北海道立釧路芸術館

北海道立釧路芸術館のブログです。北海道釧路からさまざまな情報をお届けします。

【展覧会出品作品紹介 その3】日本画家・岩橋英遠がみた天と地

2024年12月12日 16時03分15秒 | 日記

 釧路芸術館で2024年12月8日まで開催された特別展「自然へのまなざし 天と地と」は、当館の作品収集方針の一つである、自然にまつわる美術作品を中心に、身近な大地の描写から、自然を様々な文脈で象徴化した表現まで、多様な作品をご紹介するものとなりました。  

橋英遠〈彩雲〉 1979(昭和54)年 北海道立釧路芸術館蔵

   岩橋英遠(1903―99)の〈彩雲〉は、当館コレクションを代表する作品の一つです。 彩雲とは、太陽が大きな雲の背後に隠れた時、太陽光が水蒸気で屈折し雲の周りが虹のように輝く気象現象のことを指します。作者は雲の描写について、以下のように語っています。

――どんどん変化していって結局消えてしまう雲なんです。他に雲がなくてポカンと浮いているんですが、あの雲を考えて描いたら描けないですよ、どうにでも描けるんですから。写生だからこそ描けたんです。 「岩橋英遠 風土と自作を語る」より 『三彩』414 1982(昭和57)年3月  

    画面上にあらわれた、大空の劇的な一瞬のドラマと荘厳な光景は、作者が日頃から光や空、雲のイメージに注目し続け、自然への深い敬意を常にもっていたからこそ描き得たことがうかがえます。 〈虹輪〉も、天空で眼にした劇的な一瞬を捉えた作品でした。

 岩橋英遠〈虹輪(極圏を飛ぶ)〉 1982(昭和57)年 北海道立近代美術館蔵

    氷塊の漂う海面の上に、光輪と呼ばれる円形の虹が浮かんでいます。光輪はブロッケン現象とも呼ばれ、霧や水滴を通って散乱した日光が、虹状の光の輪を作る現象です。この現象は山や飛行機など高所で目にすることができます。

 画面は上下の空間的な広がりを強調した構図で、虹輪が繊細な色彩の諧調であらわされました。 この作品は、作者が北極海上空を飛ぶ飛行機の窓から目にした光景に着想を得て、円形の虹を見下ろす視点で描かれています。

 こうした視点は、旅客機での移動が普及した20世紀後半になり、ようやく多くの人々が目にすることが可能になった眺めです。科学技術の発達により、人類は視覚と視野を大きく広げましたが、この作品は、北極の上空で体験した視覚を単なる現代的な景色として描いたものではなく、日常の次元を超えた自然界の深遠な神秘として表現されています。虹の描写への探究について作者は以下のように述べました。

――ようやく網膜に写ることと見たこととは全く別なのだと解ったように思う。有縁とは自分にそれを識る用意があったと言う事であろう。ブロッケン現象だけでなく虹は一人一人のもので、人は自分の虹しか見る事ができない。「虹」より『第三回日本画の十人展』図録 山種美術館 1978(昭和53)年

 個人的な視覚体験を描写し、普遍的な表現として多くの人に伝えることについての、画家の覚悟を伺い知ることができる言葉です。  天空のドラマを描いた作品に加えて、この展覧会では英遠が大地のドラマを描いた作品も出品されました。〈誌(一) 〉、〈誌(二) 〉は有珠山の噴火を描いたものです。  

  岩橋英遠〈誌(一) 〉、〈誌(二) 〉 1982(昭和57)年 北海道立近代美術館蔵

 有珠山は北海道、洞爺湖畔の南麓にそびえる活火山で、1977(昭和52)年に噴火し周辺地域に被害をもたらしました。二つの画面では噴煙や溶岩と閃光が観る者に迫るかのように描かれています。山体よりもむしろ噴火現象自体がクローズアップされ、まさにその場に立ち会うような視点と構図で自然の神秘と猛威が表現されています。 

 この山はこの23年後の2000(平成12)年にも再び噴火しましたが、恐ろしい災害の源であると同時に北海道有数の温泉地を形成するという恩恵ももたらしています。噴火を正面から見据える視点は、画家のまなざしのみならず、火山活動の産物を観光資源として火山と共生を続ける、地域の人々の視点を連想させます。

 日本画家・岩橋英遠は北海道の江部乙(現・滝川市)生まれ。尋常高等小学校高等科卒業後、農業に従事しながら油彩画を描き始め1924年に画家を目指し上京、日本画家の山内多門に学び、後に安田靫彦に師事しました。34年、日本美術院展(院展)初入選(53年院展同人)し、戦前は前衛表現に取り組み戦後は自然の神秘を独自の感性でとらえた、花烏風月の枠を超えた壮大なスケールの作品により評価を受け、94年には文化勲章を受章しました。


