わが身世にふるながめせしまに

古き良きもの放蕩三昧・・・したい。

芸大コレクション展 歌川広重《名所江戸百景》のすべて(藝大美術館)

2007-09-02 22:03:14 | 浮世絵三昧
こんぴら展を見に来た際に偶然見つけた企画展。ぜひもう一回ゆっくり見たいと思って馳せ参じました。

広重代表作である木版浮世絵「名所江戸百景」藝大所蔵本を一挙に展示しています。一言で印象を言うならば「音が聞こえてきそうな絵の数々」です。人々のにぎわう喧騒とか、風の吹く音とか、夕闇の虫の声とか、そこにある生活音がきこえてきそうなのです。

色については藍色~水色のグラデーション、深い緑、やわらかい桃色~紅色のグラデーションの3色が印象に残りました。これが広重にとっての江戸の三原色だったんでしょうかね。

構図のすばらしさは、ゴッホをはじめとする有名画家が模写したことで知られていますが、広重の作品は版画の四角い画面をとても意識した構図になっているような気がします。見る人に障子戸をあけて景色をのぞかせているような。あえてその四角にあわせて遠近の素材を並べたような。配置自体があまり自然でなく、ドラマチックな表現を優先させているように感じるのです。その様子は、限られたスペースに自然を配置して美を完成させた日本庭園のようだと思いました。もちろん、西洋絵画にも特に宗教画にはドラマチックな構図を優先させたものがたくさんありますが、それはあくまで宗教的ストーリーの必要性にせまられてのこと。街の風景を写す絵に、こんなドラマを求める美意識って他にもあることなんでしょうか?

今回気づいたもうひとつの点は、かなり版木の木目がくっきりと作品に表れているものが多く、空や海の平面に微妙なニュアンスの演出に役立っていたということ。絵の具の乗せ方や馬連の力具合など、摺師の技の冴えるところです。着物や掛け軸、それにきっと襖・屏風に至るまで、現代に残る日本の芸術品は名を残した有名絵師以外にもその作品を支えたたくさんの無名の職人の高い技術と職人魂によって完成しているのですよね。もちろんその保存や修復に力を尽くしている現代の職人さんたちの力も無視できません。

100点以上の作品群は本当に見ごたえがあります。週末の昼間にいったところこんぴら展への入場制限で入り口に列ができていましたが、広重展を見たいことを告げるとすぐに入れてもらえました。のこり1週間ほどで会期は終わってしまいますが、世界に誇れるお江戸の粋を、ぜひ多くの人に見ていただきたいと思います。

ギメ東洋美術館浮世絵名品展(原宿 太田記念美術館)

2007-02-11 01:57:30 | 浮世絵三昧
日舞のお稽古後、原宿へ。今度はフランスの美術館所蔵の浮世絵展です。私が到着したとき、ラフォーレ裏のこじんまりした美術館にはチケット売り場前5分待ち程度の列ができていました。会場内も壁の展示に沿ってほぼ一列にはりついてゆっくり歩いて回る状態。さほどストレスにはなりませんでしたが、予想よりは結構注目されているんだなーという印象でした。

1月からやっていたのですがどうにも時間がとれず、展示替え前の会期前半は残念ながら見逃してしまいました。だから私が一番見たかった北斎の「千絵の海」はもうはずされています。一応、今回の注目は北斎の肉筆画「龍虎図」のようですが、正直なところあんまり私には響くものがなく、近くにちょこんと置かれていた小さな梅の盆栽のほうがむしろ気になりました。高さ10センチくらいなのにちゃんと花が咲いていて、つぼみもいっぱいついていたんですよ~。

その他の展示はほとんどが版画の浮世絵でした。いつものとおり着物の着こなしや市井の人々の生活を想像しつつ楽しみましたよ♪ 印象に残ったのは、作者は失念しましたが小野小町の画。川岸に立つアウトドアな小野小町という設定が意外で、思わず笑ってしまいました。それから、歌麿の描く女性は現代の観点からすると必ずしもきれいとは思えないのに、どうしてこうも愛らしくチャーミングに見えるのかなぁ・・・ととても気になったのですが今日のところは解は得られず。この謎には引き続き取り組みます!

