毒舌の日々

なかなか人前で言えないことをぶちまけます。

『東京貧困女子。』 中村淳彦

2020-08-18 01:27:16 | 読書
『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』 中村淳彦
¥1,500+税 東洋経済新報社 2019/4/18発行
ISBN978-4-492-26113-2

本書のもとになるネット連載の一部を、読んだことがある。
ぞっとする。
自分が貧困に陥らずに済んでいるのは、些細な幸運に恵まれただけなのだろう。ほんの少しの運不運で、いちど足を踏み外したら、もう戻れない。
戻れない社会になってしまったというより、故意に作り上げたとしか思えない。本気で社会を変えようと思うなら、本気であれば、できないはずがない。
格差社会を、富者が貧者を利用し踏みつけにし搾取することで都合がいい社会を求めている者たちがいる。


>  介護福祉士という国家資格を持つ専門家が、行政の監視の下で手取り14万~16万程度の低賃金で労働させられて、「ご利用者様のありがとうが報酬です。高齢者様に感謝しましょうね。みんな、本当に素晴らしい仕事に就けてよかったですね」などといった信じられないロジックが正論として定着していた。
 どうして国家資格を持つ専門家が公的に定められたサービスを提供することで、相手に感謝しなければならないのか理解できなかったが、しばらくして業務を官から民に移管することで起こる格差や賃金の下落を、言葉で洗脳してごまかすためだとわかった。(9-10頁)


介護の仕事に就き、それをきっかけに貧困スパイラルに陥る事例も多い。
じっさい、どう考えてもビジネスモデルとして破綻してると思うんだけど。


>  たまたま転落することなく生き残った中流以上の人々は、離婚や養育費未払い、奨学金利用などの些細なきっかけで貧困に転落した人々に自己責任の暴言を浴びせかけ、これからもっと貧富、世代、男女で苛烈な分断がはじまる。(319頁)

>  日本は安全と安心ではなく、不安と恐怖を駆り立てることを推奨する社会になってしまった。
 現在は女性をターゲットに貧困化が進行しているが、彼女たちが絶望し、苦しむ姿を眺めさせて、誰かが「ああなりたくなければ、もっと生産性を高めろ」と駆りたてているのかもしれない。
 国民の誰かを転落させなければ国がやっていけないならば、どこかのタイミングで女性から中年男性にシフトチェンジするかもしれない。私自身、取材で出会った彼女たちと遠くない未来の自分の姿がダブって怖くなった。(335頁)

『感染地図』 スティーヴン・ジョンソン

2020-08-06 02:56:56 | 読書
『感染地図 歴史を変えた未知の病原体』 スティーヴン・ジョンソン(矢野真千子・訳)
¥2,600+税 河出書房新社 2007/12/30発行
ISBN978-4-309-25218-6

1854年8月、ロンドン。
ブロード・ストリートをコレラが襲った。
開業医ジョン・スノーは、病の原因を探るべく、探偵のように歩き回り、話を聞き回った。
副牧師のヘンリー・ホワイトヘッドは、普段からよく知る教区の人々から話を聞いた。
当時、病の原因は瘴気(悪臭)であると信じられていたが、スノーは水が感染源だと疑い、コレラにかかった住民が同じ井戸を利用していたことを突き止める。
スノーの立てた推論にはじめは懐疑的だったホワイトヘッドは、調べるほどに、スノーの説の正しさが理解できるようになる。ふたりは力を合わせ、現代に至るも評価の高い感染地図を作り上げた。

常識に惑わされず真実を見抜く力を持った天才、スノー。
自説に固執することなく柔軟に事実を認めるホワイトヘッド。

めっちゃおもしろかったです。

>  スノーとホワイトヘッドは[…]小さな、だが力強い貢献をした。二人は地元の謎を解決し、やがてはそれが世界中の解決になった。都市生活を、死人の山を生むものから持続可能なものに変えたのだ。そしてそこの解決を可能にしたのもまた、都会の中の人と人のつながりだった。経歴の違う見知らぬ者二人が、ご近所どうしだったというだけで交差し、大都会の路上で貴重な情報と技能を分かち合ったのだから。ブロード・ストリートのできごとは、もちろん疫学と科学的推論、情報デザインの勝利であるが、都市生活の勝利でもあった。(211頁)


