり、根源的な美を宿しているからなのかもしれません。みなさまはいかが感じられるでしょうか。

シリーズの最後までおつきあいくださり、大変ありがとうございました。「紡ぐ心と暮らし ビーズのはなやぎ・刺繍の美~北海道立北方民族博物館コレクション」展は1/20(水)までご覧いただけます。(北海道立釧路芸術館/藤原乃里子)
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