展示会全体としてはあまりテーマ性がなく、ごちゃごちゃといろんなものが並んでいたように思います。浮世絵は多くが海外に流出し案外その整理や研究は進んでいないと聞きますので、もしかしたら発展途上な部分もあるのかもしれませんが、先日のボストン美術館展や名古屋の四大浮世絵師展はとても見ごたえがありましたから、美術展のよしあしはやっぱり企画者の腕にもよるのではないでしょうか。5月にイギリスの美術館所蔵作品の浮世絵展がまたこの美術館であるので、お手並み拝見ですね。

太田美術館にははじめて行きました。落ち着いた空間をかもし出しているのですが、残念ながら壁の展示はガラス越しなので自分の顔も含め景色が写りこむのが気になりました。また、誘導スタッフは丁寧だったのですが、学芸員が常駐していないようで、質問に対する受付や担当者の対応はむしろ腹立たしいくらいのレベルでした。せっかく浮世絵というニッチなものを扱うのですから、マニアックな学芸員さんがいろいろ教えてくれればいいのになぁ。。。。

地下1階ミュージアムショップの隣におしゃれな手ぬぐい屋さんがあり、結構はやってました。私は風呂敷・手ぬぐい好きでよく使うので、壁一面にディスプレイされているのを見るだけで幸せです♪

3時過ぎに館外に出てみると、美術館入り口には長ーい行列。。なんと60分待ちと出ていてびっくりしました。これから行かれる方はお早目の時間帯を狙ったほうがいいかもしれません。

浮世絵もここまで注目されているのなら、ここはもう一声、ついには絵師が新作を発表するようになったらいいのにね。版画は刷れば複製できるけど、書籍印刷やネットでは十分に楽しむことはできないから、うまく言えないけどひょっとして何か新しい現象になったりして。うふふ。楽しみ。

四大浮世絵師展(名古屋 松坂屋美術館)

2006-11-04 12:21:50 | 浮世絵三昧
先日、アダチ版画のショールームでちらしを見て以来いてもたってもいられなくなり、帰省ついでに名古屋まで足をのばしてしまいました。

個人所蔵とはいえ厳選した展示で180点というのですから、ものすごいコレクションです。コレクターの中右氏は国際浮世絵学会常任理事だそうです。

四大浮世絵師とは役者絵の東洲斎写楽、美人画の喜多川歌麿、富嶽三十六景と北斎漫画の葛飾北斎、東海道五十三次の歌川広重です。

写楽は今までまったく興味がなかったのですが、本物を見たらそのパワーに圧倒されました。本人にどれだけ似ていたかは今となっては知る由もありませんが、クセをデフォルメされた似顔絵にこれだけのライブ感があると、本人はさぞいやだったでしょうね。お笑い系芸人だったらうれしいことこの上なさそうですが。

歌麿の美人画は本当に白粉の匂いが漂いそうな艶っぽいものが中心ですが、ものぐさで髪もぼさぼさな娘を描いて親の教育を戒めるようなものもあって面白かったです。また、ちょっとした女性のしぐさに注目しているところもいいのですよ。文をじっと読みいる様子などはそのわくわく感が伝わります。平凡なまっすぐ向いた構図はなかなかありません。たいてい着物も凝った柄がつけられています。

今回の版画の展示は全てガラスつきの額装だったので、ガラスを隔ててはいるものの作品にかぶりつきで寄れました。そこで気づいたのは、図録などに印刷すると見えなくなるほどのエンボスのような凹凸が実際の作品にはほどこされていること。着物の絞りの柄はほとんどすべて凹凸がありましたし、中には色は何もついていないのに花柄の雌しべ雄しべ部分だけが凹凸だけで表されていたものもありました。和紙の質感を生かした細かい仕事です!