>  ニュースを見聞きして暗い気持ちになったときには、むかしむかしロンドンのあるところに、無口な医者と世話好きな副牧師がいた、という話を思い出そう。そのころ、コレラは人の手には負えない天罰のような疫病で、世の中は迷信に支配されていた。でも、最後に勝ったのは理性の力だった。ポンプの柄は取り外された。地図は作られた。瘴気説は消えた。下水道は建設された。飲料水はきれいになった。この物語は、私たちに勇気と希望をあたえてくれる。[…]私たちはこれまでも、さまざまな危機に直面してきた。問題は、今後もそうした危機がやってきたときに大量の命を犠牲にすることなく対応できるかどうかだ。さあ、ぼやぼやしてはいられない。(265頁)

『本と虫は家の邪魔』 奥本大三郎

2020-07-16 23:33:19 | 読書
『本と虫は家の邪魔』 奥本大三郎
¥1,800+税 青土社 2018/11/15発行
ISBN978-4-7917-7112-7

対談集。錚々たるメンバーである。
アーサー・ビナード
ビートたけし
阿川佐和子
田辺聖子
長谷川眞理子
阿川弘之×北杜夫
鹿島茂
内田洋子
山極寿一
茂木健一郎
養老孟司


>  阿川佐和子:日本人は何でこんなに虫が好きなんでしょうか。
> 奥本:いい虫がたくさんいたから自然と好きになったんだろうと思いますね。それから、日本人の目は接写レンズ的なんですよ。日本の根付けとか印籠なんかの工芸品とか、現代では半導体って非常に精巧なつくりですよね。それは手先が器用なんじゃなくて、養老孟子さん式に言えば目を通して脳が細かいものを認識するからつくれる。(85頁)

> 鹿島茂:骨董の世界というのは、世界でこんなばかげた物を買うのは自分だけだろうと思っていると、必ずほかにもたくさんいるんですよ(笑)。(199頁)

> 山極寿一:ゴリラは家族的な集団しかもっていないし、サルは家族がなくて、より大きなコミュニティという集団しかもってないんです。そのどちらにも属し、複数のコミュニティを行き来し、演技をしながら役割を果たしているのが人間です。(226頁)


やっぱアーサー・ビナードと鹿島茂が好きだなー。

「あなたの人生、片づけます」 垣谷美雨

2020-07-05 07:06:13 | 読書
「あなたの人生、片づけます」 垣谷美雨
¥648+税 双葉社(双葉文庫) 2016/11/13発行
ISBN978-4-575-51945-7


「部屋を片付けられない人間は、心に問題がある」
片づけ屋、大庭十萬里が依頼を受けて汚部屋に赴く。そこにはいろんな人間が…。

しかし、第一話でOLが言ってるように、「単にずぼらな人はどうなる? 生まれ育った家庭環境によっては整理整頓の習慣がない人もいるのでは?」って思うよ、私も。
家庭環境で習慣が身につかなかったという人は、心に問題はなくてもこれも一つの問題ではあるので解決するに越したことはないけどね。

この本に登場する人たちは、金銭的には余裕がある。
新聞沙汰になるような、ごみを拾い集めてきて溜め込むゴミ屋敷とは次元が違う。あそこまでいくとシャレにならんから小説にできないのかも。

この本に出てくる4話の登場人物は皆、基本的に過去を見ていて未来を見てないので、未来を見るようにしてやれば現在を片付ける。
かんたんですね。
片づけようと思ってない人たちだから、片づけようと思わせればそれでヨシ。

いや、問題はね、片づけようと思ってるし日々掃除もしてるんだけど、なんか全体的に雑然としてて、でも使ってないものも特になくて捨てるに捨てられなくて、こういう部屋はどうしたらいいの!? って話ですよ。私のことですけど!


