北海道立釧路芸術館

北海道立釧路芸術館のブログです。北海道釧路からさまざまな情報をお届けします。

「厚岸・国泰寺の200年」展を終えて

2022年12月21日 10時29分53秒 | 日記

 

釧路芸術館では2022年9月17日~11月23日にかけて「祈りの造形(かたち) 地域の記憶 厚岸・国泰寺の200年」展を開催しました。

ご来場いただいた皆様、SNSなどで情報をチェックしてくださった皆様、ありがとうございました。

このブログでは裏話も交えながら展覧会のご報告をいたします。

 

■国泰寺って?

釧路から車でおよそ1時間。厚岸町にある景運山国泰寺は、道東でもっとも古い寺院です。

文化元(1804)年、江戸幕府は蝦夷地に寺院を建立することを決めました。

当時の蝦夷地には、本州から多くの人が移り住んでいましたが、亡くなった人を弔うお寺が無かったのです。

故郷から遠く離れた寒い大地で、万一病気や事故で亡くなっても、お経をあげてくれるお坊さんがいなくて、

ちゃんとしたお墓にもいれてもらえないかも・・・と思うと、当時の人々はかなり心細かったのではないでしょうか。

そこで、有珠の善光寺、様似の等澍院(とうじゅいん)、そして厚岸の国泰寺(通称、蝦夷三官寺)が建立され、

幕府の命を受けた僧侶たちが、遠い北国の寺院を目指したのです。

 

国泰寺には、歴代の住職らが書いた寺務日誌『日鑑記』のほか、

江戸時代の仏像、頂相(肖像彫刻)、工芸品、経典などが伝わっています。

昭和48(1973)年には国泰寺跡が国の史跡に指定され、

そして平成17(2005)年には「蝦夷三官寺国泰寺関係資料」として、

『日鑑記』をはじめとする資料が国の重要文化財に指定されました。

2018年には蝦夷三官寺が北海道遺産に選定され、近年ますます注目を集めています。

 

北海道に伝来する仏像、仏画などの作例は、本州以南にくらべると決して多くありません。

また、美術史において仏像といえば鎌倉時代以前のものが有名で、江戸時代の作例はなじみが薄いかもしれません。

そんな印象を覆すかのような作品が、厚岸、国泰寺には多数伝わっています。

江戸時代の仏教美術、道東(ここ)にあり!という思いで展覧会を企画しました。

 

 

■展示構成

本展は第1章「厚岸への道のり」、第2章「祈りのよすが」、第3章「近現代の国泰寺」の3章構成としました。

第1章では厚岸や厚岸近郊の古地図などを展示。国泰寺赴任の命を受けた歴代の住職らが厚岸にたどり着くまで、

いかに長い旅をしたか、ご想像いただきました。

 

第2章では、国泰寺に集う人々が信仰の拠り所とした、初代住職の肖像彫刻、仏画、仏具などを展示しました。

 

『日鑑記』もこの章で展示。厚岸を中心とする道東の動向を知ることができる、貴重な資料です。

 

第3章では、明治期以降に国泰寺に寄贈された仏画や、関係資料を展示。

 

全15幅の六道絵(国泰寺では「往生要図」として所蔵)の迫力ある地獄の表現に見入る方も多かったです。

 

■重要文化財を展示する

10月24日に開館24年目を迎えた当館は、開館してから初めて、国の重要文化財を展示することとなりました。

重要文化財を展示するためには、報告書を作成し、当館が貴重な文化財を展示可能な施設であると文化庁から承認をもらう必要があります。

建物や輸送方法、展示方法は安全か、展示空間の温湿度管理は一定か、

空気環境中に有害物質はないか、取り扱いの技術指導者は誰か、etc・・・・・・。

様々な条件をクリアして無事に承認がおり、展覧会を開催することができました。

重要文化財の公開に伴ういくつもの条件、詳しく知りたい方は、ぜひ文化庁や文化財活用センターのサイトを検索してみてください。

 

■図録をつくる

本展は図録を作成し、出品作品をフルカラーで記録に残すことができました。

5月某日、厚岸町にて行った展示作品の写真撮影。丸2日をかけて、約70件の作品を撮影しました。

 

販売分の図録は完売しましたが(お求めいただいた皆様、ありがとうございます)、当館の閲覧コーナーでいつでもお読みいただけます。

 

 

■関連事業

○厚岸かぐら上演会

厚岸かぐらは、江戸時代末期、南部地方から厚岸に渡った漁師たちが舞っていた神楽に、

アイヌの人々の踊りが融合したもので『日鑑記』にも記録されています。

展覧会開幕日の9月17日、厚岸かぐら同好会・厚岸かぐら少年団の皆様に「厚岸かぐら」をご披露いただきました。

目の前で繰り出される気迫に満ちた演舞に釘付けになりました。

↑「剣舞」という演舞。かつては本物の刀を使っていたそうです・・・!

 

○クローズアップ・トーク

展覧会全体を解説する「ギャラリー・ツアー」とは別に、

1つの作品を「クローズアップ」して解説するという趣旨で開催しました。

蠣崎波響〈御味方蝦夷之図 イコトイ〉(函館市中央図書館蔵)、〈文翁和尚坐像〉(国泰寺蔵)、〈仏涅槃図〉(国泰寺蔵)について、

「ギャラリー・ツアー」では踏み込みきれない話題も交えながらお話しさせていただきました。

 

○国泰寺まるわかり!バスツアー

 

 

本展を観覧後、芸術館を飛び出して厚岸へ!

道中は厚岸町海事記念館学芸員のガイドで、車窓から見える風景や厚岸町の基礎知識を解説してもらいました。

道の駅「コンキリエ」で腹ごしらえをした後、厚岸町海事記念館、厚岸町郷土館、

そしてもちろん国泰寺を巡り、厚岸の自然環境や歴史を肌で感じた1日となりました。

 

 

■おわりに

本展のために厚岸町からお借りした作品は、国泰寺で大切にご所蔵されていたり、

厚岸町海事記念館・郷土館などの博物館施設で展示されていた作品です。

今回、お寺とも博物館とも異なる、美術館という施設で展示をするにあたり、

作品のもつ「造形のうつくしさ」、ひいては「込められた思いのうつくしさ」に迫りたいという気持ちで展覧会を構成しました。

地域の文化施設と連携を深めていくことで、地域の文化財にスポットを当てる新たな展覧会のアイデアがこれからも生まれてきそうです。

 

展覧会のもようを収めた動画をYouTubeで公開しています。ぜひご覧ください!

 

 

 

 

12月17日からは、当館のコレクションによる展覧会「アートに耳をかたむけて」展、

2021年に逝去した釧路出身の彫刻家・中江紀洋の作品をご覧いただく「追悼 彫刻家・中江紀洋」展を開催しております。

4月9日(日)まで。こちらにもぜひ足をお運びください。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 5月&6月の芸術館のイベン... | トップ | 2023(令和5)年度は、開館25... »
最新の画像もっと見る

日記」カテゴリの最新記事