北斎は先日真新しい三十六景を観たところですが、十数点ではあるものの時を経た作品にも出会えました♪ 摺色の強弱などそのときなりの様子で、また味わいがあります。紙の地の色も藍の色もくすんで深みを増しているのを見ると、やはり新しいものを購入してじんわりと変わっていく様子を鑑賞できると素敵だなぁと、買いたい気持ちが再燃してきました。そして新しい魅力として北斎漫画は発見でした。今までにもネットで見たことはあったのですが、こんなにたくさん本物を見たのは初めだったので、その人間描写の着目、かわいらしさに夢中です。和紙の上だとさらにかわいらしさが増すのですよ。和紙の材質がやさしいからでしょうか。

最後に広重。東海道五十三次は富嶽三十六景よりもっと叙情的に感じました。それから広重の功績か当時の摺師さんのものかわかりませんが、微妙な色使いがとても洗練されています。朝もやの中を旅立つ様子として、背景のものをすべてシルエットにした「三島」などはその構図も色もとってもおしゃれ!

しかし雨の表現などは、本当にこの細い線を彫り残しているのでしょうか? もしくはそういうところだけはエッチングのように彫ったところに絵の具を塗りこみ平面部分をぬぐって摺っているのでしょうか? その場で質問してくればよかった・・ だんだんと数を見てくるとこんな技術的な疑問もわいてきます。

会場がかなりすいていたおかげでじっくり2時間半食い入るように鑑賞できました。。。でもたくさんの方に観てほしい素晴らしい展示なので、お近くの方はぜひいらしてください♪ 12月3日までです。

これだけのためにわざわざ名古屋まで行った甲斐はありました。久しぶりの名古屋だったのですが、結局ほかにはどこにも寄らず、ひたすら浮世絵をじーっとみてきましたとさ♪

富士、極まる。 ~冨嶽三十六景の世界(アダチ版画 目白ショールーム)

2006-10-31 23:54:10 | 浮世絵三昧
最近マイブームの「浮世絵」をキーにWEBサーフィンして偶然見つけた企画展

主催のアダチ版画は広く江戸浮世絵版画の復興と技術者育成、新しい木版画の製作などを財団併設で行っているところとのこと。今回富嶽三十六景全46図の復刻を記念して一堂に展示し、そこで購入もできるというものです。初版36図(いわゆる「表富士」)の後に出版された「裏富士」10図を加えて計46図。裏富士は主に山梨県側から見たものです。

最近、北斎の三十六景はシャープのテレビコマーシャルのおかげで人気がでて、特にあの「神奈川沖浪裏」はカレンダーでもよく売れているとききました。

46枚全てが多色刷りなのですが、たくさん色を使ったものから青系統のみのものまで様々です。ただ「藍色」だけは共通して使われています。これぞ日本の色ですからね♪ 以前に本で読んだ記憶では「神奈川沖波裏」にはもちろん伝統的藍色も使われているのですが、当時海外から伝わったばかりのプルシアンブルー(さえた濃い青)も入っているんだそうです。歌舞伎もそうですけど、いつも新しいものを取り入れる姿勢がうかがわれますね。

北斎は構図の素晴らしさがよく指摘されますが、私は人の描き方も好きです。三十六景では多くの絵で人々が富士山を仰ぎ見ていて、その尊敬や憧れの気持ちが本当によく表れています。大工や材木屋など仕事をする人も、それを生きがいに体全体で楽しんでやっている様子に見えるんです。まさに「愛すべき人々」ですね。

ナマの版画が色鮮やかなのは言うまでもないのですが、不思議なことに全く平面的には見えません。躍動感があって肉筆にも似た味わいがあるのですよ。会場で流れていた彫師、摺師の仕事についてのビデオによれば、馬連を使って色・画面の強弱を出していくことこそ摺師の仕事だとか。うーん浮世絵ワールドにますます興味がわいてきたぞ。そういえば昔習っていた絵の先生の本業は版画で(棟方志功調の画風でした)私も少しかじったのでした。

三十六景を全部見せてくれるこのWEBページは必見です。全部買いたくなります。

常々思うのですが、売れなかったら、どんなにすばらしいモノも技術も次代に残らないのですよね。だから自分がぜいたく品にお金を使うときは、100年後にも残ってほしいモノ、発展してほしいモノ(舞台を含む)を選びます。もちろん、自分じゃなくても誰かに払ってもらえればそれでもいいんですが!

