毒舌の日々

なかなか人前で言えないことをぶちまけます。

『女たちのシベリア抑留』 小柳ちひろ

2020-04-23 00:00:02 | 読書
『女たちのシベリア抑留』 小柳ちひろ
¥1,700+税 文藝春秋 2019/12/15発行
ISBN978-4-16-391143-4

シベリア抑留というと、『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん・著)を思い出す。
乏しい食料、凍える大地、過酷な労働。次々に倒れる同胞たち、凍てついた土地には遺体を埋めることもできない…。
そんなシベリアに、女性が抑留されていた。
千人近い、従軍看護婦や電話交換手などの民間女性。

> こうした女性たちの存在は、抑留者のごく一部の間では知られていたものの、社会の大きな関心を呼び起こすことはなかった。戦後、人々は何より生活を再建することに必死だった。抑留された男性たちについては、一家の稼ぎ手として早期帰国を求める様々な運動が起こったものの、女性たちについてそうした声が上がったという例はほとんどない。(205頁)


最終章では、村上秋子という一人の女性を取り上げている。
日本に帰ることなく、ロシアに骨を埋めた女性。
彼女が暮らしたハスィン村を本書の著者が訪ねたのは、彼女の死後21年たっていた。けれど村人たちは「アーニャおばあさん!」と嬉しそうに思い出話を聞かせてくれた。
日本よりロシアを選んだ村上秋子。日本に帰りたくなかったわけがない。怖かったのだろう、戦時中の働きを後ろ指さされるのではないかと。非難されるのではないかと。そして日本で働き口があるかどうか。暮らしていけるかどうか。生きていけるか。
過去の自分を知らないロシアの村で、生まれ変わって生きていく方が安心だったのだろうと想像できる。
日本は、少なくとも彼女にとって帰りたい祖国であると同時に、それ以上に帰国を躊躇わせる攻撃的な場所だったのだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