【展覧会出品作品紹介 その2】 道東の大地を撮る視点

2024年12月05日 13時27分50秒 | 日記

 

   釧路芸術館で2024年12月8日まで開催中の特別展「自然へのまなざし 天と地と」の出品作品には、釧路周辺の地を被写体にした写真作品も出品されました。日本を代表する自然写真家の一人であり、釧路管内弟子屈町を拠点に活動を続ける水越武(1938年生)にとって、写真は自然界の生態系を記述し表現する手段です。

左 水越 武 〈水の回廊・日本列島〉より 凍結した森、阿寒 1987(昭和62)年 北海道立釧路芸術館蔵

右 水越 武 〈水の回廊・日本列島〉より 雄阿寒岳山麓の針葉樹林、阿寒 1997(平成9)年 北海道立釧路芸術館蔵

 

 雄阿寒岳周辺には、日本でも数少ない針葉樹主体の原生林が存在し、冬の晴れた日には、森林一帯が静寂に包まれるといいます。作者は、1980年代から日本の原生林に強い関心を向け、撮影を続けてきました。画面には俯瞰する視点で一面にエゾマツ・トドマツの植生が広がり、この地域の森の特徴的な姿があらわれています。整然と並ぶ木々の姿からは、自然が本来有するリズムと緊張感が伝わりますが、これらは作者が考える美しい自然の条件の一つであるといいます。日本と世界各地の原生林を取材した写真家だからこそ見出すことができた、地元の特徴的な景観でした。

 愛知県豊橋市出身の水越武は、幼少の頃から山岳に親しむ環境に育ち、27歳の時に日本の山岳写真のパイオニアであった田淵行男に師事しました。日本列島のみならず、世界の高峰や原生林など、人の手の加わっていない原生の自然を題材に写真作品を発表し、1999年には写真集『森林列島』で第18回土門拳賞を受賞しました。

 写真による地域の記録とその表現には、自然誌以外の視点も存在します。写真家・露口啓二(1950年生)の写真は、中標津町計根別の光景をとらえた作品です。

露口啓二〈地名 計根別〉/Kenebetsu/kene-ka〈pet〉(ハンの木・の上手〈の川〉=”Han” trees growing thick together 〈of a river〉)左:2003(平成15)年 右:2002(平成14)年  北海道立近代美術館蔵

 

 計根別(けねべつ)は、アイヌ語で(ハンノキ・の上手〈の川〉)を意味することばが語源といわれます。ハンノキは衣服の染料の材料となり、アイヌの人々の暮らしに重要な植物でした。幕末の探検家、松浦武四郎もこの地域にはハンノキ(ケネ)に関係する地名が点在すると記しています。この写真でも語源どおり川辺にハンノキの茂みがみられます。しかし、川には看板が打ち捨てられ、隣り合う整地された農地と対照的な荒れた光景からは、ハンノキから染料をとり川でサケ漁を行う先住民の文化から遠く離れてしまった現代の社会の姿を見ることができます。これらの写真を読み取ることは、風景に潜む歴史に注目し平凡な光景の中から過去の人々の「語られない声」、「語りえない声」に耳を傾ける行為といえるでしょう。また、二人の写真家がそれぞれ撮影した光景は、原生の自然と人手の加わった場所の自然景観について、意外な様相を教えてくれます。

 露口啓二は徳島県生まれ。中央大学を卒業後、1976年に札幌へ移住し45年間、広告やデザイン業界のカメラマンとして活動しました。1981年から自身の作品の発表をはじめます。1990年代からは土地の歴史の痕跡を主題にした「地名」シリ-ズを制作し、個展の開催や国内外での現代写真の企画展への出品、写真集の刊行を続け評価を重ねています。


【展覧会出品作品紹介】身近な自然へのまなざし―羽生輝と中江紀洋

2024年12月03日 17時45分52秒 | 日記

釧路芸術館では特別展「自然へのまなざし 天と地と」を12月8日まで開催中です。本展は当館の作品収集方針である自然に関連した美術作品を中心に、身近な大地の描写から自然を様々な文脈で象徴化した表現に至るまで、コレクションをご紹介するものとなりました。

さて、釧路に立地するミュージアムの展覧会ですので、身近な自然景観を描写した作品もご覧になれます。釧路に拠点を置き、北海道を代表する日本画家である羽生輝(1941年生)の〈北の浜辺(床丹) 〉は別海町の海辺の集落を題材にした作品です。

