今の家に住もうと思った理由は、いろいろあるのだけど、その中の一つにラーメン二郎関内店から近いということがある。そんなわけで、二郎から歩いて10分圏内に住んでおり、特に予定はしていなかったが、帰り道に気が向いたから二郎を食べて帰る、というようなことができるのだった。今日もふらっと関内二郎によって、小の汁なしを食べた。二郎の近くに住んでいることは素晴らしいことであると思うし、このあたりの不動産屋は賃貸情報にラーメン二郎関内店から徒歩何分とかそういう情報を入れればいいとも思うが、今回、何が言いたいかというと、やはりドヤ街だったりピンク街だったりが密集している関係なのか、予期せぬ場面や人に出くわすことが多いということだ。
そんなわけで、ラーメン二郎から帰途についている際に、違和感のある光景が目に入ってきたのだった。どんな違和感かというと、どうも街中に裸のオヤジがいるように思える。通りをはさんだ向かい側には警察署もあるし、もう暗い時間であったので、見間違いかとも思ったのだが、近づくにつれ、見間違いではなく、60歳前後の白髪のオヤジがパンツ一丁で煙草を吸っているのが明らかになったのだった。道行く人に、何かを見せつけたりとかそういう行動もしていないので、いわゆる露出狂の類ではないと思われた。挙動不審なところもなく、不動だにせず、堂々と煙草を吸っていた。堂々と、という言葉は使ったものの、腹は贅肉がたっぷりとついているせいかたるんでいて、どちらかというとだらしない類の腹だな、これは、とは思ったのだが。
いろいろなことを考えてしまう。男はなぜパンツ一丁で街中にいるのだろうかと、そして周りにいる人が誰も男のことを話題にしていないのが、とても気になった。
思考を続けている間、大学生らしき二人組の会話が耳に入ってくる。…やっぱりさ、お前はもっと”熱”を持たないとだめだよ、おれ、思うんだけど、”熱”持ってないやつの言葉ってさ、もう全然伝わってこないのよ、軽いっていうかさ。夏に向けてさ、モチベーションあげてけよ、スキルアップして次のステップだよ、次のステップに行くべきなんだよお前は…
まぁ正直言って何について話をしているのかがさっぱりだったのだが、なんとなく状況は読めてきた。銭湯が近くにあったので、これは、たぶん風呂に入ったあとの火照った身体を冷ますために夜風にあたっているだけなんだな、と思った。そうすると、男は必然的に銭湯に戻るはずであり、自分の予想があたっていることを確かめるためにもう少し、男の裸を見続けようと、そして大学生二人組の会話も集中して聞いてみようと思った。どうも先輩らしき方が後輩に対して説教をしているという内容らしい。
…だいたいさ、お前は”キャンセル”が多すぎるのがいけないよ、斎藤を参考にした方がいいぞ、あいつはちゃんと周りとコミュニケートして、コンセンサスを得てるから、お前ももっとこう、ぐわっと、”熱”をもってだな、俺、お前のことセンスは良いと思ってるよ、ただ足りないのは”熱”だよ。…
熱。隣の大学生についてはどうやら熱の話をしていることしか分からないのではあるが、まぁ一つ言えることは熱にもいろいろあってそれは人を動かす大きな力になるんだろう。例えば俺も、男が裸で道端に突っ立っている理由について、まさに熱のせいなんじゃないかと思っている。ただ、どうも妙なのはいくらなんでも裸でいる時間が長すぎることだ。そろそろ諦めて帰ろうかと思っていた頃に、男は動き出し、銭湯に戻るというわけではなく、その隣のコインランドリーに入っていったのだった。そして、乾燥機から洋服を取り出し、何事もなかったかのように、着衣をはじめた。
俺は大きな思い違いをしていた。そしてすべてを理解した。男はおそらく必要最小限の服しか持っていなくて、コインランドリーで洗濯をしている間に着る洋服がなかっただけなんだろう。それが必要に駆られてのことなのか、あえてそういうライフスタイルを選んでいるのかはわからないが。大学生二人組は相変わらず”熱”について浮かれたように話をしていて、男のことは気に留めようともしない。俺はよくわからない話のよくわからない"熱"のことよりも、男のことばかり考え続けていた。つまり少なくとも男はパンツは履いていたので、パンツだけは2着持っているのだろうか、とか。男がパンツを洗うとき、ついに丸裸になるのかもしれないが、それでもこの街の人たちは日常風景として気にも留めないのだろうか、とか。