会場でアダチ版画の方がおっしゃるには、浮世絵はめぼしいものはぜーんぶ海外に流出していて、海外で「美術品」になったとか。日本ではただの大衆娯楽の紙切れ扱いだったんですね。もったいなく思う一方で、こんな素敵な大衆文化をもっていたことを誇らしくも思います。また大衆文化に戻る日がくればうれしいけど、全ては人件費がぁ・・・

展示自体一部屋でこじんまりしているのですが、繰り返し回って見ていたいような楽しい作品群です。さらに入場無料!押し売りもありませんからぜひ行ってみてください!

※帰りに映画「フラガール」見ました。中盤泣きっぱなしでしたが、最後にみんな笑顔で終わってほんわかします。私的には「トヨエツ実は方言付き脇役向いているんじゃないの」説を提起したいです。とってもよかったんです。普段のドラマでは台詞が不自然と思っていたのですが・・・

肉筆浮世絵展「江戸の誘惑」(江戸東京博物館)

2006-10-30 01:20:14 | 浮世絵三昧
夢中で見ました! 感動しました! 図録や本を買い込んできました!

ボストン美術館から肉筆浮世絵がどっさり届けられました。肉筆浮世絵だから全部一点もの。一般的には有名なほうの版画の浮世絵はありません。歌舞伎の役者絵や風景、妖怪を描いた展示もありましたが、美人画中心のラインナップ。江戸時代には男にとっての遊里と女にとっての芝居小屋が「二大悪所」と呼ばれ、美人画と役者絵はそれぞれを代表した大衆的人気を誇る出版物だったそうです。そして特に美人画は時代の最先端のファッションのお手本として、女性からも大変注目されていたとのこと。どおりで着物のセンスがいいはずです。

とにかく多彩な柄とコーディネートに目は釘付けです。展示のガラスにへばりついて、この帯は染か? 織か?と想像するだけでわくわくします。10人の女が描かれれば10の着物コーディネートがあるのです♪(現代だったら10人のうち半分くらいは似通った友禅調の格調高い染めの着物かも・・・) 例えばある遊女はあだっぽく藤色の着物にあやめの柄、帯は黄みがかった金茶にウサギ柄。遊女が歩くと真っ赤な襦袢と萌黄色の間着(あいぎ)がのぞいて、衣擦れの音が聞こえるよう。またある遊女は粋な青い縞の着物にかわいい花柄の黒帯。白っぽい襦袢に薄桃の間着ですっきりと着こなしています。

女性のしぐさも本当にいい瞬間を切り取っていて、その表現のバラエティに圧倒されるすばらしい展示の数々です。が、あえてひとつあげるとすれば北斎の鏡面美人図が印象的でした。少しねじれた後姿、鏡にうつった色っぽい顔、小紋柄の着物に赤い織の帯(想像ですが)。右手に文をもっているところを見ると、男を思って身づくろいしているところなのでしょうか!

つい100年ほど前まで、日本にはこんなに自由で明るい服飾文化が日常にあったんですね。図録にある市田ひろみさんのコラムによれば、開国後の明治以降は戦争が続き、太平洋戦争が終わってやっとおしゃれを楽しめる頃には世は洋服に席巻され、箪笥から着物をひっぱり出してみたときには帯の結び方もわからない状態だったそう。。市田さんは日本の服飾文化の復興と継承に力をつくしていらっしゃいます。

私は洋服の流行にはとんと無知無関心ですが、着物に関してだけは強く惹かれます。やっぱり日本人の体型にあっているし、とても独自な文化だと思うんです。多くの人の手によって作られていく過程、そして母から娘へと長く引き継がれていくところもいいですよね。

こんなに着物への愛着を感じさせてくれる素敵な浮世絵たちに感謝です。そしてそれを現在まで保管してくれたボストン美術館にも。

会期がはじまって間もないというのに会場はかなりの混雑でした。その上、浮世絵はそんなに大きくない作品ですから、細かな着物の柄まで見たいとなると近いところを陣取らないとよく見えません。是非、人出の少なそうなときをみはからっておこしくださいませ♪

両国はちょっと遠いけど、是非もう一度行きたいです!