羽生輝〈北の浜辺(床丹) 〉 1999(平成11)年  北海道立釧路芸術館蔵

 

 凍てつく冬空に冷たく輝く満月に照らされた海沿いの集落には、吹き付けた雪が張り付き、肩を寄せ合うように家々が密集して描かれています。家屋の窓に小さく漏れる光は、かすかな温もりを感じさせる色調で描かれ、この地で力強く生き抜く人々の姿を暗示します。極寒の夜空の威圧的な存在感は、同時に過酷な環境に暮らす人々の芯の強さを強調する効果をもたらしました。この作品のように、羽生輝の作品は道東一体の海辺の光景を題材に、時にはそこで暮らした人々の粘り強さを感じさせる描写が特徴です。

 ところで、釧路地域を代表する自然景観としてまず挙げられるのは釧路湿原でありましょう。ところが、画家が釧路湿原の光景を本格的に描くようになったのは60代の半ばを過ぎてからのことでした。作品〈冬日(悠々釧路湿原)〉では、湿原と雲は同じ色調が用いられ、地平線は控えめに描かれています。

羽生輝〈冬日(悠々釧路湿原)〉 2015(平成27)年  北海道立釧路芸術館蔵

  この作品では、天地の境界を意図的に曖昧にすることで、蛇行する川筋と冬枯れの湿原の広がる荒涼とした大地の存在感が強調されています。同時に夕景のまばゆい色彩に染められた空と大地からは、冬の厳しさのみならず温もりも伝わり、作者の郷土への想いがうかがえます。このように、練り上げられた構図や筆致と色彩表現を特徴とする作品ですが、茫洋としてとらえどころのない湿原の光景を表現することは、画家にとって容易ならざる挑戦でありました。羽生輝が2010年代に釧路湿原の四季を描くことに挑んだ作品のうち、冬景色は当館に、秋景を描いた作品〈晩照(悠々釧路湿原) 〉は北海道立帯広美術館に収蔵されています。

 

  同じく釧路を拠点に、北海道を代表する彫刻家・立体造形作家として活躍した中江紀洋(1943-2021)が身近な自然に向き合った時期も、年齢を重ねて自身の表現を深めてからのことでした。作者が69歳の時に制作された〈けもの道への扉〉は、ステンレス板の土台の上に木彫を組み合わせた立体作品です。

中江紀洋〈けもの道への扉〉 2012(平成24)年  北海道立釧路芸術館蔵

   作者によると、横縞状に彫られた凹凸が並ぶ二つの板状の造形は扉や門をイメージするものであり、自然を破壊し続ける人間への警鐘と、扉を開くことによってもたらされる恐るべき運命を示唆しているといいます。扉状の板のすき間から姿を見せる量塊性を強調した木彫は、別世界から現れたものたちでありましょうか。

  中江紀洋は20代から、自身のルーツと重なる北海道入植者の苦闘の記憶や、古代の美術から現代までの歴史的事象を主題に抽象的な造形を発表し、歴史の中での人類の感性と知性に想いを馳せる表現をつくり続けてきました。彫刻家は渓流釣りを好み、自然に親しむ生活を送っていましたが、湿原をはじめとした身近な自然は畏怖の対象であり、簡単に作品の題材には出来ないものと考えていたといいます。

【参考】 中江紀洋〈回帰(終章)〉(部分) 2010(平成22)年  北海道立釧路芸術館蔵

中江紀洋は地域の自然の中で回遊する魚の群れを抽象化した造形も制作しました。

※本展未出品

   釧路に長年制作の拠点を置いて活動し、北海道を代表する美術作家になった二人は、地域を代表する自然を作品の題材とするにあたり、十分な時間をかけた末に取り組みました。

素材も表現も異なる二人がこの点で共通していることは、大変興味深く思われます。


【事業報告】自然へのまなざし ランチ&トーク開催しました。【食レポ?】

2024年11月24日 09時53分50秒 | 日記

 

 

 

釧路芸術館の人気事業「ランチ&トーク 大地のめぐみ」を11月7日(木)に開催しました。

展覧会を解説付きで楽しんだ後、地元素材をつかったフレンチのコースを

楽しんだイベントのようすを、少しご紹介します。

「自然へのまなざし」展解説

 

まずは、開催中の展覧会を「自然へのまなざし」「下沢敏也展」の両展を、

参加者の皆様が担当学芸員の解説付きで鑑賞。     

「下沢敏也展」解説          

「下沢敏也展」解説

 

45分間かけて解説付きで鑑賞した後、お待ちかねのランチタイム。

会場は釧路市内中心部に位置するレストラン、フランス料理「楡金」です。

 