そんなわけで、ラーメン二郎から帰途についている際に、違和感のある光景が目に入ってきたのだった。どんな違和感かというと、どうも街中に裸のオヤジがいるように思える。通りをはさんだ向かい側には警察署もあるし、もう暗い時間であったので、見間違いかとも思ったのだが、近づくにつれ、見間違いではなく、60歳前後の白髪のオヤジがパンツ一丁で煙草を吸っているのが明らかになったのだった。道行く人に、何かを見せつけたりとかそういう行動もしていないので、いわゆる露出狂の類ではないと思われた。挙動不審なところもなく、不動だにせず、堂々と煙草を吸っていた。堂々と、という言葉は使ったものの、腹は贅肉がたっぷりとついているせいかたるんでいて、どちらかというとだらしない類の腹だな、これは、とは思ったのだが。
いろいろなことを考えてしまう。男はなぜパンツ一丁で街中にいるのだろうかと、そして周りにいる人が誰も男のことを話題にしていないのが、とても気になった。
思考を続けている間、大学生らしき二人組の会話が耳に入ってくる。…やっぱりさ、お前はもっと”熱”を持たないとだめだよ、おれ、思うんだけど、”熱”持ってないやつの言葉ってさ、もう全然伝わってこないのよ、軽いっていうかさ。夏に向けてさ、モチベーションあげてけよ、スキルアップして次のステップだよ、次のステップに行くべきなんだよお前は…
まぁ正直言って何について話をしているのかがさっぱりだったのだが、なんとなく状況は読めてきた。銭湯が近くにあったので、これは、たぶん風呂に入ったあとの火照った身体を冷ますために夜風にあたっているだけなんだな、と思った。そうすると、男は必然的に銭湯に戻るはずであり、自分の予想があたっていることを確かめるためにもう少し、男の裸を見続けようと、そして大学生二人組の会話も集中して聞いてみようと思った。どうも先輩らしき方が後輩に対して説教をしているという内容らしい。
…だいたいさ、お前は”キャンセル”が多すぎるのがいけないよ、斎藤を参考にした方がいいぞ、あいつはちゃんと周りとコミュニケートして、コンセンサスを得てるから、お前ももっとこう、ぐわっと、”熱”をもってだな、俺、お前のことセンスは良いと思ってるよ、ただ足りないのは”熱”だよ。…
熱。隣の大学生についてはどうやら熱の話をしていることしか分からないのではあるが、まぁ一つ言えることは熱にもいろいろあってそれは人を動かす大きな力になるんだろう。例えば俺も、男が裸で道端に突っ立っている理由について、まさに熱のせいなんじゃないかと思っている。ただ、どうも妙なのはいくらなんでも裸でいる時間が長すぎることだ。そろそろ諦めて帰ろうかと思っていた頃に、男は動き出し、銭湯に戻るというわけではなく、その隣のコインランドリーに入っていったのだった。そして、乾燥機から洋服を取り出し、何事もなかったかのように、着衣をはじめた。
俺は大きな思い違いをしていた。そしてすべてを理解した。男はおそらく必要最小限の服しか持っていなくて、コインランドリーで洗濯をしている間に着る洋服がなかっただけなんだろう。それが必要に駆られてのことなのか、あえてそういうライフスタイルを選んでいるのかはわからないが。大学生二人組は相変わらず”熱”について浮かれたように話をしていて、男のことは気に留めようともしない。俺はよくわからない話のよくわからない"熱"のことよりも、男のことばかり考え続けていた。つまり少なくとも男はパンツは履いていたので、パンツだけは2着持っているのだろうか、とか。男がパンツを洗うとき、ついに丸裸になるのかもしれないが、それでもこの街の人たちは日常風景として気にも留めないのだろうか、とか。