『究極の歩き方』 アシックススポーツ工学研究所

2020-06-30 11:09:43 | 読書
『究極の歩き方』 アシックススポーツ工学研究所
¥900+税 講談社(講談社現代新書) 2019/9/20発行
ISBN978-4-06-517433-3

私は外反母趾と偏平足で、自分ではよくわからないがどうやら内反小趾でもあり、にも関わらず趣味はウォーキングである。
玄関にはウォーキングシューズとランニングシューズだけが並んでいる。パンプスなぞ冠婚葬祭以外ではもう何年も履いていない。

数多のシューズメーカーの中で、私のお気に入りはアシックス。日本のメーカーだから、日本人の足に合うだろうか。ナイキやNBはどうもダメだった。リーボックはまあまあ。私個人の場合です。

お気に入りのアシックスが出した『究極の歩き方』。これは読まずばなるまい。

ショックだったのは、ランニングシューズとウォーキングシューズはぜんぜん違うから、ウォーキングする人はランニングシューズ履いちゃダメ、ってとこだった。え、だめなの!?
だってランニングシューズはバリエーションが豊かで、サイズとカラーと履き心地で選ぶと、どうしてもそっち流れるんだよ~。ウォーキングシューズは、なんだかんだ言ってまだ種類が少ない。少なくともそこらの町の店頭には。
しかし説明を読むと、なるほどなのだ。アーチが沈み込むようにする設計と、アーチを反発させる設計。真逆だ。

あと、最初から最後まで繰り返し言ってるのが「50歳を境目に意識を変える」。
靴も変える。歩き方も変わる。

> ラウンドの方は、お洒落だけど窮屈な靴を選んでも、あまり苦にならないことが多いのです。その結果、自分でも気づかないうちに、指先に負担をかけ続け、指先が「へ」の字状に曲がってしまいやすいのです。(49頁)

まさにこれ…!

> 手に利き手があるように、足にも利き足があるのです。[…]
> 左足のほうが偏平足や外反母趾になりやすいと考えられます。(54-55頁)

はい、私の外反母趾は左足。
つくづく、アシックスのデータ収集力はすごい。
そして私は平均ど真ん中らしい。

> この本はダイエットが目的というより、いつまでも元気に歩ける身体を作ることを目的にしています。脂肪を減らすというよりも、筋肉を増やしたい。そのためには、食前に歩いて、食事で筋肉の材料を補う必要があります。運動をした直後の身体は栄養を欲する状態になっていますから、効率よく筋肉をつけられます。(114頁)

食後に歩いていたが、そろそろ食前に歩く生活スタイルに変える頃合いか…。


> 歩数や速度、ストライドの大きさを測るなんて当たり前、かかとが左右に倒れこんでいないか、ちゃんと母趾球で蹴り出せているか、かかとの着地角度はOKか……そんなところまで教えてくれる靴が登場するのはそう遠くない未来だと思います。
> さらに言うなら、足を入れたとたん、その人の足形にピッタリ合うよう、自分で形を変える靴だって、いつかは登場するはずです。[…]
>  ただ、その日が来るまでは、自分で自分の足を守るしかない。(218-219頁)

すごい、夢のスマートシューズ。
私は子供のころ、自分が大人になるころには台所でボタン押せばごはんが出てくる時代になってると思ってたよ。食後はうがいするだけで虫歯にならないような薬があるって。
靴については考えてなかったな。むしろ歩かなくてもいい未来を考えてた気がする。どこでもドアとかね。
だけど、必要がないからこそ趣味としてのウォーキングがあるのかも。

自分の足を守りつつ、これからも歩きます。
姿勢を保って、美しく。