フランス料理「楡金」

 

オーナーシェフの楡金久幸氏は、40年に渡りホテルの料理人として腕を振るい、

地場食材を活用した料理を創作されました。

独立して開業した「楡金」で地産地消のメニューをいただきます。

 

楡金シェフ自らメニューのご説明いただきました。

 

まずは前菜。

道産・人参のムースとコンソメジュレ

 

魚は釧路沖でとれたタラの料理です。

釧路沖・真鱈のブランダード 彩り野菜とともに

 

ポタージュの素材は釧路のカブ。お皿の緑も鮮やかです。

釧路町・白蕪のポタージュ 

 

メインの肉料理は阿寒のポーク。

付け合わせはマッシュポテトに似た見かけのエクラゼ。

風味豊かな一皿でした。

阿寒ポークフィレ肉のロースト 道産・キノコのクリームソース

根セロリと十勝・北あかりのエクラゼ

 

デザートはなんと豪華に二品

いずれも地場の食材をおいしくアレンジしてあります。

季節のフルーツと白ワインのジュレ

 

石井農園の南瓜のプリン、十勝・小豆煮、

厚岸・森高牛乳のアイスクリーム

芸術家の思いのこもった作品と地元の人達の熱意がこもった食材を味わう

貴重な一日となりました。

当館はこれからも、地域の皆さまに親しまれる事業を開催してまいります。

 


【芸術館秋まつりのご報告】

2024年09月18日 13時53分19秒 | 日記

9月14日(土)「芸術館秋まつり」を開催しました。

芸術館の両隣でおこなわれていた「釧路大漁どんぱく」に、当館も参加!

 

芸術館をゴールに近隣の3施設(MOO、MOO郵便局、国際交流センター)にスタンプと台紙を設置しました。4つのスタンプ全てを集めた方に、オリジナル缶バッジか折り紙セットをプレゼント!(缶バッジはMOOさん提供と当館のモノ)

芸術館夏まつりに続き近隣施設を含めたにぎわい創出に当館も役立てた・・・はずです!

 

例年好評の「パフォーミングシアター」ですが、なんと開催前日に1部の出演者の体調不良による中止が決定というアクシンデント勃発!

急遽「すみっコぐらし」アニメ上映会を開催しました。

当初予定のショーを楽しみにしてくださっていたお客様には申し訳ございませんでしたが、子供はもちろん大人のお客様にも好評で大きな混乱もなく2回上映を終えました。

 

そして!1回の公演予定を急遽2回公演してくださいました。

長谷川恒希さん(ひとり芝居役者)の「演歌歌手歌謡ショー」

芸術館前庭の芝生に降臨した、炊飯器を持ちながら歌う“徳永惠太”さま!

繰り出す数々のシュールネタ☆に大爆笑の客席でした。

 

当日は晴れて9月中旬なのに暑いくらいの快晴!

前庭のオープンガーデンではパラソルを設置したスペースで涼んでいたお客さんも多数いらっしゃいました!

 

前庭に設置されている彫刻作品ポポちゃん(アルナルド・ポモドーロ「球」)のクイズも実施しました。豆知識が付いて楽しいクイズ。夏まつりとはクイズの内容を変えてたんですよ~。気づいたお客さんいましたかね!?

 

夏まつりに続き当館のマスコットキャラクターももちゃんのパネルを映え撮影スポットとして用意しましたよ。

ももちゃんは当館のアイドルなので! 可愛さに間違いなし!! ドヤドヤっ☆

 

鴨居玲展観覧者に芸術館所蔵の本(古本)を無料で先着50名にプレゼントさせていただきました。

お宝ゲットされたお客様もいらしたのでは!?

 

また、この日はどなた様も鴨居玲展を100円引きの割引料金で観覧できました。

知らずにいらっしゃったお客様もいて大変好評でした。

 

文学館で開催中の【来釧した文豪たち「文豪とアルケミスト」も釧路に来た!!】より。

作業服姿の石川啄木イケメンパネルとスタンプラリーは相変わらず大人気。

10月20日(日)までは石川啄木パネルは常時いますよ!

お司書の皆様、釧路芸術館へぜひどうぞ☆

 

「芸術館夏まつり」に続き初開催の「芸術館秋まつり」でしたが天気にも恵まれ、たくさんのお客様が当館に足を運んでくださりました。

改めて、来館してくださったお客様。長谷川恒希さん。協力してくださった近隣施設の方々に感謝申し上げます。

 

来年も芸術館まつり。ある、かもね!?

お楽しみに~~!

 

イベント情報など詳しくは当館のHP、SNSをご覧ください。