―ほしいものはにんげんのし―

2013-11-13 | うた

雪が降っていたんだ。あの日は。

3月も半ばなのに、雪が風に舞っていて

寒かったんだ。とても。

信号は真っ暗で、とても怖くて

信号の点いていない交差点を曲がるのは

とても怖くて

だって信号が真っ暗だったんだ。

いや、黒じゃなくて

薄暗い闇で

違う、そうじゃなくて、濃い灰色だったんだ。

信号が点いていなくて

あの日はとても怖くて

恐くて

独りで地面にしがみついて

恐くて

一人で恐怖を全て味わって、その後抱え込んで

今では怒りでしかない。

 

あの日は雪が降っていたんだ。

3月も半ばだというのに

雪が舞っていたんだ。

電柱は斜めに立っていた。

あの日は雪が舞っていて

信号は真っ暗だったんだ。

周囲の家々は誰も存在していないかのように

生きていないかのように

人などこの大地に存在しないかのように

それならばよかったのに

あの日は雪が降っていて

恐かったんだ。

寒くて

信号は真っ暗で

世界が壊れた風景をたぶん見たんだ。あの日。

世界が壊れると、ああなるんだ。

信号が真っ暗になるんだ。夕暮れに

信号は恐い灰色をしていた。

 

あの日は雪が降っていたんだ。

3月も半ばだったのに

誰も怒ってなどいなかったのに

とても怖かったんだ。

あの日は雪が舞っていて。